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転位芯の影響

 転位論黎明期から、転位芯の影響は二の次とされていた。しかしながら、最密構造以外の結晶が衆目されることとなったとき、転位芯が要因される数々の現象が発見された。例として次のようなものがある。

  • 予期せぬ変形モード
  • 流動応力(塑性変形時の応力)の歪み速度、温度への強い、異常な依存性
  • 結晶方位の負荷方向への依存性

さらに以下を解明にするのに転位芯の解析が必要となっている。

  • 転位が移動する最小応力の算出

参考文献

  • Core structure of dislocations in body-centred cubic metals : relation to symmetry and interatomic bonding (V.Vitek , Phil.Mag,21 Jan-11 Feb 2004)
  • A generalized Peierls-Nabarro model for non-planar screw disocation cores (A.H.W.Ngan, J.Mech. Phys. Solids, Vol. 45, No. 6, pp.903-921, 1997)

シュミット則(Schmid's law)

 図のような円筒形の単結晶試料の単軸引張試験を考える。引張力Fの方向とすべり面法線nとのなす角をθ,引張方向とすべり方向dのなす角をφとする。もちろんndのなす角は90°である。しかし、F,n,dの三方向は必ずしも同一平面上にはないので、一般にθ+φ≠90である。試料の断面積をA,引張力の大きさをFとすると、引張応力σはσ=F_/Aである。

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一方、引張力のすべり方向dへの分力はFcosφであり、すべり面の面積は As = A / cos θ であるから,このすべり系に分解したせん断応力(分解せん断応力,resolved shear stress)τ は

τ = (F cos φ ) / As = (F cos φ / (A / cos θ ) = σ cos θ cos φ

となる。この式は、引張応力σが与えられたとき,あるすべり系への分解せん断応力τは方位因子

Sf = cos θ cos φ

の値(の絶対値)が大きいほど大きいことを意味している.この Sf のことをシュミット因子(Schmid factor)という。

 たとえば fcc 結晶での 12 個のすべり系の各々についてのシュミット因子が知れれば,そのうちの絶対値が最も大きなシュミット因子を持つすべり系がまず最初に活動すると考えて良い。このすべり系のことを主すべり系(primary slip system)という。簡単な幾何学的考察でわかるように,シュミット因子の可能な最大値は θ = φ = 45° のときの0.5である。

 単結晶試料で主すべり系のみが活動して降伏が起こるとき,降伏応力 σy は同じ単結晶でも引張方向によって異なるが, σy を上式の σ に代入して得られる主すべり系に分解した臨界分解せん断応力(critical resolved shear stress, 略して CRSS)τc は,引張方向に依存しないことが予想される。これをシュミット則(Schmid's law)とよび, fcc や hcp では良く成り立つことが知られている。一方,bcc では,{110}面以外の結晶面(たとえば{112}や{123})もすべり面として働くので,シュミット則は成り立たない。

 多結晶の場合は,さまざまな方位を持つ結晶粒が多数存在しているために,単結晶のように簡単に は CRSS を知ることができない。その場合は,さまざまな方位の結晶のシュミット因子(の逆数)を平 均化したようなテイラー因子(Taylor factor)Mを使って CRSS を見積もることをよく行う.

τc = σy / M

M の値を考察することは,それだけで1つの学問分野となるほどの大変なことであるが,すべり系の 数が多いほど小さくなることは容易に予想できる.したがって,多くの面がすべり面となり得る bcc が最も小さく,次いで fcc,hcp の順に大きくなるであろう.実際,それぞれ,2.0,3.1,6.5 などの 値が提唱されている.

完全転位

 すべり変形が起こったとしても、結晶構造は変化することは無く、すべり転位nバーガースベクトルbは結晶格子の並進ベクトルの一つと一致しなくてはならない。さらにbはすべり方向と平行である。一方、転位はμb^2に比例する単位長さあたりの自己エネルギーを持つ。そのため、なるべく小さなバーガースベクトルを持つ方が都合がよい。したがって、転位のバーガースベクトルは最近接原子を結ぶベクトルとなる。バーガースベクトルが結晶格子の並進ベクトルと一致している転位を、完全転位(perfect dislocation)という。

結晶構造 バーガースベクトル
fcc a/2<110>
bcc a/2<111>
hcp a/2<1120>

フランク則(Frank's rule)

 バーガースベクトルが結晶の並進ベクトルの一つと等しく無い場合、局所的な結晶構造の変化を生じる。これを部分転位(partial dislocation)、または不完全転位(imperfect disocation)という。完全転位が部分転位に分解するかを判定するかの判断として、完全転位と部分転位それぞれの自己エネルギーを比較することで調べる方法をフランク則(Frank's rule)という。転位の自己エネルギーはb^2に比例するため、バーガースベクトルの大きさの二乗をとり比較をおこなう。 特にfccにおける部分転位 a/6<112>型をショックレーの部分転位(Shockley's partial dislocation)と呼び、この分解反応式の条件を満たしている。

用語集

縮退(degeneracy)

 物理学において、2つ以上の異なった物理的状態が同じエネルギー準位をとること。物理的状態が縮退している場合、その物理的状態は対称性をもっていることが多い。 量子論で取り扱うと、電子配置と電子のエネルギー準位に縮退が起こる。縮退の中でもこの電子配置やエネルギー準位の縮退は、化学や物理学において大変重要である。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%AE%E9%80%80

最終更新:2011年03月04日 14:14