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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ともだち-02

最終更新:

Elfriede

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ともだち 02


 布団の温もりが、冬の兆しが見える朝の冷え込みと手を組んで、二度寝という魅惑の力を得て猛威を奮う、そんな季節

「繰さーん、朝ですよー。朝ご飯できてますよー」

 心地良いまどろみから意識を引き摺り出そうとする暢気な声に、いつものように朝が来たのだと認識する
 温かい布団から出てベッドから降り、冷たいフローリングの床をぺたぺたと踏みしめながらリビングへと向かう
 そこではぱたぱたとキッチンとリビングを往復し、狐色のトーストとサラダに牛乳の注がれたグラスを並べているサキュバスの少女の姿

「……おはよ」
「おはようございます、繰さん。そろそろ早起きしないと、朝の支度が大変ですよー」

 朝食が並べられた座卓の前のクッションにぽすんと座り、猫のように背中を丸めて欠伸をする繰

「のんびりしてると、また遅刻ですよー」
「出席日数足りてるからいいのよ、そんなの……留年とか退学とかしたところで、世間体なんてどうでもいいし」
「ディランさんの世間体も悪くなりますよ?」
「……ぅぐ」

 茶化すでもなく、至極真面目な顔で
 冷蔵庫から取り出したマーガリンとジャムをテーブルに置いて、繰の真後ろで膝立ちになる

「先に髪、ブラシかけちゃいますね」
「いいわよ、面倒臭い……どうせ能力使ったらくしゃくしゃになるんだし」
「日常的にばんばん使うわけじゃないでしょう? ねー、菊花ちゃん」

 ベランダの前で雀を眺めていた菊花が、サキュバスの声で振り向いて、同意するようにこくこくと頷いた

「ディランさんは見た目とか気にしないとは思いますけど、それはそれとしてきちんと整えてた方が見てて嬉しいと思いますよー?」
「そういう言い方だと、あいつに見せるために整えてるみたいじゃない」
「そんな調子だと、本当に目標達成できませんよ?」

 目標という言葉に、繰の身体がびくりと震える

「ね、ねえ……やっぱりそれ、無しにしない?」
「ダメです。一度決めたんですから。卒業までに、ディランさんにちゃんと好きって言う事」
「わ、私の気の迷いとか! 先生の勘違いとかだったらどうするのよ!?」
「この問答、何度目ですか」

 繰のくせのある髪にブラシをかけながら、サキュバスはふうと溜息を吐く

「繰さんは、ディランさんの事、好きですよね?」
「……う……うん」
「じゃあ告白して、お付き合いして、結婚して、一生添い遂げても何の問題も無いですよ? というか契約もしてるんだし婚約してるようなものじゃないですか」
「け、契約は、その、戦う上で必要だったし!」
「じゃあ今は必要ないからって、契約解除できます?」
「………………やだ」

 髪にブラシで梳かれながら、赤くなった顔を俯き加減で隠す繰

「戦いの場の勢いとかを抜きにして、改めてきちんと気持ちを伝えましょう? 大丈夫、ディランさんは繰さんを待ってくれていますから。あとはほんの一歩を踏み出す勇気だけ」
「……あなたの顔と声で諭されると、ホントやるしかないって気にさせられるわ」
「うーん、そんなに似てます? 会う機会が無いのが残念ですね、佳奈美さんと」
「並んだら違って見えるかもしれないけどね。冬休み辺り、誘ってどっか遊びに行く?」
「遊びに行く服とか無いんですけど……佳奈美さんの貸してもらえたりしますかね」
「私の服だと、部屋着にはできても外はね……でも、佳奈美の服は絶対無理」
「似てるんじゃないんですか? もしかして結構長身だったり?」
「身長も似たようなものよ。ただ胸のサイズが圧倒的に違うだけ」
「ありゃ」
「いいわよ、今度買ってくるわ。とりあえず一着あれば、それを着て別の買いにも行けるでしょ」
「いいんですか? 結構倹約してるのに」
「お金貯めてたのは、単に私の気持ちの整理のためだっただけだし。どうせ今までの生活費を突き返したところで、あいつら二人ともノーリアクションだって考えたら、少しは有意義に使った方がマシじゃない」
「有意義かなぁ、あたしの服」
「友達が増えるなら、充分有意義じゃない?」
「友達って言われると、ご厄介になってる身が辛いなぁ。繰さんがディランさんと上手くいったら、あたしも独立して働こう」

 んふーと鼻息を荒くして、整えた繰の髪をそっと撫でるサキュバス

「それじゃ、ささっとご飯食べちゃって下さいね。制服とか用意しておきますから」
「あなたも先に食べちゃいなさいよ。トースト冷めるわよ」
「繰さんが遅刻しないのが優先でーす」

 ぱたぱたとクローゼットへ向かっていくサキュバスに、繰はどこかくすぐったそうな笑顔を向ける
 繰が普通の家庭で普通の幼少期を過ごしていたのなら、まるで母親みたいだという感想を抱いていたのかもしれない

「んー、なんですか繰さーん?」
「ん、何でもない」

 理解できないながらも、心地の良い関係
 ずっと続けばいいのに
 繰は内心でそう思いながら、さくりとトーストにかじりついていた

―――

 かちかちとキーボードを叩く音と、つけっぱなしのテレビの音
 ペットボトルのジュースをかぷかぷと飲みながら、ぼんやりとソファに座っていた『友達』と、パソコンに向かって原稿作業中の葉鳥

「ところでさ」
「何?」
「何であの二人? 君が直接殺った方が早いでしょ」
「どうせどっちも殺るなら、潰し合わせて残った方だけのが楽でしょ?」
「横着すると、あんまり良い事無いよ」
「そうは言っても、あの二人も僕の能力の延長線上だし。実はそんなに横着でもないんだけどね」
「見えてないところでドミノが止まったら、対処が遅れるって事さ」

 そう言うと葉鳥は、両腕を上げてぐいと身体を伸ばし、椅子から立ち上がる

「原稿できたの?」
「いや、休憩」

 冷蔵庫をごそごそと漁り、緑茶のペットボトルを取り出してぱきぱきと封を切る

「テレビ、何か面白いのやってる?」
「最近はホラーものって本当に少ないよね。ネタが増えなくて困るんだけど」
「心霊スポットを紹介すれば地元に迷惑、心霊写真はパソコンで作り放題、学校の怪談を語る暇の無い学歴社会と就職氷河期。余裕が無い社会って嫌だよね」

 ぼすりと『友達』の隣に腰を下ろし、その口にしていたジュースのペットボトルに視線を落とす葉鳥

「あー、それ最後の一本だったやつ」
「飲んじゃダメならちゃんと書いておいてよ」
「いや、飲んでもいいんだけど。一口頂戴」
「えー」
「元々僕の家の飲み物なんだし。僕の唯一の友達なんだから、けち臭い事を言わないでよ」

 唯一の友達
 その認識が、葉鳥が『友達』を無自覚に繋ぎ留めている
 本来は複数の友達という認識の隙間に紛れ込んでいる、形の無い『誰か』という存在である『友達』だが
 世界の全ての存在をドミノ牌程度にしか認識していない葉鳥が、『友達』本人を唯一の友達として認識する事で、葉鳥に認識されている状態では『ただ一人の葉鳥の友達』という個として存在が固定されているのだ

「男同士で回し飲みが嫌だっていうのなら、女友達ってのも悪くないと思うんだけどな。気兼ねない付き合いのできる女の子って良くない?」
「君がそういう認識をすると、僕は君の前では女の子として存在が固定されちゃうんだけど」
「うん、だからわざと言った」
「君は本当にフリーダムだね」
「本当にフリーダムだったら、セフレもありかなとか言っちゃうけど」
「頼むからやめてね」
「うん、君が困るほどの事は言わないよ、『友達』だから。それでもまあ、たまにはちょっとからかいたくなるさ」

 結局、掠め取ったジュースのペットボトルに口をつける葉鳥
 やれやれといった調子で、葉鳥が開けたばかりの緑茶に口をつける『友達』

「あ、それ僕の」
「けち臭い事を言うなって言ったのは君じゃないか」
「原稿頑張ってるんだし、休憩中ぐらい好き放題させてよ」
「甘えるなら新しい編集の子にしなよ。担当が次々事故死する作家なんてのに自ら志願してくるような物好き、君は好きでしょ」
「確かに若くて元気で可愛い子だけど。あんまり距離を縮めると、すぐドミノに巻き込んじゃうからなぁ」
「気遣うって事は結構気に入ってる?」
「うん。殺るなら思い切り手の込んだ仕掛けでやりたいぐらい」
「やっぱり葉鳥は葉鳥だね」
「そりゃあ僕だからね。何も変わらない僕だよ」

 そう言って葉鳥は、にっこりと微笑んだ

―――

 繰は勉強が嫌いだ
 元々、さほど考えるのが得意な頭ではない上に、幼少期に一生懸命勉強をして何も報われなかったという体験が拍車を掛けていた
 事情を知っている佳奈美は無理強いする事は無かったが、遠慮がちに心配はしてくれていた
 佳奈美もさほど成績は良いわけではない、むしろ悪い方ではあったが、試験前などは一緒に勉強する事で追試こそ度々受けていたものの留年だけは回避する事ができていた

「最近は繰の方が成績良いよねー」

 ホームルームも終わった放課後の事
 テストの答案用紙を睨みながら、佳奈美がうーと唸る

「佳奈美だって悪くはないじゃない。問題なく卒業はできそうなんでしょ?」
「卒業だけだもん。進学とか就職とか、そういうのを考えるとさー」
「あんた卒業したらあいつと結婚するんじゃないの?」
「宏也さんの都合もあるし、すぐってわけじゃないと思うんだけどねー。式とかするならおとーさんとおかーさんにも相談しないとだし」

 ぽてんと机に突っ伏して、むーと唸る佳奈美

「そういう繰は卒業したらどうするの?」
「私は今まで通り、『組織』の仕事続けるつもりだけど」
「いや進路じゃなくて」

 突っ伏した姿勢で、見上げるように繰を見詰める佳奈美

「先生の方は?」

 その言葉に繰は、誤魔化すように苦笑いを浮かべて窓の外に視線を向けてしまい

「……あー、私、用事思い出したから」

 早々に鞄を引っ掴んで教室を飛び出していく繰に、佳奈美は軽く溜息を吐く

「素直になるにはもうちょっと掛かるかなぁ」

―――

 一見、色恋沙汰の話題から逃げたかのように見えた繰だが
 逸らした目線の先、窓の外に見えたものに気付いたから

「もしもし、黒服? 野良っぽい『八尺様』が教室の窓から見えたわ。契約者がいる様子は無いけど」
《中央高校周辺は、生徒や教師以外の契約者は居ないはずですね。野良か新規契約かはわかりませんが、対処しておいた方が良さそうです》
「ぶちのめす?」
《宮定さんは直接攻撃タイプなので避けた方がいいです。狙撃型の能力を持った契約者を回してもらいますので、監視に留めて下さい》
「何よ、面倒ね……髪の毛でもダメなの?」
《触れるだけで対象の生命活動を停止させる事例もあります。髪の毛でも直接触れるのは避けた方が懸命ですよ》
「そういう危ないものを放っておくわけにもいかないでしょ。直接触らなきゃいいのよね?」

『八尺様』の居た場所まで全力で駆けていく最中、道中の路地にあるものを確認していく
 道路標識
 マンホールの蓋
 駐車違反の自動車
 とりあえず武器や盾になりそうなものはそこいら中にある

「一般人が目をつけられないように引きつけておくから、そっちはそっちで手配急いで」
《了解しました、とにかく無茶はしないようにお願いしますね。何かあった時に怒られるの嫌ですから》
「誰に怒られるのよ、戦闘職が無茶して何かあったぐらいで」
《いやまあ色々と多方面からですね》

 そんな会話をしている繰の視線の先に、ふらりと現れる少女の姿
 おぼつかない足取りで、ふらり、ふらりと彷徨うように歩く様と
 何よりその見覚えのある顔に、繰の思考と呼吸が一瞬止まる

《どうしました、宮定さん?》
「……一旦切るわよ」
《いや状況の説明ぐらいは》

 説明を求めるA-No.18782の言葉を無視して、一方的に携帯電話の通話を切る
 そして目の前に現れた少女に、繰は叫ぶように声を上げた

「弥依! あんたなんでこんな所に居るのよ!?」

 その呼び掛けに、玖柳弥依はかくんと首を傾けて、くるりと繰の方を向く

「あれ、何で繰がこんな所に居るの?」
「それは今、私が言った台詞でしょうが! あんたずっと前から入院してるはずでしょ!? 退院したなんて聞いてないわよ!」
「こっちから会いに行くつもりだったんだけど、学校には入れないからさ。下校の頃合まで待ってたんだけど。そっちから見つけて来てくれたんだ」

 会話の噛み合わなさに、何か居心地の悪い不安感を拭い去れないながらも、繰は弥依の肩を掴みながら周囲を見回す

「説明は後。ここは危ないから一旦離れるわよ」
「えー、別に危なくないよ?」

 かくん、と
 弥依の首が反対側に傾く
 その頭で隠されていた、弥依のすぐ背後に
 赤い帽子を目深に被った女の顔があった

「っ!?」

 身を屈め繰の顔を下から覗き込むそれは、間違いなく学校の窓から見えた『八尺様』
 すぐさま弥依を抱き寄せて、髪の毛を伸ばして手近な電柱に絡みつかせ、ぐんと手繰るように『八尺様』との間合いを取る

「何してるの、繰?」
「何って、この状況で何を」
「折角、映も来たのに」
「……え?」

 身を屈めていた『八尺様』が、すうと背筋を伸ばし
 その胸に抱かれるように立つ真田映の姿が、繰の目に飛び込んで来る

「……映は、死んだはずよ」

 繰は、映の死を知っている
 葬式にこそ立ち会ってはいないが、映の死後にその両親へは挨拶をしているし、何度か仏壇にも手を合わせている

「死んだよ」

 弥依が、くすりと笑い
 またかくんを首を反対側に傾ける

「でも、そこに居る」

 くすり、くすりと
 弥依の笑い声が揺れる

「映がどうして死んだのか、繰は知っている?」

 繰は思い出す
 自分を助けてくれた、最初の担当となった女黒服の言葉を
 彼女は言っていた
 映が都市伝説と関り死んだ事を
 弥依が都市伝説と関り狂った事を
 それを聞いていたからこそ、菊花と出会い都市伝説と契約した力を得た時に、人に害を為す都市伝説と戦おうと決めたのだから

「都市伝説は、知られているから存在するよね?」

 かくん、と
 弥依の首が揺れる

「その都市伝説と関って死んだと語り広められれば、映もそこに存在するの」

 かくん、かくん、と
 弥依の首が揺れる

「それは勿論、私も同じ」

 がくん、がくん、と
 弥依の首が揺れる

「でもね、足りないの。あたし達は友達だったじゃない」

 がくがくがくがく、と
 弥依の首が揺れる

「だから、ね? 一緒に、都市伝説に、溺れよう?」

 首だけではない
 弥依の体ががくがくと揺れる
 その揺れは徐々に激しさを増し
 まるで骨など無いかのように、くねくね、くねくねと激しく躍る

「ぎっ!? い、あがっ!」

 間近で蠢くかつての友の姿が、繰の両の瞳から視神経を伝わり、直接脳髄を揺さ振るように狂気を染み込ませていく
 頭を押さえ震えながらも、弥依から視線を外せない繰の肩に、ぺたりと『八尺様』の手が触れる
 その手がまるで自分の手であるかのように、映が薄ら笑いを浮かべながら

「あたし達、友達だよね」

 ずくん、と
 命そのものを吸い上げられているような、そんな感触が身体の内側を駆け巡る
 膝から力が抜けてまともに立っていられなくなり、伸ばした髪の毛もするりと解けて元の長さへと収まっていく

「殺しちゃダメだよ、映。『八尺様』で死ぬのは繰のお話じゃないから」

 アスファルトの上に倒れ込む繰の耳元に、くねくねとした動きを止めた弥依の口がゆっくりと近付いていき

「ねえ、知ってる? いや……覚えてる? 『人が消えるブティック』っていう都市伝説」

 その言葉に、繰の全身を悪寒が駆け巡る
 かつて体験した恐怖に
 二度も体験した恐怖に
 自分だけでは何もできなかった、圧倒的な恐怖に
 そしてその恐怖が具現化するように
 軽快な音を立てて、しゃあっと虚空から現れたカーテンが繰の身体を覆うように包み込んでいく
 取り落とした鞄の中から這い出てきた菊花が慌てて駆け寄るが、現れた時と同じように音を立てて虚空へとカーテンが消え、そこには繰の姿は残されていない

「『人が消えるブティック』の結末ってどんなのだっけ?」

 弥依が首をかくんと傾げて、くすくすと笑う

「どこかへ消えちゃって見付からないんだっけ? 売春宿に売られちゃうんだっけ? 内蔵を抜かれて売られちゃうんだっけ? 腕と足を切断されて見世物にされるんだっけ? ばらばらにされて食べられちゃうんだっけ?」

 何処ともいえない虚空に向かって
 誰ともいえない虚空に向かって

「ねえ、あなたはどれがいいと思う? 繰にぴったりの最期は、どれだと思う?」

 弥依は笑いながら問い掛けた


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