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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ともだち-03

最終更新:

Elfriede

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ともだち 03


「さてまずは手を落とすか足を落とすか」
「喉を焼くのが先ではないのか」
「瞼を縫い合わせるのはどうだ」
「縫い合わせるなら孕ませてから膣をではないのか」
「それは仕込みに時間が掛かる、やるにしても後だろう」
「そもそも売るのか、見世物にするのか、客を取らせるのかを先に決めなければいかんだろうに」

 剥き出しになったコンクリートの上に、ぐったりと転がった繰を囲み
 男とも女ともつかない人型の群れが、あれやこれやと意見を交わす

「内臓を摘出して売るという意見は無いのか?」
「あいつは今、現実に食われ気味で力が弱くて駄目だ」
「『本当にある』と、それは『都市伝説』ではなくただの『事件』だからな」
「それはともかくとして、だ。やはり基本は手足の切断だろう」
「やはりそうだな。追加要素は後々で加えれば良い」

 ずるり、と
 虚空から引き抜かれる、包丁、斧、鉈、鋸

「まずは足だな」
「逃げられないようにしなくてはな」
「三年前のように、邪魔が現れたりはしないだろうな」
「今はまだその気配は無い」
「『くねくね』と『八尺様』が足止めをしてくれるそうだ」
「そうだとしても早めに済ませた方が良さそうだな」

 そう言って足元に転がる繰に視線を落とした人影の顔面に、一抱えほどもある大きさの拳がめり込んだ
 腰を屈めてくの字になった身体が、一気に反対向きに折れ曲がって宙を舞い、コンクリートの床にぐちゃりと叩き付けられた

「……黙って聞いてりゃ、好き放題言って、くれるわね」

 震える身体で、辛うじて寝返りを打つように身を捩り、手術台のような何かを背にして身を起こす繰
 その身に受けた『八尺様』の呪詛はそのままに
 その心に刻まれた恐怖という傷もそのままに

「いつまでも……黙って、大人しく震えてるだけと、思うんじゃないわ、よ」

 きり、と唇を噛み
 鋭い視線で自分を取り囲む集団を睨みつける

「虚勢だな」
「言葉とは裏腹に、震えは止まってはいないぞ」
「『八尺様』の呪詛もその身を蝕んだままのようではないか」

 様々な刃物を手にして繰を取り囲んだ集団は
 じり、じりとその包囲の輪を縮めていった

―――

 繰を攫ったカーテンがふわりと虚空に消えて、周囲をきょろきょろと見回している菊花を尻目に、弥依はくすくすと笑う

「あとはこの子を始末しとけば、『客が消えるブティック』に任せておけるわね」

『八尺様』を背負った映が、ぬらりと視線を中央高校の方へと向けると、弥依は思い出したように苦々しく顔を歪めた

「そうね。これを片付けたら、逢瀬の奴も……殺しちゃおうか」

 弥依の手が、小さな菊花の背中に伸ばされる
 その手が菊花の着物の襟を掴もうとした、その時
 横から飛び込んできた影が、弥依の手をすり抜けて菊花だけを奪い去る

「……っ! 映!」

 駆け抜けようとした影の行く手を塞ぐように、滑るような動きで行く手に立ちはだかる映と『八尺様』
 菊花の着物の襟を咥えたまま、『八尺様』を警戒し足を止める猫、ダミア
 襟を引っ張られた勢いで着物がずれ、膝上近くまで上がった裾を直そうとわたわたしている菊花を他所に、ダミアはすうっと目を細めてふんと鼻で笑う
 随分と大柄で丸いダミアではあるが、それでも人間の姿形をしたものから見ればかなり小さい
 それを捕えようと身を屈めていては、素早い動きなど出来るはずもない
 首をひょいと巡らせて菊花を背中に放り上げると、身の丈が大きな『八尺様』の足元を容易にすり抜けて、あっさりとその背後に回り込んでしまった
 そのままとっととその場を離れようとするダミアの頭を、背中にしがみついてぺしぺしと叩く菊花
 声を出す事のできない菊花だが、契約者との意思の疎通は可能な他、察しの良い人や動物などは彼女の言いたい事がなんとなく伝わる事もある
 ダミアは面倒臭そうに踵を返すと、着物を正した菊花を背に乗せて
 映と『八尺様』、弥依と『くねくね』と向かい合う

「逃げないの? こっちにとっては好都合だけど」

 弥依に貼り付いていた紐のような手足を解き、ぬるりと地面に這わせる『くねくね』が
 捻れ、うねり、のたうつように地面を叩き、跳ねるように菊花とダミアに躍り掛かった

―――

 呼吸は荒くなるどころか、既にひゅうひゅうとか細くなる一方
 制服は既に肩から先はぼろぼろに切り裂かれ、スカートも原型を留めていない
 肩口から二の腕、太股から膝にかけては様々な刃により傷だらけになっており、流れ出る血によって赤い手袋とタイツでも着けているかのような有様だった
 だがその周囲には、叩き潰され、捻り潰され、引き千切られた『客が消えるブティック』の人影達が無数に転がっている

「あと、は……あんた、だけ、だ」

 意識を失いそうになり落ちかける瞼を引き上げる事もできず、首を上向きに曲げ見下すような視線を向ける事で、ようやく霞む視界を確保する

「『八尺様』に命を握られ、『くねくね』に狂わされ、我々『客が消えるブティック』の恐怖を刻み付けられ……何故、戦える」

 手に鉈を持った『客が消えるブティック』の一人が、仲間の骸を前に震える声でそう尋ねる

「菊花、が、戦える力を……貸してくれて、いるから」

 背にした壁から上体を引き剥がし、倒れ込むようによたよたと前へと歩き出す

「先生が、私の、居たい場所に、なってくれて、いるから」

 ただ倒れないようにするためだけに前に出る足が、敵を目の前にして一歩だけ強く床を踏み締めて

「こんな私を、友達だと言ってくれる、佳奈美が……いる、から!」

 待ち構えていたかのように振り下ろされた鉈が、繰の左腕に食い込む
 肉を裂き骨を砕く嫌な音が響くが、それが腕を落とすよりも速く、繰の髪の毛の拳が『客が消えるブティック』の顔面にめり込んだ
 鉈を手放し、コンクリートの床を跳ね転がる『客が消えるブティック』が、闇の中に隠れるようにひっそりと立っていた鏡張りのドアに激突し、それを粉々に粉砕しながら向こう側へと飛び出していった
 その勢いはドアを粉砕した程度では収まらず、その外に張り巡らされていた厚手のカーテンを引き裂いていく

「さて、と……映と、弥依は、どうしたもんかな」

 髪を伸ばして身体を支えようにも、気力も体力もほぼ尽きている
 先程までの戦いのように、一瞬だけ拳を作りぶん殴る程度の余力すら、繰の身体には残されていないのだが

「……友達、ほっとくわけにも……いかないし、ね」

 自分から流れ出た血でぐずぐずになった靴底の感触に眉を顰めながら
 粉砕され外へと繋がったドアがあった場所へと、一歩ずつゆっくりと前に進んでいった

―――

《時間を稼いで》

 そう頼んできた菊花のやろうとしている事を、ダミアは察していた
 菊花が倒されてしまえば、繰は都市伝説への対抗手段を失ってしまう
 身体や精神の強化に関してはディランとの契約があるために問題無いが、その契約は戦闘能力を共有するタイプのものではない
 死ににくいだけ余計に簡単に、手早く達磨が一つ出来上がるだけという結果に繋がりかねない
 そう考えれば早急にこの場を離れ、繰の奮闘か援軍の到着に期待するべきなのだが、菊花はそれをしようとはしない
 目の前の二人の少女に対して何か行動を起こそうとはしているのだが、菊花はただ機会を待っている

「このっ、ちょこまかと!」

 ありえない曲がり方で伸びてくる『くねくね』の腕を掻い潜り、立ち塞がろうとした映の股の下を駆け抜けて
 つかず離れず駆け回り、時折欠伸などをするダミアの様子に、弥依は完全に頭に血が昇っているようだ

「映、そっち行ったわよ!」

 すぅっと気配を感じさせない動きで、映がダミアの前に立ち塞がる
 余裕でその脇を駆け抜けようとした時、違和感に気付いたダミアが足を止め
 その背後から、映の身体から離れていた『八尺様』の手が菊花に触れようとしたその瞬間
 ガラスが粉砕される音と共に、カーテンの布地に絡まって吹っ飛んできた『客が消えるブティック』が、『八尺様』の横っ面に直撃する
 扉があったかのように切り取られた空間から、よろよろと繰が姿を表すのを確認して、菊花はきゅっと唇を結ぶ

「……ダミア、菊花の面倒見ててくれたんだ……ありがと」

 笑顔を作ろうとしたのだろうか、少しだけ唇の端を震わせる
 そんな繰を見て、弥依が露骨に顔を歪める

「繰……友達なのに。何で、死んでくれないの?」
「友達だから、に、決まってるでしょ」

 声になっているかも怪しい、掠れた吐息

「あんた達に……引っ付いてる、それ……も……そこに転がってる、ボロ布みたいに、引っぺがしてやるから」

 カーテンの布地に包まれて、しゅうしゅうと音を立てて消えていく『客が消えるブティック』
 それにぶつかられた『八尺様』が、取り憑いた映の元に戻り、先程繰に触れた手をきゅっと握る

「う、ぶっ!?」

 はらわたを握り潰されたかのような感覚と共に、喉からこみ上げてきた血を吐き、がくりと倒れ込む繰

「『客が消えるブティック』に呑まれて欲しかったから加減させてたけど。繰の命は『八尺様』の手のひらの上よ?」
「はっ……すぐ…… ぶっ、飛ばし、て……やる」

 地面に手をついて、なんとか立ち上がろうとする繰
 その手にそっと触れる、小さな手

「……菊花?」

 なんとか顔を上げ、そう問い掛けた繰に
 菊花は笑顔を浮かべて
 小さく手を振って、何かを呟くように唇を動かした

「菊、花……!」

 ふつり、と
 結び目が綻び解けるように、胸の内にあった菊花との繋がりが失われ
 繰の意識は、そこで途絶えた

―――

 こつり、こつり、と
 菊花の小さな身体が、前に歩み出る
 死人に憑いた『八尺様』と
 狂人に憑いた『くねくね』に
 その小さな手をそっと伸ばす

「何……どういう、つもり?」

 菊花の意図を掴めず狼狽する弥依の背後から
『くねくね』の手が菊花に伸ばされる
 死して意図など抱けずに立ち尽くす映の背後から
『八尺様』の手が菊花に伸ばされる

「何を! 何をしたの!?」

 人形とは、人の形をしたもの
 人形とは、人の代わりをするもの
 人の身に降りかかる厄をその身に受けて、その厄と共に浄化されるもの

《いままで、ありがとう》

 二人に憑いた二つのものを肩代わりして、菊花は静かに微笑む
 意識を失ったままの繰に少し不安げな顔を浮かべるも、ダミアが喉を鳴らしてディランが駆けつけてきている事を告げる

《くくるのこと、よろしくね》

 ダミアは欠伸をしながら、ぷいとそっぽを向く
 繰の事はディランに言え、そんな様子で
 菊花はくすりと笑い、『八尺様』に抱き上げられて『くねくね』と手を繋ぎ
 そして、何が起きているか判らないといった様子で立ち尽くしている映の元へと向かう

《かなみはね、げんきだよ》

 菊花はそう言って、背の高い『八尺様』に掲げられ、映の頭をそっと撫でる

《かなみはね、くくるをゆるしてくれたみたいに、あなたのこともゆるしてくれてるよ》

 菊花の手を通して、佳奈美と繰の気持ちが映に伝えられ

「弥依」

 この世に引き戻された映が、初めて口を開く

「心配かけて、ごめんね……ありがとう」
「……映」

『くねくね』から解放された弥依にそう告げて

「繰と、逢瀬にもそう伝えてくれるかな」

 空いた菊花の手と握り、穏やかな笑顔で
 菊花と、『八尺様』と、『くねくね』と共に
 その姿はふつりと虚空に消えていった

―――

「あ」

 いつものようにソファに転がっていた『友達』が、何かを察知したようにぴくんと身動ぎする

「どしたの?」
「なんか失敗したっぽい」
「ほら、だから言ったじゃない。横着してると駄目だって」
「葉鳥のターゲットがおかしいんだって、きっと」

 ぶつぶつと呟きながら、『友達』はソファから身を起こす

「ちょっと様子見てくるね」
「ん、気をつけてね」
「まあ僕が気をつけるようなものなんて、そうそう無いけどね」

 葉鳥の認識内、主に視界の中では『ただ一人の友達』であるため、『何処にでも居て何処にも居ない』という能力は使えない
 面倒臭そうに玄関から出て行く『友達』に、葉鳥はいつもの調子で声を掛ける

「あ、帰りに何か飲み物買ってきて。炭酸じゃないやつ」
「はいはい。僕のも何か買ってきていい?」
「合計1000円ぐらいまでで」
「了解」

 ただ近所のコンビニに買い物にでも行くような調子で、鼻歌混じりで部屋を出る『友達』
 マンションを出た辺りで、周囲の都市伝説の気配を探ろうとした、その時

「よう、久し振りだな」
「え?」

 その声には聞き覚えがある
 かつて自分を探っていた黒服の女を始末しようとした時に、割り込んできて邪魔をした黒服の男、広瀬宏也
『友達』の思考が、止まる
 この男は『友達などいない』と公言しており、彼の前では自分は存在しないはず
 意図的に近付いてこなければ出会う事は無く、認識する範囲に入った瞬間に自分はどこか別の場所に移動しているはずなのに

「やあ、友達ができたのかい?」
「まさか。お前こそ、友達が居ない奴のところにも現れるようになったのか?」

 目の前の男が、葉鳥と同じように自分を『ただ一人の友達』として認識している様子も無い
 そして『友達』は、一つの可能性に思い至り
 はっとしたように頭上を見上げた
 そこには、ベランダから身を乗り出して自分を見下ろしている葉鳥の姿

「出会う事は無いと思ってはいたがね、出会えるなら話は別だ。お前さんの被害者は相当な数が居るし、まあ黒服としての仕事をさせてもらおう」
「ちょ、待っ、て」

 その言葉は目の前の黒服に向けられたものではない
 その声が届くはずもない、遥か頭上から見下ろしている葉鳥に向けられたもの
 葉鳥に認識されている限り、葉鳥の『ただ一人の友達』として存在は固定されてしまっているのだから

「待てって言われても、俺も割とスケジュールが押してるんでな。ヤバい奴を見逃してる余裕なんざ、これっぽっちも無いんだよ」

 あっさりと
 とてもあっさりと
 この町に居座る最強にして最悪の化物は、ばらばらの細切れにされて消滅した

「随分あっさり倒せたな。俺の事を知ってたようだし、あの時の奴と別って事は無さそうだが」

 あまりの手応えの無さに首を捻りながらその場を後にする宏也に、気付かれる事なく
『友達』が消え果た場所へ、ベランダから軽く手を振っている葉鳥

「まあね、ダメだったらこういう風になるように、仕込んではいた訳だけど」

 葉鳥にとって、『友達』は間違いなく親友と言っていい存在だった
 ただそれは、どうでもいい他人というドミノ牌と、大事な親友というドミノ牌というだけの、絶対的にして無意味な違いだけ
 葉鳥にとって他人は等しく価値が無いという認識なのではなく、価値は様々にあった上で等しくドミノ牌であるという認識なのだ

「君と過ごした日々も、君を巻き込んだドミノ倒しも楽しかったよ。じゃあね、僕の『ただ一人の友達』」

 そう言って葉鳥は、冬の寒空に身を震わせて、温かい部屋の中へといそいそと戻っていき

「あ、買い物どうしよう。自分で行かなきゃいけないや」

 何事も無かったかのように、日常生活へと戻っていったのだった


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