喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
コーク・ロア(前編)
パーカーのフードを目深に被り
暗がりを走る男がいる
「シュッ!……シュッ!シュッ!シュッ!」
鋭く息を吐きだすと共に繰り出される拳
シャドーボクシングだ
ロードワーク中なのだろう
トレーニングの過酷さを感じさせる表情
暗がりを走る男がいる
「シュッ!……シュッ!シュッ!シュッ!」
鋭く息を吐きだすと共に繰り出される拳
シャドーボクシングだ
ロードワーク中なのだろう
トレーニングの過酷さを感じさせる表情
男は自販機の前で止まり硬貨を投入しボタンを押す
しゃがんで取り出されたのは
黒い液体の入ったペットボトル
コーラだ
炭酸が入っているにも関わらずグビグビと飲み込んでいく
半分ほど飲み一息ついた彼の表情には、恍惚が浮かぶ
「へへ……へへへ、殴りてぇ……闘いてぇよぉ」
だらしなく口を開けた顔は、まるで薬物中毒者の様だった
「……ん?」
遠くから足音が近づいてくる
男は強化された五感を更に研ぎ澄ます
足音は一人分、たぶん……若い女だ
匂いがする、若い女の匂い、少し汗の臭いも混じっている
もう少ししたら、女はあの角に出て来る
しゃがんで取り出されたのは
黒い液体の入ったペットボトル
コーラだ
炭酸が入っているにも関わらずグビグビと飲み込んでいく
半分ほど飲み一息ついた彼の表情には、恍惚が浮かぶ
「へへ……へへへ、殴りてぇ……闘いてぇよぉ」
だらしなく口を開けた顔は、まるで薬物中毒者の様だった
「……ん?」
遠くから足音が近づいてくる
男は強化された五感を更に研ぎ澄ます
足音は一人分、たぶん……若い女だ
匂いがする、若い女の匂い、少し汗の臭いも混じっている
もう少ししたら、女はあの角に出て来る
男は角へ向かって走り出す
このまま走って角を曲がれば丁度ぶつかる事が出来る
まるで、遅刻しそうな転校生と主人公がぶつかるかの様に
このまま走って角を曲がれば丁度ぶつかる事が出来る
まるで、遅刻しそうな転校生と主人公がぶつかるかの様に
だが、曲がった瞬間に女の足音が止まる
不審に思いながらも男は走り続ける
(何でもいい、ぶつかって因縁をつけて殴る)
快楽に痺れた脳で思考できることはそれだけだった
が
ぶつかろうとしたにもかかわらず、体に衝撃は訪れない
女はスッと横にステップを踏んでいた
(避けられただと?!)
男は考える
(コイツ、俺がぶつかろうとしている事を知っていた?!)
不審に思いながらも男は走り続ける
(何でもいい、ぶつかって因縁をつけて殴る)
快楽に痺れた脳で思考できることはそれだけだった
が
ぶつかろうとしたにもかかわらず、体に衝撃は訪れない
女はスッと横にステップを踏んでいた
(避けられただと?!)
男は考える
(コイツ、俺がぶつかろうとしている事を知っていた?!)
女をまじまじと見る
女子高生だろうか、メガネをかけた色白の華奢な少女
とても避けられる程の運動能力を有している様には見えない
直感する
この少女は、何らかの特別な力を有していると
「おまえ……ナニモンだ?」
「え?!……あ、あの……え?!」
少女は状況が掴めないでいる様だった
だが、間違いなく避けた
違和感
女子高生だろうか、メガネをかけた色白の華奢な少女
とても避けられる程の運動能力を有している様には見えない
直感する
この少女は、何らかの特別な力を有していると
「おまえ……ナニモンだ?」
「え?!……あ、あの……え?!」
少女は状況が掴めないでいる様だった
だが、間違いなく避けた
違和感
(理想の形とは違うが、まあいい……殴れればそれでいい)
そう考え直し、泡だったコーラのボトルを道の脇に置く
顔の前に両拳を構え軽快にステップを踏む
(まずは左ジャブからだ……サンドバッグになりやがれ!)
男の上体が沈み込み少女の顔面へと左腕が伸びる!
が、踏み込んだ瞬間
純白の群れが男めがけて飛びかかる
「うあッ?! なんだ?!……鳩?!」
無数の鳩が男をすり抜け、飛んでいく
幾つかの電灯のみで辺りは暗い、にもかかわらずハッキリと鳩だと認識している
(幻覚か?!……やはりコイツ!)
男の脳は興奮で沸き立つ
鳩の群れが消えると、そこには軍装の若者がいた
隻腕
手には軍刀
異様な風体である
直感する
人間ではない──都市伝説──
「へへへ……いいぜぇ、待ってたんだよ……強いヤツと闘える時をなぁ!!」
男の眼中からは既に少女は消え、都市伝説であろう若者へと意識を集中している
そう考え直し、泡だったコーラのボトルを道の脇に置く
顔の前に両拳を構え軽快にステップを踏む
(まずは左ジャブからだ……サンドバッグになりやがれ!)
男の上体が沈み込み少女の顔面へと左腕が伸びる!
が、踏み込んだ瞬間
純白の群れが男めがけて飛びかかる
「うあッ?! なんだ?!……鳩?!」
無数の鳩が男をすり抜け、飛んでいく
幾つかの電灯のみで辺りは暗い、にもかかわらずハッキリと鳩だと認識している
(幻覚か?!……やはりコイツ!)
男の脳は興奮で沸き立つ
鳩の群れが消えると、そこには軍装の若者がいた
隻腕
手には軍刀
異様な風体である
直感する
人間ではない──都市伝説──
「へへへ……いいぜぇ、待ってたんだよ……強いヤツと闘える時をなぁ!!」
男の眼中からは既に少女は消え、都市伝説であろう若者へと意識を集中している
「何故、こんなことをする?」
軍装の若者が尋ねる
「闘いてぇ……本気でヤリてぇ……殴って、殴って全てブチ倒すッ!!」
男が答える
「……そうか、ならば仕方ないな」
眼を閉じ、残念そうにつぶやく
「カシマさん!約束は守ってください!」
「判っているよ、サチ殿……殺生は私も好きではない」
「生ぬるいコトいってんじゃねぇよ! いくぜぇ~!!」
ボクサーの動きは速い
常人が出せるスピードを凌駕している
トリッキーなステップの後
一瞬で間合いを詰め、繰り出される右ストレート
だが
カシマのの持つ鞘に包まれたままの軍刀で拳をいなされ、体勢を崩す
籠手止の体(てい)
「へへっ、やるなぁ」
ボクサーはバックステップで距離をとり、すぐに体勢を整える
軍装の若者が尋ねる
「闘いてぇ……本気でヤリてぇ……殴って、殴って全てブチ倒すッ!!」
男が答える
「……そうか、ならば仕方ないな」
眼を閉じ、残念そうにつぶやく
「カシマさん!約束は守ってください!」
「判っているよ、サチ殿……殺生は私も好きではない」
「生ぬるいコトいってんじゃねぇよ! いくぜぇ~!!」
ボクサーの動きは速い
常人が出せるスピードを凌駕している
トリッキーなステップの後
一瞬で間合いを詰め、繰り出される右ストレート
だが
カシマのの持つ鞘に包まれたままの軍刀で拳をいなされ、体勢を崩す
籠手止の体(てい)
「へへっ、やるなぁ」
ボクサーはバックステップで距離をとり、すぐに体勢を整える
カシマは片腕で下段に軍刀を構えている
「はッ!」
気合と共に軍刀が弧を描き、袈裟に一閃
スウェーバックでかわすボクサー
「余裕だぜぇ……へへへ」
更に一閃、二閃
ことごとくかわし、ニヤリと笑う
構えを戻す為に刀が退かれると同時に一気に距離を詰め
拳を繰り出す
ジャブ、ストレート、ジャブ、ジャブ、ストレート
たて続けにヒットする
「きゃっ!?」
悲鳴をあげるサチ
「ン~? 確かに当たってるはずだが感触が弱ぇなぁ~?」
「サチ殿、ワタシは大丈夫だ……少し離れていてくれるか?」
「は……はひぃっ!」
既に距離をとっているボクサー
「そんなに心配スンナよ、女には手を出さねぇ……お前を殺すまでの話だがなぁ!!」
再び距離を詰め、ボクサーの上体が沈み込む
速い
既に刀の間合いより内側に入り込まれている
半身を退き、左ジャブをかわす
そのままボクサーの左側面から刀を振る
次の瞬間
「はッ!」
気合と共に軍刀が弧を描き、袈裟に一閃
スウェーバックでかわすボクサー
「余裕だぜぇ……へへへ」
更に一閃、二閃
ことごとくかわし、ニヤリと笑う
構えを戻す為に刀が退かれると同時に一気に距離を詰め
拳を繰り出す
ジャブ、ストレート、ジャブ、ジャブ、ストレート
たて続けにヒットする
「きゃっ!?」
悲鳴をあげるサチ
「ン~? 確かに当たってるはずだが感触が弱ぇなぁ~?」
「サチ殿、ワタシは大丈夫だ……少し離れていてくれるか?」
「は……はひぃっ!」
既に距離をとっているボクサー
「そんなに心配スンナよ、女には手を出さねぇ……お前を殺すまでの話だがなぁ!!」
再び距離を詰め、ボクサーの上体が沈み込む
速い
既に刀の間合いより内側に入り込まれている
半身を退き、左ジャブをかわす
そのままボクサーの左側面から刀を振る
次の瞬間
「がはッ?!」
強烈な一撃がカシマの脇腹に入っていた
尋常ではない動き
「今度は間違いなく入ったなぁ……さっきのは何だったんだろう…なっ!!…っと」
更に顔面に拳を打ち下ろす
「ぐッ!」
口の端から血を流しながらも、カシマは上体を起こし素早く間合いをとる
「刀……抜いてもいいんだぜぇ?……片腕なんだしよぅ」
「……気遣いは、無用だ」
「……カシマさん」
サチの心配そうな声
「心配も無用だ、サチ殿……ワタシを信じろ、それが契約者の役目だろう?」
「……わたしの役目」
尋常ではない動き
「今度は間違いなく入ったなぁ……さっきのは何だったんだろう…なっ!!…っと」
更に顔面に拳を打ち下ろす
「ぐッ!」
口の端から血を流しながらも、カシマは上体を起こし素早く間合いをとる
「刀……抜いてもいいんだぜぇ?……片腕なんだしよぅ」
「……気遣いは、無用だ」
「……カシマさん」
サチの心配そうな声
「心配も無用だ、サチ殿……ワタシを信じろ、それが契約者の役目だろう?」
「……わたしの役目」
「再開だな……第2ラウンドだ」
ボクサーは笑う、嬉しそうに、壊れた笑顔
ボクサーは笑う、嬉しそうに、壊れた笑顔
カシマが先手を打つ
「はッ!」
気合と共に軍刀が弧を描き、袈裟に一閃
「せいッ!」
逆袈裟に一閃
が、ギリギリでかわされている
最初の時よりも近い距離で……
「はッ!」
気合と共に軍刀が弧を描き、袈裟に一閃
「せいッ!」
逆袈裟に一閃
が、ギリギリでかわされている
最初の時よりも近い距離で……
カシマは気にせず、また間合いをとる
先程と同じ間合い
「はッ!」
気合と共に軍刀が弧を描き、袈裟に一閃
「何度やっても同じだぜぇ……こっちは見切ってんだからよぅ!」
またもギリギリでかわすボクサー
「せいッ!」
袈裟に一閃
先程と同じ間合い
「はッ!」
気合と共に軍刀が弧を描き、袈裟に一閃
「何度やっても同じだぜぇ……こっちは見切ってんだからよぅ!」
またもギリギリでかわすボクサー
「せいッ!」
袈裟に一閃
「ンッ?!」
かわしたはずだった
が、左手首を打ち抜かれていた
関節の無い部分で折れ曲がっている左腕
おかしい、カシマの間合いから10cmは外に居たはずだ
(何故だ?)
まるで他人事の様に、折れた左腕を見ながらぼんやりと考える
が、左手首を打ち抜かれていた
関節の無い部分で折れ曲がっている左腕
おかしい、カシマの間合いから10cmは外に居たはずだ
(何故だ?)
まるで他人事の様に、折れた左腕を見ながらぼんやりと考える
「アぁ~、なんだか良くわかんねぇけど……
最初から短い間合いを刷り込まれてたってことか?
ン~?……違うな、やられた時の刀はスゲェ伸びがあったもんなぁ
なんか特殊な間合いの詰め方があるってことか?」
最初から短い間合いを刷り込まれてたってことか?
ン~?……違うな、やられた時の刀はスゲェ伸びがあったもんなぁ
なんか特殊な間合いの詰め方があるってことか?」
天性のセンスが、ほぼ正確にカシマの術理を感じ取らせる
*
休憩のつもりだろうか
道の脇に置いておいたコーラを片手で器用に開けてグビグビと飲む
「さぁてと……第3ラウンド開始かな」
左腕は折れたままだが、痛みを感じている様子は無い
道の脇に置いておいたコーラを片手で器用に開けてグビグビと飲む
「さぁてと……第3ラウンド開始かな」
左腕は折れたままだが、痛みを感じている様子は無い
「カシマさん、気をつけて!……あれはコーク・ロアだと思います」
「コーク・ロア?」
「ええ、コカ・コーラには麻薬が入っているっていう噂話です」
そう……かつて、コカ・コーラには麻薬──コカイン──が入っていた
この都市伝説との契約により、コーラを飲む事で
ボクサーの身体能力・五感は強化され、痛みや恐怖も感じなくなっている
「コカ・コーラに麻薬?」
「え~と、あの……そう!ヒロポンです!ヒロポンを使っている様なものです!」
「なるほど、ヒロポンか……厄介だな」
ヒロポンとは、今で言うスピードやアイスといった覚醒剤の事だ
戦中は兵士の死への恐怖をなくし、昂揚の為に使用されていた
「ならば……一撃で……決める」
「よぉし、判った……俺もダラダラやり合うのは好きじゃねぇ」
「コーク・ロア?」
「ええ、コカ・コーラには麻薬が入っているっていう噂話です」
そう……かつて、コカ・コーラには麻薬──コカイン──が入っていた
この都市伝説との契約により、コーラを飲む事で
ボクサーの身体能力・五感は強化され、痛みや恐怖も感じなくなっている
「コカ・コーラに麻薬?」
「え~と、あの……そう!ヒロポンです!ヒロポンを使っている様なものです!」
「なるほど、ヒロポンか……厄介だな」
ヒロポンとは、今で言うスピードやアイスといった覚醒剤の事だ
戦中は兵士の死への恐怖をなくし、昂揚の為に使用されていた
「ならば……一撃で……決める」
「よぉし、判った……俺もダラダラやり合うのは好きじゃねぇ」
お互いに間合いを測る
ボクサーは先程と同じ……いや、更に短い間合い
カシマの間合いの中にいる
ボクサーは先程と同じ……いや、更に短い間合い
カシマの間合いの中にいる
斬り込むよりも早く打ち込むつもりか
或いは、サイドステップでかわすつもりなのか
或いは、サイドステップでかわすつもりなのか
前者だ
ボクサーの全身が沈み込み、バネの様に弾ける
体を退くカシマ、だがこのタイミングでは間に合わない
(もらったぁぁぁ!)
左拳は空を切る
(何故だ?!……何故届かない?!)
更に右拳もかわされる
ギリギリまで詰めた間合いから、今までで最も速く繰り出した拳だった
これまでに、カシマの間合いを測り動きを見極めたはずだった
避けられるはずが無い
ボクサーの全身が沈み込み、バネの様に弾ける
体を退くカシマ、だがこのタイミングでは間に合わない
(もらったぁぁぁ!)
左拳は空を切る
(何故だ?!……何故届かない?!)
更に右拳もかわされる
ギリギリまで詰めた間合いから、今までで最も速く繰り出した拳だった
これまでに、カシマの間合いを測り動きを見極めたはずだった
避けられるはずが無い
特殊な間合いの詰め方をカシマが持っている事は、ボクサーも理解していた
だが、詰める事と退くことは別のものである
例えば、前向きに走るのと、後ろ向きに走るのとでは
明らかに、後ろ向きでの動作は遅れが生じるはずである
だが、詰める事と退くことは別のものである
例えば、前向きに走るのと、後ろ向きに走るのとでは
明らかに、後ろ向きでの動作は遅れが生じるはずである
にも関わらず
(この野郎ッ、間合いを詰めるだけじゃなく……退きも自在に操れるのかッ!!)
気付く、だが……時、既に遅し
お互いの右袖が摺れ合う程の距離で、カシマはボクサーの脇を抜ける
そして、抜き様
正眼から軍刀を打ち下ろす
「ガッ?!」
ボクサーの脳が揺れ、ヒザから崩れ落ちる
(最初からこれを狙って俺の拳をワザと受けていたッ?!)
立ち上がろうとする
が、立てない
(早く立たねぇと……カウントが……クソッ)
ヒザが立たない
「グッ……いった、い……どう…やっ…て」
(この野郎ッ、間合いを詰めるだけじゃなく……退きも自在に操れるのかッ!!)
気付く、だが……時、既に遅し
お互いの右袖が摺れ合う程の距離で、カシマはボクサーの脇を抜ける
そして、抜き様
正眼から軍刀を打ち下ろす
「ガッ?!」
ボクサーの脳が揺れ、ヒザから崩れ落ちる
(最初からこれを狙って俺の拳をワザと受けていたッ?!)
立ち上がろうとする
が、立てない
(早く立たねぇと……カウントが……クソッ)
ヒザが立たない
「グッ……いった、い……どう…やっ…て」
「カシマ流・八寸の延矩」