気持ちが悪い
心臓が早鐘のように鳴り響いているのが分かる
何故だか分からない
この中から脱してしまいたい
この、緊張と不安がない交ぜになった感覚から
身体が揺さぶられる
そうだ、これは悪い夢なんだ
目覚めてしまえばいい、早く、目覚めてしまえば――
心臓が早鐘のように鳴り響いているのが分かる
何故だか分からない
この中から脱してしまいたい
この、緊張と不安がない交ぜになった感覚から
身体が揺さぶられる
そうだ、これは悪い夢なんだ
目覚めてしまえばいい、早く、目覚めてしまえば――
14:32...
「組織」
第×区画(通称「解放区域」)内
第126番通路(運用廃止が上部連会議により決定済)
第×区画(通称「解放区域」)内
第126番通路(運用廃止が上部連会議により決定済)
「姉御!起きてますかい!?」
身体が上下に揺さぶられている事に気付く
誰かに負われている。よく知った声だ
誰かに負われている。よく知った声だ
「ハナゲ、か?」
「そうっす、俺っすNo.875っす」
乱堂は、ようやく己の部下に背負われている事と
彼、R-No.875が長い通路を爆走している状況を飲み込んだ
彼、R-No.875が長い通路を爆走している状況を飲み込んだ
「ちょお待ち!? ウチと一緒に居た女の子は――」
「こっちです凛々さん」
直ぐ横から掛かった声に、乱堂は即座に首を向ける
深手を負った女性の黒服は、女子の黒服によって背負われていた
体格差のためか、若干女性の黒服が覆いかぶさるような格好になっている
この女子の黒服は、スーツから露出している部分を殆ど、
それこそ頭髪の一部と口元以外を、全て包帯で覆っている
彼女も、No.875と同じく、乱堂の担当する班の部下だった
体格差のためか、若干女性の黒服が覆いかぶさるような格好になっている
この女子の黒服は、スーツから露出している部分を殆ど、
それこそ頭髪の一部と口元以外を、全て包帯で覆っている
彼女も、No.875と同じく、乱堂の担当する班の部下だった
「レンコちゃんも、なんで? 一体……?」
「そりゃこっちの話ですぜ姉御!」
No.875が割り込んで来る
「あんなおっかないのと何やってたんすか!?」
「あんなって……ああ! アイツは、アイツはどうなったん!?」
「レンコがフルボッコにしましたよ!」
「ホンマかレンコちゃん!?」
レンコ、と呼ばれた包帯の少女は
No.875の爆走に付き従うように、女性の黒服を背負って走っている
彼女は、走りながら、事情を説明し始めた
No.875の爆走に付き従うように、女性の黒服を背負って走っている
彼女は、走りながら、事情を説明し始めた
「使われてない筈の第124番通路内部で、確認外の周波パターンが検出されたんです
それで、×××君と一緒に見回る事になったんですけど」
それで、×××君と一緒に見回る事になったんですけど」
「そこでブッ倒れてる姉御と、そっちのPナンバーの子と
あンのイカレ魔法少女を見つけましてね」
あンのイカレ魔法少女を見つけましてね」
「凛々さんを保護しようとしたら襲撃を受けまして、抵抗を試みました」
「俺も応戦したんだが、ハナゲを根こそぎ刈り取られちまって……」
「ハナゲの能力、効かなかったん!?」
「ゲロ以下の臭いがプンプンしたモンですから、速攻で沈められると思ったんすけど
アイツ、異様でした。何もかもが」
アイツ、異様でした。何もかもが」
「私の『包帯』もかなり削り取られました」
「ホンマに……?」
乱堂は、部下の能力の程度を知っている
No.875の「空気汚染は鼻毛を強化する」能力は、敵対する者が「臭い」場合に
その効果を存分に発揮するのだが、今回の狂気の魔法少女の「鎌鼬」には敵わなかった、という事か
レンコの能力は「脳は10パーセントしか使われていない」という都市伝説から引き出された念動力だ
物質を硬化し、操作するといった物なので、包帯との併用によりその能力を駆使している
ただ、その硬化の度合いは、班内の能力者の錬度の中でもトップクラスに在る筈だ
少なくとも、上位管理職の能力者の一撃に対し、包帯の壁を形成する事でほぼ完璧に防いでしまう程には
二人とも『後方支援班』の中でも、相当に強いレベルでの能力者だ
それでもなお、苦戦したようだ
No.875の「空気汚染は鼻毛を強化する」能力は、敵対する者が「臭い」場合に
その効果を存分に発揮するのだが、今回の狂気の魔法少女の「鎌鼬」には敵わなかった、という事か
レンコの能力は「脳は10パーセントしか使われていない」という都市伝説から引き出された念動力だ
物質を硬化し、操作するといった物なので、包帯との併用によりその能力を駆使している
ただ、その硬化の度合いは、班内の能力者の錬度の中でもトップクラスに在る筈だ
少なくとも、上位管理職の能力者の一撃に対し、包帯の壁を形成する事でほぼ完璧に防いでしまう程には
二人とも『後方支援班』の中でも、相当に強いレベルでの能力者だ
それでもなお、苦戦したようだ
「でも、まあ、逃げきれたみたいやし、終わり良けれ――」
「ああ! 駄目ですあの子追ってきてる!」
レンコが急に悲鳴めいた声を上げた
「追跡マーカーが……あの子、こっちに近づいてる!」
「嘘だろおいぃ!! こっちは一本道だぞ!?」
「どうしよう……どうしよう!!」
「ふ、二人とも落ちちゅ」
出し抜けに二人の爆走が急停止した
「ど、どした――!!」
「クソッ、回り込んでやがる」
通路の前方に、あの魔法少女が立っていた
暗がりの中、ぎらついた眼をただ一点、負われた乱堂に向けて
暗がりの中、ぎらついた眼をただ一点、負われた乱堂に向けて
「 あ そ ぼ 」
今まで薄らいでいたのだろうか、しかしはっきりと
先程の恐怖が甦ってくる
先程の恐怖が甦ってくる
「rrtn ねえrrtn wwwwwww あそ ぼ ー よwww 」
時折、壊れたように笑いが混ざった
そして
不明瞭な声の中で
乱堂はやっと、自分の名前が呼ばれているのに気付いた
そして
不明瞭な声の中で
乱堂はやっと、自分の名前が呼ばれているのに気付いた
「rrたn、ねえrりtんwwww あそ ぼ」
「い、イヤや、ウチ」
「大丈夫っすよ姉御、此処は俺が――」
「×××君、この人、P-No.871さんをお願い。私があの子を何とかするから」
「れ、レンコちゃん!?」
包帯の黒服は、床にゆっくりと女性の黒服を下ろした
その時、乱堂は女性の腕、あの切断寸前だった腕に包帯が巻かれているのに初めて気付いた
乱堂の応急処置の後、レンコがさらに固定処置を行ったのだろうか
その時、乱堂は女性の腕、あの切断寸前だった腕に包帯が巻かれているのに初めて気付いた
乱堂の応急処置の後、レンコがさらに固定処置を行ったのだろうか
「あ、おい待て、レンコ」
「瞳孔の収縮リズム……、間違いない。あの子、改装体だ
名乗りは、『ぁーみる』。個体識別IDは……『ナンバーレス』」
名乗りは、『ぁーみる』。個体識別IDは……『ナンバーレス』」
「……おいお前何言ってんだ?」
「れ、レンコちゃん、何する積りなん? だ、駄目や――」
「凛々さん」
レンコは乱堂とNo.875の前に背を向けて立った
彼らと魔法少女の間に
まるで、彼らを守る為、ぁーみるに立ちはだかるように
レンコは背を向けたまま、乱堂に言った
彼らと魔法少女の間に
まるで、彼らを守る為、ぁーみるに立ちはだかるように
レンコは背を向けたまま、乱堂に言った
「私は班の皆に迷惑ばかりかけてて
少しでも恩返しできる事があればって、ずっと
頑丈さだけが取り柄になってる私にやれる事、こんな事しかないから」
少しでも恩返しできる事があればって、ずっと
頑丈さだけが取り柄になってる私にやれる事、こんな事しかないから」
首だけこちらへ向けてくる
包帯の間から、乱堂を見つめる眼が見えた気がした
包帯の間から、乱堂を見つめる眼が見えた気がした
「私が止めます。その間に逃げて下さい」
「レン、コ、ちゃん?」
一瞬だった
レンコと、乱堂、No.875の二人の間に
音も無く、包帯の壁が組み上がった
レンコと、乱堂、No.875の二人の間に
音も無く、包帯の壁が組み上がった
『ああああ゛あ゛あ゛、rrたんはぁーみ るの だ よ う
ぁー みる の ごは ん だよ う
じゃ ま す る ん なら おまえ か ラ ヒキ ニ ク ダ 』
ぁー みる の ごは ん だよ う
じゃ ま す る ん なら おまえ か ラ ヒキ ニ ク ダ 』
『×××君! 凛々さんとP-No.871さんを連れて早く!』
包帯の壁の向こう側から声が響いてくる
「あ、う、ウチ……」
今、眼の前で何が起こっているのか分からなかった
「ハナゲ、ウチを、下ろして」
自分の部下は、レンコは、一体、何をしているのだ……何をしたのだ……何をしようというのだ
「お、ちょ、ちょっと姉御!?」
身を捩って、ハナゲの背から身を離す。身長差もあって、地面に飛び降りる形になる
足がついた瞬間、ぐらりと身体がくらんだ。頭の中が一瞬だけ真っ黒になる。立ち眩みか?
思わずぺたりと手をついてしまった
足がついた瞬間、ぐらりと身体がくらんだ。頭の中が一瞬だけ真っ黒になる。立ち眩みか?
思わずぺたりと手をついてしまった
「姉御、大丈夫すか?」
No.875が覗き込んで来る
顔を上げて、息を飲んだ
No.875の鼻がズタズタに切り裂かれていたからだ
No.875の鼻がズタズタに切り裂かれていたからだ
「お、は、ハナゲ、そ、それ」
「え、……ああ、こんなの慣れっこっすよ。気にするほどでも」
何か答えようと、しかし、開いた口から洩れるのは息だけだ
No.875の状態に、乱堂は言葉を失っていた
No.875の状態に、乱堂は言葉を失っていた
「姉御、それより、レンコを……!」
言われて我に返る
ふらふらと包帯の壁に取り付くように手を掛けた
ふらふらと包帯の壁に取り付くように手を掛けた
「レンコちゃん――レンコちゃん、駄目や。駄目なんや、ソイツと戦ったらあかん!」
「レンコぉ!お前も逃げろぉッ!ソイツがヤバイの、お前も分かるだろぉッ!」
包帯の壁は、しかし、まるでコンクリートの壁のように硬く、押しても微動だにしない
『でも、このままじゃ――駄目だよ!』
『よ そ ミwwwwww ス ルwwwww な 』
「レンコちゃん、逃げなきゃあかんて! 早よ」
『凛々さ、ぅぐッ あッ やッ いぎッ ああッあああああああッ あああ』
『あ゛はwwwww あはあ゛ははwwwwwwww』
「レン、コちゃん、ど、したん……? レンコちゃん!?」
不意に、壁の向こう側から、先程の声色とは違う――レンコの悲鳴が耳朶を打ち続ける
『やっ やだっ やめッ ああ あああ 』
『あ゛はwwwwwwww も ゲ タwwwwww』
「レンコ? おいレンコッ!?」
『わ たしのことは いいか ら はやく にげ て』
何かを必死で抑えようとしているのが声色から嫌でも伝わってくる
「レンコちゃん!? 何やっとるんレンコちゃん!!」
手を押し当てた包帯の壁が、不意に緩んだ気がした
乱堂は分け潜るように、手を包帯へ突っ込み、脇へと押し退ける様に腕を動かした
一瞬前の硬い包帯の壁は、嘘のように隙間が開く
乱堂は分け潜るように、手を包帯へ突っ込み、脇へと押し退ける様に腕を動かした
一瞬前の硬い包帯の壁は、嘘のように隙間が開く
そこから見えた向こう側には、肩を押さえて立っているレンコと、哄笑をあげる魔法少女が居た
噴き出る血液、乱れている包帯
噴き出る血液、乱れている包帯
「レンコ、ちゃ……?」
乱堂は、レンコの傍らに白い物が落ちているのを見止めた
包帯を巻かれた、一方が血の赤に染まった、長いそれ
ようやく知った。レンコが押さえているのは肩ではなかった
包帯を巻かれた、一方が血の赤に染まった、長いそれ
ようやく知った。レンコが押さえているのは肩ではなかった
彼女は「鎌鼬」に片腕を斬り落とされていたのだ