宇宙の騎士テッカマンブレードの第46話


テッカマンブレードとスペースナイツの活躍によって
オービタルリングは再び人類の手に戻った。

だが、ブラスターテッカマンに進化したDボウイは
その代償として、神経核の崩壊を起こし
戦うたびに過去の記憶を失いつつあった。

そして、地球を覆い尽くしたラダム樹は
今や全人類をテッカマン化すべく
一斉開花の時を待っていた。

人類は、地球は、滅亡への階段を
刻々と昇っていた──




時の止まった家



中国、北京。
Dボウイとアキが、北京市長のもとを訪れている。

市長「何ですって!? 全人類をオービタルリングに避難させると!?」
アキ「はい。ラダムは、オービタルリングを完全に放棄しました。今なら安全です。このことを、この地区の1人でも多くの人に伝えて、実行してもらいたいんです。あらゆる方法を使って」
市長「……難しいでしょうな」
アキ「どうしてですか!?」
市長「いや、悪い意味にとらないでください。我々の危機を何度も救ってくれたMr.フリーマンの言うことです。何かわけがあるのでしょうし、素直に従うべきとは思います。だが……」
アキ「だが?」
市長「ご覧なさい」

窓の外では、ラダムの襲撃を乗り越えた市民たちが、復興の兆しを見せている。

市長「ラダム獣が姿を消してから1週間、恐怖に震えていた人々は、ようやく日常を取戻し、街の再建に取りかかろうとしています。そんな彼らに、私はどんな顔で『街を捨てろ』『以前の生活に戻れ』と言えば良いのですか? 唯一気になると言えば、あのラダムの植物ですが、今のところ我々に危害を加える様子もありませんし。それとも、スペースナイツの方では何か掴んでおられるのですか?」
アキ「……やむを得ません。ただ、このことは他言無用に願います」

市長「そ、そんなことが!? まさか!?」
アキ「残念ながら事実です。我々の調査に、間違いはありません」
市長「し、しかし……」
アキ「時は一刻を争います! お願いです。1人でも、1人でも多くの人を!」
市長「……わかりました。できるだけのことは致しましょう」


Dボウイとアキが、ブルーアース号で北京を発つ。

アキ「もどかしいわね…… こうして一つ一つ、街を回るしかないなんて。公に発表できればいいんだけど、市民がラダム樹の本当の目的を知ったら、どんなパニックが起きるか……」
Dボウイ「あぁ」
アキ「とにかく、やるしかないのよね。オービタルリングが完全に復旧して、通信システムが回復するまでは」

出発前のスペースナイツ基地で、Dボウイはノアルに会っていた。

ノアル「何だよ、Dボウイ? 頼みってのは」
Dボウイ「……」
ノアル「どうした? 遠慮するなんて、らしくないじゃねぇか」
Dボウイ「あぁ…… ノアル。確か、今日のフライトは極東方面だったな?」
ノアル「そう。北回りでマニラ、北京、東京経由で戻って来る。ったく毎日毎日、駆け足の世界旅行さ。で、それがどうした?」
Dボウイ「その任務、俺にやらせてくれないか?」
ノアル「あぁ? 何だ、そりゃ?」
Dボウイ「……」
ノアル「しかしよぉ、お前、体の方は?」
Dボウイ「休んでどうなるものでもないさ」
ノアル「そりゃまぁ、そうだが」
Dボウイ「頼む、ノアル」
ノアル「……OK! わかったよ。アキには『風邪をひいて駄目だ』とでも言っといてくれ」
Dボウイ「すまない、ノアル……」

アキ「──Dボウイ? Dボウイ!」
Dボウイ「……あ」
アキ「どうしたの、Dボウイ? 考え事?」
Dボウイ「あ、いや…… 頼みが、あるんだ」
アキ「えっ?」
Dボウイ「任務が終わった後、1時間、いや、30分でいい。寄ってくれないか? あるところに」
アキ「……ラーサ!」


任務の後、2人は日本へ立ち寄る。
辿り着いた場所は、すでにラダム樹によってボロボロに朽ちた邸宅。

アキ「ここは?」

表札には、Dボウイの本名・相羽タカヤの姓が書かれている。

アキ「ま、まさか、この家……」
Dボウイ「俺の家だ……」

家の中、広いリビング。
父の孝三、兄のケンゴ、双子の弟シンヤ、妹ミユキと暮していた回想が、Dボウイの脳裏に甦る。

Dボウイ「昔のままだ。2年前、宇宙を目指して出発した、あの日のまま……」

棚の上の置時計にはすっかり埃が積もり、針はすでに止っている。

アキ「Dボウイ……」
Dボウイ「アキ。コーヒー、飲まないか?」
アキ「えっ?」
Dボウイ「俺の家だからな。コーヒーの置き場所くらい、覚えているさ」
アキ「あ、あ…… いいわ、私……」

リビングの一角に、大きな書棚がある。

Dボウイ「ん、あれか? 珍しいだろう? リビングに書斎なんて」
アキ「え、えぇ……」
Dボウイ「親父は、学者にしちゃ変わり者でね。『1人でこつこつやるより、子供の声を聞いている方が仕事がはかどる』って言ってた。それでここに、机を置いたんだ。もっとも、後で『失敗した』とか言って、よく愚痴ってたけど」

机の上に、パイプがある。

Dボウイ「ははっ、親父のパイプだ。アルゴス号の中で『無くした』って騒いでたけど、家に忘れてったんじゃないか」

幼い日の記憶──

タカヤ「父さん、父さん!」
孝三「どうした、2人とも?」
タカヤ・シンヤ「ふふっ、お誕生日おめでとう!」

タカヤとシンヤが、小箱を差し出す。

孝三「ほぅ、プレゼントか! 開けていいかな?」
シンヤ「うん!」

箱の中身はパイプ。

孝三「ほぉ、これは!」
タカヤ「ケンゴ兄ちゃんとシンヤと、3人でお金出しあって買ったんだ!」
シンヤ「何、偉そうなこと言ってんの? タカヤ兄ちゃん、50円しか出さなかったくせに」
タカヤ「あぁっ! それ言わないって言ったじゃないか!?」
シンヤ「だ~って、タカヤ兄ちゃん、1人で勝手に、パイプにするって決めるんだもん!」
孝三「ハハハハハ! ありがとう、2人とも。父さんの宝物にするよ!」
タカヤ「良かったぁ、喜んでくれて!」
シンヤ「なくしちゃ駄目だよ、父さん」

そして2年前。
相羽家の乗った宇宙船アルゴス号はラダムの侵略を受けた。
孝三は自分の身を犠牲にして、タカヤを脱出させた。

孝三「タカヤ! お前の使命とは、奴らに肉体を乗っ取られたシンヤやミユキを、お前の手で殺すことだ」
タカヤ「そ、そんな……!?」
孝三「さらばだ、タカヤ。この名前も今日から忘れるのだ。お前が殺す相手は、兄でも弟でもない! 侵略者ラダムなのだ!」
タカヤ「父さぁん! 兄さん、シンヤ、ミユキ──っ!!」

過去を想うDボウイ。パイプを握りしめる手に力がこもる。

Dボウイ「父さん……」
アキ「う…… Dボウイ」

アキの視線に気づき、Dボウイが我に返る。

Dボウイ「そ、そうだ。アキ、ケンゴ兄さんの部屋へ行かないか?」
アキ「ケンゴ兄さんって?」
Dボウイ「俺の兄さん、相羽家の長男だよ。テッカマンオメガになった……」
アキ「い、いいわ…… 私」
Dボウイ「……じゃあ、ミユキ。そうだ、ミユキの部屋に行こう。ミユキなら、アキも会ったことあるからな」
アキ「Dボウイ!? (Dボウイ、あなた何を? 思い出があなたを苦しめるだけじゃない!?) Dボウイ!」
Dボウイ「2階だ、アキ。行こう」

Dボウイがアキの手を取ろうとするが、アキは反射的に手を引っ込める。

Dボウイ「!?」
アキ「ご、ごめんなさい……」
Dボウイ「アキ、来てくれ…… いや、来てくれないか? 一緒に。1人では、寂しすぎるんだ……」

アキ「Dボウイ!? (どういうこと!? 何のためにDボウイは、こんなことを……)」


一方でラダム基地では、テッカマンエビルことシンヤが、打倒ブレードのためにブラスター化(進化)を望んだものの、諸刃の剣であるブラスター化を拒んだオメガにより、幽閉の身にある。

シンヤ「ケンゴ兄さん、出してくれ! ケンゴ兄さん! 頼む…… 出してくれぇ! 命と引き換えでも構わない! 必ず、必ずブレードを殺す! だから、俺に力を…… タカヤを倒す力を……」
声「本当ですか?」
シンヤ「!?」
声「『命を捨てても必ずブレードを倒す』。その言葉に、偽りはありませんか? エビル様」
シンヤ「フォンか!? あぁ、タカヤに勝つことができるのなら、俺は死など恐れない! だから、だから俺に力を!!」
声「──わかりました」

閃光とともに、シンヤが幽閉から解放される。テッカマンソードこと、フォンが現れる。

フォン「ご気分はいかがです? エビル様」
シンヤ「ソード…… なぜだ、なぜお前が?」
フォン「さぁ? そのようなこと、エビル様にはどうでもよろしいでしょう?」

フォンが、奪われていたシンヤのクリスタルを差し出す。

シンヤ「俺のクリスタル……」
フォン「さぁ、エビル様。オメガ様が基地と一体化し、眠りについた今、あなたの邪魔をする者はおりません。心置きなくブレードを」
シンヤ「礼をいうぞ、ソード。待っていろ…… ブレード!」


相羽邸。Dボウイがアキと共に、ミユキの部屋を訪れる。

(ミユキ『もう、タカヤお兄ちゃんたら! 入るときはノックしてって言ったでしょう? フフッ』)

笑顔でそう言う妹ミユキ──の、幻影が消える。
机の上には、ミユキが兄たちと共に撮った写真が飾られている。

Dボウイ「家って、不思議だな。持ち主はもうこの世にいないのに、ミユキの匂いがする……」

Dボウイが窓のカーテンを開ける。夕陽の光が入ってくる。

ミユキとの再会の記憶。
ミユキことテッカマンレイピアが、ブレードの目の前でエビルたちに傷めつけられている。

エビル「楽になりたいだろう?」
ブレード「ミユキぃ──っ!! ミユキぃ──っ!!」
エビル「ブレード!?」
レイピア「あなたたちに、殺させはしないわ! タカヤお兄ちゃん……」

レイピアが兄たちを救うため、エビルたちを巻き添えに自爆する。
ミユキは兄の目の前で、壮絶な最期を遂げた──

惨たらしい記憶に、Dボウイの手に力が入り、思わず手にしていたカーテンを引きちぎる。

Dボウイ「くッ……!」
アキ「Dボウイ……」

Dボウイが、部屋を去ろうとする。

アキ「どこへ行くの、Dボウイ?」
Dボウイ「シンヤの、部屋だ……」
アキ「Dボウイ、もう帰りましょう! これ以上ここにいたって……」
Dボウイ「……」
アキ「Dボウイ!」

アキが我慢しきれずに、Dボウイの目の前に立ち塞がる。

アキ「もうやめて、Dボウイ! 今日のあなた、どうかしてるわ! どうしてこんな、わざわざ自分を苦しめるようなことをしなくちゃいけないの!?」

Dボウイは、静かにアキの肩をポンと叩き、首を横に振る。


そして、シンヤの部屋。

Dボウイ「シ、シンヤの部屋が……!?」

(エビル『俺たちは双子だ。もともと1つだったものが、2つに分かれたのだ。どちらか勝った方の1人が、生き残っていけばいい』)

シンヤの部屋はラダム樹の浸食で崩れ落ち、跡形もない。Dボウイは、家の庭へ駆け降りる。

アキ「Dボウイ!?」

庭の一角の地面を、素手で掘り始める。

アキ「(Dボウイ……!?) ねぇ、何してるの? Dボウイ」
Dボウイ「埋まってるんだ、ここに…… 10歳のときに埋めた、タイムカプセルが…… 20歳になったら一緒に開けようって約束したんだ! シンヤと2人で……」

やがて土の中から、タイムカプセルのガラス瓶が出てくる。
その中からは古いおもちゃ、本などが出てくる。そして。

Dボウイ「マイクロレコーダー……?」

Dボウイが恐る恐る、レコーダーのスイッチを入れる。

シンヤの声「兄さん、タカヤ兄さん。ハハッ、僕だよ、シンヤだよ」
Dボウイ「うっ……!?」

これを聞いてる兄さんは、もう大人なんだね。
なんか、それって不思議だな。
兄さんも僕も、どこで何やってるのかな?

仲良くしてるよね?
まさか、ケンカなんかしてないよね?

シンヤと仲睦まじかった幼い日の記憶が、Dボウイの脳裏をよぎる。

だって、ケンゴ兄さんったら意地悪言うんだもん。
「大人っていうのは難しいから、変わっちゃうかもしれないよ」って。

そんなことないよね?
僕らがいくつになったって絶対、変わんないよ。
僕が兄さんを好きだってことは。

だって僕たち、一緒に生まれた双子だもん。
僕たち、もともと1人だったんだもん。

僕はずぅっと、兄さんが大好きだよ!
ケンゴ兄さんよりも、ミユキよりも!

ずっと…… ずっと!

レコーダーを握りしめるDボウイの手に、涙が零れ落ちる。

Dボウイ「シンヤ、シンヤ…… シンヤ…… くッ…!… うわああぁぁっっ……!!」

絶叫とともにDボウイの涙があふれ、わなわなと振るえる指が地面にめり込む。

アキ「Dボウイ…… どうして? 傷つくだけだってことは、分かりきっているのに……」
Dボウイ「泣けるだけ、いいさ」
アキ「えっ?」
Dボウイ「シンヤのことも、ミユキのことも、まだ憶えている。まだ、悲しむことができる…… そして、この涙を、思い出を失わない限り…… 俺はラダムを憎む! 俺はラダムと戦える!!」

Dボウイは、決意の視線をアキに返す。夕陽の中、一陣の風が2人の間を吹き抜ける。

アキ「Dボウイ…… あなた、ラダムへの怒りと憎しみを、忘れないために…… そのために、この家に……」
Dボウイ「……」
アキ「Dボウイ、あなたにもいつか、救いが…… きっと!」


ラダム母艦では、最終調整のため眠りについているオメガに、フォンが語りかけている。

フォン「ケンゴ。あなたを守るためなら、私は手段を選ばない。たとえ、あなたの弟を死に追いやってでも!」


夜がふける。Dボウイとアキは、相羽邸のリビングでコーヒーを飲んでいる。

Dボウイ「俺は今、とても素直な気持ちだ」
アキ「えっ?」
Dボウイ「今なら素直に言えるよ。『大好きだった兄さんたちをこの手で殺す』。そんな宿命、背負いたくなかったよ」
アキ「Dボウイ…… 何もできないの?」
Dボウイ「?」
アキ「Dボウイが苦しくても、私は何もできない。ただ、そばで見ているだけ…… 今日だって、あなたがどんな想いでここへ来たのか、わからなくて……」

アキのこぼした涙の滴が、コーヒーカップに落ちる。

Dボウイ「アキ……」

カップを持つアキの手に、Dボウイが自分の手を重ねる。

Dボウイ「いいんだ、アキ」
アキ「え……」
Dボウイ「そばに、いてくれるだけで、俺は…… 忘れたくない、アキのことを。名前も、思い出も、アキのことは何一つ……」

アキが涙をこぼし、Dボウイに抱きつく。

アキ「忘れさせないわ……!」


ラダム基地では、シンヤが静かに、ブラスター化の処置を受けている。

シンヤ「タカヤ兄さん、待っててよ。俺が進化するその時まで…… フフフフ……」


地球の相羽邸。Dボウイたちが去った後の、無人の部屋。

止まっていたはずの時計が、ゆっくりと動き始めていた──


(続く)

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最終更新:2018年02月24日 07:49