喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
コーク・ロア(前編)
「負け、た……すま、ねぇ……やっぱ…ダメ……の、か」
そう言って、ボクサーは意識を失った
そう言って、ボクサーは意識を失った
「カシマさんっ!大丈夫ですかっ?!」
駆け寄るサチ
「嗚呼……ワタシの方は、問題ない」
そう云って、ボクサーの方を注視する
動く気配は無い
完全に意識を失っている
サチはボクサーの上体をヒザ上に抱える様にして寝かせる
「呼吸は……しっかりしていますね」
「その様だな……後は脳に障害が残らなければ良いのだが……」
「そう……ですね」
不安そうに顔を覗き込む
どこか印象に残る顔立ち
「?!……この人、まさか?!」
駆け寄るサチ
「嗚呼……ワタシの方は、問題ない」
そう云って、ボクサーの方を注視する
動く気配は無い
完全に意識を失っている
サチはボクサーの上体をヒザ上に抱える様にして寝かせる
「呼吸は……しっかりしていますね」
「その様だな……後は脳に障害が残らなければ良いのだが……」
「そう……ですね」
不安そうに顔を覗き込む
どこか印象に残る顔立ち
「?!……この人、まさか?!」
*
──俺は夢を見ている
これは過去のことだ──
これは過去のことだ──
階級が同じ二人のプロ・ボクサーがいた
将来有望な二人
一方は、物静かで優しい男
一方は、いつでも強気な男───これは……俺だ
対照的な二人
アマチュア時代からのライバルだった
だが、同時に親友でもあった
トレーニングに食事のメニューも二人で案を出し合った
お互いの作るメシは不味かったが、バランスは取れていた
厳しい減量も、二人で語れば笑い話にもなった
将来有望な二人
一方は、物静かで優しい男
一方は、いつでも強気な男───これは……俺だ
対照的な二人
アマチュア時代からのライバルだった
だが、同時に親友でもあった
トレーニングに食事のメニューも二人で案を出し合った
お互いの作るメシは不味かったが、バランスは取れていた
厳しい減量も、二人で語れば笑い話にもなった
物静かな男──アイツ──に彼女が出来た時は、自分のことの様に喜び祝福した
結婚した時も、幹事を務めた
トレーニングの合間をぬって、出し物も考えた
アイツの妻はいい女だった
何より、ボクシングに理解があった
試合で酷く傷ついた夫を見て
「今日は、相手も良いボクサーだったんだね」
と、相手の強さを称えた
大した女だと、素直に賞賛した
全てが上手くいっていた
結婚した時も、幹事を務めた
トレーニングの合間をぬって、出し物も考えた
アイツの妻はいい女だった
何より、ボクシングに理解があった
試合で酷く傷ついた夫を見て
「今日は、相手も良いボクサーだったんだね」
と、相手の強さを称えた
大した女だと、素直に賞賛した
全てが上手くいっていた
プロのリングで初めての対戦
アマでの対戦成績は、ほぼ互角
プロになってから、お互いにこれまで無敗
激戦の末、俺が勝った
K.O.だった
意識を失い、担架で運ばれていくアイツ
そして、意識は戻らなかった
─── 永遠に
アマでの対戦成績は、ほぼ互角
プロになってから、お互いにこれまで無敗
激戦の末、俺が勝った
K.O.だった
意識を失い、担架で運ばれていくアイツ
そして、意識は戻らなかった
─── 永遠に
リング上では意識不明、その後に死亡と確認
事故死となるのだろうか
リング上での死、法的な罪を問われる者はいない
事故死となるのだろうか
リング上での死、法的な罪を問われる者はいない
だが、マスコミは大きく報道した
男に罪が無いと言いながらも、男を心を責めたてた
どんなに言葉を取り繕ったとしても、その本質は同じ
男に罪が無いと言いながらも、男を心を責めたてた
どんなに言葉を取り繕ったとしても、その本質は同じ
『親友でもあるライバルを*した気分はどうですか?』
『ヒトを*しておいて、よくトレーニングなんかしていられますね』
『ヒトを*しておいて、よくトレーニングなんかしていられますね』
つまりは、そういう事を聞いている
偏向報道だった
それでも、ボクシング協会は男を守ろうとしていた
また、死亡したライバルの妻も男を責めなかった
だが、女性議員からボクシングの規制に関する発言も出始め
男に対する世間の見方は徐々に歪んでいく
偏向報道だった
それでも、ボクシング協会は男を守ろうとしていた
また、死亡したライバルの妻も男を責めなかった
だが、女性議員からボクシングの規制に関する発言も出始め
男に対する世間の見方は徐々に歪んでいく
自粛
男はリングに上がる事が出来なくなっていた
いつまで自粛すれば良いのだろうか
ライバルの……アイツの死を世間が忘れるまで?
アイツの存在を忘れるまで?
忘れる? 誰を?
アイツを? 誰が?
マスコミが? 世間が?
それとも……俺が?
馬鹿な……そんな事が許されていいのか?
男はリングに上がる事が出来なくなっていた
いつまで自粛すれば良いのだろうか
ライバルの……アイツの死を世間が忘れるまで?
アイツの存在を忘れるまで?
忘れる? 誰を?
アイツを? 誰が?
マスコミが? 世間が?
それとも……俺が?
馬鹿な……そんな事が許されていいのか?
解剖の結果、アイツの死因が解る
動脈瘤の破裂だった
元々小さな動脈瘤があり、試合中に破裂したと考えられる
そう結論付けられた
誰も知らなかった、家族も、死んだ本人すらも
定期的な検査も受けていたが異常はなかった
だが、誰も気付かない内に進んでいた
動脈瘤の破裂だった
元々小さな動脈瘤があり、試合中に破裂したと考えられる
そう結論付けられた
誰も知らなかった、家族も、死んだ本人すらも
定期的な検査も受けていたが異常はなかった
だが、誰も気付かない内に進んでいた
試合を振り返る
脈瘤が破裂しても尚……アイツはリングに立っていたのかも知れない
そうでなければ……助かっていたかもしれない……
この1戦にかけていた、アイツの情熱
それこそが……彼の命を奪った原因
これが真実
脈瘤が破裂しても尚……アイツはリングに立っていたのかも知れない
そうでなければ……助かっていたかもしれない……
この1戦にかけていた、アイツの情熱
それこそが……彼の命を奪った原因
これが真実
通常の生活をしていれば、死ぬ事などは無かった
───だが、彼はボクサーだった
───だが、彼はボクサーだった
マスコミによる報道は止んだ
───何事も無かったかの様に
───何事も無かったかの様に
次第に世間も忘れていく
───彼の死に飽きたかの様に
───彼の死に飽きたかの様に
だが、男は忘れない
───彼が死んだ事を、自責の念を
───彼が死んだ事を、自責の念を
そして、世間には噂だけが残る
男は
───ライバルを*したボクサーであると
───殺人者であると
───ライバルを*したボクサーであると
───殺人者であると
それだけが───残る
まるで──都市伝説──の様に
男は望んでいた
闘う事を
勝って……勝ち続けて……
そして……
闘う事を
勝って……勝ち続けて……
そして……
だが、リングには上がれなかった
心が……壊れそうだった
───いや、既に壊れていたのかもしれない
───いや、既に壊れていたのかもしれない
気付いた時には
コーク・ロアに憑かれ
目の前には、軍装の若者が立っていた
コーク・ロアに憑かれ
目の前には、軍装の若者が立っていた
そして
男は敗れ、意識を失う
男は敗れ、意識を失う
*
俺は眠っている──これは夢だ──と自覚している
眼前には沼
沼から何かが浮かび上がる気配
沼から何かが浮かび上がる気配
一陣の風が水面を吹き抜け
桜の花びらが舞う───幻視
桜の花びらが舞う───幻視
そこには、軍服を着た若者とメガネの少女が立っている
───二人の瞳はどこか憂いを帯びている様にも見えた
───二人の瞳はどこか憂いを帯びている様にも見えた
「カシマさん、少し下がっていて下さい」
一歩前へ出て少女
「サチ殿……」
「わたしを信じる事もまた、カシマさんの役目です」
静かな口調だが、有無を云わせぬという意思が感じられた
一歩前へ出て少女
「サチ殿……」
「わたしを信じる事もまた、カシマさんの役目です」
静かな口調だが、有無を云わせぬという意思が感じられた
カシマは困った様な表情
「そうか……ならば、何も云うまい」
目を閉じ……微笑む
「そうか……ならば、何も云うまい」
目を閉じ……微笑む
「てめぇら一体……いや、そんなことはどうでもいいか」
「わたし、貴方のことを知っています……それに……
さっき……貴方が見た夢を、私も見てしまいました……すみません」
「……ふん……だから何だって言うんだよ」
「コーク・ロアという都市伝説を知っていますか?」
「……ああ」
「何もかもを忘れてしまいたい……そんな風に思ったんじゃありませんか?」
「……」
「たぶん、貴方が心に抱えた闇・隙につけ込まれたのだと思います」
「……」
さっき……貴方が見た夢を、私も見てしまいました……すみません」
「……ふん……だから何だって言うんだよ」
「コーク・ロアという都市伝説を知っていますか?」
「……ああ」
「何もかもを忘れてしまいたい……そんな風に思ったんじゃありませんか?」
「……」
「たぶん、貴方が心に抱えた闇・隙につけ込まれたのだと思います」
「……」
「でも、この都市伝説では……貴方の持つ本当の願いは叶いません」
コーク・ロアによって殆ど自我を失いつつも
最も優先させた欲望が──願いが──
闘い続ける事
強い者と闘い、勝つ事……
最も優先させた欲望が──願いが──
闘い続ける事
強い者と闘い、勝つ事……
「知った様なコトを言いやがって……」
「知っています」
「なんだと?……」
「わたしも以前、都市伝説に心の闇を突かれた事があります」
「……」
「でも、一人の少年に助けられました」
「……俺とお前では……違う!」
「確かに……貴方の抱えた苦しみは、わたしのものよりも……遥かに深い」
「……なら、黙ってろよッ!」
「けど!……それでも、わたしはわたしに出来る事をしますっ!!」
「クソがッ!」
男は苛立ち、拳を繰り出す
が、サチは動かない
唇をキッと結んで耐える
「……チッ!」
眼前で拳を止め、舌打ち
「てめぇ……ソイツが殴られた時にゃあ泣いてたくせに……」
脇に控え、動かないカシマを一瞥する
「な、泣いてません!」
「知っています」
「なんだと?……」
「わたしも以前、都市伝説に心の闇を突かれた事があります」
「……」
「でも、一人の少年に助けられました」
「……俺とお前では……違う!」
「確かに……貴方の抱えた苦しみは、わたしのものよりも……遥かに深い」
「……なら、黙ってろよッ!」
「けど!……それでも、わたしはわたしに出来る事をしますっ!!」
「クソがッ!」
男は苛立ち、拳を繰り出す
が、サチは動かない
唇をキッと結んで耐える
「……チッ!」
眼前で拳を止め、舌打ち
「てめぇ……ソイツが殴られた時にゃあ泣いてたくせに……」
脇に控え、動かないカシマを一瞥する
「な、泣いてません!」
「で?どうすりゃいいってんだよぉ」
「……貴方はリングに立つべきだと思います」
「分ってる……だが、相手がいねぇ」
「諦めちゃダメです……海外だってどこだっていいんです!
ボクサーとして復帰すべきです じゃないと…彼が、可愛そうです」
「……アイツは俺を恨んでるかもしれねぇ」
「そんなことはないです!……いえ、違うかも……しれません」
「……おいおい、どっちなんだよ」
「でも、周りのヒトを見れば判ると思うんです」
「……周り?」
「ええ、彼の奥さんは恨んでいない様に見えました……だからきっと……」
「そうかもしれねぇ……けどよぉ」
「きっと……貴方を縛っているのは、貴方自身だと思うんです
……だから、諦めちゃいけないんです!」
「……俺自身が、俺を」
「自分自身を責めるのではなく、相手の……彼の望むことを考えてみて下さい」
「アイツが望むこと……」
「相手の為に、自分の在り方を考えてみて下さい
上手く……言えないけど……」
「……貴方はリングに立つべきだと思います」
「分ってる……だが、相手がいねぇ」
「諦めちゃダメです……海外だってどこだっていいんです!
ボクサーとして復帰すべきです じゃないと…彼が、可愛そうです」
「……アイツは俺を恨んでるかもしれねぇ」
「そんなことはないです!……いえ、違うかも……しれません」
「……おいおい、どっちなんだよ」
「でも、周りのヒトを見れば判ると思うんです」
「……周り?」
「ええ、彼の奥さんは恨んでいない様に見えました……だからきっと……」
「そうかもしれねぇ……けどよぉ」
「きっと……貴方を縛っているのは、貴方自身だと思うんです
……だから、諦めちゃいけないんです!」
「……俺自身が、俺を」
「自分自身を責めるのではなく、相手の……彼の望むことを考えてみて下さい」
「アイツが望むこと……」
「相手の為に、自分の在り方を考えてみて下さい
上手く……言えないけど……」
アイツは優しい男だ……だから、アイツならば……
いや、違う
アイツはボクサーだ
ボクサーとして、俺ならどう考える
アイツが最後に負けた相手は俺だ
俺なら、どんなヤツに負けても悔しい
だが、どうしようもない程に強いヤツになら……負けても清々しいと思える
このカシマという男の様に、強いヤツになら……
逆に、ろくでもない相手に負けたなら……
いや、違う
アイツはボクサーだ
ボクサーとして、俺ならどう考える
アイツが最後に負けた相手は俺だ
俺なら、どんなヤツに負けても悔しい
だが、どうしようもない程に強いヤツになら……負けても清々しいと思える
このカシマという男の様に、強いヤツになら……
逆に、ろくでもない相手に負けたなら……
今の俺はどうだ?
リングに上がれず、無為に日を送るだけの俺
世間から逃げる様に、トレーニングをしている俺
リングに上がれず、無為に日を送るだけの俺
世間から逃げる様に、トレーニングをしている俺
公式の場で、リングで闘わなくては意味が無い
強いヤツと闘って……勝って、勝ち続けて……
そう、これは最初から思っていた事だ
何故、そう思うのか……今までは判らなかった
大事な部分が抜けていたのだ
強いヤツと闘って……勝って、勝ち続けて……
そう、これは最初から思っていた事だ
何故、そう思うのか……今までは判らなかった
大事な部分が抜けていたのだ
結局……俺は、アイツの死から逃げていた
だが、直感として……リングで闘う事を望んでいた
ようやく……直感ではなく、分かった気がする
「俺は……最初から諦めていたのかもしれねぇ……」
「……」
サチは男の言葉を待つ
「俺みたいなヤツが、ボクシングを続けていいのか……そう思っていたんだ
けどよ、違うんだよな……俺はアイツの為にも強いボクサーでいなけりゃいけねぇんだ」
だが、直感として……リングで闘う事を望んでいた
ようやく……直感ではなく、分かった気がする
「俺は……最初から諦めていたのかもしれねぇ……」
「……」
サチは男の言葉を待つ
「俺みたいなヤツが、ボクシングを続けていいのか……そう思っていたんだ
けどよ、違うんだよな……俺はアイツの為にも強いボクサーでいなけりゃいけねぇんだ」
*
男の意思は固まった様だった
「それにしても……さっきの間合い、なんだったんだ?」
「八寸の延矩という技術だ」
「八寸の……のびがね? 異能の技術か? それとも、普通の人間にも出来る技術なのか?」
「ヒトが、鍛錬によって会得するものだ」
「……そうか……あんた、強いな」
「キミもな」
「……そうありたい、とは思っている」
「正直なところ、折れた左腕で打ち込んで来るとは……予測外だったよ」
「ま、目隠しできれば十分だったんだがよぉ……それも出来てなかったなぁ」
「ふむ……精進したまへ」
「八寸の延矩という技術だ」
「八寸の……のびがね? 異能の技術か? それとも、普通の人間にも出来る技術なのか?」
「ヒトが、鍛錬によって会得するものだ」
「……そうか……あんた、強いな」
「キミもな」
「……そうありたい、とは思っている」
「正直なところ、折れた左腕で打ち込んで来るとは……予測外だったよ」
「ま、目隠しできれば十分だったんだがよぉ……それも出来てなかったなぁ」
「ふむ……精進したまへ」
「さて……何も礼はできねぇが、これだけは約束しておく……」
「……」
「俺は、リングに上がる……そして勝つ、勝って……勝ち続けて……」
「……」
「アイツがチャンピオンに倒された男だってことにする! こんな事しかできねぇが……いいか?」
「はい!」
「……」
「俺は、リングに上がる……そして勝つ、勝って……勝ち続けて……」
「……」
「アイツがチャンピオンに倒された男だってことにする! こんな事しかできねぇが……いいか?」
「はい!」
つぼみがほころぶ様な、柔らかい笑み
「お前……結構……いや、何でもねぇ……」
「ええと、そっちがカシマで……お前、名前は?」
「わ、わたしはサチです 碓氷サチ」
「……印象的な名前だなぁ……でも、なんか不思議と忘れちまいそうだなぁ……」
「……よく……言われます」
「そうへこむなよ……度胸のある女、俺は好きだぜ」
「え?!……な、なんですか突然っ?!……え?!好き?!」
耳まで紅潮させてサチ
「わはは、冗談だ……忘れてくれ……」
「わ、わ、忘れませんよ……わたしは、ちゃんと覚えています……
貴方が、決意したことを……見届けますから……それを忘れないで下さい」
「わ、わたしはサチです 碓氷サチ」
「……印象的な名前だなぁ……でも、なんか不思議と忘れちまいそうだなぁ……」
「……よく……言われます」
「そうへこむなよ……度胸のある女、俺は好きだぜ」
「え?!……な、なんですか突然っ?!……え?!好き?!」
耳まで紅潮させてサチ
「わはは、冗談だ……忘れてくれ……」
「わ、わ、忘れませんよ……わたしは、ちゃんと覚えています……
貴方が、決意したことを……見届けますから……それを忘れないで下さい」
静寂が3人を包む
「最初の相手が、あんたらで良かったよ……本当に、良かった」
「都市伝説は……自然と引かれ合うらしいですから……」
「そうか……世話になったな」
男は二人に向かって頭を下げる
「都市伝説は……自然と引かれ合うらしいですから……」
「そうか……世話になったな」
男は二人に向かって頭を下げる
再び、一陣の風が水面を吹き抜け
桜の花びらが舞う───幻視
桜の花びらが舞う───幻視
*
男が意識を戻すと、辺りには誰もいない
道の脇で寝ていたらしい
夢?
「ん?!……痛ってぇぇぇぇぇ!!」
いや、現実だ
左腕が折れ、頭も痛む
「クソッ!!なんなんだよッ?!」
目尻に涙を溜めているが、顔は何故か笑っている
清々しい、そんな笑顔だった
道の脇で寝ていたらしい
夢?
「ん?!……痛ってぇぇぇぇぇ!!」
いや、現実だ
左腕が折れ、頭も痛む
「クソッ!!なんなんだよッ?!」
目尻に涙を溜めているが、顔は何故か笑っている
清々しい、そんな笑顔だった
「また……会えっかなぁ……」
*
─数ヵ月後─
サチがTVを付けると、ニュース番組が流れていた
ボクシングについてだった
どうやら、今日行われた試合らしい
一方は、海外の強豪
一方は、日本人───見覚えのある顔、あの男だ
ボクシングについてだった
どうやら、今日行われた試合らしい
一方は、海外の強豪
一方は、日本人───見覚えのある顔、あの男だ
見事な試合運びだった
フットワークは終始軽く
クリーンヒットは殆どもらっていない
そして、深くえぐる様なパンチ
フットワークは終始軽く
クリーンヒットは殆どもらっていない
そして、深くえぐる様なパンチ
『いやぁ~復帰第一戦ですが、以前よりも洗練された様な気がしますね
ゆったりとした動き、それなのにリーチが長いかの様だ』
ゆったりとした動き、それなのにリーチが長いかの様だ』
そんな感想を解説者も感嘆と共に述べていた
結果は、あの男のK.O.勝ち
続いて、勝利者インタビュー
男は泣いていた……泣き崩れていた
勝利による喜びの涙か……いや、違うのだろう
インタビューで
「取り乱してすんません……泣いている場合じゃねぇんだけど……」
とコメント
そんな男の姿に、会場からは大きなコールが降り注ぐ
「泣くな!」「がんばれ!」とファンも涙声で必死に声援を送る
勝利による喜びの涙か……いや、違うのだろう
インタビューで
「取り乱してすんません……泣いている場合じゃねぇんだけど……」
とコメント
そんな男の姿に、会場からは大きなコールが降り注ぐ
「泣くな!」「がんばれ!」とファンも涙声で必死に声援を送る
「俺は……どんなに重くて大きい十字架でも背負って、前進して、精進していきます!」
そう言って、観客席に向かい
亡き友の妻──抱えられた遺影──に深々と頭を下げた
亡き友の妻──抱えられた遺影──に深々と頭を下げた
会場には、拍手と歓声がいつまでも鳴り響いていたという……
後日、カシマはこの試合を視てこう述べている
「上体で1寸、足運びで1寸……といったところか……大したものだ
彼の友も、相当に……強かったのだろうな……」
「上体で1寸、足運びで1寸……といったところか……大したものだ
彼の友も、相当に……強かったのだろうな……」
いつか、この男はタイトルを取るかもしれない
その時はきっと、ドキュメンタリー番組として
男の人生を描くに違いない
それを視て、感動するヒトも出るだろう
だが、それは真実の物語といえるだろうか?
男の苦しみを、強さを誰も知る事はできないだろう
その時はきっと、ドキュメンタリー番組として
男の人生を描くに違いない
それを視て、感動するヒトも出るだろう
だが、それは真実の物語といえるだろうか?
男の苦しみを、強さを誰も知る事はできないだろう
そして、また忘れられていくのだ
ならば、せめて自分だけでも
「わたしは……忘れないから……」
「わたしは……忘れないから……」
「……ワタシも、忘れぬよ」
サチの心を読んだかの様にカシマ
サチの心を読んだかの様にカシマ
「……うん」
二人は、お互いに微笑を交わす
「きっと……それが、わたし達の役目なんだよね」