郭正吾捜索のために蛇を放ってから三日が経過していた。
その間、警察でも久信たちの方でも、郭正吾発見に繋がりそうな有力な情報は一切入ってこなかった。
昌夫が犬を通して話してくれる情報が警察が得ている情報全てというわけではないだろうが、町一つを結界に閉じ込めるだけの力を持つ者について、追加の情報も得ようとしていない所を見ると、少なくとも郭正吾本人を見つけてはいないことは確かだろう。
久信が蛇に包囲捜索させている範囲は、この三日の間にその範囲を三分の一ほどにまで狭めている。その間に成果が何もでないことに、これはアテが外れただろうかと久信は半ば諦めかけていた。
でも、だとしたら、郭正吾はほかにどうやって脱出するつもりなんだ?
学校町という曰く付きの町にまで逃げてきたのだ。都市伝説が隠れるのに適している反面、一度目を付けられたら町から脱出することは難しいという町の特徴については、郭正吾も理解しているはずだ。
だからこそ、姿を隠すことができる幽霊船での脱出の可能性を考えていたんだけど。
その考えが見当違いであり、郭正吾は他の方法で既に町を脱出してしまっているという可能性も否定はできない。
結果が出ない引きこもり生活に焦らされ、久信が自分の考えに自信が持てなくなってきた頃、窓の向こうに犬が姿を現した。
「あら……?」
犬がやってきたことにいち早く気付いた修実が、犬を見ながら怪訝そうに呟いた。
「どうしちゃったのかしら……?」
「どうかした?」
「久くん。ほら、この仔……」
修実に示されて久信が犬に目をやると、犬の口に蛇が一匹咥えられている。
異種族を一緒の行動させていたせいで、ついに喧嘩でも勃発したのだろうか。久信は蛇を救うために手を伸ばしかけ、止めた。
犬の首には咥えられている蛇とは違う蛇が、首輪のようにしっかりと巻き付いていた。
犬と、そして首輪になっている蛇は確かに三日前、警察との連絡役にした犬と蛇のコンビだ。
「お前……あれ? じゃあこっちの蛇は……?」
改めて、犬から咥えていた蛇を受け取る。
「この仔、工場が集まっている地域を探してもらっていた仔じゃない?」
言われてみればそうだと気付く。毎日の報告を任せていた蛇とは別の個体だったため、気付くのが遅れてしまった。
「なんでこんな運ばれ方をしてこっちまで?」
問いかけると、蛇は身をくねらせて、重大な報せがあることをほのめかす。その蛇の必死な様子に、久信は勢い込んで訊ねた。
「見つかったのか?!」
蛇は肯定の意志を伝えてくる。
「ど、どこだ?!」
久信は詳しく訊ねようと勇んで顔を寄せた。
内容を蛇が詳しく説明しだす前に犬が昌夫の言葉を伝えてきた。
「おい へび が みつけた と いってるそうだが」
「ああ、これから詳しく訊くからちょっと待て」
言うと、久信は昌夫と修実と共に静かに蛇を注視した。いくつもの注目の中。蛇は捜索の結果見つかったものについて伝える。
それを読み取る久信の口元には、ようやく目的のものに辿り着くという、期待の笑みが浮かんでいた。
その間、警察でも久信たちの方でも、郭正吾発見に繋がりそうな有力な情報は一切入ってこなかった。
昌夫が犬を通して話してくれる情報が警察が得ている情報全てというわけではないだろうが、町一つを結界に閉じ込めるだけの力を持つ者について、追加の情報も得ようとしていない所を見ると、少なくとも郭正吾本人を見つけてはいないことは確かだろう。
久信が蛇に包囲捜索させている範囲は、この三日の間にその範囲を三分の一ほどにまで狭めている。その間に成果が何もでないことに、これはアテが外れただろうかと久信は半ば諦めかけていた。
でも、だとしたら、郭正吾はほかにどうやって脱出するつもりなんだ?
学校町という曰く付きの町にまで逃げてきたのだ。都市伝説が隠れるのに適している反面、一度目を付けられたら町から脱出することは難しいという町の特徴については、郭正吾も理解しているはずだ。
だからこそ、姿を隠すことができる幽霊船での脱出の可能性を考えていたんだけど。
その考えが見当違いであり、郭正吾は他の方法で既に町を脱出してしまっているという可能性も否定はできない。
結果が出ない引きこもり生活に焦らされ、久信が自分の考えに自信が持てなくなってきた頃、窓の向こうに犬が姿を現した。
「あら……?」
犬がやってきたことにいち早く気付いた修実が、犬を見ながら怪訝そうに呟いた。
「どうしちゃったのかしら……?」
「どうかした?」
「久くん。ほら、この仔……」
修実に示されて久信が犬に目をやると、犬の口に蛇が一匹咥えられている。
異種族を一緒の行動させていたせいで、ついに喧嘩でも勃発したのだろうか。久信は蛇を救うために手を伸ばしかけ、止めた。
犬の首には咥えられている蛇とは違う蛇が、首輪のようにしっかりと巻き付いていた。
犬と、そして首輪になっている蛇は確かに三日前、警察との連絡役にした犬と蛇のコンビだ。
「お前……あれ? じゃあこっちの蛇は……?」
改めて、犬から咥えていた蛇を受け取る。
「この仔、工場が集まっている地域を探してもらっていた仔じゃない?」
言われてみればそうだと気付く。毎日の報告を任せていた蛇とは別の個体だったため、気付くのが遅れてしまった。
「なんでこんな運ばれ方をしてこっちまで?」
問いかけると、蛇は身をくねらせて、重大な報せがあることをほのめかす。その蛇の必死な様子に、久信は勢い込んで訊ねた。
「見つかったのか?!」
蛇は肯定の意志を伝えてくる。
「ど、どこだ?!」
久信は詳しく訊ねようと勇んで顔を寄せた。
内容を蛇が詳しく説明しだす前に犬が昌夫の言葉を伝えてきた。
「おい へび が みつけた と いってるそうだが」
「ああ、これから詳しく訊くからちょっと待て」
言うと、久信は昌夫と修実と共に静かに蛇を注視した。いくつもの注目の中。蛇は捜索の結果見つかったものについて伝える。
それを読み取る久信の口元には、ようやく目的のものに辿り着くという、期待の笑みが浮かんでいた。
@
数十分後。夕陽が沈もうかという頃。
学校町の北から流れている川沿いの一画、工場が立ち並んでいる区域から少し離れたあたりに周囲を廃棄物の集積場や廃工場に囲まれた、破産か事故かで潰れたという曰く付きの廃墟化したクラブ跡がある。所々ひび割れた二階建ての建物を臨める位置。そこに久信と修実が居た。
「この町、曰くありの物件がいくつあんだよ」
「蛇の仔が言うには、この建物の奥に郭さんが居るという話ね」
愚痴をぼしながら、久信は背中からの修実の声に頷く。
「みたいだな」
「あの建物の中に都市伝説の気配を感じるわ」
「なら かのうせい は たかい な」
二人の足元についてきた犬が重々しく言う。
「きほんてき には おれたち の とうちゃく まで たいき だぞ」
「警察が来るまでは蛇たちを這わせて周囲を包囲するだけにしていろって事だろ。分かってるよ」
久信はでも、と続ける。
「また逃げられたら今度こそ完全に逃げられるかもしれない。これが最後のチャンスになってしまうかもしれないから、逃げられそうだったら俺は勝手に動くぞ」
ここで姿をくらまされたら追いかけるのは困難になってしまう。その上郭正吾に海外にでも逃げられたら、自分たちではおいそれと追いかけることができない。なんとしても相手を捕まえる必要がある。
その点は昌夫も理解している。
だから、彼は犬を通してこう言い置くだけにとどめる。
「もっとも ゆうせん する こうどう は たいき だからな」
「味方が多いにこしたことはないからな。できるだけ俺も待つさ」
「そうね。郭さんに逃げられないために確実にいきたいわ」
久信の背に負われた修実も、何者も彼女の視線をかいくぐることはできないであろうと思わせる気迫で、郭正吾の潜伏場所とおぼしき場所を凝視している。
現在。昌夫の呼びかけで町全体を探していた警察の半数ほどがこの場所に集結している。可能ならば、この町の警察の力も借りるらしく、全ての準備が整うのに約一時間はかかるということだった。
その間の時間を使って、久信は蛇神憑きの力で生み出した蛇を何匹も何匹もクラブ跡の周囲に配置していた。
その作業を二十分ほど続けているうちに陽が落ちた。
とたんに悪くなった視界に、郭正吾が姿をあらわした時に絶対に見落とさないようにと特に神経を研ぎ澄ませていると、久信たちの居る位置のすぐ横にある川を異様な気配が通過していった。
「――!?」
目に見えないそれは、川を遡っているようだ。気配だけがそよ、と吹く程度の風を残して通り過ぎていく。
「気のせい……じゃないよな?」
「うん、これは何かが通ってるよ」
何かが川を通過するかもしれないと予想していなければ見過ごしてしまいそうなほど静かに、音もなく、ゆっくりと離れていく気配に対して姉弟は感想を述べ合う。
「ゆうれいせん か?」
「ええ……」
修実が呟いて舌を出す。
蛇と同じように振動感覚器を体内に作り出すことができる彼女は川の上、一見虚空に見える位置を見据えて、やがて断言した。
「この気配。組織と取引があった幽霊船のものだわ」
「みつばい そしき の か?」
「隠していはいるけれど、水面に伝わっているこのエンジンの振動、間違いないわ」
昌夫の問いにしかと頷く。
川を遡っていた気配は完全に停止したのか、それとも遠くに離れすぎてしまったのか、まったく感じられなくなってしまった。
「これで奴の逃亡手段は確定か」
「の ようだな よくやってくれた ひさ」
「あとは捕まえるだけだな」
ようやく捉えた敵の尻尾を逃がさないというように久信は力を込めて言う。
それとタイミングを合わせるように、クラブ跡の二階屋上に1人の男が現れた。
中肉中背。黒いスーツを着て、片目を眼帯で隠している。布に巻かれた四つの長物を持っている男の姿に、修実が押し殺した声で名前を呟く。
「郭さん……」
彼が、姉弟の探していた人物、郭正吾だった。
屋上に出てきた郭正吾は周囲を一度見回した後、川に面した一角に向かって行った。
屋上の端のあたりに至ると、郭の姿は久信たちの視界から霞んで、溶け込むようにして消えてしまった。
「何だ?!」
「ゆうれい せん の けっかい に とりこまれたんだ」
昌夫の言葉を受けて、久信は隠れ場所から立ち上がった。
「まて! いま むかってる もうすこしだ」
犬の口が急いだ口調で待ったをかけてくるが、このまま待てばみすみす郭正吾を逃がすことに繋がってしまう。
言葉を無視して、久信は背後の姉に声を掛ける。
「修実姉!」
「うん!」
応じる声がして、久信の背で禍々しい気配が凝り始めた。
「……よしみ さん ……?」
犬を通して姉弟を見守る昌夫が修実の様子に驚きの声を上げる。
幽霊船があるだろう場所を見据えている修実。彼女の体からは滲みだすようにして、空気中へと毒気と呪詛が黒い靄のようになって溢れ出していた。それらは彼女の眼前にて黒い、瘴気の塊として結実する。黒々と存在を主張するそれは、物理的な破壊力よりも、その呪力によって結界や加護のような霊的な防備に属するものを浸食して破壊する。そのような用途に特化した呪物としてそこに在った。
「おい なんだ それは?」
犬が昌夫の能力の恩恵を介してすらおびえを見せ、数歩を後退しながら言葉を寄越す。
修実が現在作り上げている瘴気の塊。それは蛇神憑きという都市伝説からは乖離している力だ。あるいは蛇神憑きの呪詛としての部分を磨き上げれば扱えるようになるかもしれないが、少なくとも昌夫が知っている小野家は諜報を基本としており、邪魔者の排除は蛇を使って物理的にやる。修実もまた、このような方面への力の特化はさせてはいないはずだった。
「おい ひさ このちからは なんだ?」
「俺も見るのは初めてだよ」
久信が唸るように言う。
「なんだと?」
どういうことだ。と昌夫が問う前に、修実の眼前に凝っていた瘴気の塊が放たれた。
まっすぐに飛んだ黒塊は、数秒の後、視認できない幽霊船に着弾した。
分厚い氷を力づくで割り砕くような破壊的な音を立てて結界が消し飛ぶ。
取り払われた結界の向こうから現れた幽霊船は、十数人が乗れそうな、組織も何もかもを失った男1人を逃がすために来たにしては意外にも大きさのある船だった。
船一つを覆い隠していた結界が吹き飛んだ余波で吹き荒れる突風に目をすがめながらも、久信は視線を逸らすことなく、目標となる人物を視界に捉えていた。
景色の中に、唐突に浮かび上がるようにして再び姿を現した郭正吾を。
学校町の北から流れている川沿いの一画、工場が立ち並んでいる区域から少し離れたあたりに周囲を廃棄物の集積場や廃工場に囲まれた、破産か事故かで潰れたという曰く付きの廃墟化したクラブ跡がある。所々ひび割れた二階建ての建物を臨める位置。そこに久信と修実が居た。
「この町、曰くありの物件がいくつあんだよ」
「蛇の仔が言うには、この建物の奥に郭さんが居るという話ね」
愚痴をぼしながら、久信は背中からの修実の声に頷く。
「みたいだな」
「あの建物の中に都市伝説の気配を感じるわ」
「なら かのうせい は たかい な」
二人の足元についてきた犬が重々しく言う。
「きほんてき には おれたち の とうちゃく まで たいき だぞ」
「警察が来るまでは蛇たちを這わせて周囲を包囲するだけにしていろって事だろ。分かってるよ」
久信はでも、と続ける。
「また逃げられたら今度こそ完全に逃げられるかもしれない。これが最後のチャンスになってしまうかもしれないから、逃げられそうだったら俺は勝手に動くぞ」
ここで姿をくらまされたら追いかけるのは困難になってしまう。その上郭正吾に海外にでも逃げられたら、自分たちではおいそれと追いかけることができない。なんとしても相手を捕まえる必要がある。
その点は昌夫も理解している。
だから、彼は犬を通してこう言い置くだけにとどめる。
「もっとも ゆうせん する こうどう は たいき だからな」
「味方が多いにこしたことはないからな。できるだけ俺も待つさ」
「そうね。郭さんに逃げられないために確実にいきたいわ」
久信の背に負われた修実も、何者も彼女の視線をかいくぐることはできないであろうと思わせる気迫で、郭正吾の潜伏場所とおぼしき場所を凝視している。
現在。昌夫の呼びかけで町全体を探していた警察の半数ほどがこの場所に集結している。可能ならば、この町の警察の力も借りるらしく、全ての準備が整うのに約一時間はかかるということだった。
その間の時間を使って、久信は蛇神憑きの力で生み出した蛇を何匹も何匹もクラブ跡の周囲に配置していた。
その作業を二十分ほど続けているうちに陽が落ちた。
とたんに悪くなった視界に、郭正吾が姿をあらわした時に絶対に見落とさないようにと特に神経を研ぎ澄ませていると、久信たちの居る位置のすぐ横にある川を異様な気配が通過していった。
「――!?」
目に見えないそれは、川を遡っているようだ。気配だけがそよ、と吹く程度の風を残して通り過ぎていく。
「気のせい……じゃないよな?」
「うん、これは何かが通ってるよ」
何かが川を通過するかもしれないと予想していなければ見過ごしてしまいそうなほど静かに、音もなく、ゆっくりと離れていく気配に対して姉弟は感想を述べ合う。
「ゆうれいせん か?」
「ええ……」
修実が呟いて舌を出す。
蛇と同じように振動感覚器を体内に作り出すことができる彼女は川の上、一見虚空に見える位置を見据えて、やがて断言した。
「この気配。組織と取引があった幽霊船のものだわ」
「みつばい そしき の か?」
「隠していはいるけれど、水面に伝わっているこのエンジンの振動、間違いないわ」
昌夫の問いにしかと頷く。
川を遡っていた気配は完全に停止したのか、それとも遠くに離れすぎてしまったのか、まったく感じられなくなってしまった。
「これで奴の逃亡手段は確定か」
「の ようだな よくやってくれた ひさ」
「あとは捕まえるだけだな」
ようやく捉えた敵の尻尾を逃がさないというように久信は力を込めて言う。
それとタイミングを合わせるように、クラブ跡の二階屋上に1人の男が現れた。
中肉中背。黒いスーツを着て、片目を眼帯で隠している。布に巻かれた四つの長物を持っている男の姿に、修実が押し殺した声で名前を呟く。
「郭さん……」
彼が、姉弟の探していた人物、郭正吾だった。
屋上に出てきた郭正吾は周囲を一度見回した後、川に面した一角に向かって行った。
屋上の端のあたりに至ると、郭の姿は久信たちの視界から霞んで、溶け込むようにして消えてしまった。
「何だ?!」
「ゆうれい せん の けっかい に とりこまれたんだ」
昌夫の言葉を受けて、久信は隠れ場所から立ち上がった。
「まて! いま むかってる もうすこしだ」
犬の口が急いだ口調で待ったをかけてくるが、このまま待てばみすみす郭正吾を逃がすことに繋がってしまう。
言葉を無視して、久信は背後の姉に声を掛ける。
「修実姉!」
「うん!」
応じる声がして、久信の背で禍々しい気配が凝り始めた。
「……よしみ さん ……?」
犬を通して姉弟を見守る昌夫が修実の様子に驚きの声を上げる。
幽霊船があるだろう場所を見据えている修実。彼女の体からは滲みだすようにして、空気中へと毒気と呪詛が黒い靄のようになって溢れ出していた。それらは彼女の眼前にて黒い、瘴気の塊として結実する。黒々と存在を主張するそれは、物理的な破壊力よりも、その呪力によって結界や加護のような霊的な防備に属するものを浸食して破壊する。そのような用途に特化した呪物としてそこに在った。
「おい なんだ それは?」
犬が昌夫の能力の恩恵を介してすらおびえを見せ、数歩を後退しながら言葉を寄越す。
修実が現在作り上げている瘴気の塊。それは蛇神憑きという都市伝説からは乖離している力だ。あるいは蛇神憑きの呪詛としての部分を磨き上げれば扱えるようになるかもしれないが、少なくとも昌夫が知っている小野家は諜報を基本としており、邪魔者の排除は蛇を使って物理的にやる。修実もまた、このような方面への力の特化はさせてはいないはずだった。
「おい ひさ このちからは なんだ?」
「俺も見るのは初めてだよ」
久信が唸るように言う。
「なんだと?」
どういうことだ。と昌夫が問う前に、修実の眼前に凝っていた瘴気の塊が放たれた。
まっすぐに飛んだ黒塊は、数秒の後、視認できない幽霊船に着弾した。
分厚い氷を力づくで割り砕くような破壊的な音を立てて結界が消し飛ぶ。
取り払われた結界の向こうから現れた幽霊船は、十数人が乗れそうな、組織も何もかもを失った男1人を逃がすために来たにしては意外にも大きさのある船だった。
船一つを覆い隠していた結界が吹き飛んだ余波で吹き荒れる突風に目をすがめながらも、久信は視線を逸らすことなく、目標となる人物を視界に捉えていた。
景色の中に、唐突に浮かび上がるようにして再び姿を現した郭正吾を。
@
幽霊船を覆っていた結界が拭き取んだことで、クラブ跡の二階屋上から接岸した船に飛び乗ろうとしていた郭正吾は動きを止めた。
つい先ほどもしたように、周囲に視線をやる。
結界を破壊したあの黒い塊はどこから飛来したのだろうかと考えながら、憶測で黒い塊の発射地点を目で探っていた彼は、船の乗組員がようやく状況を理解してざわつき出すのを見た。
手土産を持った自分を迎えるために甲板に出て来ていた乗組員が慌てて離脱の指示を出し始める。もたもたしていると、自分も置いて行かれてしまうだろう。
彼は急ぎ、持って来ていた四つの長物を次々と投げ渡していき、自分も船へと飛び移ろうとする。
最後の四つ目を放り投げようとした時、クラブ跡の壁を這い登ってきた蛇が襲い掛かってきた。
「蛇だと……?!」
叫び、その意味を考えるより早く、咄嗟の動きで靴に絡みついてきた蛇を振り払う。
その拍子に最後の荷物が屋上から落下してしまったが、彼に荷物の行く先を気にする余裕はなかった。
次々に這い登ってくる蛇が彼に殺到してきたのだ。
郭正吾は船に飛び乗ることを一旦諦め、クラブ跡の中に戻っていった。
つい先ほどもしたように、周囲に視線をやる。
結界を破壊したあの黒い塊はどこから飛来したのだろうかと考えながら、憶測で黒い塊の発射地点を目で探っていた彼は、船の乗組員がようやく状況を理解してざわつき出すのを見た。
手土産を持った自分を迎えるために甲板に出て来ていた乗組員が慌てて離脱の指示を出し始める。もたもたしていると、自分も置いて行かれてしまうだろう。
彼は急ぎ、持って来ていた四つの長物を次々と投げ渡していき、自分も船へと飛び移ろうとする。
最後の四つ目を放り投げようとした時、クラブ跡の壁を這い登ってきた蛇が襲い掛かってきた。
「蛇だと……?!」
叫び、その意味を考えるより早く、咄嗟の動きで靴に絡みついてきた蛇を振り払う。
その拍子に最後の荷物が屋上から落下してしまったが、彼に荷物の行く先を気にする余裕はなかった。
次々に這い登ってくる蛇が彼に殺到してきたのだ。
郭正吾は船に飛び乗ることを一旦諦め、クラブ跡の中に戻っていった。
@
郭正吾をクラブの中に押し込むことに成功した久信は、姉と共に、ダメ押しとばかりに蛇を何十何百という数量でクラブ跡と、浮き足立っている幽霊船に向けて放った。
船の甲板上に現れた戦闘要員と思しき者たちが次々と這い寄る蛇の群れに接敵した。
ただの蛇と侮ってい軽くあしらおうとしていた数名が、ものの数秒で蛇の神経毒を受けて無力化させられる。
事ここに至って、ようやく彼らの間に明確な危機感が芽生えたようで、船から聞こえてくる叫び声に必死の色が混ざりはじめる。
しかしすでに数十匹の蛇が侵入した現状では――
「遅い。迎撃態勢を整えられる前に一気に叩く」
パニック映画のような様相を呈してきた船を置いて、久信はクラブ跡の方へと近づいてく。
それに付き従うようにしながら、制止することは諦めたらしい。犬が、次々と這い登っていく蛇の間を抜けて、クラブと船の間に落ちた長物の一つを咥えてきた。
郭正吾が持ってきていた荷物の一つだ。何か重要な荷物の可能性もある。中身は何なのか気になって、久信が問おうとすると、それよりも早く、犬が荷物を地面に置いて急ぎ包装を外しにかかった。
事前ににおいで正体に気付いていたのか、犬は出てきた中身について特に驚くことはなく、淡々と二人にそれを見せた。
「おい これ みろ」
犬の足元。そこには鱗のようなものが浮かび上がった人間の腕があった。
「これ……」
修実が絶句する。一瞬理解が追いつかなかった久信に、犬ははっきりと告げた。
「あいつが もってた にもつ たぶん よしみさんの うで と あし だ」
蛇の鱗を体に浮かせて硬化させる力を持っていた修実の腕。修実が町ぐるみのリンチを受けた際に切断されたそれが、今ここにどうしようもないくらい生々しく存在していた。
船の甲板上に現れた戦闘要員と思しき者たちが次々と這い寄る蛇の群れに接敵した。
ただの蛇と侮ってい軽くあしらおうとしていた数名が、ものの数秒で蛇の神経毒を受けて無力化させられる。
事ここに至って、ようやく彼らの間に明確な危機感が芽生えたようで、船から聞こえてくる叫び声に必死の色が混ざりはじめる。
しかしすでに数十匹の蛇が侵入した現状では――
「遅い。迎撃態勢を整えられる前に一気に叩く」
パニック映画のような様相を呈してきた船を置いて、久信はクラブ跡の方へと近づいてく。
それに付き従うようにしながら、制止することは諦めたらしい。犬が、次々と這い登っていく蛇の間を抜けて、クラブと船の間に落ちた長物の一つを咥えてきた。
郭正吾が持ってきていた荷物の一つだ。何か重要な荷物の可能性もある。中身は何なのか気になって、久信が問おうとすると、それよりも早く、犬が荷物を地面に置いて急ぎ包装を外しにかかった。
事前ににおいで正体に気付いていたのか、犬は出てきた中身について特に驚くことはなく、淡々と二人にそれを見せた。
「おい これ みろ」
犬の足元。そこには鱗のようなものが浮かび上がった人間の腕があった。
「これ……」
修実が絶句する。一瞬理解が追いつかなかった久信に、犬ははっきりと告げた。
「あいつが もってた にもつ たぶん よしみさんの うで と あし だ」
蛇の鱗を体に浮かせて硬化させる力を持っていた修実の腕。修実が町ぐるみのリンチを受けた際に切断されたそれが、今ここにどうしようもないくらい生々しく存在していた。