地獄少女Rの第1話

地獄少女(リターンズ)の第1話


|第1話| あこがれの人


「地獄通信て 知ってる?」
「午前0時にアクセスして 憎い相手の名まえをかきこむと 地獄におとしてくれるってやつ」

「あーそれ知ってる 十年くらいまえにはやったウワサだよね」
「でも…… そのサイト もう なくなったんじゃなかったっけ?」
「地獄少女がいなくなったとかで……」

「それが…… 復活したらしいよ」
「地獄少女……」


夜の都会の片隅に、閻魔あいと、使い魔たち一同が佇む。

あい「みんな 依頼だよ」
輪入道「おう お嬢」
山童(やまわろ)「あれ? きげんわるいですね 姫……」
きくり「あいばっか ずるい!!
山童「いたっ なんですか 姫~」
きくり「きくりもっ 地獄少女になりたいの──っ!!!


渋谷の昼下がり。携帯電話片手の1人の少女、井上あいり。

あいり「もしもーし 渋谷ついたんだけど ……え── 電車とまってんの? じゃー てきとーにブラブラしてっから んじゃ あとでね── アイスでもたべよっかな──」

内気そうな眼鏡少女・森 沙夜子が、ガラの悪い男2人に囲まれ、涙ぐんでいる。

男A「ちょっと お金かしてっていってんじゃん」
男B「おじょーさまっぽいしさぁ おこづかい いっぱいもらってんだろー?」
沙夜子「あの…… 困ります…… ……っ」

あいり (うわ 泣いてんじゃん!! サイッテ──!!)

あいりはとっさに、親しげな様子で沙夜子に駆け寄る。

あいり「どこいってんの も──っ 映画はじまるよ──っ (ベタ!! すっごいベタだけど!!)」

そのまま沙夜子を連れ、脱兎のごとく走り出す。男2人は置いてけぼり。

男たち「おい こら待てっ」「ホントに友だちか それ!!

あいりたちは全力疾走で、どうにか男たちのもとから逃げ切る。

あいり「だいじょうぶ? 渋谷はじめて?」
沙夜子「はい…… あの…… ありがとうございました…… 夏休みに一度 渋谷…… きてみたくて…… でも…… キャッチはしつこいし…… からまれるし…… わたしなんて……」
あいり「オドオドしてっから からまれんだよ!! 時間あるよね? おいで!!」
沙夜子「えっ」
あいり「わたし あいり 中二!! そっちは?」
沙夜子「あの…… 森 沙夜子です…… 中学二年生で……」
あいり「なんだ 同じじゃん!!」

あいりは沙夜子を連れ、渋谷のあちこちの店を回る。

あいり「この つけま いいよ!! 目デッカくなるよ マジで」
沙夜子「のりではるの!? まつげを!?

あいり「そめるのヤバイなら ウイッグで──」

あいり「ここ安くて かわいいでしょ このワンピ 二千円だよ!!」

あいりのコーディネートで、沙夜子は別人のような美少女ファッションとなる。

あいり「完成──☆ これでどうどうと渋谷 歩けるでしょ!!」
沙夜子「あっ…… ありがとう……!!」
あいり「どーいたしまして──」「あっ あたし もーいかなきゃ!! 夏休み中はほとんど渋谷にいるから また会ったら遊ぼーね!! じゃーねーっ」

沙夜子「あいり…… あいりちゃん…… わたしも あいりちゃんみたいになりたい……!!」


数日後の渋谷。

沙夜子「あいりちゃんっ」

沙夜子は先日同様の美少女メイクに加え、先日のあいりと同じ服を着ている。

あいり「沙夜子ちゃん!? その服……」
沙夜子「あいりちゃんが着ててかわいかったから さがして同じの買ったの!! それでね ネイルも教えてほしいんだけど……」
あいり「いいよ──っ じゃ そこのお店入ろっか」
沙夜子「うんっ」

あいり (すっごく明るくなっちゃって…… かわるもんだな── よかったよかった☆)

2人は近くの店で、しばし時間を過ごす。

沙夜子「あいりちゃんて左ききなんだね かわいい……」
あいり「ははっ 左ききがかわいいって なにそれ──」
沙夜子「かわいいよ ねぇ…… あいりちゃん このあと時間ある?」
あいり「あ── ゴメン!! きょうお母さん 仕事おそいから わたしがごはんつくんないと」
沙夜子「お母さんと…… 仲いいんだね……」
あいり「ま──ね── ウチ 母一人子一人だからね──」
沙夜子「いいな…… わたしの両親 いつもケンカしてばっかだし…… 勉強勉強ってうるさいし……」
あいり「沙夜子ちゃん……?」
沙夜子「……あっ…… ゴメン 気にしないで……」
あいり「うっ…… うん…… わたし そろそろいくね」

あいりと別れた後も、沙夜子は陰からあいりをずっと見つめ続ける。

沙夜子「あいりちゃん…… あいりちゃん」

沙夜子「お母さんと仲よしで……」「お友だちもたくさんいて……」「左きき かわいい」「首すじのホクロもかわいい」

沙夜子「いいな…… わたしも あいりちゃんになりたい……」


さらに数日後の渋谷。あいりが友人たちとともに歩いていたところ、別の友人たちに出会う。

友人たち「あれっ あいり!?」「あいり さっき池袋駅にいなかった?」
あいり「へ? わたし ずっと渋谷にいたよ? ねぇ?」
友人たち「あれ ぜったい あいりだと思ったんだけどー」「気のせいか──」

あいりの自宅。

母「あいり あんた ノブくんとまだつきあってんの?」
あいり「はあ!? ノブのバカが浮気したから1か月まえにわかれたっていったじゃん!!
母「そう? てっきり ヨリもどしたのかなって…… きょう お母さん 仕事帰りのバスで あいりとノブくん 見かけたんだけど……」
あいり「わたし…… バスなんて使わないし……」
母「じゃあ お母さんの見まちがいね 顔ははっきり見えなかったけど 首のホクロあったから てっきり……」

あいり (……それって ホクロまで同じ位置の 似た人がいるってこと……? やだ…… なんか気持ちわる……)


さらに数日後の渋谷。

「あっ あいり!! 見たよ これ──っ すごいじゃ──ん!!」

あいりが友人たちに、ファッション雑誌を見せられる。
読者モデル決定の記事。サングラス姿のあいりの写真が、あいりの名前入りで載っている。

あいり「えっ…… これ わたしじゃないよ!! こんなのとられた記憶ないもん!!」
友人たち「ちょっと なにテレてんのー? この服だって いっしょに買ったやつじゃん」
あいり「でもホントにこれ わたしじゃな…… はっ (そうだ この服…… あの子も……!!)」

携帯にメールが届く。

『5時に代々木公園で待ってるよ──☆ 沙夜子』

あいり「えっ…… わたし アドレス教えてないのに…… なんなの……!?」


夕方の代々木公園を、あいりが訪れる。

沙夜子「あいりちゃんっ お待たせ──っ」

沙夜子はメイクも服装も、あいりにそっくり。

あいり (わたしにそっくり……!! 首のホクロまで……)

沙夜子「あいりちゃんが大好きなマカロン 買ってきたんだ──」

沙夜子が左手でバッグをまさぐる。右手は包帯で固められている。

あいり「あの…… 右手…… どうしたの……?」
沙夜子「わたしも あいりちゃんと同じ左ききになりたいから 右手 使わないように封印してるの!!」
あいり「……なんで…… そこまでして わたしのマネ……」
沙夜子「わたし あいりちゃんになりたいんだもん」
あいり「──!! やっぱり あの雑誌でわたしの名まえ かたって……!!」
沙夜子「あれ 見てくれたんだ うれし──♡ あいりちゃんにそっくりでしょ!? てゆうか もう わたし あいりちゃんだよね!?」
あいり「なに いって……」
沙夜子「ノブくんも あいりちゃんにそっくりだって おどろいてたもん」
あいり (お母さんがバスで見たのも この子とノブ……!!)
沙夜子「ノブくん…… 浮気して あいりちゃんと別れたこと すごく後悔してた…… でも きっとゆるしてもらえないだろうって…… だからいったの これからはわたしのこと あいりちゃんだと思っていいよって……!! 読者モデルもノブくんのことも わたしがあいりちゃんになって やってあげるから……」
あいり「やめてよっ!!」

あいりが駆け去る。

沙夜子「あいりちゃん!!」

あいり (このまま わたしになりかわる気なの!? おかしいよ あの子……!!)

沙夜子「…… ……ちがう…… あいりちゃんは わたしだもん…… わたしが あいりちゃんだもん……」


あくる日、あいりの自宅前。あいりの母が帰ってくる。
あいりにそっくりの沙夜子が声をかける。

沙夜子「おかーさんっ」
母「あっ あいり…… ……じゃなかった…… あいりのお友だち? びっくりしたわぁ ホント あいりにそっくりで……」
沙夜子「わたし あいりだよ?」
母「えっ…… なに……?」
沙夜子「みんなわたしのこと あいりちゃんだって思ってくれてるもん」
母「なに いってんの!? あなたは あいりじゃない!! わたしの娘なんだから わかります!!」
沙夜子「…… ……いらない…… わたしのこと あいりだってわからないお母さんなんて いらない

沙夜子がナイフを取り出す。血しぶきが飛び、母が倒れる。その様子を、近所の主婦が目撃している。

主婦「きゃああああ だれか…… だれか救急車──!!」

沙夜子「わたしがあいりちゃんなのに…… もう一人 あいりちゃんがいるから いけないんだ…… 消さなきゃ…… あいりちゃんを消さなきゃ……」


その夜の渋谷。

あいり「そろそろ帰ろっかな……」

警官たちが現れる。

警官「井上あいりさんですね? ちょっとお話いいですか?」
あいり「警察……?」
警官「お母さんがさされて 重傷を負った件についてですが……」
あいり「えっ……!? お母さんがさされたって……!!」
警官「なに とぼけてんだ おまえがさしたんだろ!! 近所の主婦が目撃してたんだ 娘のおまえがさしたってな!!」
あいり「ちっ…… ちが…… ちがう!!

あいりが逃げ出す。

警官「おい 待てっ!!」


あいり「(どうして!?) どうしよう…… だれかたすけて…… (お母さん…… あの子にさされたんだ わたしのフリした沙夜子に……!! どうしよう このままじゃホントに わたし……!!)


あいりが夜の街に佇む。街を行く少女たちが噂している。

少女たち「……でさ── あの男 ホンット消えてほしくて!!」
少女たち「あ── それ ムカつくやつ消すなら アレだよ 地獄通信てやつ!!」

午前0時にだけアクセスできるサイト
そこに憎い相手の名まえをかきこめば 地獄少女が地獄に流してくれるんだって……

あいりが携帯を手に、「地獄通信」にアクセスする。地獄少女・閻魔あいが現れる。

あい「受けとりなさい この糸を引けば契約は成立…… 怨みの相手はすみやかに地獄へ流されるわ ただし…… 人を呪わば穴二つ……」


夕暮れの里。

きくり「あれー あいは?」
骨女「依頼が入ったから 一目連といっしょにでかけたよ きょうはもう一件入ってるから お嬢もたいへんだよ」

ひらめいた様子で、きくりが山童を夜の街へ連れ出す。

山童「ちょっと…… ヤバイですよ 姫~」
きくり「うるせ──っ きくりも地獄少女になりたいんだ!! さっさとワラ人形になれ わろわろ!!」
山童「え── もう…… 知りませんよ ホントに……」

もう1人の依頼者に、きくりが藁人形を渡す。

きくり「ほら 受けとれ!! この糸引けば ムカつくやつは地獄行きだ!! おまえも地獄におちるけどな!!
依頼者「ホントに…… これで消せるの?」
きくり「なにィ!?

もう1人の依頼者は、沙夜子。

沙夜子「あいりちゃんが消えるとこ この目でたしかめたい その瞬間にわたしは 本物のあいりちゃんになれるもの」


あいりは街角で、藁人形を見つめ続ける。

あいり (この糸を引けば…… あの子を消せる…… でも……)

そこへ、藁人形を手にした沙夜子が現れる。

沙夜子「あいりちゃん あいりちゃんもワラ人形 もらったんだぁ」
あいり「!!」
沙夜子「同じだね…… でも…… あいりちゃんは二人もいらない!!」
あいり「ふざけんな!! 人の生活めちゃめちゃにしやがって!! ぜったい ゆるさないから……!!」

「わたしの前から消えてよ!!」

2人がともに、糸を引く。


「怨み 聞き届けたり」


沙夜子「消え…… ……た…… 消えた!! はははは!! これで わたしがあいりちゃんよ!! ははははは

骨女「消されたのは あんただよ」
沙夜子「!?」
骨女「糸を引くのは 本物のあいりのほうが はやかった 左ききをマネしようとして あんたがモタついたせいでね」

沙夜子は右手を包帯で固めたままのため、左手で藁人形を持ち、糸を口に咥えて引いていた。

沙夜子「そっ…… そんな……」

「かわいい……」
「かわいい……」
「沙夜子ちゃんになりたい……」

目の前に、沙夜子そっくりの少女が無数に表れる。

沙夜子「ひ…… きゃあああああっ

少女たち「沙夜子ちゃんにそっくりでしょ?」「わたしこそ……」「わたしが……」

少女たちが沙夜子と争い始め、血が飛び散る。

少女たち「わたしが沙夜子よ!!」「わたしよ!!」「ニセモノは消えろ!!」
沙夜子「ひっ…… やめてよ!! わたしが本物の沙夜子なんだから!!

「それはどうかしらね……」

あい「闇に惑いし哀れな影よ…… 人を傷つけ貶めて…… 罪に溺るる業の魂…… いっぺん…… 死んでみる?


そして、あいりの前からも沙夜子の姿が消える。

あいり「消え…… た…… よかった…… これで……」


きくりと山童は、骨女に手痛いお仕置きを受ける。

きくり「いてっ
骨女「かってなことして……!! 地獄のおきてにそむいたら どうなるかわかってんのかい!?」
きくり「だって…… きくりも地獄少女になりたかったんだもん~」
骨女「まったく…… ……あんたがつぎの地獄少女になるってのは お嬢がいなくなるってことだ ホントにそれでいいのかい……?」

きくり「……やだ……

骨女「……どのみち きくちがわたしたワラ人形じゃ 地獄に流すのはムリなんだけどね どれだけ似せてマネたって その人にはなれないってことさ」


後日の渋谷の街、あいりと友人たち。

友人たち「お母さん 退院できてよかったね」「あいりがやったんじゃないって信じてもらえたし」
友人たち「でも さしたやつ いまも行方不明なんでしょ──?」「こわ──っ」

あいり (……これでいいんだ…… あの子が わたしのまえにあらわれることは もう二度と……)

「あのっ 井上あいりさんですよね!?」

そこへ現れた少女は、メイクもファッションも、あいりと瓜二つ。

少女「雑誌見てファンになっちゃって…… あいりさんのファッション マネしてるんです!!
友人たち「お── ホントそっくり!!」「かわいーじゃ──ん」「ねっ!! あいり」

あいり「……う…… うん……


(続く)

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最終更新:2017年06月25日 18:13