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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 鴉―KARAS― -02

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鴉―KARAS― 第二話「契約の代償」】

 出前から戻るともう店じまいで、九郎は出前から戻るのが遅れたことを店主に謝るとすぐに服を着替えて外で待っているトトの所に向かった。

「お待たせ」

「構わないよ、これくらい」

 そして彼はトトを連れて自分の住むマンションに向かう。

「ここが俺の家、一人で住んでいるから遠慮は要らないよ」

「あの……ご両親は?」

「親父はさっきの店で一人暮らし
 お袋はだいぶ前に病気でね」

「……すいません」

「良いの良いの、気にしてないから
 俺の部屋は一階だからすぐに着くよ」

 マンションに入って通路を真っ直ぐ。
 一階の最奥にあるのが彼の部屋だ。

「親父によればここでは昔からのルールで戦闘行為が許されてないらしいからまあ隠れている分には安全だと思う
 事情はよく分からないけどまあしばらくはここでのんびりしていきなよ
 ああそうだそうだ、ラーメン作ってあげないとね」

 そう言って九郎は台所に引きこもる。
 野菜を刻む音、香ばしいごま油の香り、野菜を炒める音、豚骨と鶏がらのスープの香り、肉を切る音、香辛料の香り。
 唐辛子の赤、チャーシューの茶色、スープの白色、麺の黄色。
 しばらくすると彼はラーメンを二人分運んできた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 会話も無しにひたすら食べ続ける。
 ニュースはここのところ連続している児童誘拐事件で持ちきりだった。
 食べ終わったのは殆んど同時だった。

「さてと」

「はい」

「どちら様ですか」

 トトは少し悩んだ後

「…………神様です」

 素直に答えることにした。
 ラーメンを食べさせてもらっておいて嘘を吐くのも気が引けたのだろう。

「ん?」

「えっと、あなた達の表現では都市伝説といえば良いのでしょうか」

「ああー、都市伝説ね、都市伝説。その中でも特に強力なものは昔は神だのなんだの呼ばれてたって話ですよね」

「……ずいぶん平然としてますね」

「うん、親父が情報屋だったからね」

「情報屋?」

「うん、世間一般の裏事情とかそういうのを調べては売るお仕事
 元々父さんの方の爺ちゃんが戦後に始めた商売だったんだけど何故か大当たりしちゃったらしくって
 お父さんも後を継いで働いていたんだけど母さんに出会ってからは引退したんだとさ
 今のラーメン屋は元々母さんのお父さんの店で、お父さんは母さんも、母さんの方の爺ちゃんが死んでからも一人で店を続けてるんだ」

「へぇ……」

「“組織”に追われてたってことはあんたは悪い神様?」

「ち、違います!」

「だろうね。“組織”は確かに一般市民を守ることが多いがそればかりじゃないらしいし」

「私は実験台として追われていて……」

「ふうん、まあ神様さえ恐れない奴らばっかりだし不自然ではないか」

「あの……九郎君はどうしてそんなに詳しいんですか?」

「ネットで調べたり、噂で耳にしたり」

「へえ……」

「世界は情報で満ちている、それを聞くか聞かないかは自分次第」

「情報屋さんになる気なんですか?」

「爺ちゃんの孫で、父さんの息子だからな、二人の心意気くらいは大事にしたい
 “何も知らずに何もできない”ってのは嫌だからな
 それが俺の心意気」

 九郎はため息を吐く。
 ニュースを眺めていた。

「ところでトトちゃん」

「なんでしょう」

「俺の記憶が正しければ……“組織”の黒服に俺は撃たれた気がするんだけどさ
 なんで俺は生きているの?」

「…………それは、その」

「トト、というからにはあれか
 確か古代エジプトの魔術を操る神様だった筈だ
 俺が死んだのを無理矢理蘇生させたってところか」

 事実はもっとひどい。
 彼女は“組織”の追撃によって魔力を大幅に消耗していた。
 そんな状態で彼女は九郎に自分の眷属である“八咫烏”の契約書を埋め込んだ。
 無論、名前と姿が同じというだけで本物には及ばぬ力しか持ってないのだがそれでもその能力は本来死体である彼を擬似的に蘇生させる程度の力は有ったのだ。
 今のところは八咫烏の契約も九郎の自前の心の力で機能しているが、この八咫烏との契約はトトを介して行われたもので九郎の心の器を本来以上に圧迫している。
 このままでは九郎の精神や肉体を何時崩壊させるか分からないのだ。

「……はい、大体そういう感じです。状況が状況だったので勝手に契約させていただきました」

「先に飯食っておいて良かったぜ。腹いっぱいじゃ怒ったり泣いたりもできないし
 かなり追い詰められた状況だからその術で生き返らされてこうして意識と記憶と身体がしっかりしているだけでもラッキーだ」

「……ごめんなさい」

「構わないよ、元々父さんには“組織に関わるな”と釘を刺されてたのに俺がでしゃばったんだ
 男が目の前で追われている女の子を助けられないなら死んだのと一緒だよ
 それが俺の心意気」

「はぁ……」

「だからあれだ、気にするな。俺が悪いんだ」

 そう言って九郎は立ち上がってベランダに出る。
 何も言わずに星を眺めてる。

「馬鹿だなあ、俺」

 そう言ってから頬をパチンと張る九郎。

「さて、寝るか」

「あ、あの九郎さん!今の状態だと無理矢理な契約だったので……」

「明日で頼む!俺は寝るぜ!」

 押し入れから布団を出してトトに投げつける九郎。

「自分で引いて寝てね!毎朝六時起きだからうるさくても文句言うなよ!」

「きゃいん!」

 布団を頭から被って悲鳴をあげるトト。
 しかし構わずに自分だけさっさと布団を敷いて九郎は電気を消す。

「……寝ちゃった」

 寝息を立てて眠る九郎。
 トトはため息を吐く。

「契約の回路をしっかりつないでおかないと何時暴走するか分からないんだけどなあ……」

 揺すっても起きない。
 呼んでも起きない。
 彼女はまだ解っていない。
 彼なりの流儀としてトトの前では九郎はできるだけ平気そうに振舞っているが、自分が一度死んだと聞いて落ち着いていられるわけがないのだ。
 たとえ己が愚かであったと解っていても、それでもなお突如として命を奪われた理不尽に怯えているのだ。

「……仕方ないか」

 トトは静かに呟いて布団を敷く。
 宵闇の中でも人外である彼女の視力は衰えない。
 九郎から流れこんでくる心の力のおかげで回復した魔力で彼女はマンションの一角を防御用の要塞に改造することにした。
 神霊クラスの都市伝説であるトトは最低限の心の力さえあれば大規模な魔術的改装を一瞬で行える。
 作業自体はほぼ一瞬で済み、マンションにおいて彼の部屋の周りだけは組織や彼女と同じレベルの都市伝説が入ってこれないように強固且つ気づかれづらい結界が張られた。

「あとは……これだけだね」

 眠る九郎の前で難しそうな顔をするトト。
 寝苦しそうな顔をしているところから考えるに、契約の負担が重たいのだろう。

「……こればかりは本当にごめんなさい」

 静かにトトは呟いた。

「…………む?」

 丑三つ時、下半身に何か妙な感覚を覚えながら九郎は目を覚ます。
 何故か、トトと目が合った。
 彼女は九郎の布団の中に入り込んでいた。
 真っ裸で。

「あ」

「あ」

 トトも驚いていたがどう考えたって驚く権利が有るのは九郎の方である。

「あの……俺の上で何やっているんですか」

 彼も冷静を努めようとは思った。
 思ったのだ。

「これはその、契約の回路をきっちり繋げないと暴発する危険が有って……
 あと魔力不足なんで供給の方を……お願いしたいなあって」

 事後承諾ってレベルじゃない。
 最中承諾である。
 目が覚めるにつれて鋭敏になっていく感覚で九郎は事態をはっきりと把握する。
 ねっとりとしていて、暖かくて、むずがゆい感覚。
 人間は本当に慌てると何もできないものである。

「動かれると色々面倒なんでおとなしくしていて下さいね?」

 九郎は信じても居ない神に祈った。
 いや、目の前に神は居るのだが。
 少女の滑らかな肌と九郎のパジャマが擦れる。
 自分より幼く見える少女に良いようにされている状況が九郎の被虐的な部分に火をつけてしまっていて、彼も抵抗することも出来なかった。
 そう、高校生男子に抵抗できる筈もなかった。
 荒い呼吸の音が聞こえる。
 痺れるような快感が走る。
 トトの妖しげな笑みが薄れ行く彼の意識に最後に残った映像だった。

「――――――!」

 目覚まし時計がうるさい。
 九郎が目覚めると六時だった。
 自分の服に乱れは無く、隣では少女がスウスウと眠っていた。

「……夢だ、夢。駄目だわ俺、あんな夢見ちゃうとかもう本当に男子高校生だわー
 恥ずかしいわ、無いわ、どんな顔しておはようとか言えば良いんだ
 …………そうだ、まずは学校だ。学校行こう
 父さんの店に寄って仕込みを手伝ってから学校に行こう
 なんか料理作ってメモを残していけばバッチリだ」

 九郎は野菜炒めを皿に盛ってからラップに包んで家を出た。
 その後姿を見ながらトトは悪戯っぽく笑っていたのだが彼がそれに気づくことはなかった。

【鴉―KARAS― 第二話「契約の代償」 続】



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