DOGDAYSの第10話

ルージュ「痛みと苦しみを一人で背負い、それでも懸命に戦ってらしたレオ様。
レオ様を思い、最前線を訪れたミルヒ姫様。
星の定めた未来は変えられないのでしょうか?
このままではレオ様と姫様が・・・お願いです!誰か・・・助けて・・・」



EPISODE 10


ミルヒとレオのいる砦の屋上の中央が、切り離され、空に浮き上がっていく。
そして、暗雲に覆われた空から黒い巨大な球体が降りてくる。

ミルヒ「あれは・・・この辺りの土地神様・・・?」
レオ「いや・・違う・・・昔、ダルキアンに聞いたであろう。恐らくはあれがかつて、地の底に封じられたという、禍々しき魔物であろうよ・・・」

球体から咆吼が放たれると、各地で火柱が吹き上がり、その近くにいた兵士達は逃げ出した。

ルージュの後ろでも火柱が吹き上がった。
ルージュ「あ・・・あぁ・・・レオ様!ミルヒ姫様!」

火柱の一つが屋上を掠め、ミルヒが吹き飛ばされた。

ミルヒ「っ!」
レオ「ミルヒ!うっ」

ミルヒ「・・・あ!」

球体がうごめき、中から手足が突き出し始めた。

ミルヒは球体の中に、鎖で繋がれた一本の刀があるのを見つけた。

ミルヒ(大きくて、怖い魔物かもしれないけど・・・)
(あの子・・・泣いてる・・・?)


球体が破れ、狐の姿をした巨大な魔物、キリサキゴボウが姿を現した。

レオ・ミルヒ「「!」」


キリサキゴボウの顔の周りに、狐の形をした無数の光弾が浮かび上がった。

レオ「くっ・・・」


キリサキゴボウが尻尾の一本を地面に突き刺すと、
様々な刃物を生やした多数の触手が地面から出てきた。

レオ「あっ!」

ミルヒ「ああっ!」

触手がミルヒとレオに向かってきた。

レオ「はあ―――っ!」

レオがグランヴェールを掲げ、紋章の盾で防いだ。

更に触手が来た。

レオ「はっ!」
「でやーっ!」

レオはグランヴェールで触手を切り裂いていく。

レオ「ミルヒ!無事か!」
ミルヒ「は、はい」

レオの後ろに二本の触手が出てきた。

ミルヒ「レオ様危ない!」

ミルヒがレオの前に出て、エクセリードを構えた。

レオ「ダメじゃ!ミルヒ!」

触手はエクセリードをあっさりへし折り―――

ミルヒ「あ・・・」

ミルヒを切り裂いた。

レオ「・・・・!」
その光景は、レオが星詠みで見てきた「覆せぬミルヒの死」の光景そのものだった・・・

レオ「ミル・・・」


ミルヒが触手に殴り飛ばされ、狐の光弾に取り込まれ、キリサキゴボウに取り込まれていった。


レオ「ミルヒ・・・・貴様―――――っ!!」
レオがグランヴェールを掲げ、緑の光を纏った。

レオ「おおおっっ!」

キリサキゴボウはその光にたじろぎながら、尻尾の一本をレオに向けた。


レオ「うおーーーーっ!」

グランヴェールと尻尾が激突し、尻尾が砕けた。

キリサキゴボウは触手を伸ばし、光弾を放つも、レオはかいくぐって、キリサキゴボウの眼前に飛び上がった。


レオ「はあ――――っ!」

レオはキリサキゴボウの顔面に一撃を炸裂させ、浮岩に飛び乗った。

レオ「ミルヒ・・・ミルヒ―――!まだ無事なはずじゃ・・・すぐに助け出せばきっと・・・」

キリサキゴボウがレオに尻尾を伸ばしてきた。

レオはグランヴェールと紋章盾で触手を受け止めるも、足場の浮岩が砕け、
そのまま落ちていく所を尻尾で叩かれ、砦に叩きつけられた。

レオ「うっ!うあ―――っ!」

ルージュ「レオ様!レオ様―――!」


キリサキゴボウが大地に降り立ち、進み出した。

外壁を登って、シンクとエクレールが屋上に来た。

エクレール「何だ・・・ここから立ち去ろうとしてるのか?」

2人は、ルージュとレオの所に向かった。

エクレール「ルージュ殿!?」

ルージュ「親衛隊長・・・勇者様・・・」

シンク「レオ閣下!」
エクレール「まさか、あの魔物に?」
ルージュ「はい・・・それに、ミルヒ姫様が・・・」
シンク・エクレール「「!」」


ミルヒは、キリサキボゴウの背中に浮かぶ球体の中に閉じ込められていた。


エクレール「姫様は恐らく、あの魔物に取り込まれつつある。だが、今はまだ聖剣の守護が働いてる。それも姫様の気力次第だ、いつまでもはもたん」
シンク「姫様の気力が尽きたらあの魔物に、消化されちゃうってこと!?」
エクレール「・・・っ、そうなる」
シンク「っ!そんなの・・・させるかよ!」


ミルヒが雷鳴の轟く荒れ地で目覚めた。

?「姫君」
ミルヒ「あ!」

ミルヒに話しかけてきたのは、半透明の姿をした白い狐だった。

狐「聖剣の姫君」
ミルヒ「あ、はい!」
狐「申し訳ありません、我が子があなた方に酷いことをしてしまいました・・・」
ミルヒ「えっ?」


エクレール「どんどん行ってしまう・・・」
シンク「いや、浮岩が足場になる。あれならトルネイダーで滑空していける」
エクレール「今、守護のフロニャ力が酷く弱まってる!落ちれば死ぬぞ!」
シンク「んなもん・・落ちなきゃいい!トルネイダー!」

シンクはパラディオンをトルネイダーに変化させた。
その後ろにエクレールが乗った。

エクレール「待て!私も行く!」
シンク「だと思った!」

シンク「と言う訳でルージュさん!」
エクレール「ウチの姫様の救出に!」
シンク・エクレール「「行ってきます!」」

シンクとエクレールはトルネイダーで走り出していった。


トルネイダーは砦から飛び出し、浮き岩を足場にして進んでいく。

シンク「ジャンプとラインディングの連続だ。僕は操縦に集中する!」

2人の前にキリサキゴボウの触手が出てきた。

エクレール「攻撃と防御は私がやる!は―――っ!」

エクレールが紋章砲の斬撃を放ち、触手を断ち切った。

シンク「流石親衛隊長!」
エクレール「やかましい・・・」

シンク「よし!」
(何てことは無い・・・これもいつものアスレッチックだ)
(走って、飛んで、最短距離で、ゴールに辿り着く!)


エクレール「はーーーっ!」
トルネイダーに狐の光弾が飛んできて、エクレールが防いでいく。

エクレール「わ、私が言うのも何だが、このスピードで怖くないのか!」
シンク「んなもん怖いに決まってんでしょ。正直言えば、すんげー怖い!」


次の浮き岩との間に、無数の岩が浮かんでいた。

シンク・エクレール「「!」」

シンク「エクレ!伏せ!」

エクレールは伏せて、シンクはコートで顔を覆って、岩を突き抜けた。
しかしコートは破れ、シンクの顔から血が流れていた。

エクレール「勇者・・・」
シンク「だけど少しくらい怖いのより・・・少しくらい痛いのより・・・期待に応えられない方がずっと辛い!僕を信じて、待ってくれてる誰かに・・・悲しい思いをさせる方が一億倍辛いんだ!!」
エクレール「・・・・・」

シンク「いっけ――――!」
エクレール「!」

エクレール「勇者!飛距離が足りん!」
シンク「足りる!届く!届かせる!!」
エクレール「私に任せろ。確実に届かせる」
シンク「任せろって・・・」
エクレール「は―――っ・・・」

エクレールがトルネイダーの後ろから降りた。
シンク「!」

エクレール「紋章砲で打ち上げる!上手く乗れ!姫様を・・・頼む!」

エクレールの紋章砲がトルネイダーに当たり、押し上げた。

シンク「エクレ―――っ!」
エクレール「すぐに追いかける!先に行け-!」

エクレールは地面へ落ちていった。

シンク「くっ・・・了解!」

シンク「ぬうううっ!」
トルネイダーは尻尾をかいくぐり、キリサキゴボウの背中に着地した。


シンク「っ!」

シンクはミルヒの閉じ込められた球体を見つけた。
シンク「あれか!」

シンクが腰から双剣を抜き、突っ込んでいく。

シンク(エクレが、さっさと行けって送り出してくれたんだ!)
「急いでるんだ!だから!どいてろ!」

シンクが紋章砲の斬撃を放ち、狐の光弾をなぎ払っていく。

しかし狐の光弾が集まり、光の刀となってシンクに向かって行った。


シンクは双剣で光の刀を受け止めるも、剣の片方を折られ、吹き飛ばされた。
シンク「うわっ!」

そこへ光の刀が矢となって飛んできた。

シンク「っ!」
シンクは身を翻してかわすも、腹を切られ血を吐いた。

そこへ狐の光弾が突っ込んできた。

シンク「うわあぁ!」

シンクが爆煙に覆われたが、そこから炎が吹き上がり、狐の光弾をなぎ払った。

シンクはパラディオンのディフェンダーを掲げ、立ち上がった。

シンク「はあっ・・・はあっ・・」


シンク(信じて待っててくれる人がいるのって、すっげー嬉しいし、幸せなんだ)

シンクが思い返したのは、かって、地球で参加したアイアン・アスレッチックの決勝戦だった。

シンク(あの日もそうだった。決勝の会場に来てくれて応援してくれた、父さん母さん)

レベッカがシンクに炎の模様のシャツを渡した。

シンク(一生懸命応援してくれた、大切な友達)

レベッカ「シンク-、頑張って―――!」

その想いを背負って決勝に挑んだシンクだったが―――勝ったのは、従姉妹の七海だった。

シンク(絶対勝てるよって、言ってくれた、優しいあの子の勇者に、あの日の僕は、なれなかったけど・・・)


シンク(今度は絶対!これからはもう絶対に!)
シンクが紋章を浮かばせ、突っ込んでいった。
シンク「気力!全開っ!」


母狐「もう数百年前も前の話です。大陸の殆どがまだ人の分け入らぬ地であった時代」

ミルヒと母狐の周りの景色が、森となった。

母狐「私と我が子は、山間で静かに暮らす土地神でした。ですが、あの日・・・」

子狐が蝶々を追って森の奥に進んだが、空に暗雲が立ちこめ、雷が森の奥に落ちた。

ミルヒ「あっ!」

母狐「落雷と共に降ってきた刀が我が子の身体を貫き通し―――」

母狐が子狐に顔をすり寄せるが、子狐の目は赤く染まっていてーーーー

母狐「あの子は、禍々しい魔物の姿へと変わってしまいました」

子狐の体が浮かび、キリサキゴボウとなった。
キリサキゴボウが母狐に襲いかかり――――
飛び散った血が木にかかった。

母狐「私はあの子に取り込まれ、あの子は魔物として山の生き物を食らい、大地を破壊していきました」


進むキリサキゴボウを、報道陣が見ていた。

母狐「200年余り前、人里に降りようとした所を聖剣の主の手によって封印されたのですが、封印が弱まったのが原因なのか、あなた様の聖剣の匂いに惹かれたのか、あの子は目覚めてしまいました」


シンクへの攻撃は止んでいたが、シンクは短剣と防具を失っていた。
シンク「はあっ・・・はあっ・・・おわっ!」

キリサキゴボウの咆吼が近くの街まで届いた。

母狐「我が子は最早、破壊の魔物です。ですが!魔物の姿に変わってからずっと、あの子は泣いているのです・・」

キリサキゴボウの目から、血の涙が流れた。


シンク「おわっ!どうしたんだ・・・」


子狐「痛いよ・・・苦しいよ・・・お願い、誰か、誰か・・・僕を死なせて・・僕を、殺して・・・」

ミルヒ「っ!」


シンクがミルヒの閉じ込められた球体を叩く。
シンク「姫様!姫様!姫様――!」


母狐「聖剣の姫君、あなたなら魔物と化した我が子を殺すことが出来るはずです」
ミルヒ「・・・・」
母狐「その聖剣で、この子の首を落としてください」
ミルヒ「!」
母狐「そうすれば、魂の尾が離れ、魔物の姿を保てなくなります」
ミルヒ「そんな・・・」

母狐が子狐に顔を寄せるも、すり抜けた。

母狐「私は・・この子に触れることが出来ないのです・・・これ以上、我が子を苦しめたくないのです・・・聖剣の姫君、どうか・・・」

ミルヒ「・・・・・お断りいたします」
母狐「っ?」
ミルヒ「ここでこの子を斬れば、魔物は消えるかもしれません。ですが、積み重ねられた悲しみは消えません・・・貴女もお子様も、長い時の中、どんなにか辛く、悲しい思いをされたことか・・・」

シンク「あっ!」
球体の中のエクセリードが輝きだした。

ミルヒ「ビスコッティの宝剣、エクセリードとパラディオンは魔を断つ剣です。
ですがそれ以上に!人と命を導き、大地に希望を育むための剣です。
貴方方も間違いなくフロニャルドに生きる命です!妖刀ごときに悲しい思いをさせられたまま終わるなんて・・そんなの、私が許しません!」

球体にヒビが入った。

ミルヒ「ビスコッティが領主、ミルヒオーレ・F・ビスコッティが!絶対絶対!許しません!!」


球体が割れ、液体と共に全裸のミルヒが投げ出され、シンクはミルヒを受け止めた。
シンク「姫様!姫様!」

ミルヒが目覚めた。
シンク「姫様」
ミルヒ「あ、シンク・・・」
シンク「はい!よかった・・・・あ・・・」

ミルヒは裸であることに気付いて、シンクと互いに飛び退いた。

シンク「すみませんすみません!」
ミルヒ「ごめんなさい!」

ミルヒ「あ、そ、そんなことより!シンク、私この魔物を助けてあげたいんです!」
シンク「た、助ける?」
ミルヒ「この子、元は普通の土地神様なんです!身体に刺さっている赤い妖刀を引き抜けばきっと、元に戻せるはずなんです!
シンク「分かった、姫様はここで」
ミルヒ「いいえ!私も行きます!」
シンク「えっ?えーと、その格好で・・・?」
ミルヒ「あ、えーと・・・」


エクセリードが浮かび、ミルヒの前に来て、強い光を放つと、
ミルヒの甲冑が再生し、エクセリードも長剣となっていた。
ミルヒ「エクセリード、これはあなたが・・・・」

シンクの指のパラディオンの指輪も輝きだした。
シンク「パラディオン?おわっ!」

シンクの傷が消え、防具も再生した。
そして、パラディオンが長剣に変化した。

ミルヒ「エクセリード、私達に頑張れって言ってくれてますか」
返答するように、エクセリードの柄が光った。

シンク「頑張るよ、だから少し力を貸して!」

シンクとミルヒは互いの剣を構えた。

ミルヒ「シンク!」
シンク「はい姫様!」

2人はキリサキゴボウの額に刺さった妖刀を見据える。

キリサキゴボウが吠える。
ミルヒがよろけるも、シンクが支えた。

2人と妖刀の間に無数の狐の光弾と触手、光の刀が出現した。

シンク「行くよ姫様!」
ミルヒ「はい!」

シンクの足から炎の光が吹き上がり、トルネイダーを出現させた。


シンク「目標地点まで!」
ミルヒ「一直線で!」

2人はトルネイダーで妖刀に突っ込んで行き、狐の光弾や触手をなぎ倒していったが、光の刀が壁となった。


シンク・ミルヒ「「ホーリー!セイバー!!」」

2人が放った光の斬撃は、狐の光弾と壁をなぎ倒した。

その2人がトルネイダーから飛び降り、妖刀を掴んだ。


シンク・ミルヒ「「っ!うううううっ!」」

キリサキゴボウが崖を滑り落ち、崖の中に落ちた。


2人の指輪が光り、鎖が切れだした。

シンク「姫様!ここからは僕が!」
ミルヒ「はい!」


シンク「この―――っ、おおおっ!」

シンクは妖刀を引き抜いた。

妖刀の先に刺さっていた土塊の中から子狐が出て来た。

ミルヒ「はっ!ふうーっ!」
ミルヒはフリスビーの要領で子狐を受け止めた。

ミルヒの腕の中で子狐が鳴いた。

2人は安堵したが、キリサキゴボウの体が土塊となって、ひび割れ出した。


シンク「土?こりゃやばい、姫様!」
ミルヒ「はいシンク!あっ!」

妖刀の刀身が生き物の様に蠢きだし、シンクの右腕に絡みついた。

ミルヒ「シンク!」
シンク「わっ!ああっ!」


その頃、砦ではルージュに支えられたレオが、弓状に変形したグランヴェールを構えていた。

レオ「魔人、閃光波ぁ!!」

グランヴェールから放たれた矢は、シンク達の元へ飛んでいく。


シンク「かあっ、あああっ!」

矢が妖刀の束を砕き、妖刀は落ちていった。

ミルヒ「シンク!大丈夫ですか!」
シンク「平気・・・今の矢ってやっぱり」
ミルヒ「はい、間違いなくレオ様です」

キリサキゴボウの体が割れだした。

シンクは服の前をはだけた。

シンク「姫様、その子をここに」
ミルヒ「あ、はい」

子狐がシンクの服の中にしまわれた。

シンク「さあ、勇者超特急で脱出しますよ!」
ミルヒ「はい!」



(続く)

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最終更新:2021年07月05日 08:53