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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-03b

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


カシマさん(後編)


あれから一週間が過ぎた
いつもとほとんど何も変わらない日々だった

マスターはいつもの様に失敗をし
姫さんが来てボクを無理に会話に引き込み
人面犬が厭らしい顔で、ボクを小馬鹿にして嗤う

そんな日常が過ぎていく
マスターとの会話がない、それだけがいつもとは違う

そしてまた夜がやってきた
夢を見る夜が……

ボクは眠っている──これは夢だ──と自覚している

どろりとした液体が腰辺りまで侵食し足元がおぼつかない
……底なし沼にはまる様な感覚
背後から何かが浮かび上がる気配
振り向くとそこには……女性が立っている
ニヤリと嗤っていた
じっとりと生暖かく不快な汗が体表を覆う



「こんばんわ、坊や」
「……」
全身から力が抜ける……どろりとした液体にボクは侵食される
「あら、もう諦めてしまうの?つまらないわね」
「……カシマさん」
「何かしら?」
「……質問してもいい?」
「フフ、いいわよ」
カシマさんは、余裕の笑みを浮かべている
「どうしてボクを狙うの?」
「あなたが幸せそうだったからよ……同じ都市伝説なのにね」
「……だろうね」
「だから、あなたの大切なモノ……契約者への信頼を奪ったのよ」
「……そんなモノ、大切じゃないさ」
そんなボクを訝しげに見つめる
「あら……素直じゃないのね」
体が震える
それを見て、満足そうにつぶやく
「痩せ我慢は体に良くないわよ、フフ」
そしてボクの我慢は、限界に───達した



「……もう耐えられないや」
嘲る様にくつくつと嗤う───相手を苛立たせる様なあの犬の嗤い
「カシマさん、もうひとつ質問に答えてよ」
驚いた様にボクを凝視する
「坊や……いい加減にしなさい」
「答えられないかもしれないのが───怖い?」
「?!……いいわ、何でも答えてあげるわ!」
憎憎しげに睨み付けてくる

「守りたいモノが増えると、自然に敵が増えるものだよね?」
「……そうかもね」
「じゃあ、他にも自然に増えるモノがあるんだけど何か判る?」
「守りたいモノが増えると、敵以外で自然に増えるモノね?」
「うん、そういうことだね」
「……」
「答えは一つじゃないかもしれない……でも、今のボクには一つしか判らない」
「……」
「さあ、答えは?」
「……」
「答えられないかな?……残念だね」
「くっ」
「いくらでも待ってあげるけれど、もう時間切れでいいかな?」
「……」
「まぁ、貴女には答えられないだろうからね」
「……だから何よ、答えられないから何だって言うのよ!」



力を抜いて自然体になる、後は静かに言葉を紡ぐだけだ
今のボクに恐怖心は───ない

「カシマさん、貴女は何も判っていないんだね」
「坊や……お遊びはここまでよ」
「じゃあ……今度はボクの何を奪うつもりなの?」
「あなたの大切なモノよ」
「それは無理だよ」
「え?」
「だからさ、信頼や愛情を理解していない貴女なんかに
 ボクの大切なモノは奪えないって言ってるのさ」
「……何を言うかと思ったら、現に私はあなたの信頼を奪ってみせたわ!」
「だからそれが違うと言っているんだよ……ボクはマスターを信じている」
「何故?!言葉さえも出ないほどに……奪い去ったはずなのに……」
驚愕に目を見開く
「さっきの質問に答えられない様な貴女には、上っ面の信頼しか奪えないってことさ」
「上っ面ですって?」
「そうだよ」

目を閉じて、この一週間の出来事を思い出す

*



「ねえ、輪くん……そんなんじゃモテないわよ」
「……」
いつもの様に姫さんの話を適当に聞き流していた
「……友達いないでしょ?」
「それは貴女も同じだと思うけど?」
「私は……いるわよ」
「それがボクとか、ベタなこと言わないでよ?」
「……」
「……図星か」
「うるさいわね、私にだっているのよ!友達っていうか、なんていうか判らないけど!」
「ああ、彼氏ね」
「……もう、私以外に友達できないわよ!」
そう言うと、店内で追いかけっこが始まる
それを見ても、マスターは何も言わずにグラスを拭いている
少し鬱陶しくて……少し嬉しかった



「おい、坊主……しけた面してんなあ、悩んでますって面だなあ」
「……うるさいよ、おじさんは黙ってて」
この人面犬は、いつもヒトの心の隙間を突いてくる
「かぁ~~~!声をかけてやったらコレだよ!マーキングするぞコラァ!!」
「ヒトを信じられなく……何でもない」
「あぁん?お前はホントにガキだな!そんなことも判らねえのかよ!バーカ!」
普段ならやり返していただろうけど、そんな元気はなかった
「……じゃあ教えてよ」
たぶん泣きそうな顔をしていたと思う
「特別に問題を出してやっから答えろ……判らなければ、お前は終いだ」
「わからなければ……おしまい」
「守りてえモンが増えると、自然に敵が増えるもんだ」
「……そうだね」
「そうすっと他にも自然に増えるモンがある……坊主、何だか判るか?」
「……」
「答えは一つじゃねえが、一つ判れば十分だ」
「……」
「どうだ?判ったか?」
人面犬はひとしきりくつくつと嗤ってから帰っていった



他にも何かと構ってくれるお節介なヒト達

悟った様な男性がじっと見つめてくる……
ボクは何も言っていないのに、納得した様な顔で頷き
「少年、悩める時には悩んでおけ……だが、これだけは忘れるな
 答えはいつも、すぐそこにある」
同席していた女の子が聞き取れないほどに小さな声で呟いた
「……テ……まれって……スゴイ」

スーツを綺麗に着た男性とマスクをした女性
「この女性……乱暴で怖そうに見えるけど、そうでもないんですよ」
「なにその言い方、後でお仕置きね」
スーツの男性は少し乾いた笑いをあげる
「もし、乱暴で怖いだけの女性だとしたら……いつまでも一緒にはいませんから」
マスクの女性は、少し不満そうだけれど頷いて
「そのヒト本人よりも、そのヒトの周りを見た方が分かる事もあるわね」
「周りを……見る」

「……そうか、そうなんだ周りを見れば───判る」

*



カシマさんは物凄い形相で睨み付けてくるが、ボクは意に介さない
緩く握った右拳を胸に当て
ゆっくりと、噛みしめる様に言葉を紡ぐ

「さっきの答え───仲間だよ」
「仲間?」
「守りたいモノが増える、それを守りたいと思っているヒトが他にも居る
 利害が一致すれば、自然と仲間になる」
「だから、それが何だって言うのよ!」
「信じたいヒトが居る、そのヒトの仲間達を見ればそのヒトの在り方が判る
 信頼されている、信頼に足りるヒトだと判る」
「……坊やから信頼を奪っても、仲間を見てまた信頼を……取り戻す?」
「やっと判った様だね」
「そんな……馬鹿な」

「だから、ボクの大切なモノは───奪えない、何一つ」

「この私が……何も奪え……な…い……」



カシマさんが消えていく

カシマさんの能力発動に4段階のステップが必要
単にそれを止めるだけのつもりだった
質問されなければ、奪われない
単純な話だ

けれど、予想以上の効果があった
大切なモノを奪ったはずが、実際には空っぽのモノ
語られる都市伝説と存在との矛盾が大きくなり過ぎたのだろう
何も奪えないカシマさんの話などする価値はない
そういう事だ
昔のボクと同じ様に

情報生命体とも言えるボクらは、精神にダメージを受けることで
存在そのものに揺らぎを与える致命的なバグを生んでしまうことがある
バグが巧く機能し、都市伝説として進化する例もあるらしい
正否は不明だけれど、全てマスターの受け売りだ

「はぁ……疲れたなぁ……」

水面に浮かびながら
静かなまどろみに落ちていくのを感じる

*



「……輪……朝だよ」
「ん……マスター、おはよう」
「おはよう、輪……昨日は良く眠れた様だね」
「うん……」
「そうか……良かった」
「ねえ、マスター」
「なんだい?」
「もしボクが都市伝説としての力を失ってしまったらどうする?」
「……それは困る」
「どうして?」
「それはだね、私の失敗を事前に注意してくれないと困るからだよ」
「……なんだ……それだけか」
「うん、それだけだね」
「なら、もう力は必要ないね」
「え?」
「だって、マスターを見ていれば……いつ失敗するか予知しなくても判るからさ」
「……そうなのか、私はそんなに駄目マスターなのか」

シュンとしているマスターは、少しかわいい

仮にマスターが、ボクを都市伝説としての価値しかないと思っていても
ボク自身が──必要とされる、大切にされる様な存在に──
努力して成長していけば良いのだと思う

そう、たったそれだけの事なんだ



「うん、本人を良く見ていれば判るよ」

マスターは、何かに気付いた様に顔をあげて──

「そうか、見て……ありがとう、輪」

──ボクの頭をなでてくれる

「もう少し……眠りたい……」

「うん、おやすみ……お疲れ様、輪」

お疲れ様……か……
ああ、そうか……マスターも見てくれていたんだ
だから、先週は何度も彼らが来てくれたのか……
孤独な闘いでは……なかったんだ

そう、良く見ていれば判るんだ
大切なモノはいつだって、すぐそこにある

ボクは再びまどろみに落ちていく
今度は幸せな気分で……深く



*


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