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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - コドクノオリ04

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 久信たちが隠れ家に辿り着いた翌日、久信はまだ日が昇らないうちから目を覚ました。
 寝ている修実を起こさないようにそっと彼女から離れ、ちゃぶ台に置かれたダンボールからカンパンの缶を取り出す。
 湯を沸かしてインスタントコーヒーを作り、カンパンを胃に流し込みながら、久信は町の地図を広げた。
「ん……」
 地図を広げる音に気付いたのか、修実が目を覚ます気配がした。
 彼女は布団の中でしばらくモゾモゾと動いた後、長い髪を揺らしながら布団から這い出て、まだ少し眠そうな顔で言葉をこぼす。
「おはよう……久くん」
「おはよう、修実姉」
「何をしているの?」
「昨日のうちに目星をつけておいたところを今日は見てみようと思って、今日のコースを確認中」
「郭さんを探すのね?」
「……うん、そうだよ」
 修実の言葉には見知った人間に対するある種の親しさのようなものがある。実際、修実にとって郭正吾は知らない人間ではない。
 修実が組織のお膝元にある町で暮らしていた間に、主に殺しに関わる任務を統括していたのが郭正吾という人間らしい。修実が言うには、自分1人を集団でリンチにかけるような人間には見えなかったということだが、それを言えば、修実だって何人もの人間を殺して、果ては町一つを滅ぼしたような存在には見えない。外見なんて大してアテにはならないものだ。
 愚にもつかないことを考えながら久信は修実を眺める。
 こうして見る修実からは郭正吾や、彼女を裏切った町の人々についての明確な負の感情は伝わってこない。
 修実姉も、一回は裏切ったもの全てを殺しつくしてやりたいと思うほどの怨嗟を抱いたはずなんだよな。
 その結果があの町と組織の末路なのだから、それは間違いないはずだ。だが、その時の怨嗟を今でも抱き続けているのかと言えば、答えはNOなのだろう。
 封印から解放されてから数日の間、修実は町の人々に対して黙祷を捧げていた。
 自力で制御することができなかった都市伝説の力を制御する術を教え、自分を生かしてくれた組織と、ほとんどの時間を過ごしてきた町を、どのような理由があろうと自らの手で滅ぼしてしまったというのが悲しいのではないのかと思う。
 そんな彼女を、人生のほとんどをまっとうな世界で過ごしてきた久信ですら甘い、と思う。
 しかし、実家に帰りたいと思っていた修実の気持ちにずっと気付かなかった駄目な弟である自分も彼女のその甘さと優しさによって赦されている。姉はそういう性格なのだと諦めて認めるしかないのだろう。
「郭正吾を探すのってのは、たしかにそうだけど、どっちかっていうと今回は本格的に奴を探すための準備かな」
 そう言いながら地図のある部分を示すと、修実は納得の表情を浮かべた。
「今日もおでかけだね」
 苦笑して、
「昌夫くんに怒られちゃうかな」

     @

 隠れ家から出てタクシーを呼んだ久信は、町の北の方面、人家もまばらな山の麓のあたりにまで移動する。
 車内では膝の上に抱えていた隠形のままの修実を、昨夜と同じように蛇で背中にくくりつけた。
「さて、ここから川伝いに町の方まで辿ってみようか」
「海まで行くの?」
 修実の質問に久信はいや、と首を振る。
「この町の中に郭はいるはずだから、だいたい昨日駆けずり回った駅のあたりまでを回ってみようと思ってる。で、帰り際に食卓に彩りを添える何かを買おうと思う」
「分かったわ。駅前までね……それでも今日一日は使ってしまうわね」
「そうだな」
 まだ日も出ていない時刻だが、駅のあたりまでたどり着く頃には夕刻を過ぎているだろう。
「ちょっと重労働だ」
 周りの景色を見ながら久信は溜息を吐く。
 町の北の方面は、特に自然が多い地域のようだ。
 久信や修実が契約する蛇神憑きの気配に惹かれたのだろう。川の土手から蛇が一匹顔を覗かせている。見事なアオダイショウだ。
 久信が手を伸ばすと蛇は大人しく手にすり寄ってくる。何度か鱗を撫でた久信は、持参したビニール袋にアオダイショウを捕獲した。
「よし。来て早々いいのが手に入った」
 袋に入れたアオダイショウを嬉しそうに覗き込んでいた久信は、背中の姉が非常に静かなことに気付いた。
「修実姉……?」
 訊ねてみても返答がない。
 背を揺さぶってみると、しぶしぶといった体で修実が口を開いた。
「私はお荷物だった?」
「え? な、なんで……?」
「だって、久くん、さっき重労働って言ってた……」
 拗ねた声で修実は続ける。
「どうせ、私は、こんなになってもまだ重いですよ……」
「いや、重労働ってのはそういう意味じゃなくて……」
 あわててフォローに入る。
 お互い本気ではない事は分かっているが、このようなやり取りも最近まではなかなか得られなかった機会だ。やり取りにも熱がこもる。
 機嫌を直してもらうのに、というよりもからかっている姉が満足するまでに多少の時間を使いつつ、二人は川に沿って歩きはじめた。
 川伝いに四時間ほど下ると、登る途中にある朝陽に照らされながら学生たちが、ある程度陽が高くなると主婦や老人、出勤途中のサラリーマンとすれ違う。
 人々の邪魔にならないよう、そして目立たないように隅の方を歩いていくと、人間以外にも野良猫や野良犬の姿をいくらか見かけた。
 彼らを見つけるたびに、久信は手を挙げて彼らとあいさつをかわし、人目につかない所で話を持ち掛けた。
「やあ、悪いけど、ちょっと話を聞かせてくれない?」
 道中何匹めかになる犬に久信はそう話をする。別に冗談で言っているわけではない。ある程度の知性がある生き物とは簡単な意思の疎通ができる。憑き物筋としてはそう珍しくはない特技だ。
 住処はこの数年ほどはこのあたりだという野良犬に対して、久信は問いかけた。
「この川の近くで最近、普段は見ないような大きな船や、その他にも何か変なものを見かけたりはしなかった?」
 人よりも。こういう獣の方が日常の移動範囲が狭く、また種々の誘惑も少ないため、生活の中で訪れる細々とした変化に敏感だ。
 そんな彼らの気付きに期待して、朝から地道な聞き込み活動を続けているが、なかなか芳しい答えは得られなかった。
 それは今回も同じで、野良犬は知らん。という意味の鳴き声を一つ残してさっさと久信たちの前から去ってしまった。
 知らないものは仕方ない。と久信は落胆の溜息をついて、去っていく犬を見送る。
 動物たちが異変に気付いていないという事実は、このあたりでは何も都市伝説による影響がなかったということでもある。
「このあたりには郭の影は見えなさそうだし、そろそろ次に行ってみようか」
「そうね」
 姉弟は頷き合って川を南下していった。
 そのまま十数時間ほどかけて、陽が暮れようという頃。結局なんの手がかりも得られないまま、久信は昨日必死に逃げ回っていた駅周辺の路地までたどり着いた。
 夕方になると、往来には人々が溢れていた。
 人々に修実を触れさせないように、そして昨日と同じような追っ手に見つかってしまわないように気を付けながら、人通りが賑やかになりつつある辺りから一本横に逸れ、狭い路地に侵入して、路地の壁を見て、呟いた。
「あ」
 手を伸ばして路地の壁際にいた細長い生き物を掴む。
「ご当地蛇だ」
 そのまま摘み上げられた蛇は体を捻って目を久信に向ける。爬虫類独特な無表情な視線を受けながら、久信は蛇に挨拶をして、本題を切り出す。
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
 鎌首をもたげた蛇に久信はこれまでの生き物に対するよりも詳しく事情を訊く。
 蛇に対する意思の疎通は、久信自身が蛇神憑きということもあって、他の動物に対して行うよりもよりスムーズに、そして詳細な点まで確実に行うことができる。
 そのため久信は郭の容姿について、修実から聞いたことを真剣に話した。
 郭は中肉中背で、普段は健康状態が悪そうな表情をしているが、たまに目付きが鋭くなるらしい。
 こんなものは主観の印象で、蛇相手に人が感じた印象を伝えたところであまり意味はない。
 しかし、
「そして、その男には右目がない。ちょうどお前と同じくらいの大きさの蛇に呑まれたらしくてな」
 郭正吾の現在の右目は、両手両足を切断された修実が痛みに狂いそうになりながら、蛇を使って抉り出したらしい。
 この特徴ならば人だろうと蛇だろうと目に付きやすい特徴だ。もし久信たちが接触するより前に郭を見ていたとしても、証言することができるだろう。
「どうだろう? 見たことある?」
 問いかけに対して、蛇は首を左右に振って応えた。
 蛇が語るには、少なくとも、中年男性で片目を失っているような人間はこの数日の間は見ていないということだった。
「そうか……」
「簡単には見つけられないね」
 これで朝からこれまで、目撃や何か役に立ちそうな情報は一つとして手に入らなかったということになる。
 少なくとも川沿いで自然に動物が行くようなところにはいないってことか。
「ありがとうな」
 久信は蛇に礼を言って、狭い路地から往来とは別の大通りへ抜けようとして、路地の出入り口の方に五人ばかりの人影があることに気付いた。
「……どうも」
 男たちに向き直って正面からむっつりと挨拶をする。
 夕暮れの灯りにうっすらと照らされた男たちの服装は、特に怪しいところもない。
 修実と二人、無言で相手の出方をうかがっていると、男たちはあまり好意的ではない絡み口調で久信に言った。
「何蛇相手にしゃべってんの?」
「そんな相手にしゃべってるよりもさぁ、俺たちとお話しない?」
「あ、金とか持ってる? 俺たち今金もってなくてさぁ」
 言っていることは無茶苦茶だが、言わんとしていることは分かる。つまり路地裏で1人蛇に話しかけているかわいそうな男から金をせびろうということだろう。
 相手からは敵意のようなものも感じない。少なくとも、どこかの組織の構成員ということはないだろう。
 路地いっぱいに広がって、通せんぼするようにして距離を詰めてくる。
 着の身着のままで逃げてきたからお金なんてほとんど持ってないなんて言っても……だめだよな。
「ねーそこのお兄さーん」
 やけに馴れ馴れしい態度で1人の男が方を掴もうとするように両手を伸ばしてくる。
 相手をするのも面倒くさい。蛇でも使って追っ払おうかと久信が考えていると、久信に触ろうとしていた男の動きが止まった。
「?」
 足元にいた蛇に指示を出そうとしていた久信は、動きを止めた男の顔が引きつるのを見た。
 他の四人の男たちも次々に顔が引きつっていく。彼らの目が久信の肩のあたりに向けられているのを見て、久信は事態を察した。
 あー……。
 内心で納得の声を漏らす。同時に、久信の肩でくすくすという笑い声が聞こえた。
「う、うわあああああああ!」
 その笑い声が聞こえると同時に、男たちは弾かれるように逃げ去っていった。
 それらを見送ってから、久信は背中にずっと感じている体温の主に話しかけた。
「修実姉、隠形を解いた?」
「だって、久くん、困ってたし」
 先程の笑い声と同じ、どこか楽しそうな雰囲気と共に、修実が答える。
「まあ、たしかに困ってはいたけれどね」
 それに、おかげであの五人組が組織の構成員ではないという確証も得られた。都市伝説と関係するような人間ならば、両手両足がなく、蛇を身体にまとわりつかせた女性が男の背後にへばりついて笑っている姿を見ただけではあんな過剰な反応はしないだろう。
 いや、状況だけ見るとちょっと引くくらいはするかもしれない。
 よくよく考えてみればその光景はかなり不気味だ。いきなりそれを見る羽目になった男たちにはかわいそうなことをしたかもしれない。
 じっくり見てみればどれだけ可憐な女性か分かると思うけど、こんな薄暗い路地裏でそんな観察眼を期待するのも酷というものだろう。
「迷惑だった?」
 隠形に戻った修実が訊いてくる。
「ぜんぜん」
 軽い口調で答えて、久信は路地裏を通り抜けた。

   @

 夕方。人通りの多い往来を歩きながら、久信は内心穏やかではなかった。
 もちろん郭正吾の足取りが掴めなかったことに対する焦りのようなものもあるにはあるが、それ以上に、久信の目と気を惹くものが通りのあちらこちらでみられるのが原因だ。
 まただ……。
 たった今すれ違った高校生くらいの詰襟の学生と、その横にいる存在に今日何度目になるか分からない鳥肌を立てる。
 また都市伝説か……。いくらなんでも多すぎじゃないか?
 朝からずっと縦断する形でこの町を歩いてきたが、その間に久信が蛇の狩猟本能にも似た直感で感じ取れた都市伝説の数は両手の指ではとうに足りない。
 この町は、学校町は驚くほど都市伝説の気配が多かった。
「すごいね。私が居た町はあの組織のお膝元という事情があったから、組織所属の契約者がけっこういたんだけれど……この町はそういう、一つの組織が実質支配している町ともまた違うんでしょう?」
「そうみたいだよ」
 この町に来る前、久信はこの町のことについて、昌夫を通して調べてあるので一通りのことは知っている。
 学校町は都市伝説関連のあらゆる勢力が集まって奇跡的な均衡状態を築いているという話も聞いたことがある。また、実際に昨日この町に来て早々。どこの組織とも知れない連中に追われたことからも、ある程度の実感を持って分かっていたつもりだが、日常生活の中にこれほどまで都市伝説が入り込んでいる光景を見るに、自分の認識は甘かったと認めざるを得ない。
 都市伝説が異物としてではなく、共生相手のようになっている。そうすることによって、この町は他の町では到底あり得ない形の秩序が形成されていて、実際その秩序は強固に守られ、普通ならば大混乱が起きるような事件を経ても現状を維持してきた。
 夢の国が侵攻したり、町全体の規模で男女の性別逆転現象が発生したり、教会のタカ派が天使を持ち出して暴れて、果ては星辰の化け物やら古代の神格やらドラゴンやらが出てきたってんだから、いったいどこの神話の世界だよって感じなんだが、
 改めて周囲を見回してみる。とてもそんな事件を経験した町だとは思えない。雑踏の合間合間に都市伝説の気配があるだけの、見た目には普通の町だ。
 いったいどれだけの住人がこの町の大剣した事件を知っているのだろう。
 この町の人たちは、自分たちが現在進行形で曰くが次々付加されているとんでもない土地で生きていることを自覚しているのかねえ。
 考えている間に、まだ年端もいかない女の子が横を通る。久信には彼女の気配が雑踏からどこか浮き上がって感じられる。彼女も契約者なのだろう。
 人波の奥に女の子の姿が消えるのを見送って、久信は呟く。
「こんな状況を皆が知ってたらこんなのんきな逢う魔が時にはならないか」
 あるいは、この町の人間は異常に対して麻痺しているのかもしれない。
 つくづく特殊な土地だ。こういう土地だからこそ、郭正吾はこの町を隠れ場所に選んだのだろう。
 木を隠すなら森の中ってわけだ。だけど、蛇の執念はそんなものでは止められないって分からせてやる。
 物思いを町の様子から自分のことに引き戻す。そろそろ隠れ家だ。一日歩き回って疲れた体をようやく休めることができる。
 少し速足になった久信の耳に姉の声が届いた。
「久くん、今日の晩御飯は買わなくていいの?」
「あ」
 久信の足が止まった。そして手にしたビニール袋の中には朝方から数匹とってきた蛇たちしか入っていないのを確認して、
「忘れてた」
 町の様子に心を奪われていたせいで、夕食を彩るおかずを購入するの忘れてしまった。
「まあいいや。味気ないけど食事自体はあるから飢えることはないし、気が向いたら買いに行こうと思ってただけだし。それに、この袋持って食糧品店行くのはアウトだろうしね」
「不摂生……」
 修実が後ろから責めるような口調で言う。
 久信は歩きを再開しながら適当に答える。
「明日からは気を付けるよ」
「……お姉ちゃんは心配です」
 不満そうに言って、修実はぼそりと付け加える。
「私が作って上げられたら――」
「いいんだよ」
 修実の言葉を遮って、久信は言う。
「このままでいいさ。俺は修実姉と触れ合っていられる今が結構好きだから」
 修実はしばらく黙った後、久信のうなじに頭を擦り付けた。
「……うん」



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