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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - コドクノオリ05

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 学校町を歩き回ってこの町の異常性を肌で感じ取った久信は、肉体的というよりも精神的な疲れを感じつつ、隠れ家を目指していた。
 今日はシャワーだけではなく、ゆっくりと風呂にでも浸かろうかと考えていると、隠れ家の敷地内に犬が一匹いるのを見つけた。
 久信たちが隠れているこのボロアパートには他の住人はいない。他の住人のペットという線は無いだろう。かといって、行儀よくお座りして、まるで誰かを待っているかのように佇んでいる犬の態度はとても野良のそれではない。
 だとしたら……。
「昌夫くんにばれちゃってる……よね?」
「だろうな」
 誰の遣いであるのか察して、姉弟は気まずそうに言葉を交わす。
 犬は二人に気付いたようで、顔を向け、二人が近づいてくるのをじっと見つめて待っている。
「諦めて小言を聞くしかないか」
「うん……そうだね」
 犬からの視線を感じながら、久信たちはいたずらがバレた子供のような心境で隠れ家の敷地内に入る。
 久信の体が敷地の中へと入るのを確認して、犬がおもむろに口を開いた。
「きのう の きょう で がいしゅつ とは いいどきょうだ」
 わざわざ二人が敷地内に入るまで待っていたということは、この建物の敷地内には犬がしゃべっても周りには気づかれないような、幽霊アパートらしい結界の類でも張ってあるのだろう。久信と修実が察してそれぞれ隠形や蛇の縄を露わにする。
 そんな二人に対して犬は真面目くさった顔で説教を垂れる。
「あまり はで な こうどう は ひかえろ と いった はずだが」
「分かってる。ごめん」
「ごめんね、昌夫くん」
 第一声としては二人共比較的に殊勝な態度を見せるが、それだけでは止まらず、言葉を繋げる。
「でもね昌夫くん。私たちにはあんまり時間がないの」
「郭正吾に完全に逃げられたら、俺と修実姉は詰む」
「たしかに くるわ に にげられたら おまえたち の しゃくめい は むずかしい
 しかし おまえたち なんで こう いつも とっぴなことを するのだ」
 眉間に皺を寄せる犬に見せつけるように、久信は手に持ったビニール袋を揺らして見せた。
「まあそう言うな。外を歩き回るのは今日だけだ。何となくこの町が人外魔境ってことが分かったからな。あんまり歩き回って下手なトラブルを拾いたくもない」
 犬はビニール袋の中で蠢いている蛇をしばらく眺めた後、妙に慣れた仕草の溜息と共に言った。
「そうしてくれ こちらも びこうを けいかいして いぬ しか つかえん」
 つまり本心では自分でこっちまで出向いてきて文句の一つでも言ってやりたいといった気分なのだろう。その場でしばらく唸っていた犬は、やがてやけに人間くさい動きでやれやれというように首を左右に振った。
「あせる きもちも わかる が このまちでは けいさつより ほかの そしき の ほうが ちからが ある わすれないで くれよ」
「この町の異常さは身に染みたよ」
「ならいい」
 これまでも二人に振り回されることが多かった昌夫は、最後には諦めたように嘆息すると、久信たちが隠れている部屋の前に行った。
 ドアのノブにはスーパーのビニール袋がかけられている。それを鼻先で示して犬は言う。
「ひと が おおくて まるで せんそう じょうたい だった すーぱーから そうざい かって きた
 さすがに かっぷらーめん だけというのは あわれでな」
「おお! 助かる! マジで!」
 久信は力強く感謝の言葉を口にする。帰りに食べ物を買い忘れたのは、食べ物を余らせる結果にならなくて済んだということになる。
 これで今晩の夕食に彩りが得られた。
 上機嫌になった久信は、犬の頭を撫でてやりながら、
「じゃあこっちは飯の礼にこの犬には手厚いもてなしをしてやろう」
 鍵を開けて室内に犬を案内すると、犬は「よろしくたのむ」と言って、部屋の中に入った。
「おお――と言っても、逃亡生活中の身では今日の晩ご飯のおこぼれをやるくらいしかできないけどな」
「本当ならそのワンちゃん、一度綺麗に洗ってブラシをかけてあげたいんだけど」
 修実が呟く。
 犬はたしかに野良犬のように薄汚れてはいるが、これは昌夫が密偵役としてこの犬を放ったがための、計算された汚れだろう。わざと汚して町の中に溶け込んでいる彼を洗うわけにもいかない。
「まだ仕事中だもんね」
「そういうことだ」
 残念そうに言う修実に言葉を返して、犬は部屋の中に入った。
「では おれは しごと に もどるから こいつを ねぎらって やってくれ いいか がいしゅつは つつしめよ じゃあな」
 最後に念を押して、犬の向こうに居た昌夫は席を立ったようだ。
「了解」
 苦笑しながら、久信は犬を追って部屋の中へ入る。
「また心配かけちゃったね」
「なんでか、いつもこうなっちゃうんだよな」
 姉弟で不思議だ不思議だと言い合いながら靴を脱ぐ。
「ともあれ、これが終わったら、俺はあいつの仕事に協力するよ。まだ警察内に都市伝説契約者や意を汲んで動いてくれる仲間とかが少ないだろうしさ」
「そうね、そうしましょう」
「修実姉も付きあうことはないよ」
 言うと、修実が首を左右に振ったのか、久信のうなじに髪が擦れる感触がきた。
「私も昌夫くんの手伝いをしたいわ」
「……いい友達もったよな、あいつ」
「ふふ、そうね」
 修実の声を聞きながら、久信は親に半ば厄介払いされ、人生の大半の時間を費やしてきた組織にも裏切られてあんな姿にされてもまっとうな人間と同じように友人の協力を信じることができたり、恩義の感情などを持つとことができる姉はやはり尊敬できると思う。
 俺だったらきっとそのまま恨みに呑み込まれて怨念垂れ流すだけの現象になってたな。
 そもそも修実は自我が残っているということ自体が奇跡的なほどに手ひどい仕打ちを受けていたのだ。
 修実姉は強い人だな……。
 羨望交じりの物思いにふけっていると、部屋の奥から甲高い鳴き声が聞こえた。
「ああ、いけない。忘れかけてた」
 鳴き声の方へと行くと、先に部屋に入っていた犬が尻尾を振って久信を見ていた。昌夫からの干渉が外れたためか、久信を見上げ目には先程までのような険がない。
「久信、この子エサが欲しいって」
「みたいだね、じゃああげようか」
 昌夫の調教のおかげか、犬はエサがもらえることを理解したように嬉しそうに尾を振る。
「よーしよしよし。ちょっと待ってくれよ。俺も自分のエサが欲しいからな」
 久信は、ちゃぶ台の上に置かれているビニール袋を漁って、若鳥の唐揚げや焼き鳥を取り出す。
 惣菜のチョイスがおっさん臭いのは、若い身空で警察なんていうおっさん臭いイメージが染みついた組織に所属した弊害だろうか。
 それはそれとして、白い米に即席の味噌汁までついているのは実にサービスがいい。
「こりゃ豪華だ」
「この偏りかたは……」
「まあまあ、そんなに厳しく批評しなくてもいいじゃないか――なあ? ワン公」
 自分の臭いを気にしてか、器用にも自分で開けた窓から外に出てじっとしていた犬は、いきなり振られた話に困惑したように首を傾げた。
 自分が食べるわけでもないんだからいいじゃないかと修実を説得して、久信は修実を布団の上に降ろして夕餉の準備として場を沸かす。
 湯が沸くまでの間、薬缶の前で待ちながら、久信は一息つく。
「焦るな……か」
 昌夫が言うように、焦っているのは確かだ。
 修実をあんなにした事件の後で生き残った郭正吾は、町の状態から自分がかけた封印が解かれたのを知ったのか、事件のことを歪めて公表した後、早々に行方をくらませている。
 足取りをなんとかこの町まで追うことができたのは、警察の都市伝説事件対策課が事件のことを知っていて、以後、同じような事件が起こらないため町を壊滅させた都市伝説――修実の正体などについて詳しく訊こうとして彼の足取りを追っていたというのと、郭正吾本人が自分の組織を失って単身逃亡を図っているという状況で行動がばたついていることが重なったためだ。
 修実にここまでの反撃を受けたことで郭正吾も足跡を消せていないのだ。
 ただし、警察も郭正吾がこの町に入ったところで、この町の特殊性から派手な調査もできなくなって行方は密かに探さざるを得ない状況だ。警察が見ている限りでは郭正吾は町の外には出ていないようだ。郭としても、この町の特殊性を隠れ蓑にしているのだろう。
 でも、事情聴取に応じずに行方をくらませたせいで、警察から追われているってことは知ってるはずだ。それに修実が封印から脱出したことを把握しているのなら、閉じ込められていた修実がなんらかの報復行動に出るという想像はたやすいだろうし、いつまでも隠れられるものではないということは郭正吾の方でもわかっているはずだ。にもかかわらず、いつか必ず見つかるこの町に潜伏し続けているということは、郭正吾にはこの町からどこかに移動する手段があるということだろう。
 少なくとも、修実から聞いた話では、例の組織には高跳びに使えそうな能力を持った契約者はいなかったらしい。
 だが、組織と繋がっていたという暗殺や密売を斡旋する集団には商売柄、何か移動能力に秀でた都市伝説や契約者を保持しているのではないかと久信は考えていた。
 わざわざこの町で郭正吾が電車を降りたのは、この町ならばその都市伝説を目立たずに侵入させることができるからだろうと考える。
 また、使うのが空路であるならばわざわざこの町で降りなくても他のどこかで拾ってもらうことができるはずだ。それをわざわざこの町まで出てきたと言うことは、他の道を使うためだろう。
 山奥にあったあの組織の土地にはなかった水路……。
 使うのはおそらくそれだろうと思う。
 修実も、組織にいたころ、密売相手が持つ船の監視や防衛をさせられたことがあるという話をしていた。
 水路なら、郭にはアテがある。
 都市伝説製の船ならば、見えなくなった状態で町の中に入り込むことも可能だろう。
 以前にも、どこかの町で行われた都市伝説組織同士の戦争の際、いくつかの都市伝説で外装を固めた名のある幽霊船が町を流れる川を逆走していったという、都市伝説の存在を知っている久信をして都市伝説じみた、と思わせる話を聞いたこともある。
 そんな前例があるため、久信は郭正吾が逃亡に使うのは川を下るルートではないかと思い、一日をかけて川を辿ってきた。
 だが、一通り川とその周辺の動物相手に確認して、今日のところは収穫が全くなかった。
 そのせいで、少し焦っている。急いで郭正吾を見つけないと彼を取り逃がしてしまい、自分たちの身の潔白を証明できなくなってしまう。
 期限は郭正吾がこの町から消えて完全に姿を隠してしまうまで。
 猶予はあまりないだろう。ならばこそ、いくら自分たちが追われていても、多少は大胆な行動をとって相手を探すことも必要だと、久信は思っている。
「でも、無茶ばっかりしていてもしょうがないか。結局修実姉も思いっきり付きあわせてるし、昌夫にもいろいろ言われるし」
 同学年であり、また似たような憑き物筋の家系の長男同士、昔から常々苦労を掛け通しの友人に更に重ねて苦労をかけるのも忍びない。
 明日からはまた、別の動き方で郭正吾の居場所を突き止めることにしよう。
 そのための手段は用意してある。
「あとは少し、仕込みをするだけ」
 沸騰した薬缶の火を止めて、久信はひとまず自供の夕食を手早く済ませることにした。




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