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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-08

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「…………ぐ、」
 傷みに呻いてユーグは意識を取り戻した。意識を失っていた時間はごく短い間の筈だ。軍勢同士の戦闘の状況が大して動いていないのを確認してそう思い、瓦礫の上で横たわっていた身体を起こそうとする。
 動きがひどく鈍い。上体を起こすと、鎧の前面がほとんど破壊されている光景が視界に入った。
 ……バフォメットの加護を付与した鎧もこのざまか。
 身体は動くが、砕かれた剣の代わりの武器を取り出そうとしていた右腕がほとんど動かない。光弾に見事に浄化されてしまったのか、バフォメットの加護もしばらくは喚び出す事ができそうもない。自分の身体の状態を悟り、ユーグは緩やかに息を吐き出した。
 ……ここまでか。
 オルコットの目的が果たされようと果たされまいと、自分はここで死ぬ。その事実を受け容れ、ユーグは半ば呆然とTさんの足音が近づいてくるのを聞いた。
 ……モニカお嬢様の眠りを護る騎士になろうなど、私が望むには高すぎた夢か。いや、本当は眠りに落ちる必要などないのかもしれない。
 そう思っていると、Tさんの足音がすぐ近くまで来た。顔を上げる。Tさんの視線はユーグが突然反撃に出ないかを見極めているようで、ユーグの手や足、それに表情を観察しているように注意深く動いていた。
「……お前に対抗できる程動けはしない」
 ひどく掠れた声が出た。口の中に血の味が広がっている。思ったよりもダメージは深いようだ。
「……そうか」
 Tさんの返答に頷いてユーグは目を閉じた。戦って散ることができるのならば≪テンプル騎士団≫としては十分に誇らしい事だろう。そう思って自分を終わらせる一撃をユーグは待ったが、それはいっこうに下されなかった。
 ……どういうことだ?
 目を開く。Tさんは手にしていた十字を模った剣を石畳に突き刺し、少し離れた位置で未だに継続している≪夢の国≫の住人と≪テンプル騎士団≫・凍死兵の混合軍の戦いの情勢を掴もうとするように見やりながら自身に治療をはじめた。
「……何故、殺さない?」
「モニカのわがままだ」
 Tさんの答えの意図を汲み取りかねてユーグは「なに?」と訊き返す。Tさんは治らない傷に治療を諦め、ユーグに向き直って説明する。
「モニカはユーグ、お前と話し合いたいのだそうだ。連れて来てくれとせがまれた。努力目標ではあったのだが、それなりに本気の一撃を見舞ったというのにこの通りお前は生きている。俺個人としてもお前には今のモニカを知ってもらった方がいいだろうと考えている。あの子はいつまでも昔の、お前が知っている頃のただ不幸で無知な娘ではないよ」
 そう言ってTさんはユーグへと手を差し出す。
「共に来いユーグ。先程も言ったがモニカにとってお前は昔から知る最後の家族だ。すれ違ったままで別れてしまうのはつまらんだろう?」
 ユーグはその手を見上げ、先の戦闘中にかけられた言葉に思いを馳せる。敵の言葉だと聞き流そうとして出来なかった言葉達だ。
 ……友もでき、家族もでき、多くの労力を割いて味方してくれる者がいて、私だもう何世紀も前に絶望してしまった世界を絶望せずに生きて、私をまだ家族と呼ぶか……。
 もう長い間考え続けてきた事だ。世界の認識を前向きに修正する事はおそらくできはしないだろう。多くを救う方法としてオルコットが掲げる理想も悪く無いという思いは今もある。いや、決して無くなりなどしない性質のものだろう。その在りようは≪テンプル騎士団≫であるユーグの構成要素をなしてもいるのだ。
 しかし、
「……いいだろう。勝者の言い分だ、それにあのモニカお嬢様が言ったわがまま、聞かないわけにもいかん」
「ではご足労願うとしよう」
 そう言って差し出された手を取って、ユーグは言う。
「しかし、お前達の側に付くかどうかは分からないぞ、私はどうあろうとオルコット様が考える世界の改変を支持する」
「いいだろう。モニカとの話し合いの席さえ整えればとりあえずあの子のわがままは果たした事になる。その後はまた戦うなりするさ」
 そう言って≪夢の国≫の住人や騎士達が入り乱れる戦場へと歩いていこうとするTさんにユーグは声をかける。
「待て」
「……?」


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 その戦場の趨勢は≪夢の国≫の住人の側へと徐々に傾く気配を見せていた。
 先の光の一撃が瞬いてからというもの、指揮官を失った≪テンプル騎士団≫・凍死兵の混合軍は動揺し、士気が低下、≪夢の国≫側が投入してきた櫓のほとんどを倒しこそしたが、倒された櫓を護っていた住人達がそれぞれ残った櫓を護りに行き、更に堅い守りを得る事になった櫓を攻めきれずにいたのだ。
 このまま時間をかければ≪夢の国≫の住人側に勝機が移る。数を半数にまで減らした明敏な騎士達はそう理解して、そうなる前に突撃を行おうとして、
 ――――戦闘行為を止めよ!
 戦場に響いた両軍の指揮官の声にビタリと動きを止めた。それはやぐらを中心に陣を構えた≪夢の国≫の住人の側も同様だった。
 両陣営の視線がこちらへと近付いてくる騎乗した影に集中する。影色の馬には二人の人物が乗っていた。Tさんとユーグだ。両陣営の中心にやってきた彼等の姿に騎士は貧しき騎士たちの原初の姿を思い出しながら礼をとり、状況を見守る。


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 影色の馬から降りた二人はそれぞれの味方に対してこう言葉をかける。
「皆、ありがとう。この通り、騎士殿とは一時的に停戦する事ができた。今後はまだ分からないが、この戦場、総合的に見て俺達の勝利だ」
「≪テンプル騎士団≫の同胞よ。皆気付いているだろうが私は彼に敗北した。そしてその後モニカお嬢様が話し合いの席を望んでいると知らされた。
 モニカ・リデル。テンプル騎士団の血脈に連なる者にして、裏切られ、世界から敵いの目を向けられていた我々≪テンプル騎士団≫をまとめあげた契約者、エルマー・リデルの孫だ。私はやはり世界の在り様をこのままで認める事は難しいが、モニカお嬢様はそうではないと言っているようだ。
 彼女の言い分を聞きたいと私は思う。私に付き合おうと言う者は居るか?」
 返答は礼をもって示された。
 ≪テンプル騎士団≫はそれぞれの身を覆っていたバフォメットの加護を収め、武器をしまう。
 無手の状態で兜を外し、頷いた彼等はユーグの影へと溶け込んでいった。
 総長の意志に従うという決定の表れだ。
「……感謝する」
 小さく呟き、次いでユーグは残った凍死兵達へと労いの言葉をかける。
「凍兵達よ、御苦労だった。この場で土に還る事を許可しよう。冬ではなく、この地で眠るといい」
 構わないな? と向けられた視線にTさんは頷く。
「≪夢の国≫の住人よ、この場は片がついた。俺達はこれから高部徹心の異界へと行ってモニカの願いを実現させる。皆は夢子ちゃんの援護に行ってやってくれ」
 鳴き声とも鬨の声ともつかない奇妙な掛け声と共に≪夢の国≫の内部に散っていく住人達を見送って、Tさんはユーグに言った。
「では行こうか。モニカにとってもお前にとっても得るものが多い話し合いになればいい」
「得るものがあればいいのだがな」
 影色の馬を喚びながらユーグは考える。
 ……エルマーよ。自由にしろというお前の言葉が真に望んだのはこういう事なのか?
 答えは返らず、戦火は未だにこの異国を染め上げていた。





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