アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-05

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
            ●


 飛んでくる瓦礫の破片を鞘に入れたままの剣で払いのけ、オルコットは先程の爆発で分断された道を振り返った。
 うず高く積まれた瓦礫を見やり、オルコットは宝石が散りばめられた鞘へと手をかける。剣を抜き、瓦礫を吹き飛ばす一撃を放とうとして、
 ――ッ!
 感じた殺気に動きを止めた。殺気の方向へと振り返る。
 道の奥から白い濁流が迫っていた。
「叢雲……!」
 エレナが身構える。
「千勢か……」
 予想はしていた。これだけ広大に開けた道、しかもオルコット達は徹心達が用意した妨害がある方向に向けて突き進まねばならないのだ。≪ピリ・レイスの地図≫が最初だけ使用する事ができたのもおそらくは自分達が分散して叩きづらくなるのを防ぐためだろう。戦力が固まっていてもこちらを潰しきれると相手は踏んでいるのだ。
 ……しかしそれでも壊走させられはしない。
 そう勘考しての進撃だ。当然大範囲攻撃術を持っている千勢がこの立地を利用して攻撃を仕掛けて来ない手は無いとも予測していた。
「ならば竜の一柱程度、恐れることはない!」
 オルコットは鞘から剣を引き抜き、告げる。
「エレナ、あの雲竜に兵をくれてやるわけにはいかん、払って進む」
「はい、オルコット様」
 エレナの返事を聞きながらオルコットは瓦礫の向こうにも声を飛ばす。
「ユーグ! 私達は先に行く!」
 返答はバフォメットの加護、黒い靄だった。瓦礫の向こう側でも何らかの戦闘が開始されているらしい。
 ……敵陣に攻め入るのだ。この程度、分断される流れになる事まで予想済みだ。
 オルコットは先頭に立ち、宝石が輝く鞘を放り捨て、迫る雲竜の八岐に分かれた首の偉容を見据えた。
「叩き潰す! 竜の餌食になりたくなくばその身が崩れ落ちるまで力を振るい尽くせ!」
 凍死した兵達が生前の闘争本能を刺激されて吠える。
 八岐の濁流が戦列へと正面から突撃した。


            ●


 ユーグはオルコット達が先行する旨の知らせにバフォメットの加護を伸長させて応えとした。そうしながら分断された事でこちら側に残される事になったユーグ麾下の≪テンプル騎士団≫を外周に、凍死兵達をその内側に据えた大きな円陣を組んで油断なく構えていた。周りにはいまだに爆発によって生じた砂埃が待っており、視界が悪い。だからといってすぐ近くにある瓦礫の山が見えないということはない。瓦礫自体も吹き飛ばそうと思えば簡単だろう。しかし、
 ……周り、囲まれているような気配がある……。
 正体を掴み難い独特の気配は≪夢の国≫の住人の気配だろう。笑っているような、それでいて確かな戦意を感じさせる一種狂的とすら言える気配だ。うかつにこれらの気配から気を逸らすべきではない。直感的にユーグがそう思っていると、四方八方から飛び道具が飛来してきた。
 銃弾や矢、石の礫による攻撃だ。砂埃が舞う中、たしかに捌くには労を要するが、それでも円陣を組んだユーグ達を壊滅させる直接的な脅威にはなりえない攻撃だ。
「弾道から的の居場所を探れ! 騎兵、短弓――放てっ!」
 弾が飛来するのならそれが飛んでくる方向も掴める。弾道から敵の居場所を掴む技術を持たない凍死兵達には、≪テンプル騎士団≫が狙う位置を狙わせ、速度重視の移動から陣を組んでの戦闘に移行したユーグ達は射撃の応酬を開始した。
 ≪テンプル騎士団≫が使用する弓は十字軍を苦しめた物に似せた代物だ。矢はバフォメットの加護が生み出す黒い靄が成形されたものになる。弾数はほぼ無制限、撃ち出す速度は拳銃の連射並み、その射撃に凍死兵達の種々多様な射撃が加わる。
 にわかに始まった弾幕の豪雨、しかしそれは長くは続かなかった。
 動きはユーグが指揮する陣営で起きた。
 陣の外周を守りながら射撃を続けていた騎士が、突然地面に倒れたのだ。
 何事かと周囲の者がその騎士に注意を向ける間に、騎士は地面を強引に足から引きずられていった。その足には、
「ワイヤーだ! 射撃に紛れて足引きのワイヤーが飛んでくるぞ! 外周に居る者達は注意を――ッ」
 指示が行き届く前に円陣の一角、30からなる騎士が一斉に足を取られた。
 ユーグ自身足をワイヤーに引っ掛けられかけ、咄嗟に剣でワイヤーを断ち切った。引きずられていった者達はユーグ達が進軍してきた道の脇を流れる水路を通りこして更に奥、爆発で倒された建物が作る瓦礫の奥にある、未だ無事な建物と建物の間が作る細い路地の方まで引かれていく。
 いつの間にか相手からの射撃は周囲に舞っていた砂埃同様、その厚さを随分と薄めていた。
 ……こちらの数を減らす事が目的か!
 騎士達も半ばが引きずられながらも抵抗してワイヤーから逃れているが、残りは薄くなった分の射撃の集中砲火を浴びて身動きができない状態で引きずられている。
 ユーグはこのまま陣を構えてここに座していては何度か同じような手を使われると判断した。
 ――させん!
「騎馬召喚、騎乗! 敵はあちらの建物群の中にいる、叩くぞ! 凍兵は援護を!」
 号令一下、槍を手にし、影色の馬にまたがった騎士が壮絶な勢いと圧力で突撃を敢行した。


            ●


 ユーグの指示を受けて突撃を行った騎兵の内の一人である彼は、引きずられる仲間を追って駆けた。
 足をとられた騎士が引きずりこまれた路地は、先程まで進軍を続けていた道に比べれば遥かに手狭で、騎馬が三体も横に並べばそれだけで塞がってしまいそうだった。
 騎士達は二人一組の組み合わせで路地へと突入し、建物の上階からの射撃に対して一人が盾を持って応戦し、もう一人が路地の奥へと引きずられていく騎士の足を捕らえているワイヤーを切断した。
 無事に救出した仲間と共に騎士がワイヤーの先、自分達を捉えようとした敵へと注意を向けた時、彼の身体を槍が貫いた。
 ――ッ!?
 脇腹のあたりを刺された彼は兜に隠れた顔に驚愕の表情を浮かべて自らを指した槍の突き出てきた場所へと目をやる。
 槍が突き出ているのは隣接した建物と建物の間、人一人すら入り込めないような狭い隙間だった。その隙間から槍を持った細い腕が不気味に伸びている。
 槍が引き抜かれる前動作として抉りこまれる。このままでは槍を引き抜かれて逃げられると察した騎士は、手にしていた十字を模した剣を捨て、両手で自身を貫く槍の柄を掴んだ。騎馬を影へと還元し、地面に両足をついてふんばりを利かせる。そして、バフォメットの加護で高めた膂力任せに槍を建物の隙間から引き抜いた。
 抵抗しようという気配を見せた槍とその持ち主はしかし、騎士のもとへと問答無用で引きずりだされた。と、同時に騎士は困惑を抱いた。その困惑の間にも隙間からは更に数本の槍が突き出され、彼は行動不能にまで追い込まれる。
 彼は最後の力を振り絞って己の仕える総長へとバフォメットを介した連絡を行った。
 彼が困惑した理由、人が一人とて入りこめないような隙間から引きずりだされたモノの正体は――


            ●


 騎士の一人から送られてきた報告を受けて、ユーグは他の騎士達へと情報を伝えながら自らも路地内へと侵入した。
「トランプのような模様をした薄い身体を持った兵隊、――モニカお嬢様が以前読んでらした本に登場したキャラクター……≪夢の国≫の住人の一種族だ」
 自分と同じファミリーネームの女の子をモデルにした童話をモニカは大層気に入っていた。そんな事を思い出しながらユーグは注意を促す。
「まだ他の隙間の中にトランプの兵隊が潜んでいる確率は高い。どんなに狭い隙間だろうと気を抜かずに警戒しろ」
 この異界は戦いづらい。そうユーグは実感していた。
 先程から≪夢の国≫内部に満ちている音の無い喧騒とでも言うべき不可思議な気配のせいで隠密行動をとっている敵の本命の気配が察しづらいのだ。
 ……≪夢の国≫は話に聞いた限りでは争いごとに慣れているという事は無いはずだが、妙に立ち回りが巧い。トランプの兵隊が兵隊という性質上戦闘行動に慣れているキャラクターであったとしても、正規兵の位置づけにある彼等がこのようなゲリラじみた市街戦を得意としているとは到底思えん。
 先程の爆発による分断も含めて、今この場で指揮を執っている者がいる。それも優秀な者がだ。≪夢の国≫にそういう指揮を得意とする者がいるのか、それとも≪夢の国≫の外部の者が指揮を執っているのか。どちらにせよ彼等を放置してオルコット達に追いつこうとするのは危険だ。
 ユーグは麾下の兵全てに命令を下す。
「敵に隠れる場所を与えるな! 建物を粉砕するぞ! 凍兵もこちらに遠慮せず建物に全弾を集中させろ!」
 言いながらユーグは影から戦槌を取り出した。それを力任せに手近な建物に叩きつけようとし、
「かかれ!」
 建物の上から聞こえてきた短い号令と共に、建物の屋上から降って来た海賊の群れとアラブの盗人達の姿に動きを止められた。
 反りの強い刃と短銃を構えた海賊と、顔の半ばまでを布で隠した姿で短刀を振るう盗人を相手に、騎士達は下馬して対抗した。
 唐突に始まった乱戦にユーグは凍死兵達の射撃指示を中止した。奇襲、それに相手は狭い通路での戦闘に慣れた兵種だ。騎士達は態勢を崩された形になり、苦戦を強いられている。
 ……こちらの機動力を封じに来たか……。
 ユーグは内心で吐き捨て、剣を抜いた。
 奇襲を仕掛けてきた海賊と盗人は徐々に退いて行く。おそらく彼等の目的は騎士達を捕らえようとした者達が退避する時間を稼ぐ事だろう。
 建物や道の爆破とその後の分断の為の奇襲。その後の弾道予測による射撃に対抗する為のワイヤーによる騎士の捕獲。そして騎士を捕獲した者達が退く為の時間を稼ぐ為であろう、このトランプの兵隊や海賊や盗人達の攻撃。三重の奇襲を受けた騎士達の機動力は確かに下がっていた。
 ――見事だ。
 自分に向かってきた海賊を斬り捨て、ユーグは路地の奥、騎士達の先頭へと向かった。周囲には既に敵の姿が無い事を確認し、再び命じる。
「建物を粉砕しろ!」
 返事は破砕の響きをもって行われる。
 建物が粉砕される音が木霊し、騎兵の戦槌と凍死兵達の射撃とが連弾の音色をもって≪夢の国≫の一区画を砕きあげた。


            ●


 建物の粉砕によって巻き上がった砂塵を剣圧で吹き飛ばす。
 そうしながらユーグは随分と悪路化した代わりに道幅が拡がった路地の先へと目をやっていた。視線の先から声がかけられる。
「……もっと奥まで引き込めると思ったのだが、なかなか上手くいかんな」
 そこには、日本に来て以降、随分と見慣れてしまった敵の姿があった。
「≪寺生まれで霊感の強いTさん≫……やはりお前か」
「≪テンプル騎士団≫総長、ユーグ――ユーグ・ド・パイヤン。つくづく縁があるな」
 答えたTさんに微かにユーグも頷く。
 先程海賊や盗人をけしかけてきた号令の主と同じ声だ。やはり、と思うユーグの十歩ほど先に立ってTさんが口を開く。
「音に聞こえた≪テンプル騎士団≫相手に王から借りた兵を正面からぶつけるのは不利だろうと踏んでな、出来得る限り小細工を凝らせてもらった」
「謙遜を、見事な作戦だった」
 ユーグは手振りで騎士と凍死兵達を集める。そうしながらも目線はTさんから外さないままで、
「あのトランプの兵隊、それに海賊や盗人の類はこの異界、≪夢の国≫の住人か?」
「ああ、≪夢の国≫の現王はかつては契約者、人だった。当時の拡大解釈をそのまま引き継いだ異形の住人の変形ということになるだろうか」
 会話を続けながら二人は互いに歩を進める。
「ユーグ、お前の相手は俺がしよう。お前に指揮を執られてはこちらの旗色が悪い」
 そう言って全身に加護を付与していくTさんの背後や左右には先程この場から退いて行ったトランプの兵隊や海賊・盗人、更には腕や足の形が異常な黒服の姿までもがある。
「騎士の相手は三人以上でするように、彼等が組んでこちらの対応に出ないよう、妨害重視で向かえ。彼等は呪いの概念を持つ加護を纏っている。重ねて言うが、無茶はするな」
「囲まれないよう、そして建物の近くに誘導されないよう敵の動きに注意して処理しろ。凍兵も白兵戦が得意な者は前へ、騎兵と組んで行動しろ。敵は死にづらいぞ」
 それぞれの指示に双方の陣営から了解の意が大きく返される。
 次いで、それぞれが自陣の指揮官の指示を全うして勝利を得ようと動き始める。大人数が動きだそうとする空気のうねりの初動を感じながら、ユーグはTさんに話しかけた。
「私の加護とは敵に対しては転じて呪詛だ。この短期間で先の戦闘で私がつけた傷に対する治療は終わっているのかな?」
「心配無用だ。俺にも似たような加護がある」
「幸福の加護か……」
「炯眼だ、正解だよ。なかなかに扱いが難しいのだがな」
 二人の距離は互いに一歩の距離にまで近付いていた。
「勇将の下に弱卒なしとはよく言ったものだ。ここまで≪夢の国≫の住人が対抗してくるとは思わなかった」
「俺の手柄じゃないさ。皆よくやってくれている、王も住人にも世話をかけ通しだ。≪テンプル騎士団≫と動死体の群れが相手というのはなかなか難しいものだな。なにより指揮官が面倒だ」
 双方の戦意が昂揚していく。ただ二人とも纏う気配は鬨と悲鳴と爆音と血と硝煙の臭気で殺伐とした戦場において不自然な程に静かで、両者共に殉教者や聖人じみた神聖な風情すら漂っていた。
 薄らと笑んでユーグが口を動かす。
「指揮官が面倒など、それこそこちらの台詞だ。――往くぞ!」
 瞬間、両者の浮世離れした気配が丸ごと相手を呑みこもうとする凄みへと転じた。
 地を蹴りつける音が強く響き渡った。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー