「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 電子レンジで猫をチン!-67

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【電磁人の韻律詩67~オシマイの向こう側~】

 サクリサクリと土を踏みしめる音。
 夜露がはじけて宙に消える寸前の光。
 梟の声だけが暗夜の向こうに吸い込まれていって、それきり帰って来ない。
 死体を収めるにふさわしい無表情で立ち並ぶ石の群れ。
 その中に一人、男が立っていた。
 無言で手を合わせていた。

「何をしているんだ?」
「お前には解るまい。」
「分からないからといって答えない義務はない。」
「俺は奪ってきたものを背負っている。
 この重荷を帰す場所は無い。
 俺から奪われた人間が居たことを俺は忘れまいとしているだけだ。」
「……いまいちわからん。」
「お前はそれでいい。」

 男は、上田明也は一本の小刀を彼に向ける。
 殺気だけで大気が震えていた。

「今日は俺を倒しに来たんだったな。俺が理由を語らなかった以上、お前も俺に話す義務はない。」

 小刀の刃先が目にも留まらぬ速さで胸元まで伸びてくる幻が見えそうだった。

「俺も分からない。何故今になってあんたと戦わなきゃならないのかが。
 でも戦って、戦わないといけないと思ったんだ。」

 明日真が懐から仮面を取り出す。
 静かにそれをつける。

「俺もな、あの時何故お前を逃してしまったのか自分でもいまいちよく分からないんだ。
 お前ともう一度戦えばそれが解るのかもしれないとは思っていた。
 ただ分からなくても構わないとも思っていた。
 解らないままの事が有ったって良い、そう思って忘れていた。」

 ああ、そのことかもしれない、と明日真は得心する。
 あの時、自分は死んだのだ。
 上田明也、否、笛吹丁という殺人鬼の手によって明日真はあの時死んでいたのだ。
 あれ以来自分は自分でなく、名も無き正義の味方だったのだ。

「あんたに預けっぱなしだった俺の命、返してもらうぜ。」
「面白い、そういう理由で俺に挑むか。」

 今此処で真正面からこの男に立ち向えたならば、この先自分は何も恐れないで戦い続けられる。
 右手を高く掲げ、高らかに叫ぶ。

「――――――――――――――――変身!」

 骨で出来た装甲が隙無く彼の体を包み込む。
 強さとは、纏うもの。
 優しい青年は戦う為に姿を変えた。

「行くぞ!」

 対する上田は迷うこと無く小太刀を投げつける。
 明日真に向けて飛来する小太刀はその間に一つが二つ、二つが四つに分身を始める。
 村正には贋作が多いとされる故事来歴に基づいた拡大解釈だった。
 明日真の苦難に運命の都市伝説である狂骨が駆けつけたように、
 上田明也が孤独な戦いを続けていた時には村正が彼の手元へやってきた。
 明日は沢山の刀を紙一重で躱し、上田の元に迫る。
 だが上田との距離が5mほどになった時、突如として彼の身体が後ろへ引っ張られる。
 上田明也が誇る操作系最強能力“自然操作”の一つである重力操作だ。
 明日真が躱した大量の村正は彼の後方で球状になって集まり、強力な重力場を発生させていたのだ。

「月夜にさよなら」

 圧倒的な重力に引きずられのけぞる明日に槍となった村正・蜻蛉切を投げつける上田。
 蜻蛉切は重力場に引かれ、投げた時以上の速度で明日の胸へ飛ぶ。
 彼は即座に脚部の装甲をドリル状に変えて地面をしっかりと捕まえてから身体を真後ろに倒す。
 彼の顔の前を射ぬく蜻蛉切の刃。
 偶然にも明日の背後を飛んでいた一匹の蜻蛉を捉え逸話が如く真っ二つにした。
 蜻蛉は槍が自らを通過した事実に気付くこと無く少しだけ飛んで、命を散らした。

「良い的だ。」

 上田は懐から散弾銃を取り出して引き金を引く。
 無論この程度で都市伝説の鎧にダメージなど与えられない。
 が、しかし目の前で高速で動くものがあれば眼を閉じてしまうのが人間だ。
 この手の反射を克服する訓練を受けた訳ではない明日は目を閉じる。
 次の瞬間、彼の埋まっていた地面で大爆発が起きた。
 吹き飛ばされ、重力を持つ黒い玉に引っ張られる明日。
 無論引き込まれれば中は無数の刃物が舞う空間。
 只では済むまい。
 だが彼が球体に飲み込まれる寸前に狂骨はカタパルトへと変化して明日を上田に向けて射出する。
 上田の強烈な重力操作を超える力で撃ちだされた明日は上田に蹴りを浴びせかける。
 慌てること無く上田は蹴りを片手で受け止める。

「いつの間にこんな力を!」
「飲み込ませたのさ。」
「己を都市伝説に飲み込ませる!?」
「運命を受け入れた貴様には永遠に辿りつけない境地だ。」

 上田の服の袖から釘が現れて明日の喉笛へ射出される。
 しかし彼の装着していた仮面がその釘を噛み砕く。
 明日は上田の空いていた片腕を掌で横に逸らしながら彼の脇腹に肘打ちを叩き込む。
 肘にビリビリとした感覚が走る。
 骨の鎧を何かが貫いている。
 釘だった。
 赤い部屋の釘だった。

「俺は俺の選びとったモノと共に生きて行く。
 今までも、これからも。」
「誰かを犠牲にしてかよ。」
「犠牲の無い行動など無い。要はそれの大小だよ。
 俺は俺の選んだ道を行くが……大きな犠牲とは虚しいだけなんだ。」
「へえ。」
「欲望ってのはさ、一人で満たし続けたところでたかが知れているんだ。
 一人より二人、二人より三人、同じものを求める大事な人と共に幸せになることで……
 欲望を満たしたときの幸福感は何倍にも増していく。」
「沢山の人を犠牲にしてやっと得られた結論がそれか。」
「ああ。」
「道徳の教科書に書いてありそうだな。」
「俺みたいな奴が昔居たんだろうさ。」

 明日真の掌底が上田の顎を射ぬく。
 重力の制御により上田は一気に空へと吹き飛ぶ。
 こうすることによって衝撃が頭に行くのを防いでいるのだ。
 そしてこういう形で距離がとれたことにより、巻き添えの心配なしに上田は再び重力球を明日に向けて誘導できる。

「ぬおわああああああああ!?」

 大量の刃物の嵐の中に飲み込まれる明日。
 だが狂骨の力で地下から大量の骨を召喚、自らの盾にしてジッと耐える。

「ほう、凌ぐか。」

 刃物同士がぶつかり合ってしまうためどうしても破壊力に劣るこの攻撃の弱点を突いた良い戦術だ。
 上田は素直に称賛の声をあげた。

「だがしかし、それはやはり先ほどと同じように的ということだよ。」

 上田は再び蜻蛉切を構える。
 月が笑い、風が啼く、鳥は眠り、御霊が覗く、暗い墓場。
 完全に制御され支配された彼の世界。
 真夜中に墓参りに行っていたのは決して上田がセンチメンタルになっていたからではなかった。
 夜とは契約者にとって都市伝説の力を取り込む時間。
 そして人々の恐怖が集まるこの空間において上田はゆっくりとその器に力を満たしていたのだ。
 駆ける無情は銀の刃。
 遠く輝く明星の輝きに蜻蛉切から涙の如き光が零れる。
 実際、蜻蛉切に、村正に眠る戦士の記憶は涙を流していたのだろう。
 美しかったのだ。
 それほどまでに。
 上田が明日を貫く為に一瞬だけ開けた重力球の隙間から覗いた瞳が。
 一瞬の隙を狙い続けていた明日真の瞳が。


 雷となって重力球から飛び出る真。
 どこからともなく轟音を立ててやってきたバイクに跨り骨の道を使い宙に浮かぶ上田に襲いかかる。
 こうなってしまえば重力球の緩慢な動きで明日は捉えられない。

「うおおおおおおおおおおお!」
「はははははははははは!」

 白骨の道を駆け登ってくる明日の拳に合わせて上田は蜻蛉切を……繰り出さない。
 懐から取り出したのは釘のように長い投擲用の剣。
 それを三本投げつける。
 車体を真横に倒して明日はそれを華麗に躱す。
 そしてそのままその場で一回転。
 大量の骨の破片を上田に浴びせかける。
 その直後に、明日真のバイクの眼と鼻の先で村正が踊った。
 恐らく上田は直進してくるであろう明日を狙うつもりだったのだ。
 再び全力で加速して上田を狙うバイク。
 重力操作で逃げたところで追いかけていく。
 上田はある程度の高度まであがると自然落下を始めた。
 そうしながら上田は懐から戦闘機にでも積んでいそうな機関銃を取り出して撃ちまくる。
 真上に居る明日と彼のバイクを守る骨の鎧がすこしずつ砕ける。
 それでも押しつぶすような形でバイクの車輪が上田に迫る。
 機関銃を投げ捨てた上田は突如として姿を消す。
 明日は炎に包まれていた。

「なんだそれは!?」

 上田はロケットエンジンのような物を背中に背負っていた。
 あれで飛んだのだと明日は理解した。
 彼も薄々は理解していたのだ。
 上田明也という男にとって、都市伝説の能力とは武器にすぎない。
 使える武器の一つ。
 それ以外にも武器はあるしそれ一つに拘る必要はない。
 上田という男はそう思っているのだ。
 故にその戦法は無形。
 自分の動きにあわせて無限に姿を変えていく。
 赤い部屋という能力も対応力を極限まで上げる為の選択だったのだ。
 上田はロケットエンジンも投げ捨てて地面に着地する。

「……良い腕してるな。」
「褒められても嬉しくはないよ。」

 上田の手の中から真っ赤なコートが現れる。
 都市伝説だ。
 見たこともない。
 否、明日真はあれを見たことがある。
 上田が凶行に及ぶ時に常に着ていたコート。
 あれは只のコートではない。
 何が起きているのか、明日真は理解できなかった。

「お前はまだ気づいていない。」

 上田は纏った。
 その、赤いコートを。

「お前が今此処で人妖の境界を超えたことに。」

 時間が凍りつく。
 そして巻き戻る。
 明日は理解した。
 上田が自らを赤い部屋に飲み込ませた意味を。

「変身とは境界を超える儀礼なのだ。人と、それ以外の。」

 自らを都市伝説とすることで“都市伝説としての自分”に飲み込まれることを防いでいるのだ。
 逆に言えばそれはいくら強靭な精神を持っていたところで自分になら飲み込まれかねない危険性を示唆している。

「認めよう、お前が俺と同じく人間の境界を超える者だということを。」

 だから今までそれを使わなかったのだ。
 ならば今ここでそれを使った意味とは…………

「人間ではない、契約者として、全力で貴様と戦ってやる。」

 明日の真後ろから上田が現れる。
 居るのに、物音もするのに気配は感じられない。
 その姿はまさに都市伝説に語られる殺人鬼だった。
 姿を見せること無く、死体を残すこともなく、標的を決して逃さない殺人鬼。

 目の前の墓石が二回だけ同時に音を立てる。
 それが彼の動いた証だった。

 拳を振り抜く。
 頼りは直感のみ。

 空振った。

 装甲の隙間に突き刺さる貫手。

 今自分は何をされたのだ?
 まるでそう、時が止まったようだった。
 上田の姿が彼の目の前に現れる。
 明日は再び彼に向けてバイクを走らせる。

 次の瞬間、彼の目の前の地面に穴が開く。
 咄嗟にバイクから飛び降りた明日は一瞬だけ赤い影が走るのを見た。

 骨の弾丸を大量にばら撒く明日。
 まったく同時にはじけ飛ぶ弾丸。

 今度は蹴りが突き刺さる。

 明日真の脳内で一つの仮定が出来上がっていた。

「時間を……止めている?」
「予想外だよ、お前がここまで出来るとは本当に思ってなかったよ。」

 契約者の行使する都市伝説能力とは即ち無意識の精神的才能の発露だ。 
 都市伝説とはそれを引き出す為のツールにしか過ぎない。
 そのことを上田のように完全に認識できるならたとえ飲み込まれたところで“自我”を支配されることはないのだ。
 そして上田の精神は地獄のような戦いの中で確実に変質していた。
 歪んだ性的欲望などではない。
 もっと圧倒的で絶対的な支配。
 自らの求める限りの支配だった。
 人の心など所詮は電気信号の集合。
 彼が支配したかったのはそんな小さいものではなかった。

「今の俺は文字通り、“世界”の“支配者”だッ!」

 上田が明日の目の前に現れる。
 拳と拳がぶつかる。
 鎧で守られた筈の明日の拳に激痛が走る。
 赤い影のみが高速で揺らめいている。
 背中から打撃が、四肢に斬撃が、頭部に銃撃が、感知し得ない攻撃が何度も何度も叩き込まれる。

「うわあああ!」

 悲鳴をあげて吹き飛ぶ明日。
 激痛に耐えかねてその場に蹲る。

「弱いな、圧倒的に弱い。少し本気を出せばこんなものか。」
「ぐっ……くそ!まだだ!まだ……!」
「無駄無駄ァ!今の俺は“不可知不可触の殺人鬼”!
 能力としての“無敵”だ!ただの契約者であるお前に勝てる訳がない!
 俺が百回以上の殺人を一切の物理的証拠を残さずに行ったからこその力だ!」

 赤い朧な影のみが揺蕩っている。

「無敵……か。」
「その通り、無敵だ。」

 白刃が明日の首に突きつけられる。

「貴様の負けだ。」
「上田……いや委員長さんよ。」
「なんだ。」
「あんたはその力で何をするんだ。」
「俺の欲望を満たす。」
「ならまだ負けられないなあ、いくら最強でもいくら無敵でも……!
 奪うために戦う人間に負けるわけにはいかない!」
「抜かせ!」

 村正が明日の首に向けて振り下ろされる。
 派手な音を立てて真っ二つになった髑髏。

「ん?」

 そう、それは明日真ではない。
 上田が真っ二つにしたのは明日真の身体を守っていたスーツだった。
 明日真は狂骨のスーツを脱いで骨のドリルを使って地面に潜っていたのだ。

「空蝉……何処に消えた!?」

 上田は警戒して後ろを振り返った。
 なんの偶然だろう、その瞬間丁度朝日が山の上から姿を見せた。
 上田の目に直射日光が突き刺さる。
 だがその程度で上田は怯まない。

「上田明也!あんたは時間なんて止めてない!
 時間を止められたなら俺にトドメを刺す瞬間にもそれを使った筈だ!」

 上田の拳と明日の蹴りが交差する。
 明日はそのまま空中で回転しながら着地すると上田に向けて再び構える。

「あんたは俺の感覚に干渉して意識の空白を作った!
 その僅かな空白の間に高速移動をすることでさも時間が止まったような演出をしたんだろう!
 骨の弾丸を同時に弾き飛ばしたのは重力操作って所だろ?
 不可知不可食の殺人鬼なんて居ない!全てはあんたが演出したトリックだ!」
「パーフェクト!予想以上だ!」
「暗示の類ってのは一度見破られると効きづらいらしいな……!」
「それは食らって試すと良い。」

 村正の一太刀が明日に突き刺さる。

「どのみち彼我の実力差は変わっていないんだからな。」

 明日は自らに刺さった村正をつかんで不敵に笑う。

「どうかな?戦いはテンションらしいぜ?」

 彼は上田の腹に骨のドリルを突き刺した。

「俺のテンションは最高潮だぜ!」

 互いにこの至近距離ではろくに能力を使えない。
 能力の発動の隙がそのままダメージになるし、
 能力を発動したところで自らも巻き込んだ自爆になるからだ。
 故に最も原始的な戦い方、殴り合いで勝負は決着する。
 骨の砕ける音、肉の裂ける音、血の弾ける音。
 流れ続ける互いの血肉。
 上田の右ストレートが明日の頬を捉える。
 明日の掌底が上田の顎を撃ち脳を揺らす。
 ほぼ同時に互いの右拳から血が吹き出す。
 額と額がぶつかる。
 上田は壊れた筈の拳を振るって明日に殴りかかる。
 明日も骨が折れている筈の腕で掌底を繰り出す。
 明日が姿勢を低くしてローキックを出したかと思えば上田は跳躍して踵落としを決める。
 踵落としを外した上田に明日が肘打ちを繰り出せば上田は至近距離からの体当たりを叩き込む。
 動くたびに互いの血肉が傷口からこぼれ落ちる。
 崩れ落ちる。

「…………。」
「勝ったか。」

 最期に立っていたのは上田だった。
 体内にある血液の量から言えば順当な結果である。
 もっとも原始的な戦いはもっとも原始的な理由で決着がついたのだ。







「…………また負けたのかい。」
「返す言葉もございません……。」

 数日後、明日真は包帯ぐるぐる巻きで自宅療養とあいなっていた。
 無論看病しているのは恋路である。

「なーんで負けるかなあ、一回勝ったんでしょう?」
「いやだってあれはなんかさー、すげえ虹みたいなのがブァー!って!」
「訳がわからないよ……。」

 盛大に負けた明日は応急処置だけされて家に送り返されたのである。

「ま、これじゃあまだまだ正義の味方とは言えないね。」
「そんなあ……。」

 がっくりうなだれる明日真。
 それを見て微笑む恋路。

「どれ、後で改心して善良な市民になっている上田さんのお見舞いにでも行こうかね。」
「置いてかないで~!」

 因果応報。
 全ての事象には原因があり、全てが原因で事象を生み出す。
 それがラプラスの悪魔を支えている理論。
 人を殺せば殺される。
 物を盗めば盗まれる。
 眼には眼を歯には歯を。
 誰もが納得できる単純で明快な理論。
 ラプラスの悪魔のみならずこの世に生きる大抵の存在がこの因果の中で生きているのだ。
 でも、それを超えて生きていける存在も居る。
 明日真、彼はそれを超えた。
 私の予想を超えて。
 この物語の語り部、橙・レイモンの予想を超えて。
 ラプラスの悪魔を支配する規律を超えて。
 正義の味方である筈の彼が、我欲の塊であり悪そのものだったあの男と同じように私の予知を超えていった。
 面白いものを見せてくれた、ありがとう、明日真。

【電磁人の韻律詩67~オシマイの向こう側~】


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