アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 正体不明-13

最終更新:

Elfriede

- view
だれでも歓迎! 編集

正体不明 13


 まだ賑わいの名残を感じさせる夜の駅前通り
 ややまばらではあるものの、それなりの人通りが人々に無意識の安心を抱かせる
 人通りがあるから
 人目があるから
 ただそれだけで、『平和』の比率が高いと安堵する
 だがそれは、小魚が群れで過ごすのと同じ理屈
 周りにたくさんの仲間がいるから
 たくさんいる誰かが襲われても群れは逃げられる
 そんな、安心

―――

「ごちそうさまでした」

 真っ暗な路地裏で、少女は手を合わせてぺこりと頭を下げる
 足元に転がるのは、携帯電話や鞄、そして衣類についている金属部品の欠片
 それは彼女の食べ残し
 有機物は残さず溶解し自らの栄養とする『ブロブ』が、溶かす事のできなかった無機物
 量を察する事ができる形跡は、今や一人一台持っているのが当たり前の携帯電話が、七つほど
 彼女が『ブロブ』と契約してしまった頃は、数日に一人のペースで食事をしていたのだが、今ではこの勢いである
 もっとも、『ブロブ』の元となる映画からすれば、ひどくのんびりしたペースでの成長ではあるのだが

「うーん、何を食べても美味しいんだけど……やっぱり気になるなぁ」

 少女が想うのは、二度三度と取り逃がした獲物の存在
 見つける度に誰かに邪魔をされ、食べる事ができなかったせいで

「食べ続けてればまたいつか食べるチャンスはあるんだろうけど、やっぱり気になるよね」

 嗜好という思考を持たない『ブロブ』ではあるが、契約者の存在が人間的な感覚を共有する原因となっていた
 より美味しく、より楽しく、より確実に
 自己の維持と増殖のためだけに食事をしていた頃とは違う、充実感を得ていたからこそ

「においは、するんだよね……探してみよっか」

 彼女は
 否、『ブロブ』は
 とてもとても強くなり
 とてもとても弱くなったのだ

―――

「それでは儂が仕掛けて、本丸が締め。後は燻の手引きで、そこな女子が総仕上げ。相違無いな?」
「こちらは何時でも構いませんよ。むしろ太三郎、あなたの仕掛けが上手くいかなければ始まりすらしませんが」

 気合い充分といった風情の太三郎に、扇子で口元を隠しながら水を注す本丸

「人がやる気になっとるのに、出鼻を挫くなや」
「狐狸の類は、調子の乗ると些細な事で失敗するのが昔からの慣わしですからね」
「調子になんぞ乗りゃせんわい。芝右衛門との化け比べ以来、そこいらは気ぃつけとるわ」

 太三郎は憮然とした顔はしているものの、その雰囲気からはそれまであった余裕は消えている

「源平合戦すら再現する儂の幻術、舐めるなよ」

―――

 ひょこりと現れた詩卯の姿に、少女はすぐに喰らいつく
 だが手応えも食べ応えも何も感じられない
 本来ならばこの時点で何か気付くものなのだが、狐狸の類の幻術というものはまず『おかしいと思わせない』ものなのである
 そんなところにあるはずのない家、そんなところで用意できるはずもない御馳走、そんなところにいるはずもない美女
 あるのであればあって欲しいという欲望につけいる幻術は、人間としての機能や思考を手に入れた『ブロブ』を容易に誑かす

「あれ、今度はあっち?」

 曲がり角の先にまた、ひょこりと現れる詩卯の姿
 それにばかり気を取られているせいで、その向こう側に揺れる提灯の明かりに少女は気付く事は無い
 決して触れる事のできない詩卯の姿を追いながら、視界に揺らめく『送り提灯』の明かりに引き付けられ、ゆっくりと確実に町の外れへと誘い込まれていく少女
 人気の無いどころか建物すらまばらな景色すらも、太三郎の幻術により少女には駅前からさほど離れていない路地にしか見えていないのだ

「んもう、どうして食べてるのに食べきれないのかな」

『ブロブ』を広げて包み込むように詩卯の姿を追い詰めるが、幻であるそれは気が付けばまた先の道に現れて
 幻の詩卯は、幻でただの家に見えるシェルターへと駆け込んでいく
 広げた『ブロブ』を手のひらの中に吸い戻し、幻を追ってシェルターの中へと踏み込んでいく少女

「さて、どうやら問題なく事は運びそうですが……念には念を、近付かずに処理しますか」

 少女の操る『ブロブ』は、食事や自己防衛の時以外はその身体の中へと収納されている事は、数日の観察と数回の戦闘で確認されている
 既に幻術を見破り、罠に掛かった振りをして仕掛けを伏せているのでなければ、少女と『ブロブ』を閉じ込める計画は問題なく成功する

「『送り提灯』はこれにてお開き。次なる噺は『片葉の葦』に『足洗邸』でございます」

 本丸が扇子を指揮棒のようについと振るうと、シェルターが設置された空き地の草花からごっそり片方の葉が落ちて
 それと同時に少女の手足の片方がぼろりと外れる

「っ!?」

 バランスを崩して倒れそうになった少女が、手足を『ブロブ』で繋ぎ何とか踏み止まったその一瞬で
 シェルターの側面から生えた巨大な足が、その入り口である扉を思い切り踏み閉めた

「サロリアス、施錠を」
「応よ」

 水一滴はおろか空気も通さない密閉扉の鍵が、遠隔操作で施錠される
 核シェルターという本来の用途から、その頑丈さは軟体である『ブロブ』やそれが取り込んだ炎熱の能力では破壊する事は叶わない

「斬九郎が叩っ斬った時に終わってりゃ、苦しまずに済んでただろうにな」

 サロリアスの呟きは誰にも聞こえないまま
 シェルターの上に鎮座した椅子に、宙を舞っていた小柄な燻の身体がすとんと着席する

「ヨロシイデスカ?」

 己の能力を発動させる準備が整った黒服少女がそう問うと、サロリアスは無言で頷いた

「デハ」

 黒服少女の契約都市伝説、それは『ワン・フー・ロケット』
 16世紀の始め、明の官吏であるワン・フーが花火の技術を使った47本のロケットを取り付けた椅子で宇宙へ行こうとしたという話である
 この能力は『椅子をロケット化し宇宙へと飛ばす』ものなのだが、元の話ではその椅子にワン・フー本人が着座しているため、誰かが椅子に座っていないと発動しないのである
 敵が大人しく椅子に座るはずもなく、また味方を生身で宇宙にすっ飛ばす必要性もなく、永らく何の使い道も無かった能力であった

「発射!」

 初めて能力を発動させる高揚感と緊張感で、顔を紅潮させ上擦った声で叫ぶ

「お? おおおおお?」

 椅子の上に鎮座していた燻が、ロケット化した椅子と接合されたシェルターが浮き上がる感覚に、珍妙な声を上げる

「飛ぶ? 飛んじゃう? あちき飛んじゃうー?」

 次の瞬間、凄まじい爆発音と閃光と煙を撒き散らし、ロケット化した椅子が連結されたシェルター共々一瞬で空の彼方へと舞い上がって、消える
 煙が晴れたその場には、まるで爆発事故でもあったかのような凄惨な荒地だけが残っており、その後始末だけでも頭が痛くなりそうな有様だった

「……これから、能力を使う機会は二度と無ぇな」
「ハイ、自覚シマシタ。試セタダケデ良シトシマス」
「どうですかねぇ……今回のように、倒せない手に負えない相手がまた出ないとも限りませんよ?」
「そん時ゃそん時だ。考えるのは『組織』の連中の仕事だろうよ」

 他人事を決め込むサロリアスの様子に、本丸が扇子を口元に当てて小首を傾げる

「はて、今回の一件でてっきり出戻りを決めたのかと思っていましたが。小夜も無事なのでしょう?」
「お前らが戻りてぇなら好きにしろ。だがな、今のZ-No.0は斬九郎で、今の俺ぁ音門金融の社長ってのは変わりゃしねぇよ」

―――

「らめぇ!? あちきもう限界っ!」

 地球の重力圏を振り切る勢いで加速したロケットは、生身の燻の身体を風圧と加速力であっという間に押し潰す
 呆気なくくしゃりと潰れた燻の身体は即座に煙となって、地球の大気に置いてきぼりにされていった

「おふー、やっぱ自分で飛んだ方がいいわー」

 散り散りになった煙が渦を巻き、遥か眼下に雲を見下ろす高さで燻の身体が再構築される
 瞬間的に外的要因により圧砕されたせいで、身に付けているものを煙に同化させる余裕は無かったため、その姿は全裸である
 あっという間に遠く遠くへと飛んでいき、小さな星と見分けがつかなくなるまでロケットを見送ってから、燻はくちゅんと小さくくしゃみをして身を震わせる

「あの『ブロブ』は契約者がいるから自分を維持できるだろーけどなー。ほぼ同化しちゃってるとはいえ契約者の方はどうなんかね」

 ずびりと鼻をすすり、空中でぷらぷらと足を揺らしながら

「まー、酷な話ではあるけど……生きたいと思わず素直に食われてりゃ、こんな騒動にはならなかったわけで。生きるって事ぁ業が深いやね」

 ロケットが消えていった方角にある太陽を、目を細めながら眺め続けていた

―――

 事が済んだ一行の元へ、太三郎がおっとり刀で現れる
 既に事件は解決した風情、別段何ら問題は無いのだが

「さてと、無事に済んで何より……と言いたいところだがの。意気揚々とこの作戦を立てた小娘の方は大丈夫かのう」
「そっちは斬九郎がきっちりやってるはずだ」
「ほほう」

 太三郎がふむうと唸り、ちらりと視線をあちらへ向ける

「……どういう事ですか」

 そこには、息を切らせて駆けてた詩卯と、困り果てた顔のZ-No.999の姿

「記憶処理をしたんじゃねぇのか」
「いや、やったんですがね……何か強い切っ掛けがあれば解けるじゃないですか、黒服としての能力の記憶操作」

 斬九郎が処理を施し、診療所辺りに置いてくる予定だったのだが
 道中であっさり目を覚まし、状況を根掘り葉掘り聞かれた結果

「何度も言いますけどね……嘘には敏感なんですよ」
「あんた絶対変な血筋か、無自覚の契約者の類でしょう……」
「嘘なんて目と顔で大体判るものでしょ。汗の味も確かめれば完璧」
「それマフィアの幹部でスタンド使いでしょう!?」
「まあそれは冗談だけど」

 話しながら息を整えていた詩卯の顔から、色々な感情がすうっと引けていきまるで能面のような雰囲気でサロリアスに歩み寄る
 おやおやといった調子で、すすっとその場から一歩退いていく本丸と太三郎

「あの子と話をさせてもらう、そう取り決めていたはずです」
「お前が囮をする前提ならな。だがその辺りはこっちで代役を用意して、何の被害も出さずに事を済ませた。文句でもあるってのか」
「大ありです。最後まで関らせてくれなかったのは何故ですか」
「関らせりゃあ、手前ぇは喰われる覚悟で話し合いとやらをしただろうが。その時点で犠牲者一つ、こっちにとっちゃマイナス点だ」
「話を聞いてくれるかもしれなかったじゃないですか」
「その確率はどんぐらいだってんだ。それこそ万に一つもあるかないかだ。二度三度顔を合わせた手前ぇが一番良く判ってんだろうがよ」
「それでも……!」
「喰われる事で言葉を伝えるってぇのは無しだ。あいつが今まで何人喰ってる? その無念や苦痛や怨嗟を孕んでいながら何一つ歪まねぇ奴を、手前ぇ如きがどうこうできると思うな」

 ぐ、と言葉に詰まり
 手のひらに爪が食い込む程に拳を握り締める詩卯

「どうしようもねぇ奴と、どうしようもなくなった奴まで助けられるほど、世の中上手く出来ちゃいねぇんだよ」

 俯いて肩を震わせている詩卯に背を向けるサロリアス

「Z-No.999だったな。もう一度記憶処理しとくよう斬九郎に伝えろ」
「必要ありません」

 即座に言葉を遮り、背を向けたサロリアスの腕を掴んで振り向かせ

「あの子が居た事を、私は忘れません」
「覚えてたってロクな事にゃあならねぇぞ」
「何も知らなかったのに、これだけの事に巻き込まれてるのに何を今更ですよ」

 それだけ言って、ぷいと顔を逸らしその場から歩み去っていく
 そんな詩卯の警護をしなければならないのだろう、Z-No.999が申し訳なさそうな顔で頭を下げてから、彼女を追いかけていく

「珍しいのぅ、女子に嫌われるサの字というのも」

 からかうように擦り寄ってくる太三郎を、押し退けるように引き剥がし煙草を咥えるサロリアス

「女になんざ別段好かれたくもねぇ」
「そりゃあ切ないのう、儂らはこんなに好いておるのに。それに、折角仕事を手伝ってやったというのに、褒美の一つも無しかえ?」
「金なら後で払う」
「風情が無いのぅ、もう少し乙女心というものをな?」
「……だったら報酬は何がいいってんだ」
「ふむ」

 何をねだったものかと太三郎が考え込んだその脇で、待ってましたと言わんばかりに本丸がそろりとサロリアスの耳元に口を寄せる

「小生、弟子には恵まれてますが後継ぎがまだでして。元気なのを一人分、子種をいただければ」
「あ、儂もそれがいいなー」

 耳聡く聞きつけてきた太三郎がまた絡みつこうとしてたが、本丸の鼻先に煙草に火を点けようとしていたライターが突き付けられ

「熱っ!? あっつい! いくら妖相手とはいえ女性の顔を焼きますか普通!?」

 ひっくり返り涙目で鼻先を押さえつけている本丸の姿を見て、太三郎もついっとサロリアスから三歩ほど離れる

「火ぃ近づけただけで炙ってもいねぇよ。本気で焼きたくなりかけたけどな」

 改めて煙草に火を点けて、紫煙を上げるサロリアス

「まったく、冗談を判らぬ人ですねぇ本当に……」
「冗談だったのか?」
「いえ、割と本気でしたが……って煙草はダメですよ!? 根性焼きとか今時流行りませんから!」

 夜空を見上げて煙と溜息を吐き出して

「燻の奴が帰ってきたら引き上げるぞ。斬九郎への報告はお前らでやっとけ」
「ふむ、それは承知しましたが。貴方はどうしますので?」
「黒羽と雪華の体調が戻ったら遊行に付き合う約束がある。それまでに梨々と金融屋の仕事を片付けなきゃいけねぇからな」
「えー? 儂らとイチャイチャするのはダメで、あの娘らとは仲良しさんなのかのう?」
「元々あいつらは旅行に来てたのを斬九郎に引っ張り込まれたんだよ。それで怪我までさせてんだ、侘びの一つも必要だろうが」
「……儂らも怪我の一つぐらいしとけば良かったかの」
「かもしれませんね」

 不満顔を突き合わせている本丸と太三郎に、サロリアスは苛立たしげに舌打ちする

「さっさと報告を済ませて、お前らも付いてくればいいだろうが。わざと危ない目に遭う算段してんじゃねぇ」
「お、言ってみるもんじゃの」
「多分最初からそのつもりだったんでしょうけどね。そうでなければまず話題には出しません」
「梨々と雪華は奥手じゃが、黒羽はのう……儂らは丁度いい牽制役か」
「まあ抜け駆けさせるのも癪ですし。乗って悪い算段ではないでしょう」
「そういう話はもう少しこそこそ話せ」
「えー、何の話? 何の話? あちきも混ぜてー」

 いつの間にか空から舞い戻ってきた全裸の燻が、これまたいつの間にかサロリアスのコートに包まれて、余ってだらんと垂れた袖をぱたぱたと振っていた

「五月蝿ぇ、とっとと行くぞ。先に『組織』の方だな、こいつの服も借りてぇ。備品ぐらいあるだろう?」
「ヘ? ア、ハイ。黒服デヨケレバさいずハ色々揃ッテマス」

 ノリと勢いについていけてなかった黒服少女が、急に声を掛けられて裏返った声で応える

 深刻で凶悪な怪異や事件も、終わってしまえばそれまでで
 慣れた者達はすぐに日常へと戻っていく
 慣れぬ者達もやがては記憶は風化して薄れていく事だろう
 日常という薄氷のすぐ下に非日常が渦巻くこの町では、よくある出来事の一つとして

―――

「窓も無いし、ドアも開かないね。どうしようか」

 ぷかぷかと無重力の中で浮かぶ少女は、室内に『ブロブ』を張り巡らせて、まるで蜘蛛のように動き回っていた

「もしかして宇宙に飛ばされちゃったのかなぁ。凄い音と衝撃だったもんね」

 何の訓練も受けていない少女が無事だったのは、その身体も臓腑も大半が『ブロブ』漬けになって保護されていたからである

「どうしよう、地球に戻らないと何も食べられないよね。困ったなぁ」

 既に彼女は定期的な栄養摂取を必要とはしていない
 生物を喰らった分だけ『ブロブ』の体積を増し、知識や能力を吸収し、地球という惑星で唯一にして全一の存在になろうとしていただけなのだ

「しばらく寝てたらそのうち戻って来れるかな」

 蜘蛛の巣のように張り巡らされていた『ブロブ』がじわじわと部屋の片隅に集まり始め、大きな椅子のような形を作り始める

「ん、それじゃ食べるものがあったら起こしてね」

 そこに横たわる少女を、まるで繭のように包み込む『ブロブ』

「おやすみなさい」

 そして少女は眠りについた
 いつか地球に戻ってくるその日を夢見て
 真っ直ぐに太陽へと向かう揺り籠の中で

前ページ   /   表紙へ戻る   /   次ページ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー