「あれが、人の心を保ったまま飲み込まれた事が、幸であるのか不幸であるのかは、我にはわからん」
「ただ、あれは今でも愛されているのだろうし、あれもまた忘れてしまってはいるが根底では愛しているままなのだろうな」
「とうとうたらり たらりら」
「一ツ眼の鬼灯」等と、一部では呼ばれる男が、再び学校町へと姿を現す前
「たらりあがり ららりとう」
「狐」の情報を追いかけ、追いかけ、日本どころか世界中を回っていた頃の事
「ちりやたらり たらりら」
かつて人間であったが、今は人ではなくなったこの男は
「たらりあがり ららりとう」
ただ、「狐」を追い続けていただけではなく
時として、騒動も起こしてしまっていたのだが
時として、騒動も起こしてしまっていたのだが
果たして、当人はそれをどの程度まで、覚えているのだろうか
その街で一番大きな桜の木
公園のど真ん中のそこに、鬼灯はいた
三味線を傍らにおいたまま、桜の木の根本辺りをゆっくりと歩き回りながら、静かに何やら口遊む
公園のど真ん中のそこに、鬼灯はいた
三味線を傍らにおいたまま、桜の木の根本辺りをゆっくりと歩き回りながら、静かに何やら口遊む
「とうとうたらり たらりら」
意識して口にしている訳ではないらしい
目を閉じて手にした煙管タバコからゆらゆらと煙を登らせながら、思考を泳がせ口遊む
目を閉じて手にした煙管タバコからゆらゆらと煙を登らせながら、思考を泳がせ口遊む
「たらりあがり ららりとう」
誰に聞かせる訳でもないそれが、静かに風に流される
それは流され、ただ消える
それは流され、ただ消える
「ちりやたらり たらりら ………」
「変なお歌ー」
「変なお歌ー」
消える、はずだった
かけられた声に、鬼灯は閉じていたまぶたを開いた
いつの間にやってきたのだろうか、小さな男の子がそこにいた
何やら、チラシのような物を持った男の子は、鬼灯をじっと見上げていた
かけられた声に、鬼灯は閉じていたまぶたを開いた
いつの間にやってきたのだろうか、小さな男の子がそこにいた
何やら、チラシのような物を持った男の子は、鬼灯をじっと見上げていた
「おじさん、お顔けがしてるよ?おめめ、痛くないの?」
「あ?……あぁ。こりゃ古い傷だ。今はもう、痛くねぇさ」
「あ?……あぁ。こりゃ古い傷だ。今はもう、痛くねぇさ」
左目の傷を指摘され、鬼灯は笑った
まだ「人間」だった頃の傷。傷跡こそ残っているが、今は痛みなどない
何故、このような傷を負ってしまったのか忘れてしまう程に、遠い遠い昔に負った傷なのだから
まだ「人間」だった頃の傷。傷跡こそ残っているが、今は痛みなどない
何故、このような傷を負ってしまったのか忘れてしまう程に、遠い遠い昔に負った傷なのだから
だからこそ、鬼灯は己の顔の傷等より、気になるものがあった
「で?坊主。お前さんは、その傷、痛くないのか?」
「え?えっと……」
「え?えっと……」
そう
その男の子は、怪我をしていた
長袖の服を着ているせいでわかりにくいが、服の下のあちらこちらに傷があるのだ
それは、まるで
その男の子は、怪我をしていた
長袖の服を着ているせいでわかりにくいが、服の下のあちらこちらに傷があるのだ
それは、まるで
(……虐待か)
煙管タバコを持つ指先に、ほんの僅か、力がこもる
何かが、燻るような感覚
何かが、燻るような感覚
「えっと、えっとね………い、痛くないよ、大丈夫!」
鬼灯に問われた男の子は、笑った答える
その笑顔が、必死に作り出したものであろう事は容易に想像できた
その笑顔が、必死に作り出したものであろう事は容易に想像できた
ーーーーーーピシッ
「…?」
何か聞こえたのだろうか
男の子は、きょろきょろと辺りを見回して首を傾げた
鬼灯は、そんな男の子をじっと見下ろし
男の子は、きょろきょろと辺りを見回して首を傾げた
鬼灯は、そんな男の子をじっと見下ろし
……何かの気配に気づいたのか、空を見上げた
そうして、舌打ちする
そうして、舌打ちする
「………坊主、「呼ばれた」な?」
「え?」
「あー、迂闊だった。もっと早く気づくべきだったな。こんな時間に、坊主みてぇなのが外に一人でいる事自体が異常なんだ」
「え?」
「あー、迂闊だった。もっと早く気づくべきだったな。こんな時間に、坊主みてぇなのが外に一人でいる事自体が異常なんだ」
空は、雲ひとつなく……ぽっかりと、月が浮かんでいた
そう、今の時刻は夜
こんな小さな子供が出歩く時刻などでは、ない
そう、今の時刻は夜
こんな小さな子供が出歩く時刻などでは、ない
(虐待している親だったら、夜中に子供を放り出した、という可能性もあったが……)
違う
この子は「呼ばれた」のだ
感じるその気配に気づき、鬼灯の表情が険しくなる
この子は「呼ばれた」のだ
感じるその気配に気づき、鬼灯の表情が険しくなる
ーーーーーービキッ
「あれ、また……」
男の子は、聞こえた音に首を傾げる
それが何の音であるのか、男の子にはわからなかった
何かにヒビが入った音に似ている、が、違う
それが何の音であるのか、男の子にはわからなかった
何かにヒビが入った音に似ている、が、違う
「呼ばれた」な、と、鬼灯に言われたその理由を、男の子は薄ぼんやりと理解していた
夕暮れ頃、親に家から叩き出されて、けれど外で泣いていた事が親にバレるととても痛い事をされる為、泣くのをこらえていた時
夕暮れ頃、親に家から叩き出されて、けれど外で泣いていた事が親にバレるととても痛い事をされる為、泣くのをこらえていた時
声をかけられたのだ
賑やかな、賑やかな音楽と共に
賑やかな、賑やかな音楽と共に
『君もおいでよ!』
渡されたのは、サーカスのチラシ
渡してきたのは、優しそうなピエロだった
渡してきたのは、優しそうなピエロだった
『楽しい楽しい、夜のサーカスに君もおいでよ!』
行きたい、と思った
でも、行くことはできないだろうな、とも思った
きっと、おかあさんと、おかあさんの「おとこ」は許してくれないから
でも、行くことはできないだろうな、とも思った
きっと、おかあさんと、おかあさんの「おとこ」は許してくれないから
けれど、自分は夜になって、家から出た
夜中に、勝手に外に出ようとすると見つかって、痛い事をされるはずだったのに、不思議と見つかる事もなく
チラシを手に、サーカスへと行こうとして
夜中に、勝手に外に出ようとすると見つかって、痛い事をされるはずだったのに、不思議と見つかる事もなく
チラシを手に、サーカスへと行こうとして
『とうとうたらり たらりら』
聞こえてきた声に、足が止まって
桜の木の下に居たその男に、近づいて……
桜の木の下に居たその男に、近づいて……
「……坊主、下がってろ」
ゆらり、と
鬼灯の体が揺れる
現れたそれらを、鬼灯はまっすぐに睨みつけていた
鬼灯の体が揺れる
現れたそれらを、鬼灯はまっすぐに睨みつけていた
それは、サーカス
サーカスのテントと、サーカスの団員逹が、そこにいた
先程まで確かにいなかったはずだと言うのに、それはそこに現れていたのだ
サーカスのテントと、サーカスの団員逹が、そこにいた
先程まで確かにいなかったはずだと言うのに、それはそこに現れていたのだ
「「サーカスが子供をさらう」。あぁ、サーカスに売られる、って話の別パターンだな。また現れ始めたか。あぁ、鬱陶しい」
苛立ちを含んだ声で、鬼灯はサーカス達を睨みつける
男の子は……怯えていた
夕暮れ時、チラシを渡してくれた優しそうなピエロ
それは、今、男の子の事を獲物を見るような目で見ていた
男の子は……怯えていた
夕暮れ時、チラシを渡してくれた優しそうなピエロ
それは、今、男の子の事を獲物を見るような目で見ていた
「何、あれ……」
「都市伝説。それも、子供をさらって自分の一部にするような奴だ。そうして、取り込めば取り込む程に力を増す。いつぞやの「夢の国」を思い出す」
「都市伝説。それも、子供をさらって自分の一部にするような奴だ。そうして、取り込めば取り込む程に力を増す。いつぞやの「夢の国」を思い出す」
空気が震える
男の子は、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった
男の子は、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった
けれど、足が動かない
まるで、地面に吸い付いてしまったかのように、動くことができない
ピエロ逹サーカス団を「恐ろしい」と感じながら、目をそらすことができない
まるで、地面に吸い付いてしまったかのように、動くことができない
ピエロ逹サーカス団を「恐ろしい」と感じながら、目をそらすことができない
不気味に笑うピエロ
ぐにゃぐにゃと、タコのように柔らかな体を持つ男
ナイフをジャグリングする少年
玉乗りする愛らしい犬
ライオンを引き連れた妖艶な美女
ぐにゃぐにゃと、タコのように柔らかな体を持つ男
ナイフをジャグリングする少年
玉乗りする愛らしい犬
ライオンを引き連れた妖艶な美女
みんな、みんな
男の子を、獲物を狙う目で、見つめる
男の子を、獲物を狙う目で、見つめる
「坊主、あのサーカスに行きたいか?」
鬼灯の、その問いに
「……や、だっ、嫌だ……!」
声を絞り出し、男の子は答えた
嫌だ。嫌だ
あんなモノのところには、行きたくない
嫌だ。嫌だ
あんなモノのところには、行きたくない
家に帰るのも嫌だけれど、あれについていくのも、絶対に嫌だった
男の子の言葉に、鬼灯はほんの少しだけ、ほっとしたように笑った
「あぁ、それでいい……さぁて、坊主は嫌がっている。それでも、連れていくのか?」
鬼灯が、今度はサーカス団に問うた
その問に、サーカス団は言葉では答えない
ただ、声ならぬ声を発しながら、殺意をのせて鬼灯と男の子へと迫った
その問に、サーカス団は言葉では答えない
ただ、声ならぬ声を発しながら、殺意をのせて鬼灯と男の子へと迫った
ーーーーッミシ、ミシ、ミシ
「あぁ、そうかい、そうだろうな。獲物を逃がすわけがねぇよなぁ、てめぇらは」
バキッ、と
鬼灯は手にしていた煙管タバコをへし折る
鬼灯は手にしていた煙管タバコをへし折る
「あぁ、そうか、そうか………お前も「同じ」か、連中と同じか……………お前も奪うのか、あいつらのように奪うのか」
ーーーービシッ、ピキッ、ミシミシ……ッ
先程から聞こえていた、音が
鬼灯から聞こえてきていた音なのだと、男の子はようやく気づいた
鬼灯から聞こえてきていた音なのだと、男の子はようやく気づいた
「……どうせ、また「見ている」だろっ!その坊主、連れて行け!」
「………仕方ないなぁ。君が連れていけばいいじゃないか」
「………仕方ないなぁ。君が連れていけばいいじゃないか」
ぽんっ、と
誰かに肩を叩かれて、びくり、男の子は体をはねらせた
男の子の背後に、いつの間にか姿を現していたのは、女の人のようだった
顔は……見えない
ぼんやりとしていて、よくわからない
誰かに肩を叩かれて、びくり、男の子は体をはねらせた
男の子の背後に、いつの間にか姿を現していたのは、女の人のようだった
顔は……見えない
ぼんやりとしていて、よくわからない
「私に任せても、「首塚」へと預けるくらいしかできないんだよ。現状、一番安全なのはあそこだから………と、言っても」
女の人は、はぁ、とため息を付いて
きゅ、と、優しく、男の子の手を握った
きゅ、と、優しく、男の子の手を握った
「行こう。頼まれたからには、君を連れていかないとね。安全な場所へ」
「え、ぁ、で、も……」
「彼なら心配いらないよ。あぁして、「プッツン」したら、そう簡単には止められないから」
「え、ぁ、で、も……」
「彼なら心配いらないよ。あぁして、「プッツン」したら、そう簡単には止められないから」
サーカス団員逹が、あと、一歩という所まで、鬼灯へと迫る
女の人は、その様子から視線をそらし、男の子の手を引いて歩き出す
手を引かれると、先程まで動かなくなっていた足はいつの間にか動き出して
何も見えない、暗い先へと手を引かれていく
女の人は、その様子から視線をそらし、男の子の手を引いて歩き出す
手を引かれると、先程まで動かなくなっていた足はいつの間にか動き出して
何も見えない、暗い先へと手を引かれていく
「「狐」絡みで苛立っていたところに、彼の大嫌いな要素がてんこ盛りできたんだ。そりゃあプッツンするだろうよ。と、言うか、君のその状態を見て、よく、即座にプッツンしなかった。ちょっとは昔よりマシになったかな」
「え、えぇと……」
「え、えぇと……」
わけがわからなかった
男の子は、この状況を何一つ、理解できなかった
男の子は、この状況を何一つ、理解できなかった
辛うじて、薄ぼんやりとわかるのは
女の人に、自分は助けられようとしている事
女の人に、自分は助けられようとしている事
「おねえさんは、誰……?」
「私かい?…名前はないんだよ。鬼灯は、彼女らとは違って私には名前をくれなくてね。だから、私はただの「神隠し」でしかないんだよ」
「私かい?…名前はないんだよ。鬼灯は、彼女らとは違って私には名前をくれなくてね。だから、私はただの「神隠し」でしかないんだよ」
すまないね、と女の人は苦笑する
女の人と共に、先の見えない暗闇へと足を踏み入れていると……背後から、轟音が鳴り響いた
そして、絶叫のような……悲鳴のような、声
女の人と共に、先の見えない暗闇へと足を踏み入れていると……背後から、轟音が鳴り響いた
そして、絶叫のような……悲鳴のような、声
「振り向いてはいけないよ」
女の人は、男の子に優しく言う
「あぁなった鬼灯は、鬼灯であって、鬼灯ではないのだろうからね」
言葉の意味はわからなかった
ただ、振り向いたらいけないのだと、そう言われて言うとおりにして
男の子は、そのまま暗闇の向こう側へと……………神隠しされた
ただ、振り向いたらいけないのだと、そう言われて言うとおりにして
男の子は、そのまま暗闇の向こう側へと……………神隠しされた
翌朝、一人の男の子が行方不明となり、その母親が児童虐待の罪にて逮捕された
匿名の通報があったらしい
男の子は、結局行方はわからぬままだった
匿名の通報があったらしい
男の子は、結局行方はわからぬままだった
そして、もう一つ
公園に、巨大な………地面から、何かを引っこ抜いたような痕が残っていたらしいが
その事実は、いつの間にか誰の記憶からも、忘れ去られていたという
公園に、巨大な………地面から、何かを引っこ抜いたような痕が残っていたらしいが
その事実は、いつの間にか誰の記憶からも、忘れ去られていたという
「あれは、「通り悪魔」なんぞと契約した癖に、何と言おうか……あぁ、いや、だからこそ、「通り悪魔」とも契約したのだろう。相性も良いのだろうよ」
「恐らく、あれには善や悪といった括りなど意味あるまい」
「だからこそ、我らに親しい存在へもなれたのだろうだから」
to be … ?