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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-03

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 オルコット達は兵の数が隊列を組める程にまで膨れ上がり次第、ユーグとその麾下の騎士達を先頭にすぐさま進軍を開始した。
 ≪ピリ・レイスの地図≫で最後に確認できた異界への入り口を目指した進軍は戦列を途切れさせる事無く長く続き、その総数は膨大なものになっていた。
 全体は騎士200騎を最前に据えた矢尻の形で高速に行われている。それらの勢いが乗った軍勢相手に敵がどんな手を下してくるのか、≪冬将軍≫としては気になるところではあるが、
 ……無線機が使いものにならなくなってしまっている以上は連絡のとりようもないか。
 先程の落雷の影響か、それとも敵側が他に何らかの手を打って来たのか、無線機が使えなくなっていた。これで≪ピリ・レイスの地図≫によって目的地までの最短コースを調べ上げて弘蔵達で先に徹心の異界へと乗り込むことも、連絡を取り合う事による互いの戦況把握も阻止された形になる。
 ……この無線機も、多少の電磁波で壊れる事は無いと以前ウィリアムが言っていたのだが……敵が用意周到であったと言う事か。
 弘蔵が言っていた通りにあの雷の主の霊格が高いのならばそう言う事もありうるのだろう。そう思いながら、≪冬将軍≫は大破した≪ベイチモ号≫のすぐ傍で≪神智学協会≫側の殿として構えながら冬と兵達を異界内に侵食させてオルコット達が上手く目的を果たすのを信じるしかないだろうと自身に結論付ける。
 周りに配置した凍死兵達と共に空を見上げる。冬の影響を受けた曇天の空を先程まで断続的に光らせていた稲光は今ではすっかり鳴りをひそめている。
「≪雪起こしの雷≫、ワタシの中の冬の一つに気付いたか……察しが良い」
 雪が降る直前に雷が煌めく、北部で語られる冬や雪に関する逸話の一つだ。冬に類する都市伝説を取り込んでいる≪冬将軍≫は敵側の落雷に干渉した。空からは雪が降り始め、干渉を受ける落雷はその落下地点を大きく逸らされている状態だ。雪はやがてはこの異界を完全に覆い尽くすであろう吹雪の先兵だった。
 ……寒さだけで殺せる程敵も安くはないだろうが、この寒さに耐える為の能力運用はスタミナを削ぐ事には繋がるだろう。
 この点では一手先んじた。そう思いながら≪冬将軍≫は虚空に訊ねる。
「遠距離からの雷撃程度が切り札だと言うのなら我々の勝ちだぞ? さて、どうする?」
 返答はあった。それも思わぬ形でだ。
「――――ぬ?」
 ≪冬将軍≫の顔が怪訝なものになる。何かを確認するように目を閉じ、
「冬の侵食が、止まっている――?」
 異界を飲みこもうとしていた冬がいつの間にかその侵食を止めていた。
 それだけではない。降り始めていた雪の勢いが弱まり、≪冬将軍≫の周囲の気温もせいぜい人が寒いと不平を言っていられる程度にまで上がっている。
 異常な事態だ。≪冬将軍≫が展開する冬とは彼の存在そのものの解放だ。普段は押さえているものを解放した形という事になる。
 能力による冷気化のように熱で干渉すれば元に戻るという類のものではない。空間の温度を上げるには≪冬将軍≫の討伐か、気候そのものの操作が必要なはずだ。にもかかわらず≪冬将軍≫が展開している冬は遮られ、いや――
「冬が食われている……?」
 異界全体を覆うように拡げられていた冬が蚕食されていた。
 どういう事だと状況を把握しようとした≪冬将軍≫の耳に少女の声が聞こえた。
 ――≪夢の国≫はね? いつもその領土を広げているんだよ?


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 声の主たる少女はいつの間にか、というさりげなさで、オルコット達の軍勢が進んで行った道の中央に立っていた。
 ≪冬将軍≫はほう、と軽い驚きを表現する。
 ≪夢の国≫、かつて狂った王が治め、多くの人と都市伝説を喰らった巨大な都市伝説群だ。
 ……たしか、かつて飲みこまれた契約者が先頭に立って革命を起こし、現在では彼の国の王はその元契約者が務めているという話だったか。
 現王の名前は夢子だった。そして彼の国は特殊な電波の発生や異界の侵食能力をも保持していた筈だ。そう記憶の中から情報を取り出しながら≪冬将軍≫は少女に声をかける。
「この異界、――いや、異国の主の御登場かね……」
 ポツンと一人佇む少女は小さく頷く。口許を歪めて≪冬将軍≫は言葉を繋げた。
「お嬢ちゃんが、ワタシの相手をするのかな?」
「はい、私達≪夢の国≫があなたを征します」
「≪夢の国≫が我々の戦争に介入する、と?」
「いえ、私は友達からのお願いを受けてここに来たんですよ? 『≪太平天国≫の最後の内紛において友人として力を貸してくれ』と。今の私は≪夢の国≫ではなく、夢子です。そのように他組織への声明もなされるのではないでしょうか」
「ほう……」
 そう来たか。と思う。詭弁だ、とも。しかし通用するのだろう。彼女の存在は確かに一国ではあるが、同時に一個人でもあるのだ。
 ……そこは冬そのものであるワタシと同じか……。
 ≪冬将軍≫は友人として一国とその王を扱う敵方の思考に半ば感心しながら≪夢の国≫の王を見る。
 黒曜石のように艶やかな長い髪を冬の結界の侵食と≪夢の国≫の領土侵略が互いに食い合うことで発生する風に遊ばせている夢子は、同じように黒い長髪をしている千勢とは違い、その挙措から漂う戦う者としての気配は薄い。線の細さはしなやかな動きを誇る獣のそれではなく、ただの華奢な少女を連想させた。ただ一人道の中央で≪冬将軍≫と問答する彼女の姿を見ても、戦闘にどこまで彼女が対応できるのかは甚だ疑問だ。
「バルト帝国もフランス帝国も第三帝国も寄せ付けなかったこのワタシを征する……お嬢ちゃん達がかね?」
「ええ。あなたも攻略された事が無いわけではないでしょう?」
「モンゴルの侵略者達の事かな?」
 なるほど、確かに冬は無敗ではない。しかし、≪冬将軍≫は都市伝説としての存在を得て以降、無敗だ。
「夢物語だなぁ、お嬢ちゃん。そんなかわいい姿と華奢な身体ではワタシは倒せんよ」
 夢子は変わらず笑んでいる。――と、突然莫大な気配が現れた。
「――っ!」
 ≪冬将軍≫は咄嗟に周囲を確認する。視線の向く先には実体の掴みづらい、しかし妙に賑やかな気配がわだかまっていた。
 建物から笑い声が、物陰からは覗かれる感覚が、路地の暗がりからは興味津々な視線が、≪冬将軍≫が何故これほどの気配に気付かなかったのかと疑問に思う程の量が溢れている。
 気が付けば、少女を中心としたこの異界全体の気配の質が変容していた。どこか夢想的な狂気の気配。これが――
「これが、≪夢の国≫(私達)の悪夢です」
 少女――夢子の周囲には空気から溶けだすように出現したきぐるみのようモノ、マスコット、そして彼等が牽引するパレードのフロートがある。
「む」
 無意識に夢子への警戒レベルを跳ね上げさせられていた≪冬将軍≫の視界の中、賑やかなのに密やかで、歪であるのに整然とした気配と共に、子供達の夢を表象した悪夢の群れを率いた夢子は、王の威厳をもって少女の笑みを浮かべた。
 衣服の端をつまんでおどけるように、それでいて優雅に礼を一つ。
「悪夢(わたしたち)と踊っていただけますか? 将軍様?」
 ≪夢の国≫の王たる彼女の言葉に、≪冬将軍≫は頷きを作る。
 一度を会釈に、二度目を応答として、
「……これは失礼した」
 周囲に控えていた凍死兵の軍勢がそれぞれに武器を構える音と共に告げる。
「その御身、美しいままに冬の底に沈めさせてもらうとしよう――王よ」





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