アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - コドクノオリ12

最終更新:

guest01

- view
だれでも歓迎! 編集
 姦姦蛇螺という怪談がある。
 あるところに、呪術師の一族があり、一族の中でも特に強力な力を持っていた呪術師の女性がいた。彼女は、あまりに強すぎる力をもつがゆえに、親族にもねたまれていた。そんな呪術師は、ある時、山の神を討伐してくれという依頼を受けた。
 依頼をしてきた村の住人は、呪術師の親族の手引きもあって、討伐に来た呪術師の女性の手足を切断して、弱った女性の身を山の神に捧げた。
 その捧げものを以って神を鎮めようとしたのだ。
 呪術師は山の神に食われながらも逆に山の神を乗っ取り、六臂に蛇の下半身を持つ異形、姦姦蛇螺として、自らを裏切った一族も、騙した村の住人たちも祟り殺した。
 これが姦姦蛇螺の怪談。
 修実の姿はまさに、村も親族も祟り殺した姦姦蛇螺そのものだった。

   @

 何故修実はこうも、都市伝説になりきっていないような怪談に語られる化け物と似た姿になったのか。その疑問に対して、久信は二つの理由があるのでは、という見解を持っている。
 まず一つ目は、一族の中で異常ともいえるほどの力を持ち、それが元となって組織や町の人々に殺されかけ、その過程で両手足を失ったという、修実が辿った人生が、かの怪談で語られる呪術師のそれと似ていたこと。
 もう1つが、かごめかごめの童謡には、1人の子どもを何人もの子供で囲んで歌を口ずさみながら回り、真ん中で目をつぶる子供が最後に自分の真後ろにいる人物の正体を当てる。という遊びがあり、この遊び自体に語られている都市伝説に曰く、この遊びは真ん中の子供に神霊を降ろす呪術であるというものだ。
 修実は、かごめかごめが作り出す結界の中、その場にいる全てのモノに取り囲まれて悪意を向けられ、襲われた。
 まるで、裏切りにあって袋叩きに遭う呪術師のように。
 まるで、唄を口ずさみながら、それと知らず降霊術の手順をなぞる子供のように。
 奇跡のように状況が整い、その上で蠱毒という都市伝説が自然発生したか、あるいは結界の中に閉じ込められていたモノのうちの誰かの都市伝説が暴走して、この異形は形成されたのではないだろうか。
 また、都市伝説という存在が人々の思いの力に依って存在を確立、もしくは補強する情報生命体であると仮定できるのならば、両手足を失っても尚生きる意志を捨てずに蛇を使役し続ける修実の姿に、結界の中の全員が姦姦蛇螺を想起したのではないかとも思われる。
 その場に居た皆の総意によって、蠱毒呪法という明確な形を保たない力は、失われた修実の手足としての形を持ったのではないだろうか。
 確信はないが、蠱毒という都市伝説と、その呪法に巻き込まれた者たちの状況を勘案するに、
 怪談と似通っていたこと。
 修実が怨念の溜まるアンテナ役になりやすかったこと。
 修実が蛇を使役する能力者であったため、化け物のイメージを姦姦蛇螺に統一しやすかったこと。
 これらの要素が互いに影響し合って、今の修実の姿に結晶した。というのが当たらずとも遠からずな答えだろう。
 ならば、郭に今こうして対峙する修実は、郭が偶然にも作り上げた呪術の被害者たちの恨みそのものでもある。
 恨みの対象である郭は、修実から逃げる算段をつけようとするように、視線をあちらこちらにさ迷わせている。
 対する修実は郭を見据えたまま、目線を動かす気配がない。
 無慈悲ともいえる表情を浮かべる修実の姿は、久信も間近でまじまじと見るのは初めてだった。
 以前この姿になった吉井を見たのは、姉が居た町へ彼女の安否を確認に居た時だった。
 封印を破壊したばかりで意識も朧だった彼女。久信はこの状態の姉を、姉と認識するところから始まって、修実が落ち着いて意思の疎通ができるようになり、怨念によって膨れ上がった彼女の力を抑えこむために修実の中に根付いた新たな力を極力封印し、蠱毒の影響で生成された手足も全て封じてダルマ状態になってもらうまでの間、一連の綱渡りのような事態がせわしなく続いたせいで、じっくりと彼女の姿を眺める余裕はなかった。
 月光の下、改めて見る修実の姿は、美しかった。
 長い髪が足代わりの蛇身と人の体の継ぎ目でさらさらと揺れて、六本の腕が、いずれも劣らぬたおやかさと、相手を逃す隙の無い力強さで郭を締め上げる。
「郭さん。私と、久くんの濡れ衣を晴らすために、捕まえさせていただきます」
 自分たちの目的を突き付ける修実の体からは、周囲に向けて重苦しい瘴気が放出されている。
 蠱毒の中を満たしていた、町一つを滅ぼした毒の発現だ。
「……くっ、!」
 先程まで優位に立っていた郭が、蛇ににらまれた蛙のように為す術もない状態だ。あとは捕まるだけに見えた郭だが、彼は止めず、今一度起死回生を狙ってか、唄を口ずさみ始めた。
「かごめ かごめ 」
「無駄です」
 周囲を包もうとする結界を、もはや視線一つで打ち砕いて、修実は蛇身で都市伝説の体を絡め取った。
 六つの腕で郭の東部を包み込むように締め上げて、指で喉を押えこむ修実に、郭が必死に声を絞り出す。
「ば、化け物……!」
「幼い頃からずっとあの町に居たのに、ご存じなかったのですか?
 私は、ずっとそうでしたよ」
 隻眼を見開いて叫ぶ郭へ、無理のない笑みで修実は言う。
「町の皆の仕打ちを非難なんてできませんね。今では逆に私があの人たちを皆殺しにしてしまったのですから。そう、きっと、あの事件に関わった人は、誰にも誰かを非難することはできないのでしょう。皆が被害者であり、そして、本人が意識しているのかしていないのかに関係なく、皆が加害者でもあるのですから。当然主犯である貴方には、全うすべき責任があると、私は思いますよ?」
 それなりの数はいたであろう、子供や、町の実態を知らなかった人間を無視した暴論を告げ、修実は軽く身じろぎした。
 蛇身の下から骨が砕ける乾いた音がする。その音を背景に、彼女は続ける。
「そう、ですから。その残りの目も抉り出してしまいましょうか」
 締め上げを徐々に強めながらそう口にする修実から本気の殺意を感じ取って、床に置いておかれた久信は慌てて止めに入った。
「待った修実姉! そいつからは証言を引き出さなくちゃいけないから、そこまでだ」
「多少痛めつけるくらいならばかまわないでしょう。証言ができるように、こうして喉だって潰さずに残してあるのよ?」
「修実姉!」
 修実の蛇身を殴ると、修実はそれで初めて久信の存在に気が付いたように目を瞠った。
「――ぁ」
 背をビクッと震わせ、瘴気を徐々に収めていく。
 全てを収めた後、修実は久信に目を合わせて、眉尻を下げた。
「ごめんなさい」
「いいんだよ」
 久信は正気を取り戻したらし姉の姿にほっとした。
 クラブ跡全体を内側からコーティングしていた結界が砕けていく、ガラスをくだいたような音がする。結界が砕かれたのを確認してから、修実が解放した郭は、気を失っているようだった。
「……これで、一件、落着か……」
 郭を蛇でしっかりと縛り上げた久信の耳に、犬の吠え声と、よく知る男の声が聞こえる。
「おい、生きてるか!?」
「おかげさまで……」
 警察が到着したようだった。

   @

 昌夫が、かれが使役する犬と共に結界を取り払われたクラブ跡の内部に侵入した時、捕獲目標であた郭正吾は、大量の蛇に縛り上げられて気を失っていた。
 目立った外傷は見受けられないことから、毒か何かで無効化したのだろう。
 精根尽き果てたように床に座り込んでいる友人と、それに寄り添うようにして心配そうな顔をしている、多少外見が変化した友人の姉に、労いの言葉をかけた。
「おつかれさん。結界がいきなり出てきた時はどうなるかと思ったが、どうやら決着はついたみたいだな」
「おかげさまでね。幽霊船のほうはどうなった?」
「あっちはとっくに占領されてるよ」
 相応の装備を整えていた幽霊船も、動物による奇襲に脆くも破れてしまったようで、現在は昌夫が読んできた警察の人間が、幽霊船内で無力化されている乗船員たちを運び出している最中だ。
「しばらくはあの船にかかりきりだろうな」
 昌夫は警察に対して、この建物の中に今回の最重要捕縛対象が要る事については伝えていない。協力を要請した他の部署所属の人間に手柄が渡るのを避ける、というのが世知辛い理由の一つ。もう1つの理由としては、昌夫も、友人姉弟を窮地に立たせた郭正吾という人物を一度直接見て起きたかったというのがある。そして、これは今この場に踏み入って思い浮かんだ理由だが、修実の今の姿を大勢の人間に見せずに済んでよかった、というものがある。
 いったい何の都市伝説の力で失った手足を補填したのかは昌夫には分からないが、何も知らない状態で見るには蛇身六臂の異形という姿は多少刺激の強い外見をしているのだ。
 修実をこんな姿に変えた原因が、目の前で転がっている男だという。
「これが、郭正吾か」
「そう、修実姉を媒介にして、偶然だろうけど蠱毒を作り出した原因だ」
「んでもって、例の組織がやらかしていた人身売買やら密輸やらの元締めなんだな?」
「ああ……」
 久信は、やけに疲れた調子で応じた。
 戦闘を行っていたのなら、体もそれなりに疲労もしているだろう。動作を見る限りでは、昌夫の目にはどうも久信はいくっつか骨を折っているようだ。後で久信は医務室に放り込んでおこうと考えながら、昌夫は修実を改めて見る。
 異形の姿は、確かに初見でこそ思わず身構えてしまいそうな威圧感のあるものだが、相手が意思の疎通が可能なほぼ人間のような存在であるということを念頭に置いて、落ち着いた目で見てみれば、
「きれいなもんじゃないか。修実さん」
「そんなことないわ」
 恥じ入るように修実は六本の腕で自分の体を抱いた。
 ダルマのようだった時とのギャップが純粋に衝撃だ。今の状態の方が、ダルマの時よりも、より人間らしい恰好と言えなくもない辺りもまた、出来の悪いジョークのようでもある。
「なあ、なんでずっとその姿で行動しなかったんだ? 修実さんも自分の意思で動ける分、そっちの方が何かと便利じゃないか?」
 確かに高圧的な姿をしているので。この姿の修実が敵意を持っているのを見たら化け物の来襲に見えなくもないだろう。普段から今の姿をオープンにするわけにもいかないだろうが、修実は、昌夫が知る限り、壊滅した町からここまで、一度も今の姿をとったことはない。
 今の姿をとるためには、何かの条件が必要なのか、あるいは、ただ単に目立ちすぎるのを避けようとしたのだろうか。
 修実の姦姦蛇螺状態がどのような経過を経て存在しているのかをしらない昌夫の純粋な疑問の言葉を切るように、久信が早口に言った。
「それよりも、早いところこの男をしかるべきところに連れて行って洗いざらい吐いてもらおう……。それまで安心はできない」
「おっと、そうだな。とは言ってもこいつが捕まればもうお前たちは隠れる必要もなくなるからな。これで少しは楽な生活が送れるようになるだろう。完全に容疑が晴れるまでは俺が直接身柄を預かるように計らっておく」
「ああ……よろしく……」
 応じる久信は疲れ顔だ。戦いの怪我以外にも、ここ数週間の心労が一気に出てきたのだろうか。時間が経つごとに目に見えて久信の疲労の度合いは強くなっているようにも見える。
「おい、俺の息のかかった医者がもうすぐ来る。それまで寝るな。……おい、聞こえてるか?」
「久くん……?」
 昌夫と修実の言葉にもあまり反応を示さなくなった久信は、苦しそうに数回呼吸をした後、
「任せた」
 小さく言って、ほっとしたように息を長く吐いた。
 今にも眠りに落ちてしまいそうな久信に、昌夫は言い聞かせるように言葉をかける。
「おい、お前はよくやったよ。だからもう少しがんばれ」
「俺は……結局何もできなかった……でも、これで、追われることもなく、修実姉と、一緒に帰れる」
「そうよ久くん。一緒に帰りましょう」
「うん……」
 久信は修実の手に触れた。
「一緒に帰りたいな……」
 そう呟いた久信は、糸が切れた人形のようにその場に倒れてしまった。
「おい、久?」
 慌てて久信の体を抱き上げた昌夫は、久信の体がありえない程に冷たくなっていることに初めて気付いた。
「おい?! 久、お前どうした?!」
 呼びかける昌夫の横で、うめき声があがった。
「あ……あ……ッ」
「修実さん?!」
 何事かと慌てる昌夫の傍で、修実は取り乱した上ずった声で言う。
「ど、どうしよう……私の……私のせいだ。ああ、どうしよう。私の、私の、わたしのせいだ……!」
 呻きながら、修実は久信に取りすがる。
「久くん? 久くん!? ねえ、久くん、起きてよ、ねえ?!」
 危うく震える声で何度も呼びかけられるが、久信は反応する気配を見せない。
 かろうじて息をしている、というのは分かる状態で、昌夫は医者の早い到着を祈りながら、半ば茫然と、友人姉弟を眺めていた。






タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー