正体不明 07
時計を見れば午前七時
あふ、と欠伸をしながら読んでいた漫画の単行本をぱさりと積んで、両手を頭の上で組んでぐいと伸びをする
「さて、と……一度都市伝説に遭遇してしまえば、この町に居る限り縁は消えないってぇ話だけど」
借りた個室の後片付けをして、会計を済ませて漫画喫茶を後にする
黄色く感じる朝日を浴びて、詩卯はにひひと笑う
「や、元気してた? やっぱり縁ってのはあるみたいだね」
「都市伝説の『縁』ってのは、そういうものだからね」
最初に詩卯を助けた男、Z-No.999はそう言って苦笑を浮かべた
「昨日も襲われたんだって?」
「うん。変身ヒーローみたいなおにーさんに助けてもらった。それもこれも縁ってやつかな?」
「単純に運が良いっていうのもありそうだけどね」
「どこまで続く運かはわかんないけどね。ところでそちらはお知り合い?」
早朝の駅前ではなかなか目立つ、サングラスの黒服姿
それが二つ並んでいては更に目立つ
「うちの上司。こないだの事の報告と、昨日の様子を知って……お願いがあるそうなんだ、これが」
Z-No.999の後ろで、静かに頭を下げるのは
Z-No.0、然河斬九郎
「報告を受けて、確信とはいかないものの、充分な可能性があると仮定して協力を要請したい」
「協力?」
斬九郎は表情一つ変えず、冷ややかに
「あの化物……『ブロブ』とその契約者を倒すために、囮になってもらいたい」
あふ、と欠伸をしながら読んでいた漫画の単行本をぱさりと積んで、両手を頭の上で組んでぐいと伸びをする
「さて、と……一度都市伝説に遭遇してしまえば、この町に居る限り縁は消えないってぇ話だけど」
借りた個室の後片付けをして、会計を済ませて漫画喫茶を後にする
黄色く感じる朝日を浴びて、詩卯はにひひと笑う
「や、元気してた? やっぱり縁ってのはあるみたいだね」
「都市伝説の『縁』ってのは、そういうものだからね」
最初に詩卯を助けた男、Z-No.999はそう言って苦笑を浮かべた
「昨日も襲われたんだって?」
「うん。変身ヒーローみたいなおにーさんに助けてもらった。それもこれも縁ってやつかな?」
「単純に運が良いっていうのもありそうだけどね」
「どこまで続く運かはわかんないけどね。ところでそちらはお知り合い?」
早朝の駅前ではなかなか目立つ、サングラスの黒服姿
それが二つ並んでいては更に目立つ
「うちの上司。こないだの事の報告と、昨日の様子を知って……お願いがあるそうなんだ、これが」
Z-No.999の後ろで、静かに頭を下げるのは
Z-No.0、然河斬九郎
「報告を受けて、確信とはいかないものの、充分な可能性があると仮定して協力を要請したい」
「協力?」
斬九郎は表情一つ変えず、冷ややかに
「あの化物……『ブロブ』とその契約者を倒すために、囮になってもらいたい」
―――
「それにしても、よく引き受けたね。二度目なんて助かったのは偶然だろ?」
「まー何て言うのかな……とりあえず誘き出せさえすれば、やっつける算段は立ってるわけでしょ?」
「らしいけどね。そこに、きみが助かる算段は含まれちゃいない」
「正直で良いじゃない、上司さん」
にひひ、と
詩卯はいつもの癖のある笑い声を上げる
「バイトとはいえ、カミサマの下で働いてたからね。この命いっこで、もっと沢山の人が危険に晒されるのを防げるなら、まあいいかなって」
「強いね、きみは」
「おにーさんや上司さんが正直だったからね。逆に踏ん切りがついたよ」
笑顔のまま、ひらひらと手を振って
くるりとその場で回って見せてから、軽やかな足取りで夜道へと踏み出す
「じゃ、いってくる。お仲間の人達が頑張ってくれる事を祈ってるよ。巫女さんが祈ってるんだからしっかりやってよー」
冗談めかした様子でそう告げて、夜闇の中へと消えていく詩卯
Z-No.999は彼女との同行を禁じられている
逃げるのに適した能力と遭遇した場合、すぐに引き上げてしまうという報告があった以上、一度『ブロブ』の契約者に能力を見せた彼が近くに居るわけにはいかないからだ
「まー何て言うのかな……とりあえず誘き出せさえすれば、やっつける算段は立ってるわけでしょ?」
「らしいけどね。そこに、きみが助かる算段は含まれちゃいない」
「正直で良いじゃない、上司さん」
にひひ、と
詩卯はいつもの癖のある笑い声を上げる
「バイトとはいえ、カミサマの下で働いてたからね。この命いっこで、もっと沢山の人が危険に晒されるのを防げるなら、まあいいかなって」
「強いね、きみは」
「おにーさんや上司さんが正直だったからね。逆に踏ん切りがついたよ」
笑顔のまま、ひらひらと手を振って
くるりとその場で回って見せてから、軽やかな足取りで夜道へと踏み出す
「じゃ、いってくる。お仲間の人達が頑張ってくれる事を祈ってるよ。巫女さんが祈ってるんだからしっかりやってよー」
冗談めかした様子でそう告げて、夜闇の中へと消えていく詩卯
Z-No.999は彼女との同行を禁じられている
逃げるのに適した能力と遭遇した場合、すぐに引き上げてしまうという報告があった以上、一度『ブロブ』の契約者に能力を見せた彼が近くに居るわけにはいかないからだ
―――
「おー、速攻食いついたのかなー? こんな時間に怪しい女の子はっけーん」
学校町の遥か上空から、節を抜いた竹筒で地上を見下ろす黒羽
狭い視界の中に、一人の少女が元気に歩いている姿が見える
《黒羽っち、ターゲットは見付かったっスか?》
「おうさ、視界はクリアー。ターゲットはB7の交差点から北へ向かって移動中だよー」
無線を通じて、待機している面々に目標の位置を告げ
その背筋に、なにやらぞくりと寒気が走る
「……お?」
黒羽が遥か下に見下ろす地面で、少女は、真上を向いていた
夜闇に紛れる黒服姿の烏天狗を視界に捉えているかのように
「流石にこの高さに仕掛けてくるタイプの能力じゃないはずだけど」
へらりと余裕の笑みを浮かべていたその頬に、冷や汗が伝う
「マジで油断できないかもなー、りっちゃんもせっちゃんも気をつけろよー?」
学校町の遥か上空から、節を抜いた竹筒で地上を見下ろす黒羽
狭い視界の中に、一人の少女が元気に歩いている姿が見える
《黒羽っち、ターゲットは見付かったっスか?》
「おうさ、視界はクリアー。ターゲットはB7の交差点から北へ向かって移動中だよー」
無線を通じて、待機している面々に目標の位置を告げ
その背筋に、なにやらぞくりと寒気が走る
「……お?」
黒羽が遥か下に見下ろす地面で、少女は、真上を向いていた
夜闇に紛れる黒服姿の烏天狗を視界に捉えているかのように
「流石にこの高さに仕掛けてくるタイプの能力じゃないはずだけど」
へらりと余裕の笑みを浮かべていたその頬に、冷や汗が伝う
「マジで油断できないかもなー、りっちゃんもせっちゃんも気をつけろよー?」
―――
「う、ん?」
少女を視界に捉えた梨々の表情が、僅かに歪む
「どうしたの梨々ちゃん?」
「いや……あの子の思考を読んでたんスけど、なんかたまーにもの凄いノイズが」
梨々の思考に飛び込んできたのは、数十人が集まる賑やかな場所で回線を開きっ放しにしたような、大量の思考
それが時折、ちりちりと混線するように届いてくる
「それはともかくとして……あの子、考えてるのはご飯を残さないで食べようっていう、お母さんの言葉だけっスね」
「そう……良い子だったのね」
「そうっスね……食欲だけの化物に利用されるのは、ここまでにしてやるべきっス」
梨々はがさりと『隠れ蓑』を羽織り直す
「『ブロブ』自体の考えは読めないっスけど、餌に引っ掛かって動きを見せれば即行くっスよ」
「ええ、黒羽ちゃんから私に繋いで、斬九郎さんで締め。速攻勝負ね」
少女を視界に捉えた梨々の表情が、僅かに歪む
「どうしたの梨々ちゃん?」
「いや……あの子の思考を読んでたんスけど、なんかたまーにもの凄いノイズが」
梨々の思考に飛び込んできたのは、数十人が集まる賑やかな場所で回線を開きっ放しにしたような、大量の思考
それが時折、ちりちりと混線するように届いてくる
「それはともかくとして……あの子、考えてるのはご飯を残さないで食べようっていう、お母さんの言葉だけっスね」
「そう……良い子だったのね」
「そうっスね……食欲だけの化物に利用されるのは、ここまでにしてやるべきっス」
梨々はがさりと『隠れ蓑』を羽織り直す
「『ブロブ』自体の考えは読めないっスけど、餌に引っ掛かって動きを見せれば即行くっスよ」
「ええ、黒羽ちゃんから私に繋いで、斬九郎さんで締め。速攻勝負ね」
―――
ざり、と
アスファルトを靴底が撫でる
緊張でからからに乾いた喉を、唾を飲み込んで無理矢理に湿らせ
詩卯は告げる
「また会ったね、お嬢ちゃん」
待ち切れない食べ逃しを察知し、食欲で溢れる涎を飲み込んで
少女は告げる
「また会ったね、お姉ちゃん」
声が届く距離ではないものの、互いの顔を確認してそれぞれの口から挨拶のように声が漏れる
そして少女は、満面の笑顔を浮かべ、ぺこりと頭を下げながら宣言した
「いただきます」
少女の肌から赤い粘体がじわりと溢れ出し、鞭のように迸った
アスファルトを靴底が撫でる
緊張でからからに乾いた喉を、唾を飲み込んで無理矢理に湿らせ
詩卯は告げる
「また会ったね、お嬢ちゃん」
待ち切れない食べ逃しを察知し、食欲で溢れる涎を飲み込んで
少女は告げる
「また会ったね、お姉ちゃん」
声が届く距離ではないものの、互いの顔を確認してそれぞれの口から挨拶のように声が漏れる
そして少女は、満面の笑顔を浮かべ、ぺこりと頭を下げながら宣言した
「いただきます」
少女の肌から赤い粘体がじわりと溢れ出し、鞭のように迸った