帰ってきたウルトラマンの第33話


怪獣使いと
少年


巨大魚怪獣
ムルチ
登場




土砂降りの中。
巨大怪獣ムルチが闊歩し、1人の少年が逃げ惑う。

「助けてくれぇ! 父ちゃぁん!」

少年が転び、気を失う。
異形の宇宙人が歩み寄り、怪獣に向かって手を広げる。

宇宙人の超能力により、怪獣が地中へ埋められてゆく。


それから1年後。
その少年、佐久間 良は、廃墟のそばの空き地で、息を切らしながらスコップを振るい、地面を掘り返している。

次郎や友達の少年たちが、物陰から覗き見ている。

次郎「あれが宇宙人なのかな?」
少年たち「子供に化けてるんだって」「超能力、使うらしいぜ」
次郎「超能力?」

不良じみた中学生3人が、良に近づいてゆく。

中学生「おい。お前。どっから来たんだよ?」
良「……」
中学生「おい。お前、つんぼかよ?」「おい、何とか言えよ!」「なんで毎日毎日、穴ばかり掘ってるんだ?」
良「落とし穴なんだ。帰ってくれよ!」
中学生「何だとぉ!?」「おい、こいつの持ち物調べりゃ、正体がわかるかもしれねぇぜ」「よし、行こう!」「2階へ上がってみようぜ」

中学生たちが、廃墟へ乗り込む。

良「やめろぉ! 2階へ行くな! やめろぉ!」
中学生「2階へ上がられると困んのかよ!?」
良「やめろ! 2階へ行くな!」
中学生「うるせぇ、どけ!」
良「えい、やぁっ!」

良が拳を突き出すと、中学生の1人が宙に浮き、振り回される。

中学生「うわぁ~っ!? おい、助けてくれぇ! おぉい、助けてくれよぉ!」

他の中学生たちが、慌てて逃げ出す。

中学生「おぉい、待てよぉ!」「あいつが宇宙人なら、もっといろんなことができるはずだよ!」


後日。
中学生たちは良を、首まで穴に埋め、頭から泥水をかける。

中学生「やれ、やれ!」「おい、早く変身しろよ!」

次郎たちが駆けつける。

次郎「かわいそうだよ! ひどいよ!」
中学生「ふざけろ! 宇宙人なんだぞ、こいつは! お前、頭からガリガリ食われてもいいのかよ!?」
良「……」
中学生「お前たちもやれよ! こいつを放っとくとなぁ、今に俺たちがやられてしまうんだぞ」

ウルトラマンこと、MAT(マット)隊員の郷が駆けつける。

次郎「郷さん!」
郷「どうして、こんなひどいことをするんだ!?」
中学生「こいつ、宇宙人なんだよ。だから、やっつけてんのさ」
郷「この少年が宇宙人だっていうのは、噂なんだろ!?」
中学生「違う! 超能力、持ってんだよ」「間違いなく、宇宙人だよ!」
次郎「真空投げ、使ったよ」
中学生「あんたMATだろ、早くやっつけてくれよな!」
郷「彼のことは俺に任せて、責任をもって保護する。それでいいだろ」
中学生「帰ろう!」「畜生!」「馬鹿野郎!」「覚えてろ!」

中学生たちが、引き上げてゆく。

郷「今、出してやるからな」

郷は、良を助け出しにかかる。

郷「随分、掘ったなぁ。一体何に使うんだい、この穴」
良「そんなこと聞くために助けるのなら、放っといてくれ!」
郷「君が答えなくても、調査は続けるよ…… よいしょ! よし」
良「ありがとう」

良が駆け去る。

良「僕は宇宙人なんかじゃない! 僕の生まれたところは、北海道の江刺だ! 僕は日本人さ!」
郷「北海道の江刺か…… (それにしても、あの少年は何か隠している。何か)」


後日。
次郎が友達の少年に、中学生たちのもと連れられて来る。

少年「連れて来たよ」
中学生「MATは何ってった?」
次郎「MATって、郷さんのこと?」
中学生「そうだよ」「宇宙人野郎のこと、何か言ってたろ?」
次郎「宇宙人じゃないかもしれないって。れっきとした日本人らしいよ。北海道まで調査に行ったよ、郷さん」
中学生「我々人間様には」「あのての顔はねぇよな」「あんな顔はなぁ」「どうやら、MATも頼りにならねぇな」


良は廃墟の中で、薪を焚き、粗末な食事を作っている。
中学生たちがやって来る。

中学生「なんだぁ!? 宇宙人もメシ食うのかよ!?」「宇宙人野郎!」「なぁんだ、お粥か」
良「何をすんだ、あっち行け!」
中学生「この野郎!」

中学生の1人が鍋を蹴り、中身が床に散らばる。
良は無言で、粥を素手で拾う。

中学生「拾って食うのかよ!?」「そんなメシ、うめぇかよ!?」「宇宙人野郎めがよぉ」

中学生の1人がさらに、床の粥を踏みにじる。
良は悔しそうに、涙を滲ませる。

中学生「へぇ~、宇宙人が泣いてらぁ」「悔しいかよぉ!」「宇宙人野郎!」「何とか言えよ!」
良「畜生!」

良は、火のついた薪を振るい、中学生たちを威嚇する。

中学生「おい、あいつをやっつけろ!」

中学生たちは、連れて来た犬をけしかける。

良「わぁ、やめろぉ! 助けてくれぇ!」

犬が良に襲いかかるが、犬が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

中学生「お、おい、帰ろうよ!」


鐘の音を響かせ、托鉢笠で素顔を隠した僧が通り過ぎてゆく。


郷はMATの伊吹隊長に、良のことを報告する。

郷「少年の名は、佐久間 良。昭和33年4月5日、父、徳三、母ヨネの長男として江刺に生まれ、昭和37年9月、良が4歳のとき一家で深山鉱山に移ってきた。昭和38年、不意にも炭鉱が閉鎖され、徳三が職を失い、東京へ出稼ぎに出たまま蒸発。昭和40年、母ヨネ死亡。その直後、佐久間良、行方不明── となってますが、父親を追って東京に出て来たんでしょうね」
伊吹「天涯孤独となった良くんは、どんなに父を憎み、また慕ったことか…… 郷、確か君も」
郷「はい。でも私には、MATという家があり、隊長という父がいます」
伊吹「良くんはあの廃墟の中に、父親に似た愛のぬくもりを発見したのではないだろうか。もし、その父が宇宙人で、そのために良くんが宇宙人呼ばわりされ、乱暴されて、情愛の絆を絶たねばならないとしたら、それは絶対に許されん。日本人は美しい花を作る手を持ちながら、いったんその手に刃を握ると、どんな残忍極まりない行為をすることか。郷、良くんに関しては君に任せる。早く宇宙人説から解放してやりたまえ」
郷「わかりました」


少年が宇宙人でないことはわかった
しかし、この穴は何の目的で掘られたのか?
真空投げとは何か?


ある雨の日。
郷は良を捜して、廃墟を訪れる。

郷「良くぅん! 良くぅん! ……あっ!?」


良は、壊れかけた傘をさし、商店街を行く。

人々「あっ! あれ、宇宙人の子供ですよ」「えぇっ!?」

良がパン屋を訪れる。

良「食パン、ください」
店主「……悪いけど、よその店に行ってよ」
良「……」
店主「後で色々言われるの、嫌なのよ。早く帰ってちょうだい」

良は落胆し、パン屋を後にする。
女性店員がパンを手に、良を追いかける。

店員「僕ぅ!」
店主「あっ、リョウコ!?」
店員「待って!」「はい」
良「同情なんて、してもらいたくないな」
店員「待ってよ! 同情なんかしてないわ。売ってあげるだけよ。だって、うちパン屋だもん。はい、120円」

店員が、良の粗末な紙袋にパンを入れ、代金を受け取る。

良「ありがとう…… ありがとう!」
店員「気を付けてね!」
良「どうもありがとう!」

店主「あの子、超能力使うんだってよ。タエちゃん、酷い目に遭ったんだって」
店員「宇宙人なのかしら?」
店主「どうだよ。毎日買いに来るよ、これから」
店員「でも、いいじゃない。うち、パン屋だもん。フフッ」


良が廃墟に帰って来る。

良「おじさん……」

郷がいる。

良「どうして勝手に上がったんだ? 出て行け、出て行け!」

右目の爛れた老人、金山十郎がいる。

金山「やめなさい…… 郷隊員は知っている。私がメイツ星から来た宇宙人であることをね」
良「えっ?」
郷「だが、すべて疑問が解けたわけではない。良くん、表の穴は何のために掘っているんだい? 正直に言ってごらん」
良「……」
郷「良くん!」
金山「私から話そう」
良「おじさん、やめた方がいい。MATに話すと、宇宙へ帰れなくなるよ」
金山「どうせ、長くはない命だ」
良「おじさん……」
金山「あれは1年前の、雨の強い日だった。私は地球の風土・気候を調べるために、表の川原に着陸した」

1年前の回想──
金山ことメイツ星人が、宇宙船を地中へ潜航させる。
そのそばに、良が泥だらけで倒れている。

金山「その地球人の少年は、恐怖と寒さと飢えのために、ほとんど死にかけていた。それ以来、良とはまるで親子のように暮らした。私はこのまま地球に住み着いても、いいとさえ思えました。しかし秋が来て、枯葉が散るように、私の肉体も汚れた空気に蝕まれて、朽ち果てていく」

良が涙を拭う。

金山「あの雲も、あの煙突も、シロアリのように私の肉体を……」
良「早くしないと、おじさんは死んでしまうんだ」
郷「わかった。宇宙船は、あの一帯に隠したんですね」


郷は、良の穴掘りを手伝う。

郷「お父さんは見つかったのかい?」
良「父ちゃんなんか、いらないよ! 僕、おじさんと行くんだ。メイツ星へ」
郷「地球を捨てるつもりかい?」
良「地球は今に、人間が住めなくなるんだ! その前に、さよならをするのさ」

良が、彼方の高速道路を指す。

良「あの高速道路の向こうに、怪獣が閉じ込められているんだよ」
郷「怪獣?」
良「おじさんが、念動力でやったんだ。凄いだろう!」

大勢の人々が駆けて来る。
木槍を手にする人もおり、警官や、良を責めていた中学生たちもいる。

人々「呆れたもんだ。宇宙人を退治するべきMATが、宇宙人と仲良くしてるんだもんな!」「お前のために町が大騒ぎになったんだぞ!」
郷「大勢で何をしようというんですか!?」
警官「その子は宇宙人だっていうことがわかった! MATが手を下さないなら、警察がやる!」

人々が良を捕えようとし、郷が阻止しようとし、もみ合いとなる。

郷「やめろぉ!」
良「離せぇ! 僕が何をしたっていうんだ!?」
人々「構わないから連行したまえ!」「町は大騒動だ!」
良「おじさぁん! 助けれくれぇ!」

廃墟から、金山が現れる。

金山「待ってくれ…… 待ってくれ」
良「おじさぁん! 助けてぇ!」
金山「宇宙人は、私だ……」

金山が力なく歩き、つまずいて転ぶ。

良「あっ、おじさん!?」
金山「良くんはただ、私を守ってくれていただけだ…… 宇宙人じゃない!」
良「おじさん、おじさぁん!」
金山「さぁ、良くんを自由にしてやってくれ」
良「おじさん! どうして出て来ちゃったんだよ!?」
金山「もういいんだよ」
良「おじさん……」

人々「みんな、こいつを生かしとくと、何をしでかすかわかんねぇぞ!」「何しろ宇宙人だ!」
郷「やめろ! この人は宇宙に帰りたがってるだけだ! 帰してあげなさい!」
良「おじさんにひどいことをすると、今に大変なことになるよ!?」

人々が金山を目がけ、石を投げつける。
混乱を続ける人々の中、警官の銃が火を吹き、金山に命中する。

金山「殺すなら…… 私を殺せ!」

さらに金山に、銃弾が突き刺さる。

良「おじさぁん!?」

金山が息絶える。
良が駆け寄り、金山の血まみれの手を握りしめる。

良「おじさん…… おじさん…… うわぁぁん!」

やがて雨が降り出し、地面から煙が吹き出し、怪獣ムルチが現れる。
金山が死んだことで、彼の封印していたムルチが復活したのである。
人々が逃げ惑う。

人々「わああぁぁ!」「怪獣だぁ!」「助けれくれよぉ!」

郷 (勝手なことを言うな! 怪獣をおびき出したのは、あんたたちだ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ)

ムルチが火を吐き、町が破壊されてゆく。
立ちすくむ郷の前に、あの托鉢僧が現れる。

「郷、町が大変なことになってるんだぞ」

家々が燃え、被害はさらに広がろうとしている。

「郷、わからんのか!?」

郷が決意を固めて、駆け出す。
僧が笠を引き上げると、その素顔は伊吹隊長。

郷が決意を固めて駆け出し、ウルトラマンに変身する。

ウルトラマンが地上に降り立ち、ムルチに立ち向かう。
雨を浴びながらの、巨体と巨体のぶつかり合い。
戦いの末に、ウルトラマンが必殺のスペシウム光線を放ち、ムルチは爆散する。

ウルトラマンが、空の彼方へ飛び去る。


雨が上がる。

良「おじさんは死んだんじゃないんだ…… メイツ星へ帰ったんだよ。おじさん、僕がついたら迎えてくれよ。きっとだよ!」

良は涙を拭い、汗まみれになりながら、地面を掘り続ける。

伊吹「一体いつまで、掘り続けるつもりだろう」
郷「宇宙船を見つけるまでは、やめないだろうな」
伊吹「彼は地球に、さよならが言いたいんだ──」


(続く)

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最終更新:2021年04月17日 22:15