戦え!! イクサー1の第1話

深夜、無人の街角。1人の青年が、何かに怯えたように逃げ惑っている。
立ち止まって後ろを振り返り、追っ手がいないことを確かめ、前方に向き直る。
目の前に主人公の1人、女性戦士・イクサー1(ワン)が立ち塞がっている。
青年の顔の皮膚が張り裂け、怪物に変化する。
イクサー1が腕からエネルギー弾を発射し、怪物を撃破する。


地球上空、衛生軌道上。
永住の地を求めて宇宙を旅する隕石型巨大宇宙船「クトゥルフの月」が浮かんでいる。
その中の一室に、女性戦士のコバルトとセピア。

セピア「これが、この星が地球なの!?」
コバルト「そうよ、セピア」
セピア「こんなきれいなとこに住めるの、私たち?」
コバルト「じきにね」
セピア「この星の人類は、強いの? また戦争かしら……」
コバルト「それも調査済み。ヴェデムたちでケリがつくそうよ」
セピア「ヴェデムたちで? それじゃ、すぐね! 嬉しい!」
声「コバルト」
コバルト「は、はい!」
声「サー・バイオレットがお呼びです」
コバルト「はっ、すぐ参ります!」

クトゥルフの長、サー・バイオレット。

コバルト「お呼びですか? サー・バイオレット」
バイオレット「コバルト」
コバルト「はっ!」
バイオレット「あなたは、ディロスΘ(シータ)のコマンダーに選ばれました」
コバルト「私が…… 光栄です、サー・バイオレット。しかし、出撃するのですか? あの星に」
バイオレット「イクサー1の存在が、地球で確認されたのです」
コバルト「イクサー1が!?」
バイオレット「地球に派遣したヴェデムたちが、妨害を受けています。それに奴はパートナーも発見し、接触しようとしているそうです。パートナーとシンクロし、覚醒したイクサー1は、我々にとって手ごわい敵。今の内に叩かなければなりません。まず、そのパートナーを始末すること。もしそれが阻止されたら、コバルト、あなたが倒すのです! イクサー1を!」


一方、地球。主人公の1人、女子高生の加納 渚は、まだベッドの中にいる。

声「渚…… 渚……」
渚「う、うぅん……」
声「渚……」

寝ぼけまなこで時計を見る。

渚「……わぁっ、ヤバッ!」

着替えて居間に降りる。父は新聞を読み、母は台所に向かっている。

渚「おはよっ! ひどぉい、ママ。どうして起こしてくれないの!?」
母「いつまで寝てるの? ちゃんと呼んでいましたよ。いつもの時間に」
渚「うっそぉ!?」
父「昨日は遅かったのか?」
渚「えへへ。ちょっと深夜放送をね」
母「ちゃんと食べていきなさいよ、渚!」
渚「いい、遅刻したくないもん! 行ってきまぁ~す」


通学路の並木道を、渚が行く。イクサー1が立ち木にもたれ、こちらを見ている。
日本の住宅地とは相応しからぬ、レオタード状の戦闘服に、渚の目がとまる。

渚 (何、この子? おかしな格好。何かのコスプレかな?)

そこへ級友・まみが声をかける。

まみ「渚! 何してるの? 遅刻するわよ」
渚「おはよう、まみ。ほら!」

渚が指差すものの、イクサー1の姿はない。

渚「あれ? いない」
まみ「何なの? あっ、それどころじゃないわ! 行くよ!」
渚「わぁっ、待ってぇ!」

2人が駆け去る。イクサー1は木の上の枝に腰掛け、その姿を見送っている。


高校、渚の学級。

教師「それでは、10時30分まで。できた者は、教室を出てもよろしい」

声「渚…… 渚……」
渚「えっ?」

渚が窓の外を見ると、校庭でボールが、誰もいないのにひとりでに跳ねている。
突如、ボールがひとりでにこちらに飛んでくる。

渚「きゃあっ!?」

ガラスが割れる。直後、周囲が真っ暗になり、生徒たちが1人残らず消えている。

渚「ど、どうしたの!? み、みんな、どこ行っちゃったの!?」

何かが滴る音。目の前に、前の席の女生徒がおり、その頭部が怪物と化す。

渚「い、いやああっっ!!」

怪物が渚を襲おうとするものの、その動きを止める。窓の外で、イクサー1が怪物を睨みつけている。

声「加納くん!」

渚がその声に我に返ると、周囲は元の教室の光景に戻っている。

教師「テスト中ですよ。悪ふざけはおやめなさい!」

渚 (な……何!? どうなってんの、一体?)

教師「加納くん!」
渚「す、すいません! あ、あの、寝ぼけてたみたいで、あの……」
教師「寝ぼけてたぁ!?」


休憩時間。屋上で渚が、物思いにふける。

渚 (夢…… 夢だったのかな?)

まみ「渚! 暗いね!」
渚「そりゃ、暗くもなるわさ」
まみ「めげるな、めげるな。でも、面白かったな。フフッ!」
渚「ひどぉい!」
まみ「だってさ、突然立ち上がって『イヤ~ン』なんてさ。やっぱ、笑えるじゃな~い。ウフフフ!」
渚「まみ、怒るぞ!」
まみ「ごめん、ごめん。ウフフフ!」

まみが背を向け、笑い続ける。

渚「まったくもう、こいつ。こら、まみ!」

渚がまみの肩にふれる。振り返ったまみの顔が、異形のものと化している。

渚「あ!? ま、まみ!?」

周囲のほかの生徒たちもまた、異形のものと化し、次第に渚を取り囲んでゆく。

渚「い、嫌ぁ! 来ないで! 嫌ぁぁ──っ!!」

渚が足を踏み外し、屋上から落下する。
あわやというとき、渚は光球に包まれて宙に浮き、ゆっくりと地上に降りる。
そのそばにイクサー1が現れる。

渚が意識を取り戻す。

渚「あぁっ!?」
イクサー1「大丈夫ですか、渚?」
渚「あ…… あ!? た、助けてぇぇ!!」

渚が混乱し、学校を飛び出す。


街外れで渚が息を切らしつつ、何気なくそばの塀に手をつく。
とたんに、渚は塀の中へと吸い込まれてゆく。

渚「きゃ、きゃあぁっ!?」

塀の向こうは真っ暗な異空間。数体の怪物が出現し、渚に襲いかかる。
イクサー1が現れ、ビーム剣で次々に怪物たちを斬り裂き、一掃する。


クトゥルフのサー・バイオレットが、クトゥルフを支配する機械生命体ビッグゴールドに謁見している。

バイオレット「申し訳ございません、ビッグゴールド…… まさか、イクサー1が我々より先に、あの星に潜入しているとは思いませんでした」
ビッグゴールド「── ── (機械音のような声)」
バイオレット「はっ、すでに手は打ってございます」
ビッグゴールド「── ── ──」
バイオレット「は、はい。でも、あの星の人間はひ弱で、腰抜けばかりです。たとえあの娘が合体したとしても、イクサー1が覚醒を果たせるとは思えません」
ビッグゴールド「── ── ──」
バイオレット「わ、わかりました。ただちにディロスΘの射出準備を整えましょう。イクサー1とあの小娘は、必ず抹殺してご覧にいれます!」


一方の加納家。

母「あら、渚。いつ帰ったの?」
渚「うん、あの、さっき」
母「お風呂、沸いてるわよ」

渚 (気がついたら、自分の部屋のベッドの上だなんて…… 一体、何がどうなってんのよ? 夢? いいえ、夢なんかじゃないわ。夢じゃないもん……)


その夜。渚が両親の寝室へ。

母「あら、渚。どうしたの?」
渚「ねぇ、ママ。今日は一緒に寝かせて。ねぇ、いいでしょう?」
母「えっ? 別に構わないけど…… おかしな子ね」
渚「サンキュー! フフッ、おやすみ」

家の外で、イクサー1が渚を見守るように佇んでいる。


夜が明ける。イクサー1は依然、加納家のそばにいるが、突如、周囲が異空間と化す。

イクサー1「異空間!? しまった!」

数体の怪物が、イクサー1を取り囲む。


渚が目覚めると、すでに両親の姿はない。
居間では父が新聞を読んでおり、母は台所に向かっている。

父「おはよう、渚」
渚「おはよう」
母「おはよう、甘えん坊さん」
渚「ひどぉい、ママったら」
父「ハハッ。渚、せっかくの日曜だ。3人でどこかへ出かけようか?」
渚「本当、パパ!? あはっ、やったね、ママ!」

母は無言で、台所で背を向けている。

渚「……ママ? ママったら!」

振り向いた母の姿が、皮膚が張り裂け、怪物と化す。

渚「マ、ママ……!? パパ、パパぁ!」

父も同様に、怪物と化す。

渚「いや、いやぁ! パパ……!? いやぁっ!」

怪物と化した両親が、渚を取り囲む。

渚「助けて、助けて…… パパ、ママぁ!」「嫌、やめてぇ!」

イクサー1は異空間で、苦戦の末に怪物たちを倒す。

渚「きゃあぁ──っっ!!」
イクサー1「渚!?」

瞬時に加納家に降り立ったイクサー1が、ビーム剣で怪物たちを斬り捨て、渚を救う。

イクサー1「渚!」


クトゥルフでは、コバルトが出撃せんとしている。

セピア「コバルト!」
コバルト「セピア……」
セピア「出撃するんでしょう? がんばってね、コバルト」
コバルト「任せて。イクサー1は、必ず倒してみせるから。それじゃ、行ってくるわ。いい子で待ってるのよ」
セピア「早く帰って来て…… コバルト」


加納家は平穏を取り戻したものの、渚は怯えきり、泣き崩れている。

イクサー1「大丈夫ですか、渚」
渚「誰…… 誰なの、あなた?」
イクサー1「私はイクサー1。あなたの味方よ」
渚「パパ…… ママ…… 教えて、パパとママはどうなったの?」
イクサー1「ごめんなさい、渚。私が油断したばかりに、ご両親があんな姿に──」
渚「嘘…… あれが!? そ、そんな……」
イクサー1「寄生されたのです。一度体を乗っ取られたら、もう助かりません」
渚「嫌よ! どうして、どうしてそんなことに? うっ、うぅ……」
イクサー1「私があなたを、パートナーに選んだからです。あなたとご両親は、絶対に守るつもりでした。」
渚「返して! パパとママを返してよ!」
イクサー1「渚、クトゥルフがこの星を狙っているのです。あなたの力を貸してください」
渚「嫌ぁ!」

イクサー1の頬に、渚の平手打ちが飛ぶ。

渚「パパとママを返してぇ!!」


街中。

人々「あれは何だ?」

上空から巨大ロボ・ディロスΘが現れ、地上に降り立つ。

人々「怪物だぁ!」「きゃあぁっ!!」

イクサー1「はっ、ディロス!? ディロスΘ! 渚、私と一緒に来て! 早くしないと──」
渚「嫌、嫌よぉ!」
イクサー1「あなたの気持ちはわかります。でも、今は──」
渚「離してぇ!」
イクサー1「行きます!」


コバルトの操縦するディロスΘが街中で暴れ、あちこちに火の手が上がっている。

コバルト「出て来い、イクサー1!」

自衛隊の空中戦艦、富士壱號が出撃する。

人々「富士壱號だ!」
コバルト「何だ!?」

富士壱號「攻撃開始!」

富士壱號が攻撃を放つが、ディロスにはまったく通用しない。

コバルト「ハハハ、可愛い奴!」

逆にディロスの攻撃が炸裂、富士壱號は炎に包まれて墜ちてゆく。

富士壱號「助けてくれぇ!!」

イクサー1と渚は瞬間移動で、街中に来ている。

渚「あっ、富士壱號が!?」
イクサー1「あの兵器ではディロスは倒せません。イクサーロボを呼びます。渚、一緒に戦いましょう」
渚「嫌よ! どうして私が、あんな化け物と!?」
イクサー1「さぁ、渚」
渚「嫌ぁ!!」

稲妻のような光と共に空間を裂いて、巨大ロボット・イクサーロボが出現する。

渚「ロ、ロボット!?」
イクサー1「私の分身なのです。さぁ、渚」
渚「駄目!」
イクサー1「この星でイクサーロボと合体できるのは、あなただけです。自分の星を守りたくないのですか!?」
渚「お断りよぉ!!」

渚が逃げ出す。
イクサー1が大きく跳躍し、イクサーロボの頭部に吸い込まれる。
渚は、イクサーロボが腹部から発した光線に捉われ、ロボの腹部へと吸い込まれる。
気がつくと渚は、イクサーロボ内部のコクピットにおり、全身にコードが接続されている。

渚「な、何よ、これ!?」
イクサー1「イクサーロボの中です。渚、私とシンクロしてください」
渚「ひどいわ! 降ろしてよぉ!!」
イクサー1「行きますよ、渚!」

コバルト「イクサーロボ!?」
イクサー1「やめなさい! あなたも、ここまでよ!」
コバルト「やっと出てきたな、イクサー1。待っていたぞ!」

ディロスの連続攻撃。イクサーがかわそうとするが、ディロスに吹っ飛ばされる。

コバルト「ハハハハ! しょせん、このディロスΘとはパワーが違う! イクサー1など、敵ではない!」

イクサー1「渚、私に力をください! 私に力を!」
渚「出して! ここから出してよぉ!!」
イクサー1「渚、なぜあなたは戦わないのです!? なぜ自分のことばかり考えるのです!? 自分の生まれた星を守りなさい。亡くなったご両親の仇をとるのです!」
渚「仇……? パパとママの、仇…… パパ、ママ!」

渚に次第に怒りの心が満ちると共に、イクサーロボが力強く立ち上がる。

渚「許さない…… 許さない、許さないから!!」

イクサーロボの全身にみるみる、パワーが満ちてゆく。

渚「出て行けええぇぇ──っっ!!」

イクサーロボの放った光球が、ディロスに痛烈に炸裂し、ディロスが大きく後ずさりする。

コバルト「な、何だ、このパワーは!?」
渚「わああぁぁ──っっ!!」

渚の絶叫と共に、イクサーロボの渾身のパンチがディロスの頭部に炸裂。
ディロス頭部、コバルトの乗っていたコクピットが粉々に粉砕される。


クトゥルフに、コバルト敗北の報せが届く。

バイオレット「可哀想なセピア…… でも、泣くのはおやめなさい。あなたも戦士なら、わかっているはず」
セピア「はい、サー・バイオレット。イクサー1は私が、私がこの手で!」
バイオレット「セピア、かわいい子……」


イクサーロボを降りたイクサー1と渚が、地上に降り立つ。
渚が大泣きし、イクサー1に抱きつく。

渚「パパぁ…… ママぁぁ……」



異星人クトゥルフの侵略は終わっていない。
がんばれ、渚。戦え、イクサー1!



(続く)

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最終更新:2017年11月06日 06:14