境界戦争

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cestlavie

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境界戦争

境界戦争とは

 冷戦期以降に取り上げられることの多い概念。厳密には第一次世界大戦期から多く語られるようになってきた戦争理論であり、その端緒は1879年ズールー戦争にまで遡る事が出来る。
 そもそも祓魔師、ひいては非化学的行為能力者*1の戦闘行為への従事はヨーロッパ世界において一般的なものではなかった。*2即ち唯物史観的な解釈において農村社会が封建社会化するにあたっての分業化が非化学的行為能力者の軍事的動員を妨げていたのである。*3ヨーロッパ世界においては19世紀までに一般化されつつあった政教分離の原則も相まって*4、近代社会とは「祓魔師など専門的かつ少数の宗教事業者の軍事的動員を拒絶する」ものであった。*5
 その中で西洋諸国は未開の地域との戦争において、未開地域における非化学的行為能力者との戦闘を経験する事となる。当然ながら中世期以前のヨーロッパ世界においては非化学的行為能力者の軍役は存在したものの、近代においてはあくまで軍人による戦闘が主であった。その結果としてズールー戦争において近代的なはずのイギリス軍は未開の蛮族に過ぎないズールー族のシャーマンらと交戦し、史上まれにみる長期化を招く。
 一応はこれに勝利する事が出来たイギリスであるが、以後非西洋社会の見直し――ひいては祓魔師を動員した軍事利用の萌芽となる。*6
 この後の20-30年の間において社会構造自体は大きく変わることが無かったものの、第一次世界大戦の勃発とそれに伴う総力戦体制の出現により、宗教事業者のみが軍事的動員を免れる事は不可能となった。これは近視的には戦場で発生した穢れおよび界異の祓滅を担当する事であり、遠視的には「祓魔術や呪具の専門的な運用による敵国家と人民への直接加害」を意味することとなる。
 第一次世界大戦においてイギリス等連合国側で用いられたとされる無号級界異“ホムンクルス”は、その最初期の例である。縁起として飼いならされた界異を改良し、より安全な形で戦地において大量に戦死した兵員を補充するために製造される“ホムンクルス”は戦後イギリスにおける戦死者を一部代替するに至った。*7
 戦間期から第二次世界大戦期において、各国はこぞってクラシカル祓魔師の軍事利用および呪具・祭具の研究とそれの軍事利用について研究を進めていく事となる。ナチス・ドイツにおけるアーネンエルベをはじめとして、イギリスにおける王立魔術師協会、大日本帝国におけるミワシ部隊の設立などが主な例として挙げられる。
 1917年のロシア十月革命において成立した社会主義国家、ソヴィエト連邦においてもその潮流は顕著であった。
 しかし共産主義の是として無神論を謳う都合上、既存宗教に立脚したクラシカル祓魔師は駆逐される運命にあった。*8そこでソ連の共産主義者は「加護によって成立する現世でも、穢れによって成立する幽世でもない、労働者の為の新たな天地」――即ち“第三の幽世”概念を成立させ、科学的なアプローチでの祓魔術成立を目指していく。
 ソ連の転換期でもあった大祖国戦争と大粛清期においては、伝統的なクラシカル祓魔師の撲滅と共産主義的祓魔術――規格化術式の発展が両立する時期である。同じく穢晶など霊素の分析と化学的利用法も研究され、1960年代前後までソ連はタクティカル祓魔の最先端を行く国家でもあった。
 しかし第二次世界大戦の終結とともに、各国の祓魔事情は一変する。ドイツを含めヨーロッパ諸国に存在した祭具はアメリカやソ連によって収奪され*9、敗戦国である日本や国共内戦を経て成立した中国などにおいても呪具の散逸や界異の跳梁跋扈*10が発生。各国間の祓魔的バランスが大きく崩れ、東西冷戦という時代の流れの中で両陣営での祓魔戦力の拡充が取り上げられるようになる。
 ここにおいて現実化したのが、「全面境界戦争」の脅威である。
 通常の原爆よりも致死性の高い穢晶爆弾や結界工事などに伴う防穢装備の全面運用は言わずもがな、非化学的な行為を用いる祓魔師や祓魔術、呪具や界異――縁起に至るまで、ありとあらゆる祓魔分野の戦力を持って敵陣営を殲滅するという狂った戦争遂行戦略に基づき、米ソ両国の祓魔軍拡競争は加速する。
 五号級界異や四号級界異を用いて敵国を直接攻撃し、また高度な呪具や儀式によって敵軍を撃滅、或いはその術者を撃退するための対抗術式の考案がなして、天災にも匹敵する界異を呼び出し、或いは迎撃し、恐るべき呪具を用いて儀式を為し、穢れを纏った爆弾によって汚染した土地を進む軍隊を保護するために祓魔師の結界を用いて、互いのカードを削り合いながら世界よりも一歩だけ早く敵国を亡ぼすという狂気の末――――ソ連の崩壊によって、この軍拡競争は幕を閉じた。



……はずであった。



2022年のロシア・ウクライナ戦争で、202■年の台湾海峡国際紛争で、当事国同士が界異や呪具の軍事利用を行うまでは。



要約版


Q.つまり?
A.縁起や呪具や祓魔術など、祓魔的サムシングを全面的に使った戦争。

 F式世界線において祓魔師や祓魔術といった存在は基本的に一般社会に公開されていないが、各国指導部においては祓魔術をフルに使った大戦争とその戦略を大真面目に考案していた。
 なお境界戦争という語彙自体は一般においても知られている。以下、語義を紹介する。

  • 境界戦争(1)
 穢れや加護などを使った戦争。単純に黒不浄弾や黒不浄爆弾、戦略霊子力潜水艦などを用いるものであり、穢れの致死性や穢染の永続性と合わせて1960年代以降全世界の一般市民にもこの恐怖は知られることとなった。
 境界兵器規制条約(1978年)や特定有穢性兵器禁止条約(2002年)などによって規制が進みつつある。
  • 境界戦争(2)
 黒不浄爆弾などに加え、祓魔術や呪具や界異・縁起の類まで用いる絶滅戦争。カミサマから聖遺物までなんでもありな単純明快なチキンレース。一般的には知られていないが、各国指導部や祓魔師たちはこの概念を知っている。
 非三次元戦とも。

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注釈

*1 いわゆる“加護”或いは生得的・後天的に訓練した術式、ないし祭具を運用する能力のある者

*2 これは19世紀の文化人類学者ルイス・モーガンの学説に沿う野蛮、未開、文明の三段階の内文明のレベルに到達した社会であれば全般的な傾向であると言える

*3 簡明に説明するならば、社会の中で分業化されたプロフェッショナルである祓魔師を人類同士の小競り合いによって消耗する事は社会全体にとって損失であるため

*4 20世紀末の国際政治学者サミュエル・ハンチントンはこの政教分離原則、ひいては非化学的行為能力者の軍事的な動員を行う事への拒絶感を西洋文明の特徴のうち資本主義や自由民主主義に並ぶ大きな概念として挙げている

*5 特にフランス革命によって国民軍の概念が出現したことにより、その傾向は一層顕著となった

*6 奇しくも19世紀後半はエレナ・ブラヴァツキーやアレイスター・クロウリーらの「西洋的ではない神話・精神・概念と西洋文化の融合」を目指す神智学の勃興と重なる時期であり、未開地域のシャーマンの奮戦と大英帝国の苦戦はそれだけ衝撃的な事件であったとされる

*7 ただし1923年■■事件においてホムンクルスの一般公開を目論んだ新聞記者/探偵の暗殺が発生したためこれらの情報の一般公開はなされず、ホムンクルス帰還兵は「一般人」として人間との混血が進むこととなる

*8 同じくアメリカにおいても歴史の浅い新興国家という都合上、祓魔組織の成立が遅れたという

*9 アメリカにおける祓魔組織スターコート……ひいてはその前身であるゾディアック12の成立やヨーロッパ圏における円卓同盟の成立はこの時期に当たる

*10 特に日本においては日本国土を保持していた霊的防御が破綻するなどの大被害が発生し、旧神祇庁はてんてこ舞いになったらしい