金田一「俺を陥れ、操り人形として動かした狩谷純をも殺害しようとした悪魔――――俺の宿敵「地獄の傀儡師」はこの中にいる!」
小龍「この中の誰かが・・・変装した「地獄の傀儡師」・・・!?」
李「・・・!!」
いつき「こ・・・この中ってオイ!見ての通りほとんどがおなみのメンバーなんだぜ?いくらなんでも・・」
金田一「「地獄の傀儡師」は変装の天才だ!ヤツなら身長も体格も買えてまるで別人のようになっていても不思議じゃない!」
剣持「しかし金田一!見た目はともかく声までは無理だろ?現に最初のマジックショーの時はお前にバレないよう、わざわざ通訳をつけて広東語を話してたワケで・・」
金田一「忘れたのかオッサン!
玲香ちゃんが誘拐された時―――ヤツは容疑者のひとりとしてマークされながら、結局最後まで気づかれずにいたんだぜ」
明智「前置きが長いのが君の悪いクセだな、金田一君!なんなら私が代わりに説明しましょうか?」
金田一「ダメ!!主人公は俺なの!」
明智「フン・・・ならさっさと話を進めてくれたまえ!」
金田一「まず「地獄の傀儡師」の正体を暴くには、なぜヤツがこんなモノを凶器に選んだか?その理由を考える必要がある!」
「!!」
金田一が凶器のダーツを投げ、ダーツは風切り音を立てながら柱に刺さった。
麗晶「・・・・」
金田一「な?こいつは飛ぶ時に風切り音がするだろ?この音はビデオにも録音されている!」
「さらに「地獄の傀儡師」はいったん照明を消しておきながら、狩谷純の喉にダーツを刺した直後に照明をつけている・・!この2つの事実から推理できること――――それはヤツはダーツがどこから飛んできたか、隠すどころかむしろ教えたがってたってことだ」
小龍「!?、そ・・・そんなコトしたら誰がダーツを投げたか、わかってしまうんじゃ・・・?」
金田一「いや・・小龍!その逆だよ!ヤツはダーツがどこから飛んできたか確認されることでむしろ自分が絶対的に容疑者から外れると確信していたんだ!つまり逆説的に言えば犯人は――――狩谷ののど元にダーツを放つことがもっとも難しい位置にいた人物・・・「剣持警部」!!」
剣持「なっ・・」
金田一「たったひとり狩谷の背後に立っていたあんたが「地獄の傀儡師」―――ってことになるんだ!!」
李「狩谷の後ろにいた剣持警部が「地獄の傀儡師」ダト!?」
竜二「・・・・!!」
剣持「お・・・おいおい!そりゃないだろ!金田一!!狩谷の後ろにいたから俺が犯人だなんてムチャクチャな!」
「俺があの暗闇の中どうやって正反対に一瞬で移動してダーツを投げたりできるんだ!?」
金田一「移動する必要なんてない、あんたはそこでただ引き寄せればよかったんだから!」
小龍「引き寄せる・・・・?」
いつき「あ・・?」
剣持「・・・・・」
金田一「仕掛けは簡単!このダーツの針の根元に開いている小さな穴がポイントさ!誰か糸かなんか持ってない?」
麗晶「!・・コレでいいでしょうカ?」
金田一「サンキュ!実際はもっと見えにくいデスクとかを使ったんだろうけど、とりあえずこれをこうして穴に通して――――」
「大きな輪っかにして床に垂らしてダーツは台のところに固定しておく。そして狩谷の位置にさっきマジックで使った人形を置いて準備OKだ!」
「いいか・・・・よく見てくれよ!あの時狩谷があの位置に立ったタイミングを見計らい―――素早くターゲットの肩に糸をかけて――――思いっきり引っ張る!」
!?
金田一が糸を引っ張ると、ダーツは人形の首に刺さった。
李「!!」
金田一「後は糸を切るなり引き抜くなり素早く回収して丸めてポケットに入れちまえばいい!どうだい?これなら暗闇でも的を外すことはないだろ?」
剣持「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!だからって俺が「地獄の傀儡師」だっていう理由びは————・・」
金田一「それにオッサン!あんたさっき、マスクマンが通訳を使ってたことをまるで見てきたみたいに言ってたけど、オッサンが香港に来たのはあのショーの次の日だったハズだ!たとえ李刑事がショーのことをオッサンに話したとしても、そんな事件とはあまり関係のない無意味なことまで克明に伝えるとは思えないしね!」
剣持「そ・・・それは俺も他の地元警察に聞いて・・・・・」
金田一「どうやって?本物のオッサンは中国語も英語もしゃべれないんだぜ?」
明智「———もうひとつ、あなたは決定的に警察官としてありえない行動を取ってますよ!」
剣持「な・・・何?」
明智「そこに放りっぱなしになっている警察手帳です!叩き上げの剣持君は警察手帳を警察官の魂だと考えている———昔、私と「賭け」をした時も彼は自分の首を賭けてこの手帳を差し出した・・それほど大事にしているものを、地面に放り投げるとは少なくとも「彼」らしくはないでしょう?」
剣持「・・・・・」
金田一「————そういうことさ!さあ潔く正体を見せたらどうだ!「地獄の傀儡師」!!
—――いや!高遠遙一!!」
剣持?「・・・・やれやれ!つまらんミスだったな、私としたことが———」
剣持が変装を解き、高遠の顔を見せた。
高遠「———実は以前、「巌窟王」に君を陥れるプランをやめてほしいと頼まれましてね!それだけは断じて譲れないと彼に言ったんですが——^その時から正直嫌な予感はしてましたよ・・!」
金田一・明智「「・・・・」」
金田一「お前の悪巧みはこれですべて暴かれた!お前の負けだぜ、高遠!!」
高遠「フッ・・・・・・まったく君には参ったよ!私が半年間かけて練り上げた最高の「芸術犯罪」を———君はこの数日でことごとく看破してしまった・・・・・・!!もう私から何も言うことはない!素直にお縄につきましょう」
高遠が自分の手を前に出した。
李「・・・・高遠遙一!殺人幇助及び狩谷純殺害未遂で逮捕スル!!」
高遠「————なーんて・・」
「そう簡単に負けを認めると思いますか?この私があなたごときに!!」
高遠が手から小さな球を落とすと、煙幕が起こった。
李「くっ!」
金田一「うわっ!!」
高遠は煙幕に紛れて、部屋から出た。
金田一「!!、しまった!あっちだ!!追え!!」
金田一「高遠ッ!!」
金田一が高遠を追ったが、銃弾が飛んできて扉の後ろに下がった。
李「!!」
金田一「わっ・・」
高遠は銃を構えながら、窓の縁に立っていた。
金田一「高遠!逃げられると思ってるのか!?」
高遠「————私は逃げも隠れもしませんよ!ただ舞台に上がっただけです———・・最後のマジックの舞台にね・・・!」
李「最後のマジックだと!?」
高遠「そう・・・・私はこれから君たちの目の前から消えてごらんにいれる———」
「永久に・・・ね!」
金田一「!!なっ・・何だって!?」
高遠「ククククク・・・・さあ「地獄の傀儡師」の華麗なるラストマジックの始まりだ!心に刻みたまえ、私の血の叫びを!永遠に消えない後味の悪さとともに・・・・」
金田一「よせっ!!」
高遠「それが私の芸術を台無しにした君への————・・最後の報復だ!!」
高遠が窓から飛び降りていった———
金田一「高遠!!た・・・高遠ッ」
高遠が地面に落ちた。
金田一「・・・・・」
李「————私ダ」
「・・・・・そうか・・今・・下の警官が確かめタ・・・・ぐしゃぐしゃに潰れて即死だそうダ・・・・!」
金田一「・・・・・くそっ!!何がラストマジックだ!!」
剣持は別の部屋で、椅子に縛られながら寝ていた。
明智「剣持警部!」
金田一「オッサン!」
剣持「ん・・・が・・・・んが?あ・・・・ああ!?なんだこりゃ?どーなってんだ?」
明智「よく寝られましたか?」
金田一「———ったく!」
剣持「そうだ!「地獄の傀儡師」のヤツはどうなったんだ?金田一!」
金田一「———ヤツなら帰っていったよ・・・・・」
剣持「あ・・?ど・・・どこへ?」
金田一「地獄へ―――ね・・・・・」
———こうして香港を舞台にした「地獄の傀儡師」との対決は、最悪のかたちで決着がついた・・・・———しかし
美雪「忙しい剣持警部はともかく・・・・いつきさんまで事件が終わったその日にあわてて帰ることないんじゃないですか?」
いつき「いや~~~~俺だってもーちっといたいけどよ!編集長がさ~~~」
「ネットで原稿送るって言ったんだじぇどメールで送った写真じゃ雑誌に載っけらんねえんだと!頭かて~~~~んだよ!」
剣持「しかし金田一のヤツ、見送りはなしか?」
竜二「———それが・・センパイ・・・・・あれからどっかいなくなったきりで・・・」
いつき「高遠のヤローが目の前で死んじまって、妙にショック受けてたようだしな~~~・・・」
美雪「・・・・・・・・・」
いつき「まっ!くよくよ考えたってしゃーねーよ!勝手に死んだのはあいつなんだし!」
剣持「おっ!じゃそろそろだ!」
剣持「じゃあ見送りはここまででいいから!」
美雪「さよなら!剣持さん、いつきさん」
剣持が金属探知機の扉をくぐると、探知器が鳴った。
剣持「ん・・・?」
警備員「両手を後ろに回してください!」
剣持「ん・・・?こうか?」
剣持が後ろに回した両手に、手錠がかけられた。
美雪・竜二・いつき「「「えっ!?」」」
もう一人の警備員が剣持の手を抑えた。
剣持「おわっ!!なっ・・・・・何をする!?」
「おいおい!いったいこれは何のつもりだ!?」
警備員「————失礼!」
警備員が剣持の顔を掴んだ。
剣持「うっ・・」
そこから引っ張っていくと———
いつき「え?」
高遠「く・・」
剣持の変装が破け、高遠の顔が露わになった。
いつき「た・・高遠!!」
高遠「・・・・」
!?
いつき「なっ・・・なんで?」
竜二「飛び降りて死んだハズじゃ・・!?」
警備員?「残念だったな!高遠!!」
警備員の振りをしていたのは、金田一だった。
金田一「うまいこと芝居うって高飛びするつもりだったんだろうが、そうは問屋がおろさねーぜ!」
高遠の手を抑えていた警備員は、本物の剣持だった。
剣持「とうとう捕まえたぞ!「地獄の傀儡師」!!よくも俺をコケにしてくれたな!」
明智もその場にいた。
明智「君がニセモノだとわかって、すぐに警官を大量動員して剣持警部を探し出しました。まさか、あのホテルで正体を暴かれることまですべて計算に入れて脱出計画を用意していたとはね!」
金田一「からっぽの帽子を観客に見せてからネタを仕込めば、一度確認した場所だからと油断した観客の目をくらますことができる———マジックの基本だよな」
「剣持警部の変装を見破られてあれだけ派手に窓から飛び降りた———その後で見つかったオッサンがニセモノだとは誰も思わない・・・最初からそれを見越して、あんたはあの窓の外の狭いスペースに別の死体を用意しておいたんだ!」
「そして飛び降りるフリをしてその別の死体を突き落とし、自分は素早く別の窓から中に飛び込み———もう一度変装用のマスクをつけて、ふたたび捕らわれのオッサンになりすましたってワケだ!」
「たしかになかなか手の込んだマジックショーだったぜ!高遠!」
高遠「・・・・」
明智「あの遺体はいったいどこで調達したんですか?検死では冷凍保存の形跡が見られたそうですが・・・・」
高遠「———あれは狩谷親子を地下に閉じ込めた4人のうちの1人です。半年前その件で懺悔しに私が潜んでいた教会にやって来ましてね。その時手始めに私が殺しました。それを冷凍食品に紛れ込ませて香港に運び込み保存しておいたんです。壮大なマジックの最後のタネとしてね・・・・!」
剣持「はっ!何がマジックだ!人殺しヤローが!!言っとくが、この手錠は特殊電子ロックだから絶対抜け出せんぞ!!」
高遠「ひとつだけ教えてくれませんか、金田一君」
金田一「何をだ?」
高遠「どうしてわかったんですか?このマジックの「タネ」が・・・」
金田一「・・・・・・・・・・・らしくないと思ってさ!」
高遠「!?「
金田一「あんたのシナリオじゃ、小さなミスで正体を見抜かれ追い詰められた「地獄の傀儡師」が死を選ぶ———みたいになってたんだろうけど」
「やっぱよくよく考えるとすっげー引っかかることだらけなんだよ!だってそうだろ?変装が見破られるミスにしたって、あんたにしちゃ迂闊すぎるミスの連発だった。それに———」
「あんたはそう簡単に死を選ぶなんてタマじゃない!むしろそれさえ利用しちまう筋金入りのマジシャンだからな・・・・!」
高遠「フッ————らしくない・・・か!」
「フフフ・・たしかに少々演出過剰だったかもしれませんね・・・認めましょう、敗北を」
「・・・・なるほど、これが敗北の味というものか!そう悪くはないな・・いずれ味わうメインディッシュの少々苦い前菜だと思えば・・・・クククク・・・」
「————いずれまたお会いしましょう、お2人さん」
金田一・明智「「・・・・・・」」
高遠「その時まで・・・・」
「GOODLUCK!」
高遠は剣持に連行されていった。
———1か月後
教師「~~~~~~~」
教師が授業をしている中、金田一は弁当を食べながら、麗晶からの手紙を読んでいた。
金田一「・・・・・」
麗晶「お元気ですか?金田一さん。あの忌まわしい事件から1か月たちます。私、南麗晶があなたにこうしてお手紙を書くのは、あなたにお礼を申し上げておきたかったからです」
「事件の後、私は李刑事にお願いして、奇跡的に命を取りとめた純君のいる病院にお見舞いに行きました。何度足を運んでもなかなか会ってくれなかったのですが・・・つい先日、やっと面会に応じてくれたのです———」
病室の中の純は、背が大きく伸びていた。
麗晶「じゅ・・・純君・・!純君・・なの?」
純「!、麗晶・・・・」
麗晶「その声・・!!」
純「昨日から声変わりし始めたんだ・・・・背もこの1か月で10センチ近く伸びちゃって・・・「地獄の傀儡師」の毒で大量の輸血をして生死の境をさまよって・・・・ひょっとしたら俺は一度死んで生まれ変わったのかもしれないな・・・」
麗晶「純君・・!」
麗晶が持ってきた花を落とし、純を抱きしめた。
麗晶「・・・・・・よかった・・!」
純「・・・・」
麗晶「よかった・・純君・・・・!」
金田一「ふ————・・っ!食った食った!」
「今度会う時は俺よりでっかくなってんのかなあ~~~~、ん~~~俺もいっぺん死にかけてみっか?そしたらせめて170センチ以上には・・・・」
教師「今すぐ1センチぐらい伸ばしてやろうか?」
教師が金田一の頭を殴った。
教師「授業中に堂々と弁当食らいおって!!」
美雪「・・・・・もう!こりないんだから!」
金田一(・・・夏休みをひかえた、ある昼下がり————・・)
郵便屋が金田一家の郵便受けに大量の手紙を入れたが、
こぼれ落ちた手紙の中に、金田一宛のものがあった。
金田一「いって~~~~!」
金田一(俺の元に舞い込んだこの一通の手紙が、いつも通り退屈な毎日が続くはずの俺の夏休みを———まったく変えてしまうことになったのだ・・・・)
最終更新:2019年12月17日 17:05