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 本項では、共通語の文法について解説する。なお、本項は参照文法(Reference grammar)であるため、初学の用には適さないので注意されたい。また、本項は標準語に当たるミラシア方言規範文法を記述することとする。


概要

 共通語はVSO(動詞・主語・目的語)の規範的語順を取り、修飾語順はNA(被修飾語・修飾語)・NG(被修飾語・属格名詞)である。また、アラインメントは三立型であり、自動詞の主語と他動詞の主語は格標識で区別される*1

 修飾語順は雅語や詩語ではAN(修飾語・被修飾語)になることもある。

品詞の一覧

  • 名詞……物の名前を表す。
  • 動詞……動作を表し、名詞を支配する。
  • 間投詞……感情や挨拶を表す。
  • 前置詞……名詞の文中での役目を格以上に詳細に表す。

名詞

 名詞は物の名前を表し、文法的には「語幹」「格変化語尾」に分解することが出来る。

 共通語の数は単数少数既知複数未知複数の4つである。
 辞書形は単数である。既知複数・未知複数は語幹の変化であり、格に先行するが少数形は格語尾が変化する

  • 単数……単一のもの、一つのものを指す。
  • 少数……2つ以上~4つ以下のものを指す。
  • 既知複数……5つ以上の複数のうち、その数が話者にとって分かるものを指す。
  • 未知複数……5つ以上の複数のうち、その数が話者にとって分からないものを指す。

少数形

 「少数形格変化」の項目を参照。

複数語幹

 既知複数と未知複数は、複数語幹と呼ばれる語幹から派生する。
 複数語根には三つのタイプがあり、単語ごとにタイプは異なる(暗記する必要がある)。

  • タイプ1(畳語幹)
 タイプ1は語幹を繰り返すことによって表される。

  rukär「知ること」 - rukrukär

  • タイプ2(ウムラウト化)
 タイプ2は語幹の母音がウムラウト化(原語では、cür cutiv/中性化)することにより、表される。

  yomër「星を見る者」 - yömër

  • タイプ3(接中辞挿入*2
 タイプ3は語幹と格語尾の間に接中辞が挿入されることにより、表される。
 なお、語幹の末尾の状況で挿入される接中辞は異なるので注意が必要である。

C-名詞語尾 → C-iy-名詞語尾
V-名詞語尾 → V-y-名詞語尾
  dür「豊穣」 - diyür
  rumaär「???」 - rumayär

既知複数と未知複数

 既知複数は一部の不規則変化を除き、基本的に複数語根それ自体である。未知複数は、複数語幹にiv-という接頭辞が付く。
 iv-は、膠着する語頭がr, n, m, t, sの場合/v/が逆行同化する。以下の表では、同化した部分を下線で強調している。

原形 既知複数 未知複数
タイプ1 rukär
「知ること」
rukrukär
「幾つかの知識」
irrukrukär
「止めどない知」
タイプ2 yomër
「星を見る者」
yömër
「何人かの観測者」
ivyömër
「数多くの観測者」
タイプ3 dür
「豊穣」
diyür
「何度かの豊穣」
ivdiyür
「数え切れないほどの恵み」

 は名詞の文中での用途などを表す。数変化によって、格変化のパラダイムが変わることはない(第一変化名詞の単数形と複数形で格変化語尾が変わったりはしない)。

  • 自主格……自動詞の主語、他動詞の主語として対格と共に使うと受動態になる。
  • 他主格……他動詞の主語。単純自動詞の主語として使うと使役態になる。
  • 対格……目的語を表す。単純自動詞では、向格。
  • 属格……名詞の後では、名詞を修飾することを表す。動詞後では、動詞を修飾する(副詞用法)。前置詞の主要部となる(前置格)。

 名詞の辞書形自主格である。格は名詞の語尾を変化させることによって表される。この特定の語尾の変化部分を格変化語尾と呼ぶ。

格の名前 第一変化 第二変化 第三変化 第四変化
自主格 -(ä)r -(ë)r -(ö)r -(ü)r
他主格 -(ä)t -(ë)t -(ö)t -(ü)t
対格 -(ä)š -(ë)š -(ö)š -(ü)š
属格 -a(v) -i(v) -e(v) -u(v)
-∅(v) (埋没語幹属格特殊形

格の名前 第一変化
rukär「知ること」
第二変化
yomër「星を見る者」
第三変化
aazör「強い感情」
第四変化
dür「豊穣、恵みを受けること」
自主格 rukär yomër aazör dür
他主格 rukät yomët aazöt düt
対格 rukäš yomëš aazöš düš
属格 ruka(v) yomi(v) aaze(v) du(v)


hiorër yomiv 「星を見る者の衣服」
aazör rukav 「知の強い感情」

埋没語幹

 名詞の辞書形語尾が är, ër, ör, ür 以外で終わるものを埋没語幹という。埋没語幹は、名詞語尾から変化形を知ることは出来ないため辞書を参照しなければ変化が分からない。

埋没語幹属格特殊形

 埋没語幹の語尾が長母音で、その単語クラスの属格語尾と同じ母音である場合――つまり、第一変化-aa・第二変化-ii、第三変化-ee、第四変化-uuで語幹が終わる埋没語幹の属格形は、ゼロv, ゼロになる。
 これは、三連続母音を防ぐためのルールであり、少数形にも適用される。


maar「場所」 → maav, maa「場所の」(maaav, maaaは誤り)

v抜き属格の用法

 一般的に属格は v が付された形を用いるが、特殊な場合は v を付さない形が用いられる。
 v を伴わない属格は以下の場合、使われる。

1)名前などにおける省略
 統語的に名前は「~の娘・息子・子供」の「の」以下を省略した形である。

2)合成語
 合成語の最後の要素以外は、名詞である場合、v抜き属格になる。
 例えば xör 「言葉」と dür 「満ちた」を要素とする合成語は xedür 「博識、物知り」となる。一方で、通常の属格を用いて dür xev とすると「言葉がいっぱい」という文字通りの意味になる。
 合成語と単純な修飾を区別するのは語順である。合成語はANの語順のように単語を合成する。

3)前置詞
 前置詞が属格を取る場合には v が伴わない属格が用いられることもある。
 これは話者や地域によって一定せず、どちらを使っても誤りではない。

4)敬称・号・種類など
 xedulär「教師」・liyatrellör「共和制」など、人の名前に付いて敬称や国号、種類などを表す単語は "maya xedula"「マヤ先生」・"milasia liyatrelle"「ミラシア共和国」のようにv抜き属格を用いる場合がある。

5)副詞用法
 属格の副詞用法ではv抜き属格が用いられる場合がある。

少数形格変化

 名刺の数が少数(2~4)である場合、単数の場合とは違い、格変化語尾が異なる。

格の名前 第一変化 第二変化 第三変化 第四変化
自主格 -(ä)ria -(ë)ria -(ö)ria -(ü)ria
他主格 -(ä)dia -(ë)dia -(ö)dia -(ü)dia
対格 -(ä)žia -(ë)žia -(ö)žia -(ü)žia
vあり属格 -avia -ivia -evia -uvia
v抜き属格 -aya -iia -eyya

 ほとんど、iaという語尾*3が付与された形になっているが、他主格・対格は有声化しているのに注意が必要だ。
 少数形の埋没語幹属格特殊形は以下の通りである。

格の名前 第一変化 第二変化 第三変化 第四変化
vあり属格 -via
v抜き属格 -ya -a -yya -via

 また、vあり属格とv抜き属格のそれぞれの少数形は異なることにも注意が必要である。

格の名前 第一変化
rukäria「幾らかの知識」
第二変化
yomëria「何人かの星を見る者」
第三変化
aazöria「何度かの激情」
第四変化
düria「幾度の恵み」
自主格 rukäria yomëria aazöria düria
他主格 rukädia yomëdia aazödia düdia
対格 rukäžia yomëžia aazöžia düžia
vあり属格 rukavia yomivia aazevia duvia
v抜き属格 rukaya yomiia aazeyya

外来語におけるar

 一部の外来語・古典語由来語(名前も含む)の格変化では、名詞 ar がその語頭に付いて格を受け持つ。
 辞書では "ar (単語)" と書かれている。


ar telion「目印は」
aš telion「目印を」

数詞

 詳しくは「共通語/文法/数詞」を参照。

動詞

 動詞は動作を表し、文の核となる。文法的には「語幹」「人称・時制・相を表す語尾」に分解することが出来る。

格支配の種類

 動詞は、その格支配の特徴によって4つに区別できる。この区別のことを格支配の種類と呼ぶ。これらの区別は格の使い方や態の変化などに関わる。

  • 単純動詞……主語に自主格か他主格しか使えない。
    • 単純自動詞……主語に自主格しか使えない(辞書に自動詞タグしか無い)。
    • 単純他動詞……主語に他主格しか使えない(辞書に他動詞タグしか無い)。
  • 複格動詞……語法で自主格・他主格を使い分ける(主語に自動詞タグと他動詞タグが両方存在する)。

人称変化

 動詞は人称動作の主体が誰なのか)、時制動作がいつ起きたのか)、動作の主体の数)によって変化語尾が付けられる。
 共通語の人称には一人称・二人称・三人称が存在する。簡単には、一人称は話し手(私)のことを指し、二人称は聞き手のことを指す。三人称はそれ以外を広く指す。しかし、正確な人称概念に関しては西洋言語学におけるそれとは異なるため、詳しくは人称表現を参照のこと。
 共通語の時制は現在非現在(過去と未来を包括する時制)に分かれている。非現在形は現在形の語尾に -e を付けるだけで形成できる。
 共通語の動詞の数には、単数複数が存在する。単数は名詞の数変化における単数形と少数形を包括する。
 動詞の辞書形は三人称単数現在形である。

人称 現在 非現在
単数 一人称 -(e)n -(e)ne
二人称 -(a)r -(a)re
三人称 -(e)t -(e)te

変化例(ruket「知る、触れる」)
単数 一人称 ruken rukene
二人称 rukar rukare
三人称 ruket rukete

複数形変化

 主語が複数形である場合、語幹に対応する名詞がある場合はタイプ1を除き、複数語幹が元となる。
タイプ1の複数形は、複数語幹の最初の子音だけが残る(語幹がanなどの場合はananになる)。

変化例
下線強調部は語幹変化により付与された部分。

ruket「知る、触れる」
(タイプ1)
一人称 rukren rukrene
二人称 rukrar rukrare
三人称 rukret rukrete
yomet「星を見る」
(タイプ2)
一人称 yömen yömene
二人称 yömar yömare
三人称 yömet yömete
det「豊かである」
(タイプ3-1)
一人称 diyen diyene
二人称 diyar diyare
三人称 diyet diyete
rumat「終わりに向かって最後のときである」
(タイプ3-2)
一人称 rumayen rumayene
二人称 rumayar rumayare
三人称 rumayet rumayete

 外来語由来の動詞などでは、語幹に対応する名詞が存在しないことがある。
 そういった場合は複数形変化はタイプ3に準ずる。もし日本語の「バズる」を借用したとしたなら、次のようになるだろう。

bazuret(タイプ3) 一人称 bazuriyen bazuriyene
二人称 bazuriyar bazuriyare
三人称 bazuriyet bazuriyete

命令形

 命令形は他者への命令や要求を示す。日本語における「~しろ」という命令よりも普遍的な「要求」なども含むため、表現に注意が必要である。

 命令形は基本的には動詞の語幹に相当する。しかし、語幹が一音節に満たない場合や語尾が二重子音などで終わる場合は、語幹に-eが付いた形が命令形になる。

lulet「感じる」 → lul「感じろ!」
iteyat「望む」 → iteya「望め!」
cet「持つ」 → ce「持て!」

 命令形は数による使い分けがなく、単数であろうが複数であろうが単数語幹が使われる。


 受動態(~される)と使役態(~させる)を表す方法は、格支配の種類によって異なる。
 単純動詞の場合は、他動詞の主語に自主格を使うことで受動を表現でき、逆に自動詞の主語に他主格を使うことで使役を表すことが出来る。
ruket「見る、触れる」(他動詞)
ruket hiorëš. (誰かが)服を見る。
ruket hiorër. 服は見られる。

yömet「星を見る」(自動詞)
yömet. (彼・彼女は)星を見る。
yömet rumaät. 夕暮れが星を見せる。

 複格動詞である場合、助動表現が用いられる。

助動表現

 助動表現は、"a 名詞のv付き属格"の形で動詞の細かなニュアンスを表現する。連なる場合は"a 名詞 a 名詞……"というようになる。
 主格が複数/少数の場合は、助動表現の名詞の部分は複数形v付き属格になることに注意が必要である。

複格動詞の受動態/使役態

 複格動詞の他動詞の受動態は、 "a ite / itite" という句を付け加えて表す。


dene a ite. 「私は豊かにされた」

 複格動詞の自動詞の使役態は、 "a lev / liyev" という句を付け加えて表す。


dene a lev. 「私は豊かにさせる」

否定

 動詞の否定は、動詞の直後に "a lyav / lyiyav" という句を付け加えて表す。


den. 「私は豊かだ」
den a lyav. 「私は豊かではない」

可能

 可能表現は、動詞に "a tuv / tiyuv" というを句を付け加えて表す。


dene a tiyuv. 私たちは豊かになれる(豊かになれただろう)

勧誘・自発

 勧誘・自発の表現は、動詞の直後に "a fi / fiyiv" という句を付け加えて表す。
 付与される動詞が一人称単数であるなら自発であり、一人称複数・二・三人称なら勧誘を表す。


fiyar xöt fiv a fiyiv! フィウ語を話しましょう!

口語での省略

 口語表現では動詞の直後で a が省略される(=属格の副詞用法として使われる)ことがある。
 この場合、v抜き属格が用いられることがある。
 丁寧さの度合いは、a 属格v付き属格の副詞用法v無し属格の副詞用法の順となる。


普通体:den a lyav. 「私は豊かではない」
口語表現Ⅰ:den lyav. 「僕は豊かじゃない」
口語表現Ⅱ:den lya. 「俺ぁ満足してねえ」

連体表現

 文頭以外の動詞で名詞句の後ろに来るものは、その名詞句を修飾する。これを連体表現という。
 連体表現の際の動詞の人称変化は、その行為を行う者に対応する。


kulat aaze det. (彼女が)豊かであるアーゼは淡々としている。
ruken lulür magwei triinene. 私は(私が)助けた職人の趣味を知っている。

 連体表現節の動詞が取る名詞や助動表現はその後に続くことが出来る。


ruken lulür magwei triinete a lyav yomëš. 星読みを助けなかった職人の趣味を私は知っている。

人称表現

 共通語での人称表現は、文法項目としては多岐に渡るが動詞と関係が深いため、ここでまとめておく。

主格の人称

 共通語では動詞の人称変化で表現される。主語が立つのは殆どが三人称(物や人の名前や名詞)のみである。


kulan. 私は試す
kular. あなたは試す
kulat magwettalät. 探林家は試す

属格の人称

 共通語では動詞"cet"か"let"の連体表現として表される。
 使い分けははっきりとしないが、"cet"の方が所有や所属を強調し、"let"はその本人が対象としている(扱える)ことを意味する。


fe cutëš car ï aš! お前の大切なものを私に寄越せ!

tret dumär an eav len? 私のすべきことは何ですか?

対格の人称

 共通語では"aš (適当なcet/letの人称変化形)"で表す。


rukar aš cet? 彼を知っていますか?

前置詞に取られた人称詞

 共通語では"(前置詞) (前置詞の支配する格に変化したar) (適当なcet/letの人称変化形)"で表す。


far a aev cen a fi. 私と一緒に話し合いましょう。

ar人称について

 "ar"という名詞は、西洋言語学における一人称に近い意味を表すが、厳密に言えば異なる。この単語が示すのは「今ここのアクチュアリティ」であり、その場や状況をも広く指す代詞である。本文法においては、簡単のためにar人称一人称と基本呼称する。


rukar aš? 私(=今ここ)を知っていますか?

let人称について

 動詞let「~の相手になる、対象である」の任意の変化形が ar を修飾する名詞句は、西洋言語学における二人称に近い意味を表すが、厳密に言えば異なる。この単語が示すのは「話や行動の上で何者かの対象となっている」ということである。これは、ar人称の対象に限らない。本文法においては、簡単のためにlet人称二人称と基本呼称する。


rukat aš lar. (=rukat aš car) 彼はあなたを知っている。

前置詞

 前置詞は後に来る名詞句の文中での役割を示す。
 前置詞は句の主要部たる名詞に対してある格を要求する。これを前置詞の格支配と呼ぶ。


rumane a aazev. 私は激情とともに死んだ(死ぬだろう)。
最終更新:2024年07月01日 13:35

*1 探林家共通語(仮)作業場;ページ5

*2 ちなみにこの接中辞はyur「5」と同根である

*3 ir「幾らかのもの、少数物」に由来。