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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-20

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 Tさんはオルコットと彼の軍勢の侵攻を食い止める為に、桃の結界内から光弾を間断なく放っていた。
 光弾がオルコットの≪ジュワユーズ≫の死角に回り込むように襲いかかり、≪キョンシー≫達が桃の結界の領域ギリギリまで接近してから飛び出してオルコットへと攻撃を加える。
 目に見えて決定的な負傷を与えられてはいないが、徐々に、しかし確実にオルコットは押されていき、やがてこの一連の戦闘が始まってから初めて、オルコットが桃の結界の最前線から退いた。
 引いたオルコットを叩き潰そうと≪キョンシー≫達が四方から襲撃する。≪桃源郷≫の桃の木で作り上げられた退魔の武具が一斉に振るわれた。
 しかしそれらの攻撃を防ぐ者達がいた。
「≪冬将軍≫の凍死兵……!」
 桃の結界の領域とオルコットとの間にあるオルコットが退いた事によってできた空間。そこを埋めるように展開した凍死兵達が≪キョンシー≫の攻撃を防いだのだ。
 オルコットを守る壁となった彼等は、≪キョンシー≫達と桃木の力に及ばず砕かれていきながら、それでも打撃と銃撃で対抗してオルコットを守りきった。
 ……まずいっ!
 オルコットに大技を振るう時間を稼がれてしまう。そう危惧を抱きながらTさんは光弾に≪ケサランパサラン≫による幸福を祈祷する。
 ――オルコットに当たり、彼の加護を吹き飛ばす事が出来れば幸せだ!
「≪キョンシー≫達! 退け!」
 言いながら光弾を放つ。
 無事な≪キョンシー≫達がその場を離れ、光弾が幸せを履行しようと倒れた凍死兵達の向こうで≪ジュワユーズ≫を振り上げているオルコットへと飛んで行き、
「遅い!」
 ≪ジュワユーズ≫の、幾つもの色彩を孕んだ刃が解放された。
 色彩の刃は≪ジュワユーズ≫の剣身から伸長し、光弾を切断、更に刃は一直線に≪桃源郷≫の地盤ごと桃の木々を吹き飛ばした。
 自身でも結界を張ってオルコットの一撃をこらえたTさんは、今の一撃を受けての桃園の状況に絶句する。
「これは……」
 オルコットが先に放った、自身の後方を完全に鋤き返す一撃程の範囲ではないものの、オルコットの前には十数メートル幅で桃園の地を掘り返して強引につくられた道ができていた。道の先は徹心のコテージを破壊して止まっている。
 ――舞ッ!
 咄嗟に視線を向ける。舞は由実と共に掘り返された道の近くでユーグとモニカの傍にいた。
 ユーグがどう転ぶのかは分からないが、少なくともモニカと、それに戦闘要員ではない舞やリカちゃん、戦闘は不可能なケウや由実がこの場で巻き込まれて死ぬのを黙って見ている事はあるまい。
 そう判断してTさんはオルコットへと意識を集中し直す。
 ……今ので≪キョンシー≫達が飛ばされた。再び取り囲む陣形を組むまでは待っては……くれないか。
 オルコットは僅かに息が上がっている程度で特に疲労が濃いという調子でもない。どうやらあの色彩の刃は一度形成してしばらく経つと剣身より先に伸長した刃は消滅するようだ。現在オルコットの手にある≪ジュワユーズ≫の刃は通常の剣と同程度の長さしかない。
 ……連続して振るわれないのは助かるが……いや、結界を砕くために色彩の刃の力を爆発させなければ刃も長く維持できるのか?
 相手の武器は強力だ。過小評価だけは避けなければならない。そうTさんが思っていると、オルコットが静かに、そして重々しく宣言する声が聞こえた。
「私の勝ちだ」
 ……なに?
「……どういうことだい?」
 土砂を払って砂埃の中から現れた徹心が、掘り返された道をオルコットに幾分か近付いていきながら訊ねる。
 返答を、オルコットは一つの行動をもって示した。
 ≪ジュワユーズ≫、その握りの先にある黄金の柄頭へと手をかけたのだ。
 ≪ジュワユーズ≫の柄頭には≪聖槍≫が仕込まれている。かの剣に伝わる伝承に思い至った瞬間、Tさんと徹心は叫んだ。
「その場からモニカを連れて離れろ!」
「モニカを結界の中にでも収めるんだ!」
 柄頭が≪ジュワユーズ≫から引き抜かれる。握りの中から現れたのは短剣のような刃物――槍の穂先だ。
「桃園の結界が阻まないのならばこの距離、契約を結ばせる条件には十分だ」
 穂先がその先端を、掘り返された道を通してモニカへと向けられる。
「さぁ、結んでもらおうか――我が悲願への鍵、≪聖槍≫との契約を!」


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 突然轟音と共に強引に掘り返された地面と、破砕されたコテージのありさまに驚いていたモニカ達は、一直線に続く掘り返しの始点から聞こえてきたオルコットの言葉に咄嗟に警戒の身構えをした。
 モニカはユーグの衣服を握りしめ、彼の顔を不安げに見上げる。
 ユーグは戦場の方に目を向けて、
「そうきましたか……!」
 言葉を零し、モニカに手を伸ばしてきた。
「お嬢様、今結界を――」
「え?」
 それよりも早く、モニカの体を無形の衝撃が襲った。
「――――ッ!」
 自分の中に何かが流れ込んでくるようだ。そう思い、モニカは似たような感覚を以前にも感じた事を思い出す。
 あの時は自分の内から目覚めようとする力だったが、今度は外からモニカを刻みつけようとするかのような力だ。
「あなた……は……」
 モニカは自身の中で居場所を確保しようとする力の名を呟いた。
「あなたが、≪聖槍≫――」
 力の圧力に押されてモニカの意識が薄れていく。平衡を失い、体が倒れる。
 ……あ。
 意識を失う直前、倒れ行く体が抱きかかえられる。その手の主がユーグであると確認して、モニカは大丈夫、と口を動かした。
 ――ぜったいにもどってくるよ……。


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 モニカが倒れたらしい事が舞や由実の叫び声で分かる。
 どうやら脅しやはったりなどではなく、本当にモニカに≪聖槍≫を契約させるつもりらしい。
 ……今からモニカの所へ行って結界を張れば救えるか……?
 おそらく無駄だろう。モニカへと≪聖槍≫の力が流れて行くのをTさんは感じとった。モニカの内側へと≪聖槍≫は既に侵入してしまっていると考えていい。未だ世界をリセットする為の≪杞憂≫が発動していないところを見ると、どうやら契約はまだ完全には成立してはいないようだが、
 ……やられた。
 睨みつけるTさんへと、オルコットはこれ見よがしに≪聖槍≫の穂先を示した。
「本来ならば≪ジュワユーズ≫の中に収められている劣化品のため、≪聖痕≫を刻む程度の事しかできない≪聖槍≫だが、ウィリアムの研究とモニカの血縁、そして天帝が所持していた≪杞憂≫。これらと合わせてモニカの精神を媒介にすれば≪聖槍≫は完全な顕現を果たす」
「そして世界の理は改められるというわけか……」
「抵抗をしているようだが、もう時間の問題だ。無駄な事はやめてお前達も契約が成立するまで待つがいい」
「そうはいかない」
 徹心が手振りで≪キョンシー≫達に指示を出す。果敢に攻め込む≪キョンシー≫達に続けて指示を出していきながら徹心はTさんに言う。
「Tさん、オルコットを倒すんだ! 契約が完了する前に≪聖槍≫を破壊する! 契約の媒体が無くなれば契約も棄却されるはずだ!」
「了解した!」
 焦りと共にTさんは身を弾く。行く先は凍死兵達と共に佇むオルコットのもとだ。
 ぶつかり合う。


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「おい! モニカどうした!?」
 突然ぶっ倒れたモニカに声をかける。意識が無いのか返事をしないモニカを揺り動かすフィラちゃん。でもいっこうに目を覚ましそうにない。ケウが鼻を寄せて、騎士のおっちゃんを見上げた。騎士のおっちゃんは頷いて、
「≪聖槍≫だ……」
「え? ≪聖槍≫ってオルコットの持ってるっていうモニカに契約させられたらやばいっていう、あの?」
「ああ……」
 騎士のおっちゃんはなんか難しそうな顔でモニカを見ている。それでもなにか手を出そうとしているようには見えない。
「おい、なんとかなんねえのかよ?」
「無理だ」
 にべもなく言っておっちゃんは首を振った。
「契約が結ばれかけている。こうなってしまえばもうこちらからは手を出せない」
「てめえ、この期に及んでなんか隠してたりしねえよな」
「ない!」
 鋭く言われて俺の過熱しかかった言葉も収まる。
「……悪い」
「いや、私を疑う判断は正しい」
 そう言いつつおっちゃんはモニカをフィラちゃんに預けて複雑そうな表情を浮かべた。
 小さく言う。
「……お嬢様、死に損なってしまった私を置いていかれるのですか?」
 こんな事を言う奴を疑えるわけがねえだろうが……。
 俺もモニカを見守る。
 どうか無事で帰ってこいよ……!


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 上も下も、水の中なのか遥か宇宙なのか、それすらも分からない暗い暗い不定形の世界。そこでモニカは一人漂っていた。
 体には緩やかな脱力と抗いがたい眠気が、心にはこれまでに感じた事もない程の平穏があった。
 心配事も恐れもなにも存在しない世界。
 ……ここはどこだろう?
 一瞬湧きあがったその疑問は吟味される間も無く、平穏と眠気の中へと溶けて消えてしまう。
 ……みんなは……? フィラちゃん……ユーグおじさん……?
 新たに浮かんだ疑問ごと包みこんでしまうかのように、そして眠りを促すかのようにモニカの体を暖かい力が包み込んだ。
 更なる平穏と体の安堵が訪れる。
 ……あたたかい。
 それは幸せと呼んでもいい状態だ。モニカは体を包み込むこの感覚に全てをゆだねて眠ってしまいたいという欲求を受容しようとして、
「――でもね」
 小さな唇が強固な意志をもって言葉を紡ぎ出す。
 それに反応してモニカを包んでいた力が離れていった。
 それを暗い世界で知覚して、モニカは言葉を続ける。
「ごめんね、あなたたちをほんとうの目的のために使いたくはないの」
 まだ夢うつつの意識でモニカはそう言い、
「おいで」
 闇の中で手を広げた。
 それと同時にモニカの周りを戸惑うように巡っていた力に変化が生じた。
 力が二つに分かれたのだ。
 一つはモニカのもとへと流れ、もう一つはモニカの正面の宙空に留まる。
 その宙空の留まった力へとモニカは、不定形の世界で体を起こして頭を下げた。
「あなたは、わたしじゃあつかえないの……大きすぎる力……ユーグおじさんがずっとむかしに信じてた人たちがのこしたもの……」
 いまや覚醒を果たした意識でモニカは言う。
「わたしは、あの世界が好きです」
 それは拒絶の宣言となり、
「≪杞憂≫」
 言葉に応えて不定形な世界に半透明の柱が幾本も屹立した。
 同時に天が、それを意味する天井がモニカの頭上に展開していく。それを暗い世界で感じとりながらモニカは続ける。
「だから、この世界からわたしは、出ていきます」
 天井が全天を覆い尽くしていく。
 そして天が崩壊した。
 柱が粉々に破砕し、天が落下して地を割り砕いていく。
 暗い世界に亀裂が入った。
 亀裂から光が差し込んでくる。
 その光がモニカの意識を押し上げていく。その感覚を全身で味わいながら、モニカは形のない、しかし確かにそこにいた何かに向かって謝罪した。
「せっかくのゆりかごの世界を……ごめんね――――」


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 目を覚ましたモニカは、心配そうな顔でのぞきこんでいた由実と目があった。
「……あ」
 目を見開いて彼女は確かめるように名を呼ぶ。
「モニカ……?」
「フィラちゃん……?」
 揺り籠の世界での眠気の残滓がモニカの言葉を若干間延びしたものにする。あの世界で脱力を経験したせいで疲れと心労を自覚してしまい、体が重い。
 そうモニカが思っている間に、由実はモニカを抱きしめた。
「よかった……っ!」
 目を覚ましたモニカを由実が抱きしめる様子を呆然と見守っていた舞とリカちゃんが、ユーグに問いかける。
「こりゃあ、オルコットが≪聖槍≫の扱いをミスったって事でいいの……か?」
「そうなの?」
「いや……」
 こちらも、半ば呆然とユーグは答える。
「確かに≪聖槍≫はモニカお嬢様と契約を結ぼうとしていた。お嬢様が強制的な契約をご自分の意志で跳ねのけたとしか考えられん……信じがたい事だ」
「ユーグおじさん……?」
 何やら驚いているらしいユーグや舞に、モニカは笑顔でブイサインを作る。
「えへへ……ただいま、みんな」


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「信じられん……」
 戦闘を行いながらモニカが意識を取り戻し、≪聖槍≫との契約を弾かれた事を悟り、オルコットは呟いた。
 ……ウィリアムの報告では精神的には≪杞憂≫の暴走を抑える程の強さを持つらしいが……まさかこれほどとは……。
「しかし現実だ……モニカの精神力の勝利だな」
 何度打ち合っても未だに倒れず、モニカが復帰した事で余裕も取り戻したTさんの言葉に苦く笑ってオルコットは返答する。
「まったく、予想を上回る事ばかりだ……しかし」
 オルコットは≪聖槍≫の先を再びモニカへと向けた。
「再び契約を強制すればいいだけの事だ。精神力もそのうち消耗しよう」
「そうはさせん――!?」
 Tさんが結界を張ろうとするためか手に光を宿して動きかけ、その動きを止めた。
 オルコットもその突然の停止の理由を理解する。モニカが居る位置に黒い霞のカーテンのようなものが現れているのだ。
 それはどうやら舞、リカちゃん、ケウや由実ごとモニカの周囲を囲んでいるらしい。
 ……あれは、
 内心で唸り、オルコットは呟く。
「……バフォメットの気配……ユーグ、いや、≪テンプル騎士団≫か」
「その通りです。オルコット様」
 声がして、≪ジュワユーズ≫で掘り返されてできた道を一人の男がやってきた。
 ほとんど砕け散った鎧に身を包んだ騎士、ユーグだ。
「私の麾下、40といったところでしょうか。Tさんとの戦いの後で未だに動く事のできる者達に結界を張らせました」
 こちらに近付いて来ながら重ねられる言葉に頷き、オルコットは言う。
「そうか……≪テンプル騎士団≫は私の敵になるか……」
「オルコット様のやりかたを間違っているとは言いません。少なくともすぐに理想を達する手段としては多少強引だろうとオルコット様の手段は最善です。しかしモニカお嬢様が、私の主が、テンプル騎士団の末裔が、この世界に、この世界の人々に愛着があるそうで。
 それに、無理な契約の断行はお嬢様の精神を眠りではなく、殺し、消滅させかねません。精神の消滅はオルコット様も望んでおられないでしょう?」
「ふむ、たしかにそうだが……ユーグよ、それは贖罪か?」
 ユーグはどうでしょう、と小さく頭を振った。
「ただ、手の届く範囲から少しずつ変えていこうとお嬢様はおっしゃった。――私は新たな可能性を視てしまったのです。オルコット様」
「あの娘に我々が諦めた道を歩ませるのか? あのような脆そうな娘に」
「我々≪テンプル騎士団≫は、絶対と謳われる存在を信じて裏切られ、このような存在に身をやつしてしまったのです。一見か弱く脆い者に賭けてみるのもまた一興でしょう。――それに、モニカの精神面の強固さはオルコット様もたった今目の当たりにされたはず」
 そう口にするユーグに迷いは無い。それを見とって、オルコットはそうか、と得心する。
「騎士は娘の意思を守る騎士として在るか……エルマーも喜ぶだろう」
 そう言って、オルコットは手にした≪聖槍≫の穂先を自身に向けた。
「――しかし」
 躊躇なく穂先を己の体に突き刺す。
 空気が破裂するような音が響いて、瞬時にオルコットの体中に裂傷が走った。
「何を……!?」
 状況を見守っていた徹心が瞠目し、Tさんが警戒も露わに口を開く。
「≪聖痕≫か……っ!」
「その通りだ……!」
 オルコットの全身に走った裂傷が複雑な紋様を描き、淡い光を放った。それは≪ジュワユーズ≫による加護と混ざり合って彼を鎧う色彩の加護を更に重厚なものへと変えていく。
 それらの加護を纏って、オルコットは≪ジュワユーズ≫を構えた。
「ユーグよ、お前達が再びその道を歩もうとするのが≪テンプル騎士団≫の出した結論だというのなら、徒労に殉じる道が始まる前に私がお前達をまとめて消してやろう」
 そして、
「モニカを守ろうとするTさん、徹心、他の者達も斬る。そうすればモニカも精神力を削がれよう――その時こそが≪聖槍≫との契約の時だ!」
 ≪ジュワユーズ≫が輝きを増す。もはやいくつなのか数える事も叶わない量の色彩を歓喜の名のもとに放ち、オルコットに際限なく力を供出していく。
「――ッ!」
 色彩の刃を振るった。
 一番近くにいたTさんの首を狙って放たれた一閃は、彼の力が付与された木剣によって受け止められる。
 色彩の刃と木剣の加護が干渉し合う音を聞きながら、オルコットは強敵に満足を思い、歩みを再開した。
「往くぞ! ここが私の意地の張り所だ!」







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