材料工学 > 用語集

塑性

 ある種の材料では、作用する力の大きさが一定限度に達すると変形の急激な増加を生じ、力を除いてもその変形が元に戻らないことがある。この減少を降伏といい、降伏によって永久的な変形を示すような材料の力学的性質を一般に塑性という。しかしより狭い意味では、降伏によって時間に依存しない永久変形を生じる性質を塑性といい、永久変形が時間に依存する場合には特にこれを粘塑性(クリープ)と呼ぶ。塑性は結晶構造をもつ材料の典型的な性質であり、金属材料において特に著しい。結晶質材料の塑性は主に転位の増殖と移動によってもたらされるが、高温では原子の拡散粒界すべりによっても生じる。

脆性

 最終破断までに材料の著しい伸びや絞りを伴わない破壊を脆性破壊という。ガラスやある種の結晶性固体は本質的に脆性であり、破壊までに全く延性を示さないことがある。しかし多くの金属材料はある程度の延性を示し、塑性変形の結果として破壊を生じる。したがって、脆性は材料に固有の特性ではなく、温度、ひずみ速度および応力状態のような延性を支配する因子の影響をうける。

延性-脆性遷移

 高温においては延性破壊をするにもかかわらず、温度の低下につれて脆性破壊をするようになる性質。体心立方格子や稠密六方格子の金属材料は延性-脆性遷移が生じる。

格子欠陥

 理想的な結晶においては、原子は規則正しい格子を作って並んでおり、このような結晶は完全結晶と呼ばれる。しかし実際に得られる結晶では、この規則性は少し乱れており、この乱れを格子欠陥と呼ぶ。格子欠陥には点状、線状、面状のものがある。点状の欠陥としては、本来の原子の種類と異なる不純物原子の存在、正規の格子点から原子が抜け落ちてしまっている空格子点、正規の格子点でない位置に原子が入り込んだ格子間原子があり、線状の欠陥としては塑性変形に関与する転位がある。また、面状の欠陥としては、多結晶の粒界(同質結晶が互いに接する境界)、結晶面の積み重なり方の欠陥等がある。

転位

 原子の配列あるいは結晶格子の乱れが一つの線に沿って生じている格子欠陥を転位という。結晶固体にある程度異常大きい外力を加えると塑性変形が生ずる。塑性変形が元に戻らないのは、原子のつなぎかえが起きることによるが、これにあずかるのが転位である。転位は転位線の方向を表すベクトルと、結合のズレがどの方向にどれだけ起きているかを示すベクトル(バーガースベクトル)によって表される。転位線tのバーガースベクトルが垂直な場合には刃状転位といい、平行のときはらせん転位という。転位の中心の部分はまわりの部分よりエネルギーの高い状態にあるので、外から力を加えると容易に原子のつなぎかえを起こし転位が移動する。また転位は動く過程で自己増殖を起こし、この昨日は塑性変形の気候の中で非常に重要な因子である。転位の構造と性質は工業材料の多くの性質を理解する基本である。

パイエルス・ポテンシャル

 すべての結晶中の転位は、結晶格子の周期性と共に周期的な自己エネルギーの変動が生じる。この周期的ポテンシャルの変動は転位の結晶中の位置により決定され、パイエルス・ポテンシャルという。この呼称は単純なモデルではじめて理論的に計算したPeierlsに因んでいる。なお、熱エネルギーを除いてポテンシャルを越すのに要する応力をパイエルス応力という。

すべり系(slip system)

 結晶構造をもつ材料が変形するとき、任意の変形は起こらず、特定の結晶面内に平行かつ、特定方向にせん断する傾向がある。この様な面と方向をすべり面(slip plane)すべり方向(slip direction)といい、この二つを合わせてすべり系という。結晶構造によりすべり系の数は次のように異なっている。

結晶構造 材料例 すべり面 すべり方向 すべり系の数
BCC α-Fe,W,Mo {011} <111> 6×2 = 12
{112} 12×1 = 12
{123} 24×1 = 24
FCC Al,Cu,γ-Fe {111} <110> 4×3 = 12
HCP Cd,Mg {0001} <1120> 1×3 = 3
Ti,Be,Mg {1010} 3×1 = 3
Ti,Be {1011} 6×1 = 6

臨界分解せん断応力(Critical Resolved Shear Stress)

 あるすべり面において、結晶方位に関係なく、初めてすべりが生じる時のせん断応力である。分解せん断応力の応力に降伏応力を代入した値であり、材料強度の指標となる。引張方向に依存することなく、主すべり系において臨界分解せん断応力が取られることをシュミット則と呼ぶ。これはすべり面を{110}以外にも持つbccには一般に成り立たない。

シュミット則(Schmid's law)

 単結晶金属では、その純度や転位密度、温度、ひずみ速度が同じであれば、臨界分解せん断応力(Critical Resolved Shear Stress,CRSS)は一定である。つまり、複数存在するすべり系において、最初に活動するすべり系、すなわち主すべり系(primary slip system)は、シュミット因子が最大のものである。一般に、bcc金属においては、すべり面が{011}以外にも存在するため、シュミット則は成立しない。


参考文献

  • 物性科学選書 転位のダイナミックスと塑性(鈴木 平 編, 吉永 日出男, 竹内 伸 著, 1985, 裳華房)
最終更新:2011年03月04日 14:15