名称:〈狂戦士〉
呼称:《バーサーカー》
大分類:ロール系
◆解説
〈狂戦士〉は、北欧サーバーで開発実装された
サブ職業である。地域特有の背景設定である精霊信仰に身を捧げた蛮族戦士の表現としてデザインされた。彼らは戦乙女の精霊を深く信仰し、その加護を受けて、死地にあっても恐れることなく戦う英雄的な戦士だ。いくつかのデメリットを受けつつ戦闘能力を高める〈狂戦士化〉をはじめ、サブ職業としては珍しく戦闘向けの特技を獲得することができる。
北欧サーバーでは、サーバー固有のメインストーリーを構成するレイドコンテンツに接続したサブ職業であり、地域の伝承や世界設定と密接に関わる様々な専用
クエストが拡張パックのたびに追加実装され、人気知名度ともに高いロールプレイ系サブ職業の花形的存在となっている。
一方、日本サーバーでは、後に〈バイキング〉などのいくつかの北欧サーバー固有のサブ職業が移植された際にまとめて実装されたが、専用のストーリー性のあるクエストの類までは移植されておらず、やや味気ない位置付けとなっている。
◆〈セルデシア〉における〈狂戦士〉
セルデシアにおける〈狂戦士〉の扱いは、その地域によって大きく異なる。
〈狂戦士〉とは、元々、地球世界のスカンジナビア半島に相当する〈ノルドの北辺〉と呼ばれる北方の辺境地域固有の精霊信仰に根差した宗教戦士職である。宗派と地域が違えば、〈聖騎士(パラディン)〉と呼ばれうる立場と言えば、イメージしやすいだろうか。
〈ノルドの北辺〉では大小様々な精霊が信仰されているが、中でも篤く信仰されているのが戦の守護精霊〈戦乙女〉だ。他の地域では〈剣の姫騎士(ソードプリンセス)〉等という名称で、
〈召喚術師〉の用いる従者召喚の対象精霊として知られている存在であるが、〈ノルドの北辺〉の精霊信仰においては、戦いと勇気を司り、勇敢な戦士を愛し、時に戦士に加護を授ける存在として解釈され、信仰されているのだ。
この〈ノルドの北辺〉の精霊信仰において、〈戦乙女〉に見初められ、加護を授けられた英雄的な戦士こそが〈狂戦士〉なのである。
〈戦乙女〉の加護を受けた戦士は、死地にも怯まぬ魂を獲得する。さらにその中でも卓越した勇者は精霊の座に召し上げられて、〈戦乙女〉とともに永遠の戦場を駆け抜けるという。事実、〈ノルドの北辺〉の
〈古来種〉の中には、〈狂戦士〉として〈戦乙女〉に見初められ、不死の戦士となった者もいる。
〈戦乙女〉は、勇気ある者、正々堂々と戦いに臨む者であることを〈狂戦士〉に求める。逆に言えば、どのような得物で戦うかにこだわりはない。武器が剣であろうと槍であろうと、はたまた素手であろうとも〈狂戦士〉たりうるし、破壊の魔法で戦陣を突破する者、最前線で味方を癒す者も、その精神と信仰が相応のものであれば〈狂戦士〉となることができる。
「狂」という一字の印象で誤解されがちであるが、〈狂戦士〉は、理性を捨てて獣のように戦う者のことではない。信仰の下に恐れという枷を外し、痛みという鎖を引き千切り、勇者を愛する〈戦乙女〉の望むまま、戦場を自在に駆ける戦士。それが、〈ノルドの北辺〉における、本来の〈狂戦士〉だ。
我が身をかえりみない恐れ知らずの戦いぶりや独特の文化や信仰から、他の地域の者からは無教養な蛮族戦士と見られがちであるが、〈戦乙女〉の加護を受けた戦士は、精霊に愛される英雄であるべく正々堂々とした戦いを望み、卑怯な行いや臆病を恥じる。(比較すれば確かに粗野ではあるが)騎士道や武士道に通じる「戦士の文化」を持っている。それゆえに、他地域の者でも戦士階級に属する
〈騎士〉などからは、誇り高き英雄的な戦士として互いに一定の敬意を向けられる。
このように、〈狂戦士〉は元々が〈ノルドの北辺〉固有の文化と不可分の存在であるため、そのほかの地域ではまったく存在しないか、あるいは〈ノルドの北辺〉から偶然流れ着いた少数の人々が細々と存在しているだけに過ぎない。
たとえば
ヤマトでは、エッゾの最北端に〈ノルドの北辺〉から海を越えて偶然流れ着いたバイキングの一族がおり、その中に〈狂戦士〉も何人かいる程度である。彼らの勇敢さと戦闘能力は、亜人に脅かされるセルデシア世界では、どの地方でも有用なものである。しかし、その独自の文化から、〈ノルドの北辺〉以外では奇異の目を向けられることが多い。
◆ゲーム時代の〈狂戦士〉
〈エルダー・テイル〉における〈狂戦士〉は、前述したように北欧サーバー固有のローカルサブ職業である。後に日本サーバーにも〈バイキング〉などのいくつかの北欧固有サブ職とともに移植実装されたものの、付随するクエストやストーリーや専用
アイテムは移植されていないサブ職業だ。
〈狂戦士〉は、一時的に戦闘能力を強化する〈狂戦士化〉をはじめ、戦闘向けの特技を獲得することができる。もっとも、あくまでサブ職業の特技であるため、その効果や戦闘面の影響は抑えられており、また防御能力の低下や一部特技が使用不能になるなどの代償や不利益によってもバランスが取られている。そのため、あらゆる職業やビルドにおいて戦闘能力を強化できる有用なサブ職などではなく、癖のある能力やデメリットを前提とした専用のビルドを構築することで、ようやく使いこなせるといった特徴を持っている。
〈狂戦士〉は本家北欧ではレイドコンテンツに関連接続したサブ職であるため、日本サーバーでの転職条件もレイドへの参加が前提となっている。もっとも、専用のストーリー性のある転職クエストの類があるわけではなく、エッゾのレイド
ゾーンに出現する巨人系エネミーがドロップする転職用のアイテムを千個集めて、エッゾ最北部にいる転職NPCの所に持っていくだけという、難易度だけがレイド前提に引き上げられた苦行感満載の単純作業で、「正気では〈狂戦士〉ならず」「〈狂戦士〉になる前にプレイヤーが発狂する」などというプレイヤーの恨み節が攻略wikiのコメント欄には並んでいた。事実上、レイドゾーンの無限湧きエネミーを処理し続けるドロップ狙いのマラソンが必須であるため、転職にはコンスタントにレイドに挑める人脈と、相当の根気が要求される。
こうしたことから、数パーセントの補正が生死を分けるようなレイドに挑むハイエンドプレイヤーが、専用のビルドを構築した上で、苦行のようなマラソン行為に耐えて転職するサブ職業というのが、日本サーバーでの〈狂戦士〉の位置付けである。結果として、極めて人口の少ないマイナーなサブ職となっている。
一方で、本場北欧サーバーにおける〈狂戦士〉の立場は日本と大きく異なる。そもそも前提として、〈狂戦士〉専用のクエストが豊富さが段違いだ。日本サーバーで言うならば、〈貴族〉や〈騎士〉並のストーリーが用意されている。特に北欧サーバーでは、サーバー固有のメインストーリーを構成するレイドコンテンツに接続したサブ職であり、レイドメンバーに〈狂戦士〉がいなければ参加できないレイドすらある程で、ロールプレイ系サブ職の花形として人気が高いのだ。当然、転職クエストもドロップアイテムを千個集めるだけの単純作業などではなく、〈戦乙女〉との邂逅と、試練を経て英雄として認められるまでを描いた冒険譚のように、華々しいレイドを戦うストーリー性の高いものが用意されている。
また、サブ職業の利益という点でも本家北欧サーバーは他の移植先に優越する。レイド産の〈秘宝級〉や〈幻想級〉の〈狂戦士〉専用アイテムを獲得できるのである。当然それらのアイテムはレアリティに見合った性能を備えており、たとえば「HPが10%以下で発動する能力が、30%以下で発動するようになる」など、〈狂戦士〉の特技の性能を向上させる効果を備えている。こうした専用装備の存在により(高難易度のレイドをクリアできる前提でなら)、北欧サーバーの〈狂戦士〉と他地域の〈狂戦士〉とでは待遇面においても差があるのだ。
これら北欧サーバー産の〈狂戦士〉専用アイテムの一例としては、原作に登場した〈D.D.D〉の
ギルドマスター、
クラスティの装備である
〈死せる戦士の鎧〉や
〈再度の業怒〉が挙げられる。彼の〈狂戦士〉のサブ職や愛用の装備の数々は、彼がギルド設立以前に北欧サーバーへの散歩(という名の遠征)を行って、現地のレイドに参加して得たものなのである。
◆〈大災害〉後の〈狂戦士〉
〈大災害〉後の混乱期において、〈ノルドの北辺〉では現地の〈狂戦士〉たちが団結し、古来種の不在や〈大災害〉直後で足並みが乱れた
〈冒険者〉の混乱の中にあって、人類の版図を守り続けた。
そもそもが設定からして、恐れを知らず勇敢に戦う戦士である。ゲーム時代はあくまでプレイヤーである〈冒険者〉が主役であるため、その活動はあまり描かれてこなかったが、現実となったセルデシア世界では、その背景通り、亜人と戦う一大戦力となったのだ。〈大災害〉後の不穏な世情、そして謎の存在
〈典災〉の暗躍は、ノルドの人々が信仰する精霊と、彼ら自身の危機でもある。そんな英雄を必要とする乱れた世情で、〈戦乙女〉の篤い信仰者である〈狂戦士〉が立ち上がらないはずがなかったのだ。
〈冒険者〉のように不死身でないにも関わらず、誇りある死を喜ぶように、命を懸けて無辜の民を守る〈狂戦士〉の姿は、〈大災害〉によってくじけかけていた〈冒険者〉らを奮起させた。ユーレッド中央部で〈貴族〉や大規模ギルドらが繰り広げていた勢力争いに嫌気がさして北辺に移動した〈冒険者〉らが、ノルドの〈狂戦士〉らと呼応して
モンスターとの戦いに加わったのだ。この共闘から平和的な交流が始まり、〈ノルドの北辺〉は〈大災害〉後、いち早く
〈大地人〉と〈冒険者〉が協力して秩序を取り戻した地となった。
〈ノルドの北辺〉では、今でも〈大地人〉主導でモンスターとの戦いが続けられている。地元の地形や環境を知り尽くした〈大地人〉が戦略を考え、不死身の〈冒険者〉が戦場の要で投入される形である。ゲーム時代のクエスト受領と似た関係性が馴染んだのか、この関係性は今のところ円滑に続いているようだ。ヤマトでいうところのイズモにあたる古来種の拠点であった〈ルクルセルブの霊窟〉は、その主であった”始まりの狂戦士”ルクルセルブが姿を消した後も、彼の志を継いだ〈大地人〉の〈狂戦士〉らによって、人類の砦としての機能を保ち続けている。
一方、ヤマトの〈大地人〉社会でも、ごく一部の地域限定ではあるが、〈狂戦士〉が注目され、その数を増やしつつある。その地域とは、エッゾ。巨人が闊歩する、弧状列島ヤマトでも有数の危険地域である。
この地で〈狂戦士〉が増えた原因は、
アキバから拠点を移した
戦闘系ギルド〈シルバーソード〉だった。〈シルバーソード〉はススキノ移住後にエッゾ各地を転戦し、多くの
大規模戦闘を制圧して、大量の巨人系エネミーを倒して回った。その過程で入手した〈狂戦士〉転職に必要なドロップアイテムを、彼らは見込みのある〈大地人〉に分け与え、エッゾ北端の〈狂戦士〉に紹介して転職を促したのだ。
とはいうものの、これは深い考えがあっての行動ではなく、〈シルバーソード〉からすれば、転職アイテムは使い道のない不良在庫で、〈大災害〉後にゲーム時代と同じ方法で〈大地人〉が〈狂戦士〉になれる保証もなかった。「いらないアイテムを捨てるよりは、〈大地人〉の役に立つ可能性があるなら、あげちゃってもよくない?」くらいの軽い気持ちで行った試みであったのだが、結果として、転職は見事に成功した。
こうして誕生した新たなる〈大地人〉の〈狂戦士〉は地方の守り手として活躍するようになった。また、その活躍を目にした者が〈狂戦士〉への転職を希望し、その数をじわじわと増しているようだ。〈冒険者〉ばかりに頼るのではなく、自分の力で村や街を守りたいという志ある若者が、開拓者精神旺盛なエッゾには多くいたのである。
正直なところこの転職斡旋は、〈シルバーソード〉としては使い道のないアイテムの有効活用でしかなく、また、自分たちがレイドに集中するためにも〈大地人〉には自衛の力を持ってもらいたいという打算混じりの行動にすぎない。だが、〈狂戦士〉に転職した若者たちからは「英雄〈シルバーソード〉が我らに戦う力を分け与えてくれた!」と感激され、エッゾ北端の〈ノルドの北辺〉からやってきた異邦人の集落からは「〈戦乙女〉の教えを体現する勇者が、我らの同志を増やす手助けをしてくださる!」と喜ばれており、〈シルバーソード〉の評判を予想外に上げる結果となった。ギルドマスターのウィリアムは何やらいたたまれない気分で、これらの純粋な反応を受けとめているようだ。
最終更新:2022年12月25日 16:11