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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 悪の秘密結社-03

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Elfriede

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悪の秘密結社 03


 からからと音を立てて、ガラス引き戸が開けられる
 白衣を着て銀髪をさらりと流したその姿は、どこかドクターに似た印象を漂わせている

「あの……診察ですか? それとも、ドクターの関係者の方ですか?」

 受付で訝しげに尋ねてくるミツキに、客人は屈託のない笑顔を浮かべる

「面識もアポイントも全くありません。ですがエルフリーデ・マイツェン女史にお会いするために来ました」
「そ、そうですか……今は診療時間中なので、お時間を改めていただくか、しばらくお待ちいただく事になると思いますが」
「待つ事は問題ありません。時間は充分ありますので」
「そうですか、ではお名前を伺ってもよろしいですか?」
「ヴィクトリアです。仲間からは親しみを込めてヴィッキー、もしくはプロフェッサーと呼ばれています」

 その笑顔に胡散臭いものを感じながら、ミツキは来客を伝えるために診察室へ向かう
 ヴィッキーは笑顔のまま玄関口に立っていたが

「そこ、暑い、です。中、どうぞ」

 夏もそろそろ終わりを告げる頃合とはいえ、日差しはまだまだ強い
 奥にあるキッチンから麦茶を入れたグラスを持ってきたメイが、待合室のソファの前でにっこりと微笑んだ

「あら可愛い。エルフリーデ女史の娘さんですか?」
「娘、違う、です。たまに、お手伝い、です」

 ぺこりと頭を下げて、お盆を手にぱたぱたと引っ込んでいくその後ろ姿を
 ヴィッキーはとても楽しそうに、楽しそうに見詰めていた

―――

 待合室の賑わいも陰り、夕日の射し込む寂しげな空間に、溶け込むように佇むヴィッキーの姿
 目の前の小さなテーブルには麦茶が入っていたグラスと、塩気のあるおかきがお茶請けに置かれていた

「お待たせして申し訳ない、今日は少々混んでいたものでな」

 この町を訪れた頃から比べるとやや伸びた、綺麗な銀髪を掻き上げて
 ドクターは気さくに待合室のソファに腰を下ろす

「診療以外の目的で私に会いに来る客人というのも珍しいな。『総統』閣下の関係者かな?」

 まず疑われるのは、都市伝説関係者
 ドイツ系の面立ちからしても、『第三帝国』の関係者を連想させる

「いえ、全く関係性の無い赤の他人です。はじめまして!」
「……よろしく」

 笑顔で差し出される右手を、遠慮がちに握り返す
 相手が女性だというのに、ドクターのテンションが一向に上がる気配が無いのを見て、受付で待機していたメアリーは傍らに居たミツキに目配せをする

「それで……君は、ボクに一体何の用があるのかね?」
「はい、単刀直入に言いますと、あなたの研究成果を丸ごといただきたいと思いまして」

 その言葉と同時に、登場までの経過がコマ落ちでもしたかのように、突然ドクターの背後に数人の黒いボディスーツ姿の戦闘員がざわりと現れる

「ぐっ!?」

 即座に腕を捻り上げ、ソファに押し倒されるドクター
 戦闘員達が何処からともなく取り出したのは手錠や猿轡、そして人間がすっぽり一人は入りそうなトランクケース

「最初は襲撃して研究資料を強奪しようと思ったのですが、記録媒体を損壊する可能性が高いと思いまして。その点、研究者本人なら多少手荒にしても頭部が無事ならどうとでもなりますから」

 押さえつけられたドクターに、ヴィッキーは先程までと全く変わらない笑顔を向ける

「私、脳改造とか得意ですから。気にせず恨んでいただいてて結構ですので」
「そうか、ならば遠慮なく」

 そうドクターが呟くと
 ドクターを押さえつけていた戦闘員達の肉体が、妙な腐臭を漂わせながらぐずぐずと崩れ落ちていく
 ボディスーツは下半身に泥でも流し込んだかのように膨らみ、力と質感を失った上半身がべとりと床に垂れ下がり、転げ落ちた仮面をどろりと汚す
 そして、しばしの時間経過と共に、残ったボディスーツも汚泥のような腐肉も、しゅうしゅうと煙を立てて消滅していく

「他の皆は?」
「ミツキが注意を促しに行きました。既に診療所の外へ一時避難しているかと」

 ソファからゆっくりと起き上がるドクターと、すぐに傍らに駆け寄ってくるメアリー
 そして

「ああ、この能力も素晴らしい。たかだか『エイズ・メアリー』がここまで強力な、空気感染すらする感染症を操れるなんて」
「……効いて、ない?」

 メアリーのばら撒いた、都市伝説上の『エイズ・ウイルス』の影響を全く受けた様子もなく、その場に悠然と立っているヴィッキー

「ですが戦闘員もあなたの前では無力なようで。千日手には興味がないので、今日のところはお暇しましょうぶっ!?」

 余裕綽々の態度で診療所を出て行こうとするヴィッキーの頭部を、朱塗りの棍の先端が殴打した

「いきなり仕掛けてきて、ただで帰れると思うなよ」

 診療所の玄関口で待ち構えていた有羽の、如意棒・レプリカの一撃
 並みの人間なら頭蓋を粉砕して脳漿を撒き散らすような一撃を喰らい、ヴィッキーは文字通りの有様となってその場に崩れ落ちた

「おやおや、酷いですね。私もこの身体は気に入っていたのに」

 頭部が砕けぐずぐずと溢れ出した状態のまま、眼球がはみ出し鼻血と血反吐を垂れ流したまま、何ら調子を変える事無く言葉を紡ぐヴィッキー

「死なないなら、死ぬまで殺すまでだ」
「『死体洗いのアルバイト』の能力で、ですか?」

 ねちゃりと床に糸を引きながら、砕けた頭を持ち上げるヴィッキー

「あなたも私のものになってくれれば、とてもとても研究も捗るんですが」
「言いたいことはそれだけか?」

 どう見ても死んでいる有様で、平然と動いて話すヴィッキー
 対する有羽も全く怯んだ様子も無く、その身体をホルマリンプールへと突き落とした

「あの……この身体は、とか言ってましたし、他人の身体を乗っ取ったりしてたんじゃないですか、彼女は」

 おずおずと尋ねるメアリーに、ドクターが軽く首を振る

「乗っ取るタイプの能力だとしても、乗っ取られた側の心配は要らないだろう」
「でしょうね。あれは死体でしたから」
「メアリーのウイルスが効かなかったのもそのせいだろう。死体に免疫力も代謝機能もへったくれも無いからな」

 医者と、元医大生の二人があっさりと言い放つ

「握手をするまで判らなかったがね。嫌な雰囲気はしていたが」
「俺の場合は、ドクターが手加減しない時点で、まともな女性じゃないと判断した結果ですけどね。殴った時の手応えと傷口の様子で大体わかりましたよ」
「では私の存在がご理解いただけたところで」

 つん、と辺りに漂うホルマリン臭
 有羽の『死体洗いのアルバイト』は、ホルマリンで溺れさせるかその毒性でとどめを刺す
 逆に言えば、それで死ななければ
 浮いてくるものを沈めようとしてくるアルバイト達さえ掻い潜れば
 容易に脱出が可能なのである

「ウイルスも毒も効かないって訳か」
「まあ念の為言っておきますが、粉々になったり焼いて灰になったところで、私は平気ですから」

 頭部が砕けたヴィッキーは、指先でぐじぐじと傷口を弄り回し
 崩れた脳を整え、砕けた骨を繋ぎ、千切れた肉を縫い合わせ、あっという間に綺麗に整えられていく

「ところで……味方が居ると、無差別攻撃っぽい『エイズ・メアリー』のウイルスは使えないんじゃないですか?」

 ざわりと浮かび上がる数人の戦闘員
 だがそれらはあっという間に、有羽の如意棒・レプリカで殴り飛ばされ、ホルマリンプールに沈められていく

「何のために俺が居ると思ってやがる」
「なるほどなるほど。これは色々考える必要がありそうです」

 そう言って頷くヴィッキーとドクター達を遮るように、ぞわりと溢れ出す視界を埋め尽くすほどの戦闘員
 ほぼ棒立ちだったそれらを薙ぎ払う頃には、ヴィッキーの姿は既にそこには存在していなかった

「最初に数で攻めて来なかった事を考えると、数が多いと制御が杜撰になるのだろうな」
「そうでしょうね、今の連中はろくに動きすらしませんでしたから」

 崩れ落ち塵になっていく戦闘員達を見下ろしながら、有羽は溜息を吐く

「この手の連中は、死体が消えてくれるので助かりますよ、本当に」
「だが君は掃除しなきゃいけないところがあるだろう?」
「……あ」

 その言葉に、有羽は診療所の玄関口に視線を向ける
 そこにはヴィッキーを殴打した際の血と脳漿がべっとりとこびり付いており

「早急に片付けます」
「じゃあ私はミツキのところへ行ってきますね」

 清掃用具を取りに駆け出す有羽
 診療所の裏手へと歩いていくメアリー
 それを見送ってから、ドクターは柄にもなく大きな溜息を吐く

「ヴィクトリア、だったか……一体何者なのだか」

 一人になったドクターは、夕暮れ時の空を見上げながら、奇妙な不安を感じていたのだった

―――

「ふんふふ~ん、ふんふふ~ん♪」

 とあるマンションの一室の、浴室にて
 頭部の修復を完全に終え、鼻歌混じりにシャワーを浴び身体を洗うヴィッキー
 その頭を洗い血を流しているのは、ヴィッキーとよく似た別の女の身体
 ヴィッキーの見た目の年齢が20歳そこそこだとしたら、そちらの女はまだ15、6といったところだろうか
 その他に12歳ほどの見た目をしたヴィッキーに良く似た少女が二人ほどで、ボディソープで泡立ったスポンジで丁寧に身体を洗っている

「あんまりこだわってやらないで、さくっと研究成果だけをいただくつもりだったけど」

 とすんとバスチェアーに腰を下ろし、少女達に足を洗わせながらヴィッキーは笑う

「やっぱり調子出ないものね。もっとこう……呪い殺されるんじゃないかってぐらいに恨まれる手を使わないと」

 診療所で出会った面々の顔を思い出し、何をしようかと妄想に耽り悦に入り

「もしかしたら、あの人達が私達が求める『正義の味方』になるのかしら。ああそうだとしたら念入りに、念入りにやらないと」

 バスタブに逆さに沈み、足だけをだらりと出したこの部屋本来の住人の姿を眺めながら
 悪意は、狙いを定める


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