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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - コドクノオリ13

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 どこかで誰かが泣く声が聞こえた。
 その声は、ただただ、何度もごめんねと謝り続けている。
 久信は、その声を知っていた。その声の主がいつだって独りで泣いていたこともだ。その人が他人に自分が開いている姿を見せることがなくても、彼女はずっと泣いていたということを、久信は知っていた。
 ……泣かないで。
 そう思うことも、もう何度もしていた。ただそう思うだけでは無意味で、言葉にすればするほど、彼女は完璧な微笑を身に付けてしまって久信にもやがてその真偽を見抜くのが難しくなってしまったから、いつしかそれを口にすることをやめていた。
 ただ、泣かないでと、泣かせたくないと、泣かせなくても済むようにしたいと、そう思うことはずっとずっとやめることはなかった。
 そして、それを実現するために努力を重ねてきた。
 だが、そうやって一つ一つ出来ることを増やしていくうちに、その人もまた、出来ることが増えていく。
 一向に近付くことのない背中。
 近付くどころか、時間が経つごとに遠く離れて行ってしまうとすら感じていたその背中を、それでも追うことを諦めきれず、久信はその人に追いつくための努力を続けた。
 優しいあの人が壊れてしまう前に、その隣に居て、涙を拭って止めることができる家族になれればいいと、そう思った。

   @

 目を覚ました久信は、仰向けの姿勢のまま、白い天井で煌々と輝く蛍光灯の光をぼやけた視界でしばし見つめた。後をひくような、ねっとりとした疲れを感じる。その不快感に眉をしかめながら、久信は体を起こした。胸の辺りに走る痛みに小さく呻く。
「ここは……?」
「おはようさん」
 声に続いて椅子を動かす音がした。
 ぼうっと前方を眺めていた視線を音がした方に動かすと、そこには一仕事してきた後なのか、薄汚れた白いシャツを着た、短髪の、久信と同じ年のはずなのに妙に老け込んで見える男、昌夫がいた。
「おや、目が覚めたかね。肋骨数本にヒビが入っているのに五時間で起床とは、若いのう」
昌夫に気付いて、声をかけてきたのは、白衣を着た初老の男だ。こちらとは面識がない。
 久信は自分の体が特に拘束されていないことを確認してから、昌夫に問いかけた。
「ここはどこだ?」
「ここは医務室。お前は郭をひっとらえた後でいきなりぶっ倒れたからな。勝手で悪いが、ここに連れてこさせてもらった。今はもう深夜だな」
「ずいぶんと体温が下がっておったが、君の体に今のところは肋骨のヒビ以外の後遺症らしきものは見られない。元々毒に耐性がある都市伝説とでも契約しておるのかな?」
 医者が昌夫の言葉を引き継ぐ形で現状の久信の体の状態を説明する。さしあたって、今のところは体に危険はないようだ。この体の疲れも危険なものではないらしい。
「こいつは爬虫類系だからな。体温が下がったくらいじゃ死なねえよ」
「なるほど、とはいえ、体力のほうがずいぶん下がっておるし、数日はゆっくりしておくことじゃな」
 医者の発言からすると、どうやらこの疲れは体力を使い果たしてしまったためらしい。
 と、そこまで考えて、久信は一つの疑問を感じた。
 ……毒?
 医者は元々毒性がある都市伝説と契約しているのかと言った。ということは久信は毒に冒されていたということであるが、肋骨についてはともかく、何かの毒を郭に盛られたという記憶がない。
 だとしたら、俺はいつ毒を盛られたんだ……?
 頭の中で疑問を転がしながら、久信は、こうして自分たちの事情をよく知らない第三者が居ても自由を拘束されていないところを見ると、自分たちに対する討伐手配が取り下げられたということでいいのだろうと考える。
 ならば、と確認をとるつもりで問う。
「昌夫、討伐命令はどうなった?」
「おう、郭をとっ捕まえて〝組織〟に送り付けてやったからな。事情はもう報告してあるから、お前たちは討伐対象から監視処分に格下げだ」
 昌夫は笑い、
「ちなみに、監視役は俺な。そうなるようにあの場にいた密輸組織を一網打尽にした功績とか、代々続く憑き物筋の家系の権力ってのを利用してやった」
「ああ、なるほど」
 町一つを滅ぼした者に対する処分としてはやけに甘い決定だと思ったら、そういう裏があったようだ。
 また盛大に動いてもらったわけだ。
 その事も込みで、今回の件に対するお礼をしなければなるまい。もとより昌夫の仕事を手伝うつもりではあったので、監視役が昌夫というのは好都合だ。
 ああ、これで、ひとまずなんとかなった。
 自分たちの処遇が決まったことで、久信はようやく人心地ついた。
「何とかなったね、修実姉――」
 言いかけて、自分が今いる医務室の中に修実の姿がないことに気付く。
「昌夫、修実姉はどこに行ったんだ?」
「修実さんはな……」
 昌夫は質問に対して少し考える素振りを見せ、やがて伺うように質問を返してきた。
「なあ久信。お前、自分がなんで倒れたかってこと、分かるか?」
「は?」
 返された質問に怪訝な顔をしながら久信は正直に答えた。
「いや、いまいち分からない。さっき、そっちの医者は俺が毒にやられた。みたいなことを言ってたけど、俺はいつの間に郭に毒を盛られたのか覚えがないんだ」
 怪しいとしたら、彼が持っていたあの手斧だ。刃に毒を塗ってあったのではないかと考えるが、その斧の攻撃は全て修実が盾になって受けていたため、これが原因で毒を盛られたということはありえない。
 だとしたら、次に怪しいものは、
「そうだな。心当たりといえば、毒をあの結界の中に撒かれていたのかもしれないなってことくらいか」
 郭が展開していたかごめかごめの結界の中に充満していたあの甘ったるい、香のようなもの。あの香の中に紛れて、あるいはあの香自体が毒だったのかもしれない。
 能力の行使のし過ぎで体力が尽きてしまったために、毒が一気に体に回ってしまったのではないか。実際、体力を削られすぎたせいで現在も体が引きずるように重い。
「どう? 正解?」
 訊ねると、昌夫は「いいや」と首を横に振った。
「お前、瘴気に中てられたんだよ」
「瘴気?」
「ああ、修実さんの中から溢れた毒に、だ」
「――え?」
 頭が、真っ白になった。
「どういうことだ? 瘴気はもう修実姉が収めたはずだぞ?」
 昌夫に詰め寄ると、医者が横から久信を落ち着けるためにか、ゆっくりとした、落ち着いた口調で話す。
「君のお姉さん、だったかな? 彼女は強力な毒を持っている。おそらくは君の方がより詳しいのだろうが、呪詛、という毒だよ。そして、弟の君にまで被害が及んでいるということは、どうやら君のお姉さんはその毒を自分の思う通りに制御できていないとみて、まず間違いないだろう。
 制御の利かない毒は君が言った通り、収められはしたようだけれど、結局のところ、一度は毒は漏れ出していた。それは収められたからといって何もなかった事にできる類の事象ではない。そして、その溢れた毒はしっかりと影響を周囲に与えていた。今回の場合は、お姉さんの近くに居たという君と、君や昌夫君が捕まえたという郭正吾という男。それと、あの場においてお姉さんに敵意を向けられていた、密輸船に乗っていた船員たち。これら全員が瘴気に中てられておったよ」
「……抑えきれない……毒……?」
 真っ白になった頭の中で、その言葉が頭の中で引っかかった。
 そのキーワードで想起されるのは、修実の中にある都市伝説のことだ。
「……毒って、修実姉の中の蠱毒のことか?」
「ああ、お前が倒れた時、修実さんがものすごく取り乱していてな。どうも、修実さんは自分の中にある抑えきれない毒についてはある程度気付いていたみたいだ。だからこそ、ずっとダルマ女のような状態でいたらしいな。全部、修実さん本人が話してくれたよ」
 あの場で倒れた後、事の顛末を見た昌夫が言うには、姦姦蛇螺としての正体を現した修実から漏れ出ていた瘴気は、修実が抱いた敵意に反応してある程度の指向性をもって周囲に広がったらしい。
「指向性はあったとはいえ、まず瘴気が襲い掛かったのは近くに居た生き物だな。お前、蛇がほどんど死んでいたのには気づいたか?」
「そういえば、郭と戦ってる時、蛇の気配が周りから消えてたな……」
 戦闘に集中していて蛇のことが意識から外れていたせいで蛇たちの気配を感じなかったわけではないらしい。
 壊滅した町の中で修実を見つけてお互いを認識できた時あの姦姦蛇螺の状態からすぐに両手足を失った姿になって、久信に自分の体を運んで欲しいと彼女が頼んできたことを思い出す。
 姦姦蛇螺の姿はどうしても目立つのと、蠱毒の内で行ったことを喧伝しているかのようなこの姿をあまり晒したくないからと修実は説明していたが、それ以外にも、制御の利かない蠱毒の瘴気の件が理由としてあったのだろう。
 修実は蠱毒と契約しているわけではない。誰も意図しないままに生まれた毒を暴走させないように修実が自分の身の内に収めて抑え込んでいただけだ。そうやって何とか抑え込んでいた毒を、修実はあのクラブ跡に侵入した時に久信や自身を守るために開放することになってしまった。
 極限状態で解放された蠱毒の力を制御しきることは修実にはできず、蠱毒から溢れた瘴気は近くにいた生き物に襲い掛かった。当然、それは最も近くで修実の戦闘を見ていた久信をも蝕んだ。
 そして久信は倒れたのだ。
 ……なるほどな。
 自分がなぜあそこで倒れる結果になったのかはこれではっきりとわかった。驚きはしたが、今の修実の状況を鑑みればそのようなことが起こっても不思議はない。それに、その蠱毒の力によって久信は今こうして生きていられるし、目を覚ました久信は特に後遺症のようなものもない。
 ……早く会って、俺は元気だと言ってやらなくちゃな。修実姉はきっと心配してる。
 早く姉に元気な姿を見せて気にすることはないと言いたい。
「なあ、昌夫、いい加減教えろ。修実姉はどこに居る?」
 訊ねると、昌夫は悲しそうな顔をした。
「今、修実さんはどっかに姿を消そうとしている」
「え?」
「今回の件で自分が周囲、特にお前を害する危険があることを知って、思うところがあったらしい」
「な――」
 久信の表情が凍り付く。
 でも、と呟いて、久信は言う。
「それならまた両手足を無くした状態にもう一度なれば……」
「だめだ。そうも今回、一度溢れてしまったせいで蠱毒が活性化しているらしい。もう制御がほとんど効かなくなっているみたいだ。気を抜くと毒が溢れてしまいそうで、もう半分くらいは自分のものになってるあの腕を抑えることによって修実さん自身の力が抑えられると、蠱毒の制御どころか、蠱毒に自分の全てを乗っ取られるかもって話だ」
「そんな……」
「お前も、あと郭も、幽霊船の奴らもだな。どんな毒でも解毒できるユニコーンの角の粉末でなんとか命は繋いだけどな。あのままだったらお前もあの男も死んでたし、結界を挟んでいたのに修実さんに敵意を向けられただけで瘴気に冒された密輸船の奴らもやばかった。だからこそ、修実さんは自分の危険性を悟っていなくなったんだろうよ」
 昌夫は諦めたように言葉を投げた。
「昔と同じだよ。制御できない力を自分の中に持っちまった修実さんの傍に居ることは、誰であろうとできない」





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