「我らが主(マイ・マスター)!ご無事ですか」
「…むぅ。問題ない」
「…むぅ。問題ない」
ウムブウルに突き飛ばされた直樹
むくり、と起き上がると、光輝の書を手に、ウムブウルに近づく
むくり、と起き上がると、光輝の書を手に、ウムブウルに近づく
「ザフキエル、彼を頼む。悲劇のプリンセスに、これ以上の悲劇を与えたくないのでね」
「ですが…」
「僕なら大丈夫さ」
「ですが…」
「僕なら大丈夫さ」
すたすたと、ウムブウルの横を通り過ぎる直樹
後ろ足の先を抉られた痛みにうめくウムブウルが、顔をあげる
後ろ足の先を抉られた痛みにうめくウムブウルが、顔をあげる
「…逃げ、ろ」
「むぅ。それはできないのだよ。なぜなら、黒幕があちらからやってきてくれたのだ。これは、チャンスなのだからね」
「むぅ。それはできないのだよ。なぜなら、黒幕があちらからやってきてくれたのだ。これは、チャンスなのだからね」
ウムブウルの前に立ち、サイレスを見上げる直樹
いつも通りの、淡々とした、感情の薄い表情
恐怖の類など、まるで感じていないように見える
いつも通りの、淡々とした、感情の薄い表情
恐怖の類など、まるで感じていないように見える
「さて、サイレス、と言ったね。君は、僕に、神の御心を理解しているか?と尋ねたね?」
「そうっすよ。それがどうしたっすか?」
「ならば、答えよう。ぶっちゃけ、そんなものは知らん」
「そうっすよ。それがどうしたっすか?」
「ならば、答えよう。ぶっちゃけ、そんなものは知らん」
きっぱりと
淡々とした声で、そう答えた直樹
そのまま、続ける
淡々とした声で、そう答えた直樹
そのまま、続ける
「僕は無神論者だ。神なんぞ知らん。そんな者の考えなんざどうでもいい」
どうしようもない、あまりにも身も蓋もない、その答えに
サイレスは、思わず攻撃することも忘れ、呆れる
サイレスは、思わず攻撃することも忘れ、呆れる
「…あんた、よくそんな心構えで、光輝の書と契約できたっすねぇ」
「僕は、光輝の書を、魔術書の一種として認識している。故に、契約できたのだ、とそう判断しているがね。それでも、ぶっちゃけ、僕と光輝の書の相性は最悪だが、何か?」
「僕は、光輝の書を、魔術書の一種として認識している。故に、契約できたのだ、とそう判断しているがね。それでも、ぶっちゃけ、僕と光輝の書の相性は最悪だが、何か?」
淡々と、そう告げた直樹
サイレスは、ウムブウルの治癒をはじめようとしていたザフキエルに、視線を向けた
サイレスは、ウムブウルの治癒をはじめようとしていたザフキエルに、視線を向けた
「いいんすか?あんたの契約者、こんな事を口走っているっすよ?」
「我らが主の意思など、とうの昔に知っている」
「我らが主の意思など、とうの昔に知っている」
ザフキエルはザフキエルで、あっさりと答えた
それが、どうした
そうとでも言うように
それが、どうした
そうとでも言うように
「我らが主が、我ら天使よりも悪魔を愛している事も。我らの上に立つ神に対して、微塵の敬意も払っていない事も、とうの昔に我らは知っている。その上で、我らは我らが主に仕えている」
「正直、よくもまぁ、僕のような人間に仕えてくれたものだと、彼らには感謝しているよ」
「…我らは、あなたの運命を歪めてしまったのです。ならば、我らはあなたの死の間際まで、あなたに仕え続けます。それが、あなたの運命を歪めた我々の責任です」
「………やれやれ。僕としては、そのおかげで、20歳までと言われた寿命が延びたのだから、何も問題はないのだがね」
「正直、よくもまぁ、僕のような人間に仕えてくれたものだと、彼らには感謝しているよ」
「…我らは、あなたの運命を歪めてしまったのです。ならば、我らはあなたの死の間際まで、あなたに仕え続けます。それが、あなたの運命を歪めた我々の責任です」
「………やれやれ。僕としては、そのおかげで、20歳までと言われた寿命が延びたのだから、何も問題はないのだがね」
ザフキエルの言葉に、小さく苦笑し、肩をすくめる直樹
…ザフキエル達としては、寿命が延びたことにより、味わうはずがなかった苦しみや悩みまで、直樹が背負っていく事実
それに、責務を感じているのだが
だが、直樹は、運命が歪んだことによって知る事ができる、喜びと楽しみ
そこに意味を見出し、ザフキエル達には感謝しているのだ
…ザフキエル達としては、寿命が延びたことにより、味わうはずがなかった苦しみや悩みまで、直樹が背負っていく事実
それに、責務を感じているのだが
だが、直樹は、運命が歪んだことによって知る事ができる、喜びと楽しみ
そこに意味を見出し、ザフキエル達には感謝しているのだ
「…まったく、困った主従っすね。そろいも揃って、神を何だと思っているっすか」
「僕は、そんなものはどうでもいいと答えているが」
「……今、我らが主は、我らが主ただ一人、それだけだ」
「僕は、そんなものはどうでもいいと答えているが」
「……今、我らが主は、我らが主ただ一人、それだけだ」
そこには、迷いなどない
神を信じぬ人間に仕えた、天使達
それでも、その人間を主とし、仕え続ける覚悟
……契約者の運命を歪めてしまった、都市伝説としての責務を、彼らは果たそうとしている
ただ、それだけなのだ
神を信じぬ人間に仕えた、天使達
それでも、その人間を主とし、仕え続ける覚悟
……契約者の運命を歪めてしまった、都市伝説としての責務を、彼らは果たそうとしている
ただ、それだけなのだ
「なるほど、あんたが、「教会」に嫌われる訳っす。「教会」も、あんたのような人間に「光輝の書」を持っていて欲しくないはずっすからね」
「安心したまえ。元々、僕は血筋的に「教会」からは嫌われている。光輝の書を持っていようがいまいが、そこはさほど問題はないのだよ」
「安心したまえ。元々、僕は血筋的に「教会」からは嫌われている。光輝の書を持っていようがいまいが、そこはさほど問題はないのだよ」
……ぱらり
光輝の書が、ひとりでにめくれはじめる
光輝の書が、ひとりでにめくれはじめる
それは、召喚の合図
光輝の書が、強い光を放ち始める
光輝の書が、強い光を放ち始める
「…さて。その姿、どうやらサマエルであると見た。神の悪意、盲目の天使。そのような存在であったか」
今まで、召喚した事のない
召喚できなかった存在を、呼び出そうとしている直樹
ずしり、体に負担がかかるが、その苦痛を表に出そうとはしない
召喚できなかった存在を、呼び出そうとしている直樹
ずしり、体に負担がかかるが、その苦痛を表に出そうとはしない
「ならば。僕も、今、呼べる範囲で、もっとも強いと思われる存在を呼び出してみようかと、そう考える」
「…ほぅ?あんたが呼び出せる天使は、今連れている二体と、誰かさんに貸し出している連中で、限界のはずでは?」
「現実世界では、ね。だが、ここでは別だよ」
「…ほぅ?あんたが呼び出せる天使は、今連れている二体と、誰かさんに貸し出している連中で、限界のはずでは?」
「現実世界では、ね。だが、ここでは別だよ」
ページがめくれていく速度が、速まる
早く、早く、と
呼び出されようとしている存在が、自分達の名を呼ばれる瞬間を待ちわびる
早く、早く、と
呼び出されようとしている存在が、自分達の名を呼ばれる瞬間を待ちわびる
「どうやら、ここでは、光輝の書の力が、使いやすくなっているらしい。現実世界では、僕程度の力では呼び出せぬ存在も、ここでは呼び出せそうなのだよ」
だから、と
サイレスを、まっすぐに見据える直樹
感情の薄いその顔に、かすかに浮かぶ感情は……どうやら、怒りのようだった
サイレスを、まっすぐに見据える直樹
感情の薄いその顔に、かすかに浮かぶ感情は……どうやら、怒りのようだった
「黒幕であるらしい君を、殺さない程度に、しかし、抵抗などできない程度に痛めつけて。ウムブウルの仲間達に状況を説明させ、この事態を終わりにさせたいと思うのだよ」
「できるんすか?あんた程度の人間が」
「できるのか?ではない。やるのだよ。それが、僕がすべきことなのだから、ね」
「できるんすか?あんた程度の人間が」
「できるのか?ではない。やるのだよ。それが、僕がすべきことなのだから、ね」
光が、満ち溢れる
サイレスは翼をはためかせ、直樹を攻撃しようとした
サイレスは翼をはためかせ、直樹を攻撃しようとした
だが
「裁け、ミカエル」
直樹が、それを呼び出す声の方が
「嘲笑え、ルシファー」
そして
それらが、光輝の書から飛び出す、その方が、早かった
それらが、光輝の書から飛び出す、その方が、早かった
サイレスの攻撃は、光によって、受け止められ、直樹には届かない
現れたのは、光り輝く甲冑を身に纏った、美しい天使と
黒き衣を身に纏った、しかし、明け明星のような美しい容姿をした、悪魔
黒き衣を身に纏った、しかし、明け明星のような美しい容姿をした、悪魔
天使 ミカエル
悪魔 ルシファー
悪魔 ルシファー
間違いなく、直樹の光輝の書で呼び出せる中でも、最上級の存在達だ
「「四大天使」「七人の大天使」「神の御前の天使」が一人!!大天使にして熾天使、「神に似た者」「神と同等の者」・ミカエルがここにぃいい!!!やぁっと、俺様を呼んでくれたなぁ、我らが主ぃ!!」
「…我は傲慢の化身。「炎を運ぶ者」にして「光を運ぶ者」、「暁の子」にして「暁の星」、「暁の輝ける子」・ルシファー、ここに。やっと、我の声が届きましたね。嬉しいですよ、我らが主」
「…我は傲慢の化身。「炎を運ぶ者」にして「光を運ぶ者」、「暁の子」にして「暁の星」、「暁の輝ける子」・ルシファー、ここに。やっと、我の声が届きましたね。嬉しいですよ、我らが主」
ばさり
光り輝く翼をもったミカエルと、黒い翼をもったルシファーが、直樹を護るように、直樹とサイレスの間に立った
それを見下ろし、サイレスは嘲笑う
光り輝く翼をもったミカエルと、黒い翼をもったルシファーが、直樹を護るように、直樹とサイレスの間に立った
それを見下ろし、サイレスは嘲笑う
「…っは。神にもっとも近いと言われているミカエルまで、そんな人間に力を貸すっすか?大天使も堕ちたものっすね」
「うっせぇんだよ、糞餓鬼が。俺は「光輝の書」のミカエルだ。「光輝の書」の契約者が、俺様の主なんだよ。文句でもあんのか?あぁん?」
「……下品ですよ、ミカエル。まったく、いつまでたっても成長しませんね、あなたは」
「あぁ!?うるせぇよ糞兄貴が。人間が語る物語のように、俺様に倒されてぇかぁ?」
「…ご冗談を。あなたのような不出来な弟に私が倒される、と?人間の妄想通りに、全てが動くとは限らないのですよ」
「うっせぇんだよ、糞餓鬼が。俺は「光輝の書」のミカエルだ。「光輝の書」の契約者が、俺様の主なんだよ。文句でもあんのか?あぁん?」
「……下品ですよ、ミカエル。まったく、いつまでたっても成長しませんね、あなたは」
「あぁ!?うるせぇよ糞兄貴が。人間が語る物語のように、俺様に倒されてぇかぁ?」
「…ご冗談を。あなたのような不出来な弟に私が倒される、と?人間の妄想通りに、全てが動くとは限らないのですよ」
…一触即発
どこまでも、険悪な雰囲気
どこまでも、険悪な雰囲気
そもそも、ミカエルとルシファーは兄弟であった、と言う説がある
この二人は、その説をも取り込んだ存在なのだろう
そして
そのような、説がなくとも
そもそも、この二人の仲がいいはずなど、ない
この二人は、その説をも取り込んだ存在なのだろう
そして
そのような、説がなくとも
そもそも、この二人の仲がいいはずなど、ない
「…むぅ。君達、喧嘩なら、後にしてくれるとありがたいのだが」
「う…でもよぉ、我らが主」
「…失礼。お見苦しいところをお見せしました。不肖の弟をお許しください、我らが主」
「あ!?てめぇ糞兄貴、何、我らが主にいい顔していやがる!?」
「う…でもよぉ、我らが主」
「…失礼。お見苦しいところをお見せしました。不肖の弟をお許しください、我らが主」
「あ!?てめぇ糞兄貴、何、我らが主にいい顔していやがる!?」
……むぅ、と
この二人を呼び出した事を、若干、後悔する直樹
何か、告げようとして…
この二人を呼び出した事を、若干、後悔する直樹
何か、告げようとして…
その瞬間
サイレスの、呪詛による攻撃が、飛んで来た
直樹に向けられたそれを、ミカエルの翼とルシファーの翼の羽ばたきによって撒き散らされた羽が、全て受け止める
サイレスの、呪詛による攻撃が、飛んで来た
直樹に向けられたそれを、ミカエルの翼とルシファーの翼の羽ばたきによって撒き散らされた羽が、全て受け止める
「っちぃ!!糞兄貴、話は後だ!まずは我らが主を傷つけようとしやがる、あの糞野郎をぶっ殺すのが先だ!!」
「…同感ですね、我らが主を傷つけようなどと、そんな事は許しません。あの男、地獄に引きずり込んで、じっくりといたぶって差し上げましょう」
「むぅ、殺されては困るのだよ。ウムブルウの仲間達をスムーズに説得する為の証言者がいなくなっては困る。ウムブルウが、僕によって誑かされたとなっては困るからね」
「…同感ですね、我らが主を傷つけようなどと、そんな事は許しません。あの男、地獄に引きずり込んで、じっくりといたぶって差し上げましょう」
「むぅ、殺されては困るのだよ。ウムブルウの仲間達をスムーズに説得する為の証言者がいなくなっては困る。ウムブルウが、僕によって誑かされたとなっては困るからね」
ぱたん、と
光輝の所を閉じた直樹
ミカエルとルシファーに、指示を出す
光輝の所を閉じた直樹
ミカエルとルシファーに、指示を出す
「死なない程度に、だが、抵抗する気などなくなる程度に、痛めつけたまえ」
「「イエス、我らが主(マイ・マスター)!!」」
「「イエス、我らが主(マイ・マスター)!!」」
ミカエルが、剣を
ルシファーが、炎をサイレスに向ける
ルシファーが、炎をサイレスに向ける
「神の悪意」に対し、神の御前に立つ天使と、天から落とされた悪魔が、協力し合ってそれを田尾さんとする
何とも、奇妙な光景が、繰り広げられようとしていた
何とも、奇妙な光景が、繰り広げられようとしていた
to be … ?