夜刀浦奇譚
第参話 -老爺と昼夜-
第参話 -老爺と昼夜-
「ちっきしょー、どうして勝てないんだ」
「それだけわかりやすければ誰でも勝てるわい、阿呆」
「それだけわかりやすければ誰でも勝てるわい、阿呆」
やや大げさとも言える中年男性の声に呆れたように老人が応じる。
もうそろそろ夕方になりそうというくらいの時間。
週に一度、老人が通っている囲碁クラブ。
もうそろそろ夕方になりそうというくらいの時間。
週に一度、老人が通っている囲碁クラブ。
五十代半ばの男と一局対戦を終えてのことである。
もう一度もう一度と言われ対局すること六度。――六戦六勝。どちらの勝ち星かはいうまでもない。
そもそも、男と対戦するのは今日が初めてではない。
今までに何十何百回と対戦をしており、たまに負けたりはするものの、大体は老人の勝ちで終わっていた。
もう一度もう一度と言われ対局すること六度。――六戦六勝。どちらの勝ち星かはいうまでもない。
そもそも、男と対戦するのは今日が初めてではない。
今までに何十何百回と対戦をしており、たまに負けたりはするものの、大体は老人の勝ちで終わっていた。
「いっぺんでいいから爺さんに勘弁してくださいって言わせてえなあ」
「……ま、今日の打ち方見る限りじゃまだまだだ喃」
「本ッ当にムカつく爺さんだなおい、長生きしねえぞ」
「……ま、今日の打ち方見る限りじゃまだまだだ喃」
「本ッ当にムカつく爺さんだなおい、長生きしねえぞ」
囲碁クラブからの帰り道。
老人は男と囲碁の話をしながら、軽口を叩きあいながら歩く。
乱暴な口調だが野卑ではない男を、老人は好ましく思っていた。
老人は男と囲碁の話をしながら、軽口を叩きあいながら歩く。
乱暴な口調だが野卑ではない男を、老人は好ましく思っていた。
自分の家族と重ねそうになる感情を否定する。
家族は家族であり、彼は彼。
もしも重ねてしまったら、老人は戻ることはできない。
もし甘んじてしまったら、老人は殺すことはできない。
肉と血の詰まった糞袋に成り果ててしまう。
日常に戻ってはいけない。死んでしまった息子達のことを思うと自分は決して日常に戻ってはいけない。
日常という名のぬるま湯に浸ってはいけない。
家族は家族であり、彼は彼。
もしも重ねてしまったら、老人は戻ることはできない。
もし甘んじてしまったら、老人は殺すことはできない。
肉と血の詰まった糞袋に成り果ててしまう。
日常に戻ってはいけない。死んでしまった息子達のことを思うと自分は決して日常に戻ってはいけない。
日常という名のぬるま湯に浸ってはいけない。
何か息抜きでもと黒服に薦められるままにいつの間にか居付いてしまった囲碁クラブ。
――近々離れなくては。
――近々離れなくては。
「おい、爺さん。あの黒い服着たヤツ、あんたの知り合いかい?」
「……あ、ああ」
「借金の取立てなら追っ払ってやるぞ?」
「ありゃ葬儀屋だ、阿呆」
「葬儀屋って……」
「わしもいい年だ。そろそろ先のことを考えてるころだから喃」
「……あ、ああ」
「借金の取立てなら追っ払ってやるぞ?」
「ありゃ葬儀屋だ、阿呆」
「葬儀屋って……」
「わしもいい年だ。そろそろ先のことを考えてるころだから喃」
納得したようなしてないような男を帰し、黒服に近づく。
名前を知らぬ黒服が姿を現す時――老人の能力を使用しての殺人依頼。
名前を知らぬ黒服が姿を現す時――老人の能力を使用しての殺人依頼。
「この時間はやめてくれと言わんかったか?」
老人が狩る相手の情報提供と見て見ぬ振りをする代わりに黒服の殺人依頼をこなす。――黒服との取引条件だ。
今まで一度たりとも断わったことはなかったし、情報提供を渋られたこともない。
今まで一度たりとも断わったことはなかったし、情報提供を渋られたこともない。
「次の標的の連絡に参りました」
「写真は?」
「必要ありません。顔は私よりも貴方のほうがご存知でしょう」
「……言ってる意味がわからんな?」
「先程の男性が次の標的です」
「写真は?」
「必要ありません。顔は私よりも貴方のほうがご存知でしょう」
「……言ってる意味がわからんな?」
「先程の男性が次の標的です」
続く