「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 我が願いに踊れ贄共・咎負い人-01

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 …それは、ニーナがまだ、日本に来る前の事



 古びた屋敷
 その前で、一人の青年が屋敷を見上げ、静かに佇んでいた
 エイブラハム直下、「13使徒」が一人、カイザーだ
 先ほどまで屋敷の中から響いていた悲鳴は、数分前から止まっている

 …そろそろ、自分が動くべきか
 カイザーがそう判断しようとした、その時

 ……きぃ、と
 屋敷の扉が、開いた
 ひょこり、中から顔を出したのは、カソックを纏った少女、ニーナ 
 そのカソックには、べっとりと血が付着している

「申し訳ありません、時間がかかってしまいました」
「いえ、構いませんよ、ニーナ」

 返り血塗れのニーナの姿に驚く事なく、笑顔でニーナを出迎えたカイザー
 てとてと近づくニーナに、労いの言葉をかけ始める

「思ったよりも時間がかかりましたね。数が多かったですか?」
「逃げ延びた者がいないか、屋敷の中で確認をとるのに手間取りました…申し訳ありません」
「いえいえ。自分でそこまで調べるとは、素晴らしい事です……それで。全て、始末してきましたか?」
「はい!屋敷に巣くっていた悪魔と、それを操っていた者は、始末しました!」

 カイザーの言葉に、無邪気に答えるニーナ
 そんなニーナの返り血を拭いてやりつつ、カイザーはニーナの報告に耳を傾ける

「言い訳を並べてきた者が多かったですが、惑わされません!きちんと、全員天罰を与え、地獄に落としてきました!」
「……そうですか、偉いですよ」

 褒められて、嬉しそうなニーナ
 一瞬、ほんの一瞬だけ…カイザーが、複雑そうな表情を浮かべた事に、気付かない

「さぁ、早く帰って、エイブラハム様に報告しましょうね」
「はいっ!!」
「あ…こら、走ると転びますよ?」

 走り去るニーナに、カイザーは小さく苦笑した
 まったく、元気な子供だ
 「何も知らない」子供と言う者は…本当に、無邪気だ

 ゆっくりとニーナの後を追いながら、カイザーはぱちん、と指を鳴らす
 直後、天から真っ赤に燃え上がった石炭が降り始め……屋敷に落下し、破壊する
 燃え上がる屋敷を背にカイザーはニーナと共に、「教会」へと帰還した



『よくやりましたね、ニーナ。主も、あなたの行為を褒め称えるでしょう』
『はいっ!光栄です!』
「……」

 …ニーナが、エイブラハムに報告しているのを、確認して
 カイザーは静かに、聖堂から離れていった
 これ以上……あの場にいて、冷静さを保てる自信が、ない

「……私も、まだ、未熟ですね」
「何がだ?」

 声をかけられ、ピタリと足をとめる
 視線の先では、己の同僚が、壁にもたれかかり…カイザーを、軽く睨んでいた

「…イザークですか。ジョルディの傍にいなくとも良いのですか?」
「……今は、眠っている。問題ない」
「…また、彼が悪夢を見るかもしれませんよ?」

 カイザーの、その言葉に
 イザークの視線が、鋭くなる
 殺気すら混じったそれに、カイザーは苦笑した

「………失礼、失言でしたね」
「…………」

 殺気混じりの視線が、突き刺さり続ける
 カイザーは、甘んじてそれを受けた
 ……己の罪から、逃れようとしない

「…ニーナは、仕事をこなしたのか」
「はい……素直で良い子ですよ、あの子は」
「お前の言う事をすべて、真に受けたのか」
「………えぇ、そうですよ」

 そうか、と
 イザークは鋭い視線をカイザーに向けながら、続けた

「ただ、人と共に穏やかなに生きていた妖精達を、悪魔だと信じ。その妖精達と契約していた老婆を、魔女だと信じて殺してきた、か」

 …あの屋敷に住んでいたのは、老婆と、ゴブリン
 ゴブリンは、近年のファンタジー作品に登場する、醜悪な魔物としてのゴブリンではなく
 ……古来より伝えられてきた、妖精のゴブリン達だった
 家に住み着き、家事を手伝うとも呼ばれる存在だった

 ゴブリンを歪めたのは、そもそも「教会」だ
 民間の妖精進行を否定し、神を信じさせるための行為

 それでも、純粋な妖精のゴブリンは、まだ残っていた
 あの屋敷に住んでいたのは、そんなゴブリン達だった

 カイザーは、その事実を把握していた
 …知らなかったのは、ニーナだけだ
 何も知らずに、ニーナはそのゴブリンを、そして、契約者の老婆を殺し、その血に塗れたのだ

「……イザーク。あれは、我らに敵対する者でした。エイブラハム様の敵だったのです。悪魔に違いないでしょう?」

 それとも、と
 眼鏡の下から、イザークを見据える

「…エイブラハム様のご判断に、間違いがあると?」
「………俺に、その答えの選択肢が存在しない事は、お前も知っているだろう」

 それも、知っている
 イザークが…イザーク「達」がどんな状況に置かれているのか
 カイザーは、把握している
 その上での、発言
 我ながら意地が悪いと、カイザーは自嘲する

「…失礼……ただ、その考え、エイブラハム様の前で、口にしないように」
「わかっている……それくらい、うまくやる」

 そうですか、と短く返し、イザークから視線をそらす
 …これ以上、彼と話していて……ボロを出さずに済む自信は、ない
 自分はまだ、そこまで…面の皮は厚くないつもりだ

「…あぁ、そう言えば、ご存知ですか?あの「トライ・ミニッツ・ライトニング」が、「13使徒」の空いた枠に入るそうですよ」
「そうか。サラが死んだ枠に入るか。俺達が死んだ後に補充される予定の奴も、既に用意されているんだろうな」

 糞くらえ、と
 イザークは小さく、呪いの言葉を吐く

「……何が、「13使徒」だ。ただの……奴にとっての、使い捨ての駒じゃないか」
「…その言葉、一応、エイブラハム様には伝えないで置いてあげますよ」

 イザークから、離れていくカイザー
 ズキリ
 無視していた罪悪感を、感じ始める

 「何も知らない」ニーナ
 「知っている」自分達

 ニーナも、いつかは真実を知り、自分達と同じ立場になるのだろうか?
 ……できることならば、知らないままで居て欲しい
 リュリュとマドレーヌのように、何も知らないままで居て欲しい
 ヘタに知ることで、サラのように「始末」される事にならないように
 ヘタに知ることで、自分がしてきた事に絶望し、ジョンのように、自ら死を選ばないように

「……知ってしまうくらいならば……いっそ、その前に死んだ方が、マシなのでしょうね」

 ニーナの身の上を、全て知っていて
 しかし、救いの手を差し伸べられぬ自分達
 イザークも、自分も
 ………エイブラハムの下からは、もはや、逃れられないだろう
 自分達も、ずいぶんとこの身を血で染め上げて、罪に塗れてきた
 もはや、逃れる事など、許されない

「………あぁ、いや、違う、か」

 違う
 自分は自ら、エイブラハムの下につくと、決めたのだ
 逃げる事など、できるはずがない
 最初から、そんな選択肢など、用意されているはずもない

 もしかしたら
 それは、イザークのように……仕組まれた出来事だったのかもしれないが 
 それでも、自分はそれを選んだのだから

「あの子達を、蘇らせてもらうまで………私は、私がするべき事をするまでだ」

 あの子達を、蘇らせてもらうまで
 自分は、あの男の操り人形でいるだけだ

 自嘲し、カイザーは一人、闇の中へと消えていった


 己は地獄に落ちるだろうと
 そう、確信しながら



fin




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