スパイラル ~推理の絆~の第2話

第二話 踊り場の見えざる手(後編)


まどか「野原さん!」
瑞恵「!」
まどか「ちょっといいかしら」

瑞恵を呼び止めたのは、まどかと和田矢だった。

瑞恵「どうしてあいつを逮捕しないんです!?どう見たってあいつが犯人じゃないですか!!」
まどか「逮捕となると慎重になるんですよ。それに自殺の可能性も・・・」
瑞恵「カナは自殺なんかしません!!そんなそぶりはちっともなかったんです!」
「昨日も言いましたよ!?」
まどか「ええ覚えています。遺書らしきものも見つかってません」
瑞恵「だったら!」
まどか「今日は別件です。・・・あなた」
「園部という男性を知っているかしら?」
瑞恵「・・・誰ですか?」
まどか「・・・ふうんそう・・・1週間前にね」
「園部という男性が背後から襲撃されるという事件があったの。彼は今、意識不明の重体で病院にいるんだけど・・・」
「その犯人をね。あなたの親友だった宗宮可菜さんは目撃したみたいなの。でも彼女はそれが誰なのか教えてくれなかった」
「あなた宗宮さんから何か・・・・」
瑞恵「カナからそんな話聞いたこともありません!一体なんだって私にそんなこと・・・」
「・・・もしかして刑事さん、私を疑ってるんですか?」
まどか「そう聞こえましたか?」
瑞恵「・・・もう帰ります。私そんなにヒマじゃないので」
まどか「ひきとめちゃってごめんなさいね!」


まどかと和田矢は車で移動していた。
和田矢「ほんとに野原が園部を殺ったんですかー?」
まどか「ええ多分。まだ殺しちゃいないわよ」
和田矢「カンですか?」
まどか「そうね」
和田矢「ははっ、あてになるんですかあ?」

まどかが和田矢を睨む。

和田矢「わわっ、運転中はやめてくださいよ」

まどかの携帯がなって、まどかは電話に出た。
まどか「はい、鳴海です。・・・ああ、あんたか。ええ、そう知ってる」
「あんたこそどうして・・・・・まあ、いいわ」
「・・・わかった、すぐ調べる。いいわね、勝手に動くじゃないわよ」
まどかが電話を切った。

和田矢「弟さんからですか?」
まどか「署に急いで」
(・・・やっぱり、「名探偵」と呼ばれたあの人の弟・・・か・・・)

瑞恵が自分の教室に入った。
クラスメイト「あ、瑞恵おはよー」
瑞恵「おはよ」
クラスメイト「さっきあんたの席に1年生の男のコが手紙おいてったよォ」
瑞恵「え?」
クラスメイト「ラブレターじゃないのぉ?キャハハハハ」

瑞恵がその手紙を読み――――
瑞恵「―――――ッ!!」
手紙を握りつぶした。

放課後の屋上。

瑞恵人形「カナちゃんカナちゃん、いいかげんに辻井クンに告白しなよ」
可菜人形「え~でもわたしこわいよ」
瑞恵人形「なんで?「好きですつきあって」って言うだけじゃない」
可菜人形「だけどさ告白して「ゴメン」なんて言われたら・・・フツーにお友達でもいられなくなるし・・・」
瑞恵人形「なら辻井クンのこと、あきらめるの?」
可菜人形「そ・・・それは-」
瑞恵人形「じゃあ告白する気はあるんだ」
可菜人形「う・・・うん」
瑞恵人形「合格発表になると自分で受験番号確認できないってやつね!よしっ、このミズエさんがひとはだ脱いじゃいましょう!」
可菜人形「ほんと?」
瑞恵人形「うまくいったらVサインしてあげるからカナちゃんはそれを遠くで見てはっぴっぴね♡だめだったら冗談で言ったことにして辻井クンごまかすから、後でそんなに気にせず友達でいられるでしょ」
「C棟の裏庭ってあんまり人いないし、C棟6階非常階段の踊り場からなら辻井クンにも気付かれず裏庭を見渡せるから」
「カナちゃんが見守るにぴったりよ」

そんなやりとりを、ひよのが指人形でしていた。
ひよの「―――――以上ひよの劇場でした♡」
歩「・・・・・」
瑞恵「・・・・・そんな人形劇を見せるためにわざわざ屋上に呼びだしたの?」

歩「いや俺はそーゆーつもりじゃなかったんだけどね、こいつがどーしてもっていうからさ」
ひよの「だあってこんなちんぷな青春の1ペェジ、真面目に解説されるの恥ずかしいじゃないですか-」
歩「そりゃそーだけど、小道具が過ぎるぞ・・・」
ひよの「なに言ってるんですかー、凝ってこそ芸ですよ」
歩「・・・芸?だいたいあんたそんなのいつの間に作ったんだよ」
ひよの「企業秘密です」
瑞恵「・・・私はあんたたちにバカもされてるのかしら」

歩「おー悪ィな。でも事件前にあんたと被害者がかわした会話を再現しただけだぜ?」
「こいつが宗宮可菜が踊り場にいた理由。そいでもってこれがあんたの魔法の種・・・」
「彼女を墜落させた、「見えざる手」だ」

歩がサングラスをかけた。

瑞恵「・・・・サングラスが。はッ」
歩「え。いや・・・・まあなんだよ。要するに眼鏡ってことだ、眼鏡!」
歩がサングラスを外した。
ひよの「とっちゃうんですか-?」
歩「家にこんなんしかなかったんだよ」

歩「なぜ宗宮可菜は眼鏡をかけたまま落下したか。普段かけていないのになぜかけていたか。
告白の手伝いをしてもらうことになった宗宮は疑いもせずに非常階段にやってくる。そして辻井郁夫とあんたが花壇に現れれば、近視の彼女はあんたのサインを確認するため眼鏡をかけるはずだ」
「もしその眼鏡がすり替えられていれば?」
「彼女の目にはまるで合わない、度の違う、直線を歪ませる狂ったレンズの眼鏡にすり替えられていればどうなる?」

ひよの「宗宮さんは事件の日、謎の呼び出しを受け、6限の後教室を離れてます。当然眼鏡の入った鞄は教室に置きっぱなし。気づかれずすり替えるチャンスはありました」
歩「・・・その放送もあんたの仕業だろ」
「そして踊り場。眼鏡をかけた彼女はたちまちふらつき、支えを求めてフェンスに手をかける。しかし壊れたフェンスは彼女を支えきれず、そろって落下だ」
「あんたは巧みに宗宮可菜を非常階段に立たせ-・・・・」
「眼鏡をかける瞬間を決定した」
「犯人でありながら目撃者であるという絶対的安全を手に入れたんだ」
「ただこのトリックはどうしても眼鏡という物証が残る」
「だから真先に墜落現場に駆けつけ、あらかじめ壊しておいた彼女本来の眼鏡と犯行に使用した眼鏡をどさくさ紛れに交換しなければならない」
「俺は上で見たんだよ。あんたがポケットに隠すのを。あんたは決定的な証拠となる眼鏡を急いで回収した。そしてその時――――」
「割れたレンズで指を切った。-―――違うか?」
歩が掴んだ瑞恵の右手の指先には絆創膏が貼られていた。

瑞恵が歩の手を払った。
瑞恵「新聞を読んでないの?カナは誰かに突き落とされたのよ。あんたの説明じゃまるで事故じゃない!だいたいフェンスは寄りかかったくらいじゃ外れなかったよ!」
歩「突き落とされたと判断されたのは、フェンスに強い力で押された形跡があったからだ」
「だけどそんなものは宗宮可菜が来る前に強い負荷をかけて壊しておき、少し触れれば外れるように細工しておけばいい」
「そしてあんたは事故直後、突き落としたと騒ぎ立てて皆にそう思い込ませた」

瑞恵「あんたが突き落としたんでしょ!」

歩「宗宮可菜自身が突き落とされた証拠はどこにもない」

歩が瑞恵の顔を指さした。

瑞恵「!?」

歩「あんたが犯人だ!」

瑞恵「・・・・・・・・」
「・・・証拠は?全部想像じゃない。その眼鏡に何か問題あるの?告白するようカナをたきつけた証拠でもあるの?すり替えとかあらかじめとか全部こじつけじゃない!」
まどか「でもレンズの破片が合わないのは確かよ」
「気をつけて回収したんでしょうけど―――――」
「レンズの破片に、一部形も度数も合わないのが混じっているの」

屋上にまどかと和田矢が来た。

瑞恵「・・・ひ、ひっかけようとしても無駄ですよ。そんな嘘――――――」
まどか「残念ね。合わない破片は被害者の目元に刺さっていたものなの」
「回収した覚えがあるかしら。あなたが現場で何かをポケットに入れたのはわかってるのよ」

瑞恵「・・・・・こいつがそう言ってるだけでしょ!?自分の嫌疑を逃れるのに・・・」
まどか「破片の矛盾は残るわね。誰の証言であれ――――――・・・あなたは疑わしいのよ」

瑞恵「・・・何言ってるんですか?カナは私の親友ですよ?動機がないじゃないですか。どうかしてます!」

まどか「「ブレード・チルドレン」」
立ち去ろうとした瑞恵がまどかの一言で足を止めた。

まどか「・・・やっぱりあなた園部の事件に関係してるわね。宗宮さんのことも口封じだと考えれば・・・・・・そう、動機は充分だわ。眼鏡もふくめてきちっとした証拠が見つかるのも時間の問題よ。園部のことも宗宮さんのことも・・・「ブレード・チルドレン」のことも・・・あなた逃げ切れるかしら?」

瑞恵「何を言っているんですか?訳がわかりません。失礼します!」

瑞恵が屋上から出た。

歩「・・・ねーさん」
まどか「ああ、あんたには借りができたわね。今度何かおごったげる。それでチャラね」
歩「ごまかすなよ。2年前に兄貴が残してった言葉・・・俺だって忘れてねーからな・・・」

ひよの「?」

和田矢「?」

歩「ねーさん・・・・・俺は・・・」

「きゃあああああ!!」

(!?)

歩達は悲鳴を聞き、屋上から出た。

歩「――――――!!・・・う」
「うそだろ・・・オイ・・・」

階段に胸を射抜かれた瑞恵が倒れていた。

歩(なんだって一体!!)


歩(この事件を機に俺は「ブレード・チルドレン」をめぐる一連の事件に――――足を踏み入れることになった―――――・・・)



(続く)

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最終更新:2021年05月08日 19:35