透明ドリちゃんの第1話

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#center(){|BGCOLOR(darkblue):COLOR(white):CENTER:&big(){&big(){&bold(){&br()パパ&i(){!}私を叱って&br()&br()}}}|} 主人公・青山ミドリ(ドリちゃん)の自宅である青山動物病院。 獣医の父である竜夫が、お隣の老婆・白川菊子の飼い犬を診察している。 竜夫「健康体ですよ、おばあちゃん。カゼなんかひいていません」 菊子「あらまぁ。じゃ、私を見てもらおうかしら? ウフフフ!」 竜夫「私は獣医ですよ?」 ミドリ「パパ、おばあちゃんはパパのことが好きなのよ。だから病気でもないのに、犬を連れて来るんだわ」 竜夫「こら!」 菊子「まぁ~、私も犬になりたいわ! わんわん!」 そこへ、ミドリの弟の虎男が駆け込んで来る。 虎男「姉ちゃぁん! 大変だ、大変だぁ! 大介さんがいじめられてるよ!」 ミドリ「えっ、大介くんが!? がってんだ!」 ミドリが菊子を突き飛ばして、飛び出して行く。 菊子「あ痛っ!」 ミドリ「虎ちゃん、おいで!」 竜夫「お婆ちゃん、大丈夫ですか?」 菊子「あら、なんて優しい…… 待てよ、今、大介と言ったね? 大介と言えば、私のかわいい孫ではないの! こりゃ一大事~っ!」 ミドリの母、梅子。 梅子「あなた、ミドリは?」 竜夫「おしおきをしに、飛び出して行ったよ」 梅子「えぇっ! じゃ、また!?」 河原で熊野幸治、通称ボスとその子分たち3人が、菊子の孫の大介からラジコン飛行機を取り上げて、遊んでいる。 ボスたち「グーな飛行機だなぁ!」「カッコいいなぁ!」「俺も買ってもらおうかなぁ」 大介「ねぇ、返してよぉ。返してったら! 返してよぉ。返してくれよぉ!」 ボス「うるさいな、ちょっとくらいいいだろ!?」 大介「僕、帰るんだ。返してくれよ!」 ボスたち「帰ればいいだろう!?」 ミドリと虎男が駆けつける。 ボスたち「あっ、ドリが来た!」 大介「ドリちゃん!」 ミドリ「返してあげなさいよ、ボス!」 ボス「出しゃばり女、すっこんでろ! それっ、急降下爆撃!」 ボスがミドリ目がけて、飛行機を急降下させる。 大介「危ないっ!」 飛行機に煽られて、ミドリが転倒する。 虎男「姉ちゃん!?」 ボスたち「ハハハハ!」 ミドリ「よくもやったわね!? アターック!!」 ミドリがボスに体当たり。ボスたち計4人を相手にケンカが始まる。 虎男「姉ちゃん、手伝うぜ!」 虎男も参戦しようとするものの、たちまち突き飛ばされる。 虎男「痛っ! 大介さん、黙って見てるのか!?」 大介「……そうか、よし!」 参戦しようとした大介も、突き飛ばされる。 大介「痛っ!」 ボスたちが一斉にミドリに飛びかかり、ミドリは大ピンチ。 そのとき、どこからか無数の石が、一同を目がけて降り注ぐ。 ボスたち「痛っ、痛痛!」「卑怯者!」「石を投げるなんてずるいぞ! 卑怯者!」 ボスたちはたまらずに、退散してゆく。 河原の石の陰から奇妙な顔が覗いているのにミドリが気づくが、その顔はすぐに消えてしまう。 ミドリ「変だなぁ、いたはずなんだけど…… あ」 菊子が竹刀を背負って駆けて来る。 菊子「大介や! ケガはなかったかぁ~い!?」 ボスが母親に連れられ、青山家に怒鳴り込んで来る。ボスの顔には大きな絆創膏が貼られている。 ボスの母「大ケガです! 見てください、こんな傷作って」 梅子「まぁ…… 申し訳ありません。まさか、石を投げるなんて」 ミドリが顔を出す。ミドリも石でケガを負い、額にも絆創膏が貼られている。 ミドリ「ママ! 私は石を投げていません。謝ることないわよ!」 ボスの母「まぁ~、白々しい嘘!」 ミドリ「本当です! 私のケンカルールは、正々堂々と素手でやることに決めています!」 梅子「ミドリ、石を投げたのは悪いことよ。謝りなさい」 ミドリ「嫌よ! 投げてないもの!」 梅子「ミドリ!?」 ミドリ「嫌!」 梅子「ママも、嘘つきは嫌いです!」 そして居間で、ミドリと両親。 ミドリ「嘘なんかついてません! あのとき石の陰に、何か小さな生き物がいたわ。その生き物がやったのよ」 梅子「そんなこと、誰が信じるものですか!?」 竜夫「ミドリ、本当に素手でやったんだね?」 ミドリ「パパに教えられた通りにやったわ。アメリカンフットボールよ!」 梅子「まぁ……」 竜夫「よぉし、信じよう」 梅子「あなた!?」 竜夫「子供はケンカの中から、色々なことを学び取るものさ。ルールの大切さとか、闘争心とか、負けたときの悔しさとか、涙のしょっぱさまでもね」 梅子「呆れた……」 ミドリ「パパ、大好き!」 竜夫「ハハハハハ!」 子供部屋で、ミドリは額の傷を鏡で見ている。 ミドリ「跡が残ると嫌だなぁ…… でも、良かった。パパに信じてもらえて」 鏡の中に、あの河原で見た奇妙な生物の顔が見える。 ミドリ「えっ!?」 振り向くと、そこには何もいない。しかし視線を鏡に戻すと、やはり鏡の中にそれがいる。 ミドリ「誰?」 ドンパ「あっしは、石の精のドンパでやんす」 ミドリ「石の精!?」 ドンパ「フフフ、フェアリーでやんす。つまり、妖精でやんすよ」 鏡面から、その石の精・ドンパが現れる。 ミドリ「鏡の中から出たわ!?」 ドンパが周囲の物に触れると、次々にそれらが石に変わる。 ミドリ「石になった!? じゃあ、河原で石を投げたのは……」 ドンパ「拙者でやんす! あのとき、ゼリアン王女のピンチをお救いしようと、投げやした!」 ミドリ「まさか、現実に妖精がいるなんて……」 ドンパ「まだ信じないでやんすねぇ~? 土の精よぉ!」 部屋を大きく揺るがし、土の精・ズーンが現れる。 ズーン「ズン、ズン、ズズズズーン!」 ドンパ「火の精!」 炎とともに、火の精・ボームが現れる。 ボーム「ボ~ム、ボ~ム!」 ドンパ「風の精!」 窓から冷たい風が吹き込み、風の精・ジャックが現れる。 ジャック「ヒュヒュヒュ~ッ! ヒュヒュ~ッ!」 ミドリ「クシュン! 寒ぅ~い! わかったわ! わかったわよ!」 ドンパ以外の妖精たちが一斉に、姿を消す。 ドンパ「さぁ、フェアリー王国へ行くのです。あなた様は、ゼリアン王女でやんす」 ミドリ「ゼリアン? 何を言うの!? 私は青山ミドリ、小学校の5年生よ」 ドンパ「いえいえ、あなたはゼリアン王女でやんす。11年前に赤ん坊だった姫を、コウノトリの奴が配達を間違えたんでやんす。さぁ、フェアリー王国へ!」 ミドリ「妖精の国なんて、本当にあるのかなぁ?」 ドンパ「ドンパッチ!」 ドンパが呪文を唱えると、ミニカーのような透明の車、フェアリーカーが出現する。ほ ミドリ「まぁ!」 ドンパ「さぁさぁ、乗ってください、ゼリアン王女」 ミドリ「どうやって乗るの?」 ドンパ「ちょっと車に触るだけでやんすよ」 ミドリがフェアリーカーに触れると、ミドリ自身もたちまち、ミニカーのようなサイズに小さくなる。 そこへ、虎男が子供部屋に入って来る。 虎男「ふわぁ~あ。お姉ちゃん、まだ寝ないの?」 虎男の足が、床のフェアリーカーに触れ、虎男もまたフェアリーカーのサイズに小さくなる。 フェアリーカーはミドリと虎男を乗せ、空間を飛び越え、どこかへと飛んでゆく。 虎男「わぁ、透明のスーパーカーだ! あっ、あれは何だ?」 一面が雲に満ちたような不思議な空間の先に、宮殿が見える。 ドンパ「フェアリー王国でやんすよ」 ミドリ「妖精の国へ行くのよ!」 ドンパ「到着でやんす!」 フェアリー王国の宮殿。国を治めるガンバス大王と、その王妃がミドリを迎える。 ドンパ「ここが、フェアリーの宮殿でやんす! ほら、ガンバス大王とお妃様が、お待ちかねでやんすよ!」 ガンバス「おぉ~っ、ゼリアン!」 王妃「ゼリアン! よくぞ無事でいてくれましたね!」 事情を飲み込めずにいるミドリを、ガンパス大王が抱きしめる。 ガンバス「11年間も捜していた娘が、戻ったのじゃ! めでたやな、めでたやな!」 ミドリ「ちょっと待ってください! 私の名は青山ミドリ。パパは青山竜夫、ママは梅子!」 ガンバス「うんうん、無理もない。生まれて間もなくコウノトリにさらわれたんだからなぁ」 王妃「ご覧、ゼリアン。妖精たちも歓迎しています」 先ほどミドリのもとに現れた妖精たちに加え、水の精・オンディーヌも現れる。 ボーム「ボボボ、ボームボーム! 王女様のお帰りだぁ!」 ジャック「ビュビューッ! アハハハハ!」 ズーン「ズズズン、ズズズーン! お帰り!」 オンディーヌ「オンディ~ヌ! ハァイ!」 妖精たち「王女様のお帰りだぁ!」「わ、良かった良かった!」「お帰りなさぁい!」 ガンバス「フェアリー王国には、宿題もなければ交通事故もない! その上、すべての夢が叶うパ~ラダイスじゃぁ!」 ミドリ「パラダイス……?」 無数の花の咲き乱れるフェアリーの花園で、ミドリと虎男が遊ぶ。 ミドリ「わぁい、わぁい! 素敵ぃ!」 虎男「妖精の国って」 ミドリ「お花がいっぱい!」 虎男「今度はスキーをしたいなぁ」 フェアリーの雪原で、ミドリと虎男がスキーを楽しむ。 虎男「わぁい、雪だぁ!」 ミドリ「雪は冷たいから、南国の海で泳ぎたいわ」 今度は海。水着に着替えた2人が泳ぎを楽しむ。 虎男「わぁい、わぁい!」 ミドリ「じゃあ、今度は銀河を渡りたいわ。月のお船で!」 三日月の船に乗り、星空をわたる。 虎男「星の欠片を拾ったぞ!」 ミドリ「星の王子様になったみたい……!」 十分遊び終えたミドリたちが、宮殿に戻って来る。 ガンバス「どうじゃ、フェアリーは楽しいか?」 ミドリ「えぇ、とっても!」 ガンバス「そうじゃろ、そうじゃろ」 虎男「ずぅっといていい?」 ガンバス「いいとも。ゼリアン共々、末永く暮らすがいい」 ミドリ「ちょっと、おじさん。それは困るわ」 ガンバス「お、おじさん!?」 王妃「父上とお呼びなさい」 ミドリ「まだ言ってるわ。私のパパは、獣医なの!」 ガンバス「それでは尋ねるが、お前はパパと称する動物に、叱られたことがあるかね?」 ミドリ「いいえ」 ガンバス「それは、自分の子供ではないからだ」 ミドリ「なんですって!?」 ガンバス「実の娘に『ケンカしろ』とけしかける親が、どこにおる? それは、親としての本当の愛情がないから、そんな態度がとれるのだ」 ミドリ「そうかしら?」 王妃「そなたは人間ではありません。妖精です。私の娘です!」 ミドリ「嘘です! 私はパパが好き! ママが好きなの! 大好きなのよ! ねぇ、帰してよ!」 ガンバス「ならぬ! 二度とフェアリー王国から出ることは許さんぞ」 ミドリ「こうしてやるぅ!」 ミドリがガンバスの髭を引っぱる。 ガンバス「わぁ!? や、やめてくれぇ! ハハハ、ヒハハ、わしゃ、それをやられると、わ、笑いが止まらんのじゃ! ハハハ、ヘハハ!」 ミドリ「早く帰してよ!」 ガンバス「ハハ、か、帰す! 帰すから!」 ミドリ「さぁ、早く帰して!」 王妃「あなた!?」 ガンバス「……人間社会に帰すからには、条件がある」 ミドリ「条件?」 ガンバス「人間に夢を与えるのだ」 ミドリ「夢?」 ガンバス「さよう。人間に夢を与えるのは、妖精の使命なのじゃ」 ミドリ「わかったわ。だから、早く!」 ガンバス「よし。ならばそなたに、これを与えよう」 ガンパス大王が取り出したのは、5センチほどの透明な玉。中にチョウのような模様がある。 ミドリ「これは?」 ガンバス「お守りじゃ」 ミドリ「お守り?」 ガンバス「消えるときは『ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ』、現れるときは『ベルカイアル・アマサラク・アルアル・パ』、と呪文を唱えるのじゃ。やってみなさい」 ミドリ「ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ!」 呪文を唱えると、たちまちミドリと虎男の体が透明となり、その姿が消えてしまう。 ミドリと虎男が気がつくと、2人はもとの青山家のベッドで寝ている。 ミドリ「あら…… 夢を見たのかしら?」 虎男「妖精の国へ行った夢だ……」 ミドリ「えっ、虎男も!?」 虎男「じゃあ、姉ちゃんも!?」 ドンパが顔を出す。 ドンパ「夢ではないでやんすよ」 ミドリ「ドンパ!?」 ドンパ「2人は、フェアリー王国へ行って来たんでやんす」 ミドリ「ドンパがいるんだもの。やっぱり夢じゃないんだわ」 虎男「うん……」 ドンパ「あのね、そのドリームボールが証拠でやんすよ」 ミドリのパジャマのポケットには確かに、ガンバス大王から貰った玉、ドリームボールがある。 虎男「姉ちゃん。すごい物、貰っちゃったね。ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ!」 虎男がドリームボールを手に呪文を唱えると、体が透明となり、姿が消える。 虎男「消えた? 姉ちゃん」 ミドリ「消えたわ!」 虎男「本当かなぁ?」 虎男が姿を消したまま、鏡を覗きこむ。 虎男「本当だ! こりゃ面白い!」 ドンパ「よく聞きなさい。これは2人だけの秘密でやんす。人に喋ると、おへそ抜かれるでやんすよ!」 ミドリ「えっ、おへそ!?」 虎男「ひ、秘密は絶対に守るよ!」 虎男がぶつかったらしく、ミドリがよろける。 ミドリ「きゃっ! 危ないじゃないのよ、虎男」 虎男「ちょっとパパのところへ行って来る」 ドンパ「はい、行ってらっしゃい」 虎男が姿を消したまま居間に降りると、竜夫が新聞を読んでいる。 虎男「パパ、おはよう」 竜夫「あぁ、おはよう」 竜夫は背を向けているので、竜夫に気づかない。虎男が竜夫のタバコを取り上げ、灰皿でもみ消してみせる。 竜夫「あれぇ!?」 梅子は台所で朝食の準備をしている。虎男がトースターからパンを抜き取ってみせる。 梅子「あらぁ!? パパ…… 私、夢を見てるのかしら?」 竜夫「どうも、まだ目が覚めんらしい……」 虎男「ベルカイアル・アマサラク・アルアル・パ!」 困惑する2人をよそに、虎男が姿を現す。 虎男「へへっ!」 梅子が子供部屋の様子を見に行くと、ミドリは幼い頃のアルバムを見ている。 梅子「どうしたの? 学校、遅刻するわよ!」 ミドリ「ねぇ。この赤ちゃん、誰?」 梅子「ミドリに決まってるじゃないの」 ミドリ「本当に、ママが生んだの?」 梅子「おかしな子ねぇ。当たり前じゃないの」 ミドリ「でも…… すり替えられるってことがあるんでしょう? ほら、新生児室で」 梅子「フフッ、そうねぇ。あんた、他人の子供かもねぇ。ママの子とは、とても思えないことがあるもの。さ、早くなさい」 台所に戻る梅子に、ミドリが詰め寄る。 ミドリ「ねぇ、ママ! ねぇ、ママ。本当なの? それ。私が他人の子供かもしれないって」 梅子「バカな子ねぇ。早く食べて学校行きなさい」 ミドリ「……行きたくないわ、学校なんて。寝転んでいたいの。おうちで」 ミドリは竜夫の顔色を窺う。 竜夫「カゼのひきはじめかもしれんな」 ミドリ「パパ!?」 竜夫「ん?」 ミドリ「どうして怒らないの!? 私はズル休みしようとしているのよ!」 竜夫「ミドリだって、もう5年生だ。自分の行動に責任を持ってもいい年頃だよ」 ミドリ「……わかったわ!」 ミドリは2階のベランダから庭目がけ、植木鉢を落とす。 庭に出た菊子が、割れた鉢と頭上にいるミドリに気づく。 梅子「ミドリ! あなたがやったのね!? パパ、パパぁ!」 竜夫「何を大騒ぎしてるんだ?」 梅子「ミドリがやったんですよ! わざとやったのよ!」 竜夫「まさか…… 気を付けなさい。下でママが洗濯物を干してたら、危なくケガするところだ」 一向に怒らない竜夫に、ミドリは無言。 (ガンバス『お前はパパと称する動物に、叱られたことがあるかね?』) ミドリ「もしかしたら……」 ミドリが竜夫のいない動物病院の診察室を覗きこむと、診察台に、菊子の飼い犬のプチがいる。 ミドリ「プチも寂しそうね。……あ、来た! ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ!」 ミドリがドリームボールで透明となり、姿を消す。テニスルックの菊子が診察室にやって来る。 菊子「フンフ~ン♪ 竜夫さん、竜夫さん! テニスに行きませんこと?」 ミドリが姿を消したまま、椅子を菊子の足元にぶつける。 菊子「あ、痛ぁ!」 菊子が転んだ隙に、ミドリがラケットをひょいと取り上げる。 菊子「あ、ラケットが? どこに行っちゃったのかしら、私のラケット? ……あら、どうしてこんなところに? 竜夫さん、竜夫さぁん!」 菊子が竜夫を呼びに行こうとすると、すかさずミドリがドアを閉め、菊子はドアに衝突。 菊子「あ痛ぁ! ……わぁ、お化けぇ~っ!!」 ミドリ「フフフッ!」 菊子が逃げ去った後、ミドリは竜夫に黙ってプチを連れ出し、川岸の小道を散歩する。 そこへ、後ろからそっとボスたちが忍び寄る。 ボスたち「それっ!」 ミドリ「きゃあぁっ!?」 ボスたちがミドリをつき飛ばす。ミドリが転び、その隙にボスたちはプチを奪う。 ボスたち「それそれぇ!」 ミドリ「ボス、返してよぉ!」 ボスたちはミドリをからかいつつ、プチを捕まえたまま川岸へやって来る。 ミドリ「ボス、返してったらぁ! それ、お客さんの犬よ!」 ボスたち「ほらほらぁ!」「こっちだ、こっちだぁ!」 ミドリ「返してったらぁ」 ボス「返してほしいか!? それなら『この間、石をぶつけて悪かった』って、謝れよ!」 ミドリ「嫌よ! 私じゃないもん!」 ボス「どうしても謝らないのか!?」 ミドリ「私じゃないもん! 謝るもんか! 返してよぉ!」 ボスたちがプチを捕まえたまま、川岸に泊まっているボートに乗りこむ。 ミドリ「やめなさいよぉ!」 川の中州に、プチが置き去りにされてしまう。 ミドリ「プチィ──ッッ!」 ボス「へへっ、ざまぁ見ろ!」 ボスたちが岸に引き返してくる。 ボス「どうだ、参ったろ!」 ミドリ「プチィーッ! こんなことで、私が参るとでも思ってるの!?」 ミドリが単身、ボートに乗り込む。 ボス「お前、漕げるのかよ!?」 ミドリ「何よ、ボートぐらい!」 ミドリが危なっかしい手つきでボートを漕ぎつつ、中洲のプチのもとに辿り着く。 ミドリ「プチ! ごめん、ごめんね。さぁ、帰りましょ」 ミドリがボートにプチを乗せ、岸に引き返しにかかる。しかし途中、川底に突き出た岩にボートがぶつかる。 船体に穴が空き、みるみる水があふれ出してくる。 ミドリ「あ、あぁっ!?」 どんどんボートが浸水し、ミドリはなすすべもなく、ボートが次第に沈んでゆく。 ミドリ「あぁ、どうしよう!? 沈んじゃう…… どうしよう」 ボスたち「大変なことになっちゃたぞ!?」「俺、知らねぇよ!」「逃げろぉ!」 ボスたちが逃げ出す。 ミドリ「助けてぇ! 誰か、助けてよぉ!」 そこへ、虎男と大介が川岸に通りかかる。 虎男「あっ、姉ちゃん!?」 大介「ドリちゃん!?」 ミドリ「助けてぇ! 戻れないの!」 虎男「大変だぁ!」 大介「僕、人を呼んで来る!」 ミドリ「助けてぇ! 助けてぇ!」 大介が、青山動物病院の竜夫のもとへ駆け込む。 大介「大変です、ドリちゃんが!!」 竜夫「何ぃ!?」 虎男「姉ちゃん!」 ミドリ「あぁっ!?」 ついにミドリが川の中に没する。そこへ、大介と共に竜夫と梅子が駆けつける。 大介「ドリちゃぁん!」 ミドリ「助けてぇ! 助けてぇ!」 梅子「ミドリぃ!?」 ミドリ「パパぁ、ママぁ!」 竜夫「よぉし、じっとしていろ!」 竜夫は上着を脱ぎ捨てて川の中へ飛び込み、ミドリ目指して泳ぎ始める。 ミドリ「パパぁ、早く助けてぇ!」 ミドリと犬は、かろうじて川面に浮いているボートにしがみついている。 竜夫がミドリのもとに辿り着き、ミドリたちを抱き上げ、無事、岸にたどり着く。 ミドリ「パパ……」 竜夫「バカぁぁ!!」 ミドリの頬に、竜夫の平手打ちが飛ぶ。 ミドリ「……ごめんなさい、勝手に連れ出したりして」 竜夫「子犬のことを怒ってるんじゃない。こんな無茶なことをして、もし溺れ死んだらどうするんだ!?」 ミドリ「パパ…… パパぁ!」 ミドリが泣きながら、竜夫に抱きつく。 竜夫「叩いて悪かった…… 許しておくれ」 ミドリ「いいの! 私、嬉しい! (私のパパ…… やっぱり、私のパパだわ!)」 その様子を、物陰からドンパが見ている。 ドンパ「へぇ~。ゼリアン姫をガンバス大王のところへ連れ戻す拙者の役目は、かなり難しそうでやんすなぁ~」 #center(){&bold(){&big(){つづく}}}
#center(){|BGCOLOR(darkblue):COLOR(white):CENTER:&big(){&big(){&bold(){&br()パパ&i(){!}私を叱って&br()&br()}}}|} 主人公・青山ミドリ(ドリちゃん)の自宅である青山動物病院。 獣医の父である竜夫が、お隣の老婆・白川菊子の飼い犬を診察している。 竜夫「健康体ですよ、おばあちゃん。カゼなんかひいていません」 菊子「あらまぁ。じゃ、私を見てもらおうかしら? ウフフフ!」 竜夫「私は獣医ですよ?」 ミドリ「パパ、おばあちゃんはパパのことが好きなのよ。だから病気でもないのに、犬を連れて来るんだわ」 竜夫「こら!」 菊子「まぁ~、私も犬になりたいわ! わんわん!」 そこへ、ミドリの弟の虎男が駆け込んで来る。 虎男「姉ちゃぁん! 大変だ、大変だぁ! 大介さんがいじめられてるよ!」 ミドリ「えっ、大介くんが!? がってんだ!」 ミドリが菊子を突き飛ばして、飛び出して行く。 菊子「あ痛っ!」 ミドリ「虎ちゃん、おいで!」 竜夫「お婆ちゃん、大丈夫ですか?」 菊子「あら、なんて優しい…… 待てよ、今、大介と言ったね? 大介と言えば、私のかわいい孫ではないの! こりゃ一大事~っ!」 ミドリの母、梅子。 梅子「あなた、ミドリは?」 竜夫「おしおきをしに、飛び出して行ったよ」 梅子「えぇっ! じゃ、また!?」 河原で熊野幸治、通称ボスとその子分たち3人が、菊子の孫の大介からラジコン飛行機を取り上げて、遊んでいる。 ボスたち「グーな飛行機だなぁ!」「カッコいいなぁ!」「俺も買ってもらおうかなぁ」 大介「ねぇ、返してよぉ。返してったら! 返してよぉ。返してくれよぉ!」 ボス「うるさいな、ちょっとくらいいいだろ!?」 大介「僕、帰るんだ。返してくれよ!」 ボスたち「帰ればいいだろう!?」 ミドリと虎男が駆けつける。 ボスたち「あっ、ドリが来た!」 大介「ドリちゃん!」 ミドリ「返してあげなさいよ、ボス!」 ボス「出しゃばり女、すっこんでろ! それっ、急降下爆撃!」 ボスがミドリ目がけて、飛行機を急降下させる。 大介「危ないっ!」 飛行機に煽られて、ミドリが転倒する。 虎男「姉ちゃん!?」 ボスたち「ハハハハ!」 ミドリ「よくもやったわね!? アターック!!」 ミドリがボスに体当たり。ボスたち計4人を相手にケンカが始まる。 虎男「姉ちゃん、手伝うぜ!」 虎男も参戦しようとするものの、たちまち突き飛ばされる。 虎男「痛っ! 大介さん、黙って見てるのか!?」 大介「……そうか、よし!」 参戦しようとした大介も、突き飛ばされる。 大介「痛っ!」 ボスたちが一斉にミドリに飛びかかり、ミドリは大ピンチ。 そのとき、どこからか無数の石が、一同を目がけて降り注ぐ。 ボスたち「痛っ、痛痛!」「卑怯者!」「石を投げるなんてずるいぞ! 卑怯者!」 ボスたちはたまらずに、退散してゆく。 河原の石の陰から奇妙な顔が覗いているのにミドリが気づくが、その顔はすぐに消えてしまう。 ミドリ「変だなぁ、いたはずなんだけど…… あ」 菊子が竹刀を背負って駆けて来る。 菊子「大介や! ケガはなかったかぁ~い!?」 ボスが母親に連れられ、青山家に怒鳴り込んで来る。ボスの顔には大きな絆創膏が貼られている。 ボスの母「大ケガです! 見てください、こんな傷作って」 梅子「まぁ…… 申し訳ありません。まさか、石を投げるなんて」 ミドリが顔を出す。ミドリも石でケガを負い、額にも絆創膏が貼られている。 ミドリ「ママ! 私は石を投げていません。謝ることないわよ!」 ボスの母「まぁ~、白々しい嘘!」 ミドリ「本当です! 私のケンカルールは、正々堂々と素手でやることに決めています!」 梅子「ミドリ、石を投げたのは悪いことよ。謝りなさい」 ミドリ「嫌よ! 投げてないもの!」 梅子「ミドリ!?」 ミドリ「嫌!」 梅子「ママも、嘘つきは嫌いです!」 そして居間で、ミドリと両親。 ミドリ「嘘なんかついてません! あのとき石の陰に、何か小さな生き物がいたわ。その生き物がやったのよ」 梅子「そんなこと、誰が信じるものですか!?」 竜夫「ミドリ、本当に素手でやったんだね?」 ミドリ「パパに教えられた通りにやったわ。アメリカンフットボールよ!」 梅子「まぁ……」 竜夫「よぉし、信じよう」 梅子「あなた!?」 竜夫「子供はケンカの中から、色々なことを学び取るものさ。ルールの大切さとか、闘争心とか、負けたときの悔しさとか、涙のしょっぱさまでもね」 梅子「呆れた……」 ミドリ「パパ、大好き!」 竜夫「ハハハハハ!」 子供部屋で、ミドリは額の傷を鏡で見ている。 ミドリ「跡が残ると嫌だなぁ…… でも、良かった。パパに信じてもらえて」 鏡の中に、あの河原で見た奇妙な生物の顔が見える。 ミドリ「えっ!?」 振り向くと、そこには何もいない。しかし視線を鏡に戻すと、やはり鏡の中にそれがいる。 ミドリ「誰?」 ドンパ「あっしは、石の精のドンパでやんす」 ミドリ「石の精!?」 ドンパ「フフフ、フェアリーでやんす。つまり、妖精でやんすよ」 鏡面から、その石の精・ドンパが現れる。 ミドリ「鏡の中から出たわ!?」 ドンパが周囲の物に触れると、次々にそれらが石に変わる。 ミドリ「石になった!? じゃあ、河原で石を投げたのは……」 ドンパ「拙者でやんす! あのとき、ゼリアン王女のピンチをお救いしようと、投げやした!」 ミドリ「まさか、現実に妖精がいるなんて……」 ドンパ「まだ信じないでやんすねぇ~? 土の精よぉ!」 部屋を大きく揺るがし、土の精・ズーンが現れる。 ズーン「ズン、ズン、ズズズズーン!」 ドンパ「火の精!」 炎とともに、火の精・ボームが現れる。 ボーム「ボ~ム、ボ~ム!」 ドンパ「風の精!」 窓から冷たい風が吹き込み、風の精・ジャックが現れる。 ジャック「ヒュヒュヒュ~ッ! ヒュヒュ~ッ!」 ミドリ「クシュン! 寒ぅ~い! わかったわ! わかったわよ!」 ドンパ以外の妖精たちが一斉に、姿を消す。 ドンパ「さぁ、フェアリー王国へ行くのです。あなた様は、ゼリアン王女でやんす」 ミドリ「ゼリアン? 何を言うの!? 私は青山ミドリ、小学校の5年生よ」 ドンパ「いえいえ、あなたはゼリアン王女でやんす。11年前に赤ん坊だった姫を、コウノトリの奴が配達を間違えたんでやんす。さぁ、フェアリー王国へ!」 ミドリ「妖精の国なんて、本当にあるのかなぁ?」 ドンパ「ドンパッチ!」 ドンパが呪文を唱えると、ミニカーのような透明の車、フェアリーカーが出現する。 ミドリ「まぁ!」 ドンパ「さぁさぁ、乗ってください、ゼリアン王女」 ミドリ「どうやって乗るの?」 ドンパ「ちょっと車に触るだけでやんすよ」 ミドリがフェアリーカーに触れると、ミドリ自身もたちまち、ミニカーのようなサイズに小さくなる。 そこへ、虎男が子供部屋に入って来る。 虎男「ふわぁ~あ。お姉ちゃん、まだ寝ないの?」 虎男の足が、床のフェアリーカーに触れ、虎男もまたフェアリーカーのサイズに小さくなる。 フェアリーカーはミドリと虎男を乗せ、空間を飛び越え、どこかへと飛んでゆく。 虎男「わぁ、透明のスーパーカーだ! あっ、あれは何だ?」 一面が雲に満ちたような不思議な空間の先に、宮殿が見える。 ドンパ「フェアリー王国でやんすよ」 ミドリ「妖精の国へ行くのよ!」 ドンパ「到着でやんす!」 フェアリー王国の宮殿。国を治めるガンバス大王と、その王妃がミドリを迎える。 ドンパ「ここが、フェアリーの宮殿でやんす! ほら、ガンバス大王とお妃様が、お待ちかねでやんすよ!」 ガンバス「おぉ~っ、ゼリアン!」 王妃「ゼリアン! よくぞ無事でいてくれましたね!」 事情を飲み込めずにいるミドリを、ガンパス大王が抱きしめる。 ガンバス「11年間も捜していた娘が、戻ったのじゃ! めでたやな、めでたやな!」 ミドリ「ちょっと待ってください! 私の名は青山ミドリ。パパは青山竜夫、ママは梅子!」 ガンバス「うんうん、無理もない。生まれて間もなくコウノトリにさらわれたんだからなぁ」 王妃「ご覧、ゼリアン。妖精たちも歓迎しています」 先ほどミドリのもとに現れた妖精たちに加え、水の精・オンディーヌも現れる。 ボーム「ボボボ、ボームボーム! 王女様のお帰りだぁ!」 ジャック「ビュビューッ! アハハハハ!」 ズーン「ズズズン、ズズズーン! お帰り!」 オンディーヌ「オンディ~ヌ! ハァイ!」 妖精たち「王女様のお帰りだぁ!」「わ、良かった良かった!」「お帰りなさぁい!」 ガンバス「フェアリー王国には、宿題もなければ交通事故もない! その上、すべての夢が叶うパ~ラダイスじゃぁ!」 ミドリ「パラダイス……?」 無数の花の咲き乱れるフェアリーの花園で、ミドリと虎男が遊ぶ。 ミドリ「わぁい、わぁい! 素敵ぃ!」 虎男「妖精の国って」 ミドリ「お花がいっぱい!」 虎男「今度はスキーをしたいなぁ」 フェアリーの雪原で、ミドリと虎男がスキーを楽しむ。 虎男「わぁい、雪だぁ!」 ミドリ「雪は冷たいから、南国の海で泳ぎたいわ」 今度は海。水着に着替えた2人が泳ぎを楽しむ。 虎男「わぁい、わぁい!」 ミドリ「じゃあ、今度は銀河を渡りたいわ。月のお船で!」 三日月の船に乗り、星空をわたる。 虎男「星の欠片を拾ったぞ!」 ミドリ「星の王子様になったみたい……!」 十分遊び終えたミドリたちが、宮殿に戻って来る。 ガンバス「どうじゃ、フェアリーは楽しいか?」 ミドリ「えぇ、とっても!」 ガンバス「そうじゃろ、そうじゃろ」 虎男「ずぅっといていい?」 ガンバス「いいとも。ゼリアン共々、末永く暮らすがいい」 ミドリ「ちょっと、おじさん。それは困るわ」 ガンバス「お、おじさん!?」 王妃「父上とお呼びなさい」 ミドリ「まだ言ってるわ。私のパパは、獣医なの!」 ガンバス「それでは尋ねるが、お前はパパと称する動物に、叱られたことがあるかね?」 ミドリ「いいえ」 ガンバス「それは、自分の子供ではないからだ」 ミドリ「なんですって!?」 ガンバス「実の娘に『ケンカしろ』とけしかける親が、どこにおる? それは、親としての本当の愛情がないから、そんな態度がとれるのだ」 ミドリ「そうかしら?」 王妃「そなたは人間ではありません。妖精です。私の娘です!」 ミドリ「嘘です! 私はパパが好き! ママが好きなの! 大好きなのよ! ねぇ、帰してよ!」 ガンバス「ならぬ! 二度とフェアリー王国から出ることは許さんぞ」 ミドリ「こうしてやるぅ!」 ミドリがガンバスの髭を引っぱる。 ガンバス「わぁ!? や、やめてくれぇ! ハハハ、ヒハハ、わしゃ、それをやられると、わ、笑いが止まらんのじゃ! ハハハ、ヘハハ!」 ミドリ「早く帰してよ!」 ガンバス「ハハ、か、帰す! 帰すから!」 ミドリ「さぁ、早く帰して!」 王妃「あなた!?」 ガンバス「……人間社会に帰すからには、条件がある」 ミドリ「条件?」 ガンバス「人間に夢を与えるのだ」 ミドリ「夢?」 ガンバス「さよう。人間に夢を与えるのは、妖精の使命なのじゃ」 ミドリ「わかったわ。だから、早く!」 ガンバス「よし。ならばそなたに、これを与えよう」 ガンパス大王が取り出したのは、5センチほどの透明な玉。中にチョウのような模様がある。 ミドリ「これは?」 ガンバス「お守りじゃ」 ミドリ「お守り?」 ガンバス「消えるときは『ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ』、現れるときは『ベルカイアル・アマサラク・アルアル・パ』、と呪文を唱えるのじゃ。やってみなさい」 ミドリ「ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ!」 呪文を唱えると、たちまちミドリと虎男の体が透明となり、その姿が消えてしまう。 ミドリと虎男が気がつくと、2人はもとの青山家のベッドで寝ている。 ミドリ「あら…… 夢を見たのかしら?」 虎男「妖精の国へ行った夢だ……」 ミドリ「えっ、虎男も!?」 虎男「じゃあ、姉ちゃんも!?」 ドンパが顔を出す。 ドンパ「夢ではないでやんすよ」 ミドリ「ドンパ!?」 ドンパ「2人は、フェアリー王国へ行って来たんでやんす」 ミドリ「ドンパがいるんだもの。やっぱり夢じゃないんだわ」 虎男「うん……」 ドンパ「あのね、そのドリームボールが証拠でやんすよ」 ミドリのパジャマのポケットには確かに、ガンバス大王から貰った玉、ドリームボールがある。 虎男「姉ちゃん。すごい物、貰っちゃったね。ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ!」 虎男がドリームボールを手に呪文を唱えると、体が透明となり、姿が消える。 虎男「消えた? 姉ちゃん」 ミドリ「消えたわ!」 虎男「本当かなぁ?」 虎男が姿を消したまま、鏡を覗きこむ。 虎男「本当だ! こりゃ面白い!」 ドンパ「よく聞きなさい。これは2人だけの秘密でやんす。人に喋ると、おへそ抜かれるでやんすよ!」 ミドリ「えっ、おへそ!?」 虎男「ひ、秘密は絶対に守るよ!」 虎男がぶつかったらしく、ミドリがよろける。 ミドリ「きゃっ! 危ないじゃないのよ、虎男」 虎男「ちょっとパパのところへ行って来る」 ドンパ「はい、行ってらっしゃい」 虎男が姿を消したまま居間に降りると、竜夫が新聞を読んでいる。 虎男「パパ、おはよう」 竜夫「あぁ、おはよう」 竜夫は背を向けているので、竜夫に気づかない。虎男が竜夫のタバコを取り上げ、灰皿でもみ消してみせる。 竜夫「あれぇ!?」 梅子は台所で朝食の準備をしている。虎男がトースターからパンを抜き取ってみせる。 梅子「あらぁ!? パパ…… 私、夢を見てるのかしら?」 竜夫「どうも、まだ目が覚めんらしい……」 虎男「ベルカイアル・アマサラク・アルアル・パ!」 困惑する2人をよそに、虎男が姿を現す。 虎男「へへっ!」 梅子が子供部屋の様子を見に行くと、ミドリは幼い頃のアルバムを見ている。 梅子「どうしたの? 学校、遅刻するわよ!」 ミドリ「ねぇ。この赤ちゃん、誰?」 梅子「ミドリに決まってるじゃないの」 ミドリ「本当に、ママが生んだの?」 梅子「おかしな子ねぇ。当たり前じゃないの」 ミドリ「でも…… すり替えられるってことがあるんでしょう? ほら、新生児室で」 梅子「フフッ、そうねぇ。あんた、他人の子供かもねぇ。ママの子とは、とても思えないことがあるもの。さ、早くなさい」 台所に戻る梅子に、ミドリが詰め寄る。 ミドリ「ねぇ、ママ! ねぇ、ママ。本当なの? それ。私が他人の子供かもしれないって」 梅子「バカな子ねぇ。早く食べて学校行きなさい」 ミドリ「……行きたくないわ、学校なんて。寝転んでいたいの。おうちで」 ミドリは竜夫の顔色を窺う。 竜夫「カゼのひきはじめかもしれんな」 ミドリ「パパ!?」 竜夫「ん?」 ミドリ「どうして怒らないの!? 私はズル休みしようとしているのよ!」 竜夫「ミドリだって、もう5年生だ。自分の行動に責任を持ってもいい年頃だよ」 ミドリ「……わかったわ!」 ミドリは2階のベランダから庭目がけ、植木鉢を落とす。 庭に出た菊子が、割れた鉢と頭上にいるミドリに気づく。 梅子「ミドリ! あなたがやったのね!? パパ、パパぁ!」 竜夫「何を大騒ぎしてるんだ?」 梅子「ミドリがやったんですよ! わざとやったのよ!」 竜夫「まさか…… 気を付けなさい。下でママが洗濯物を干してたら、危なくケガするところだ」 一向に怒らない竜夫に、ミドリは無言。 (ガンバス『お前はパパと称する動物に、叱られたことがあるかね?』) ミドリ「もしかしたら……」 ミドリが竜夫のいない動物病院の診察室を覗きこむと、診察台に、菊子の飼い犬のプチがいる。 ミドリ「プチも寂しそうね。……あ、来た! ベルカイアル・アマサラク・ナイナイ・パ!」 ミドリがドリームボールで透明となり、姿を消す。テニスルックの菊子が診察室にやって来る。 菊子「フンフ~ン♪ 竜夫さん、竜夫さん! テニスに行きませんこと?」 ミドリが姿を消したまま、椅子を菊子の足元にぶつける。 菊子「あ、痛ぁ!」 菊子が転んだ隙に、ミドリがラケットをひょいと取り上げる。 菊子「あ、ラケットが? どこに行っちゃったのかしら、私のラケット? ……あら、どうしてこんなところに? 竜夫さん、竜夫さぁん!」 菊子が竜夫を呼びに行こうとすると、すかさずミドリがドアを閉め、菊子はドアに衝突。 菊子「あ痛ぁ! ……わぁ、お化けぇ~っ!!」 ミドリ「フフフッ!」 菊子が逃げ去った後、ミドリは竜夫に黙ってプチを連れ出し、川岸の小道を散歩する。 そこへ、後ろからそっとボスたちが忍び寄る。 ボスたち「それっ!」 ミドリ「きゃあぁっ!?」 ボスたちがミドリをつき飛ばす。ミドリが転び、その隙にボスたちはプチを奪う。 ボスたち「それそれぇ!」 ミドリ「ボス、返してよぉ!」 ボスたちはミドリをからかいつつ、プチを捕まえたまま川岸へやって来る。 ミドリ「ボス、返してったらぁ! それ、お客さんの犬よ!」 ボスたち「ほらほらぁ!」「こっちだ、こっちだぁ!」 ミドリ「返してったらぁ」 ボス「返してほしいか!? それなら『この間、石をぶつけて悪かった』って、謝れよ!」 ミドリ「嫌よ! 私じゃないもん!」 ボス「どうしても謝らないのか!?」 ミドリ「私じゃないもん! 謝るもんか! 返してよぉ!」 ボスたちがプチを捕まえたまま、川岸に泊まっているボートに乗りこむ。 ミドリ「やめなさいよぉ!」 川の中州に、プチが置き去りにされてしまう。 ミドリ「プチィ──ッッ!」 ボス「へへっ、ざまぁ見ろ!」 ボスたちが岸に引き返してくる。 ボス「どうだ、参ったろ!」 ミドリ「プチィーッ! こんなことで、私が参るとでも思ってるの!?」 ミドリが単身、ボートに乗り込む。 ボス「お前、漕げるのかよ!?」 ミドリ「何よ、ボートぐらい!」 ミドリが危なっかしい手つきでボートを漕ぎつつ、中洲のプチのもとに辿り着く。 ミドリ「プチ! ごめん、ごめんね。さぁ、帰りましょ」 ミドリがボートにプチを乗せ、岸に引き返しにかかる。しかし途中、川底に突き出た岩にボートがぶつかる。 船体に穴が空き、みるみる水があふれ出してくる。 ミドリ「あ、あぁっ!?」 どんどんボートが浸水し、ミドリはなすすべもなく、ボートが次第に沈んでゆく。 ミドリ「あぁ、どうしよう!? 沈んじゃう…… どうしよう」 ボスたち「大変なことになっちゃたぞ!?」「俺、知らねぇよ!」「逃げろぉ!」 ボスたちが逃げ出す。 ミドリ「助けてぇ! 誰か、助けてよぉ!」 そこへ、虎男と大介が川岸に通りかかる。 虎男「あっ、姉ちゃん!?」 大介「ドリちゃん!?」 ミドリ「助けてぇ! 戻れないの!」 虎男「大変だぁ!」 大介「僕、人を呼んで来る!」 ミドリ「助けてぇ! 助けてぇ!」 大介が、青山動物病院の竜夫のもとへ駆け込む。 大介「大変です、ドリちゃんが!!」 竜夫「何ぃ!?」 虎男「姉ちゃん!」 ミドリ「あぁっ!?」 ついにミドリが川の中に没する。そこへ、大介と共に竜夫と梅子が駆けつける。 大介「ドリちゃぁん!」 ミドリ「助けてぇ! 助けてぇ!」 梅子「ミドリぃ!?」 ミドリ「パパぁ、ママぁ!」 竜夫「よぉし、じっとしていろ!」 竜夫は上着を脱ぎ捨てて川の中へ飛び込み、ミドリ目指して泳ぎ始める。 ミドリ「パパぁ、早く助けてぇ!」 ミドリと犬は、かろうじて川面に浮いているボートにしがみついている。 竜夫がミドリのもとに辿り着き、ミドリたちを抱き上げ、無事、岸にたどり着く。 ミドリ「パパ……」 竜夫「バカぁぁ!!」 ミドリの頬に、竜夫の平手打ちが飛ぶ。 ミドリ「……ごめんなさい、勝手に連れ出したりして」 竜夫「子犬のことを怒ってるんじゃない。こんな無茶なことをして、もし溺れ死んだらどうするんだ!?」 ミドリ「パパ…… パパぁ!」 ミドリが泣きながら、竜夫に抱きつく。 竜夫「叩いて悪かった…… 許しておくれ」 ミドリ「いいの! 私、嬉しい! (私のパパ…… やっぱり、私のパパだわ!)」 その様子を、物陰からドンパが見ている。 ドンパ「へぇ~。ゼリアン姫をガンバス大王のところへ連れ戻す拙者の役目は、かなり難しそうでやんすなぁ~」 #center(){&bold(){&big(){つづく}}}

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