何かが、自分の中に入り込んできた
そんな、錯覚
そんな、錯覚
……いや
錯覚では、ない
何かが、自分の中に入り込んできたのだ
繰はそれを自覚した
錯覚では、ない
何かが、自分の中に入り込んできたのだ
繰はそれを自覚した
聞こえない
ディランが、自分に何か話しかけてきているはずなのに
その声が……聞こえない
ディランが、自分に何か話しかけてきているはずなのに
その声が……聞こえない
『……なんだ、生意気な。抵抗するか』
自分の中から声が聞こえてくる、気味の悪い感覚
知らない女の声が、響く
若い女の声のような、その癖して年寄りのような、わけのわからない声
知らない女の声が、響く
若い女の声のような、その癖して年寄りのような、わけのわからない声
『光栄に思うがいい。お前のその肉体、このリリスが使ってやるのだぞ』
……りりす?
何それ、知らない
偉そうに、一体、何なのだ
何それ、知らない
偉そうに、一体、何なのだ
『ふん、まだ未使用か………まぁ、いい。若い方が、長く扱えるからな』
長く使うとか、どういう事だ
意味がわからない、わかるように、言え
意味がわからない、わかるように、言え
『小娘、今より、お前の肉体………この夢魔の女王、リリスが扱ってやる』
びくんっ、と
己の体が跳ねたのが、わかる
己の体が跳ねたのが、わかる
自分の意思に逆らって動こうとする体
繰は、それを必死に抑え込む
抑え込まなければ、取り返しのつかない事になってしまうような、そんな気がして
繰は、それを必死に抑え込む
抑え込まなければ、取り返しのつかない事になってしまうような、そんな気がして
『抵抗する必要なぞない。お前のその溜めこんだ欲求、妾がすべて解放させてやろう』
欲求?
何の事だ?
何の事だ?
『……抱かれたいであろ?この男に』
すぅ、と
見えない誰かが、ディランを指差した気がした
見えない誰かが、ディランを指差した気がした
『一度、肉の欲を知ってしまえば。一度だけでは足りぬだろう、一人だけでは足りぬだろう』
じわり、じわりと
入り込んできた、何かが
体を、乗っ取ろうとする
入り込んできた、何かが
体を、乗っ取ろうとする
『なぁに、何も考えずとも、良い。ただ、妾に任せればいい、そうすれば』
楽になれるぞ?
誘惑してくる声
じわじわと、己の精神が圧迫されていく
じわじわと、己の精神が圧迫されていく
----このままでは、肉体の支配権を乗っ取られる
抵抗しようとしたが、具体的にどうすればいいのか、わからない
勝手に動こうとする体を押しとどめるので、精一杯だ
目の前のディランが何か言い続けてくれているのに、その声が聞こえない
勝手に動こうとする体を押しとどめるので、精一杯だ
目の前のディランが何か言い続けてくれているのに、その声が聞こえない
ただ
内側から響く、気味の悪い声
それだけが、聞こえて
内側から響く、気味の悪い声
それだけが、聞こえて
聞こえない
ディランの声が
聞こえ、な
ディランの声が
聞こえ、な
後少しで、この少女の肉体を乗っ取ることができる
思った以上に抵抗された
リリスは、小さく舌打ちする
思った以上に抵抗された
リリスは、小さく舌打ちする
だが、あと一息
人間の精神など、所詮こんなものだ
人間の精神など、所詮こんなものだ
繰の肉体の中、精神の中で
リリスは、その中核に納まろうとする
そうすれば、この肉体はリリスが操る事になる
……今まで、リリスが使い捨ててきた、女たちのように
リリスは、その中核に納まろうとする
そうすれば、この肉体はリリスが操る事になる
……今まで、リリスが使い捨ててきた、女たちのように
あと、少し
リリスが、繰の肉体のその中核に、納まろうとして
リリスが、繰の肉体のその中核に、納まろうとして
「……さぁ、妾にその肉体、明け渡せ。楽にしてやろう」
ゆっくりと、言葉を吐きながら
そこに、手を伸ばして
そこに、手を伸ばして
『---------い』
「うん?」
声が
繰が……声を、出す
繰が……声を、出す
『----さっきから、訳わかんない事言ってんじゃないわよ、煩いっ!!!先生の声が聞こえないから、黙ってろっ!!』
「-----っな!?」
繰の、その叫びと、共に
リリスは、繰の中から、弾き飛ばされた
リリスは、繰の中から、弾き飛ばされた
ぱぁんっ!!と
空気がはじけたような音が、響いた
空気がはじけたような音が、響いた
雪が降り積もった道の上に、べしゃ、とその女は倒れこむ
「……っ馬鹿な…………妾の支配に抗った、だと……!?」
それは、肌も露わな淫らな装束に身を包んだ、女だった
角を、翼を、尾を生やした、悪魔じみた姿の女
夢魔の女王、リリス
ゲルトラウデと言う女の肉体を乗っ取り、そして、つい今しがた繰の肉体を乗っ取ろうとして失敗した存在
角を、翼を、尾を生やした、悪魔じみた姿の女
夢魔の女王、リリス
ゲルトラウデと言う女の肉体を乗っ取り、そして、つい今しがた繰の肉体を乗っ取ろうとして失敗した存在
「お前が、元凶か」
ざ、と
ユニコーンが、リリスに角を向ける
……ゆっくりと、リリスは辺りを見回した
ユニコーンが、リリスに角を向ける
……ゆっくりと、リリスは辺りを見回した
繰は、肩で息をした状態で、ディランに支えられている
…リリスに体を乗っ取られる事なく、抵抗しきって見せたのだ
そうとう、体力を消耗している事だろう
ディランは心配そうに、繰を見つめている
…リリスに体を乗っ取られる事なく、抵抗しきって見せたのだ
そうとう、体力を消耗している事だろう
ディランは心配そうに、繰を見つめている
ヘンリーは、パスカルと共にユニコーンの背に乗ったままだ
…やや、顔色が、悪い
その理由を察して、リリスは口元に笑みを浮かべた
…やや、顔色が、悪い
その理由を察して、リリスは口元に笑みを浮かべた
……自分は、このまま死ぬだろう
ユニコーンの角に貫かれて死ぬだろう
ユニコーンの角に貫かれて死ぬだろう
ここまで追い詰められては、逃げも隠れもできない
最後のあがきも、失敗したのだから
最後のあがきも、失敗したのだから
だから
これは、最期の嫌がらせ
目の前の、この騎士気取りの男の精神を
叩き折ってやろうじゃないか
これは、最期の嫌がらせ
目の前の、この騎士気取りの男の精神を
叩き折ってやろうじゃないか
あの落ちこぼれにすら負けてしまった自分の、最期の大仕事
せめて
エイブラハムを殺しうる可能性を持つ能力を持った奴に
これ以上、邪魔をさせてなるものか
せめて
エイブラハムを殺しうる可能性を持つ能力を持った奴に
これ以上、邪魔をさせてなるものか
「…妾を殺すか、「乙女の騎士」よ」
「………」
「………」
…ヘンリーの体が、小さく震えている
恐らくは、すでに理解しているのだろう
先ほど、リリスがやろうとした事を見て
恐らくは、すでに理解しているのだろう
先ほど、リリスがやろうとした事を見て
だが、どこかで否定したがっている
それを受け入れれば、その心はどれだけ傷つくだろうか
それを受け入れれば、その心はどれだけ傷つくだろうか
「…お前は、あぁやって……女性にとり憑いて、操り続けていたのか」
「あぁ、その通り………なぁに、その肉体の精神を殺すなんて残酷な事はしない、生かしてやっていたさ。もっとも、肉体の支配権を返してやるなんてことはしなかったがな」
「よけいにタチ悪いじゃねぇか」
「あぁ、その通り………なぁに、その肉体の精神を殺すなんて残酷な事はしない、生かしてやっていたさ。もっとも、肉体の支配権を返してやるなんてことはしなかったがな」
「よけいにタチ悪いじゃねぇか」
あぁ、そうだ
ヘンリーの後ろにいるパスカルの言うとおりだ
それは、余計に残酷な行為
ヘンリーの後ろにいるパスカルの言うとおりだ
それは、余計に残酷な行為
己の意思に反して動き続ける体
リリスにとり憑かれ、使い捨てられてきた女達は
どれだけの絶望を、恐怖を抱いて、死んでいっただろうか
リリスにとり憑かれ、使い捨てられてきた女達は
どれだけの絶望を、恐怖を抱いて、死んでいっただろうか
「そうだなぁ、滑稽だったよ、どいつもこいつも。妾がその肉体を使ってやったのだ、光栄に思えと言うのに」
くっく、と
リリスは笑う
まっすぐにヘンリーを見つめ、邪悪に、邪悪に笑う
リリスは笑う
まっすぐにヘンリーを見つめ、邪悪に、邪悪に笑う
「……あぁ、一番滑稽だったのは、あの女だ。実の息子を、その肉体で犯してやろうとした時に伝わってきたあの絶望感!!素晴らしかったぞ!」
「------っ」
「------っ」
ヘンリーの顔が、さらに青ざめる
そうだ
あの瞬間を、思い出せ
あの瞬間を、思い出せ
「あぁ、滑稽だったよ」
「…………止めろ」
「…………止めろ」
ヘンリーが、震えた声で言ってくる
だが、リリスは構わずに
高らかと、告げた
高らかと、告げた
「実に滑稽だったよ!!実の息子が、その姉と己を、連れてきた純白のユニコーンの角で貫かせ、殺してきた時の、あの女の絶望と恐怖はなぁ!!!」
胸元に感じた、衝撃
ユニコーンの鋭く太い角が、リリスの体を貫いた
ユニコーンの鋭く太い角が、リリスの体を貫いた
……意識が消える間際、ヘンリーのその表情を、見て
リリスは満足げに笑って、その意識を、肉体毎消滅させたのだった
リリスは満足げに笑って、その意識を、肉体毎消滅させたのだった
to be … ?