ゲゲゲの鬼太郎 地獄編の第1話


古代より
天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を岩より抜き去る者
地獄界・地上界・天上界の三界を支配できる」
と言い伝えられている


鬼太郎(きたろう)の宿敵の妖怪ぬらりひょんと、その子分・朱の盤が、地底の岩盤の裂け目を進む。

朱の盤「本当にこの割れ目、地獄の奥の院にまで繋がってるんですか?」
ぬらりひょん「間違いない。今年の大島大噴火で出来たのだ」
朱の盤「でも、閻魔様に見つかったら、おしおきされないかなぁ……」
ぬらりひょん「黙らっしゃい!」

風が2人の顔を撫でる。

ぬらりひょん「風……!」

間もなく、2人が出口に辿り着く。

巨大な扉をくぐると、目の前の岩盤に剣が突き立っている。

ぬらりひょん「フハハハハ!」

剣に手をかけ、抜きに掛かるぬらりひょん。

ぬらりひょん「くッ! ふぅ、ふぅ、抜けぬ…… 歳かな」
朱の盤「ぬらりひょん様ぁ!」

2人の背後に、巨大な鬼たちが迫っている。

鬼たち「神聖な奥の院に入り込みやがって」「あんまり美味そうじゃねぇが……」
ぬらりひょん「わぁ~! 骨と皮ばっかだから、やめて~」

突如、大地が揺れ始める。

ぬらりひょん「また噴火か?」

振動で剣が岩盤から抜け、地面に落ちる。
ぬらりひょんがそれを手にすると、剣が光を放ち始める。鬼たちがたちまち、地面にひれ伏す。

ぬらりひょん「我れ今、叢雲剣を得たり。ここに地獄界・地上界・天上界の三界を支配する王とならん!」



母を求めて地獄旅



ねずみ男「これこそ、この辺り一帯で栄えていた、ねずみ男一族の土器であります」

林の中でねずみ男が、ビデオカメラを手にする夢子に、講釈を演じている。
だが土器と称するのは、どう見ても便器。

夢子「ねずみ男さん! もう、せっかく学校の教材にしようと思ったのに、遺跡っていうの、ウソだったの?」
ねずみ男「え? い、いや、古道具屋で見つけたこの古文書には、確かに……」

古文書と称しているのは、安物そうな古本。

夢子「ニセ物っぽぉい……」
ねずみ男「そんなバカなぁ! あ? いやいや、380円もしたもんで…… おいシーサー! 何か出て来ないか!?」

シーサーがあちこちの地面を掘って大穴をあけているが、出てくるものはゴミばかり。

ねずみ男「ふざけんなぁ!」
シーサー「ふぅ、いくら掘ってもムダですよ、ねずみ男さん」

枕のような石の塊を抱え、シーサーが顔を出す。

ねずみ男「お? シーサー、そ、それは?」
シーサー「あぁ、ただの石ですよ。僕の枕にしようかなぁって」
ねずみ男「バカものぉ!」
シーサー「え?」

再び、ねずみ男が古文書を手にする。

ねずみ男「えーっと、えーっと…… ん? これこそ我が祖先より伝わる、枕石に違いない!」


みすぼらしいワラぶきの、ねずみ男の自宅。

ねずみ男「夢子ちゃんも騙されたと思ってさぁ、ね? あの白雪姫も眠り姫も愛用したという、ねずみ男一族伝来の安眠枕石!」
夢子「しょうがないわねぇ……」

夢子がその石を枕にし、横になる。

ねずみ男「へへ、どう?」
夢子「そうねぇ、ん──、何だかとってもいい気持ち。よく眠れそう……」
ねずみ男「ね、ね、ね? いやぁ、さすが先祖伝来の枕石」
シーサー「ねねねね、ねずみ男さぁん!?」
ねずみ男「何だよぉ…… わぁ!?」

夢子の体が次第に、消えてゆく。

ねずみ男「わぁ、夢子ちゃあん!?」

完全に消えてしまう夢子。
夢子を救おうとしたねずみ男の手が空を切り、石にしたたかに頭をぶつけ、目を回す。
石に頭を預ける格好になったねずみ男もまた、消えてしまう。

シーサー「わぁ、ねずみ男さぁん!?」


鬼太郎の家。シーサーがあの石を運んで来ている。

鬼太郎「何だってぇ? この石に、夢子ちゃんとねずみ男が?」
シーサー「そうなんですよぉ」
鬼太郎「父さん、これは一体?」
目玉親父「ふぅむ、さすがのわしも見当がつかん…… 砂かけ、子泣きは?」
砂かけばばあ「……わしにもわからんことはある」
子泣きじじい「うむ……」

そこへゲゲゲの森の長老、妖怪・油すましが現れる。

油すまし「地獄じゃ。地獄の匂いがする」
目玉親父「何じゃ、油すましじゃないか。どうしたんじゃ?」
油すまし「これだ。この石から地獄の風が吹いてきておる。これは地獄と地上を繋ぐ地獄石」
鬼太郎「じゃあ、この石を枕にしたら?」
油すまし「恐らく地獄に…… しかし地獄と言っても広い。どこへ行ったかは、この石を使ってみないことには……」
目玉親父「うむ、ねずみ男はともかく、夢子ちゃんは地獄から帰れなくなるかもしれんぞ」

鬼太郎は意を決し、自ら地獄石に頭を預ける。

目玉親父「な、何をするんじゃ、鬼太郎!?」
一同「やめろ、鬼太郎!」「やめるんじゃ!」
鬼太郎「行かせて下さい! 妖怪の名誉にかけて、夢子ちゃんを犠牲にはできない!」

一同が鬼太郎を地獄石から離そうとするが、鬼太郎は地獄石にしがみつく。やがて、鬼太郎の姿が消える。

目玉親父「き、鬼太郎!?」


鬼太郎は不思議な空間を漂い、やがてどこかへと辿り着く。
そこは、岩だらけの荒涼とした大地。空は厚い雲に閉ざされ、聞こえてくるものは風の音のみ。

鬼太郎「夢子ちゃ──ん! ねずみ男──!」

突如、地面を突き破って数人の男たちが現れる。皆、ねずみ男と同じような服。顔立ちもどこか似ている。

鬼太郎「お前たち、ねずみ男と関係ある者か!?」

彼らは無言で無表情のまま、鬼太郎に手を伸ばしてくる。

鬼太郎「待て、聞きたいことがあるんだ!」

一同が一斉に、口臭を鬼太郎に吐きかける。

鬼太郎「うぐっ、ねずみ男と同じクサさだ! ゴホ、ゴホッ……」

「者ども、やめぃ!」

一同がその声に、たちまちひざまずく。
見ると、4人の男の担ぐ畳の上に、やかんを冠のようにかぶったねずみ男が座している。

鬼太郎「ね、ねずみ男? どうしたんだ、その……」
ねずみ男「呼び捨てはやめてもらいたいな、鬼太郎! 俺様はねずみ男王国の王様、ペケペケだぞ」
鬼太郎「えっ…… ?」


ワラぶきの家々が立ち並ぶ村。その中心の大きな家に鬼太郎が招かれる。夢子もいる。

ねずみ男「この世と地獄の真ん中に位置するこの村こそ、ねずみ男一族の幻のルーツなのだ。そして俺様は、300年前に行方不明になったこの国の王子、ペケペケというわけだ」
鬼太郎「しかし、信じられない話だなぁ」
夢子「私も最初は信じられなかったけど、どうも本当らしいわ」
鬼太郎「ねずみ男が王様なら、スカンクは大王様になれるよ。きっとこれは、誰かに騙されてるんだ」

家にいた1人の老女が、いきなり鬼太郎を殴りつける。

老女「お前、ペケペケ様に何てこと言うんだ!」
ねずみ男「あぁ母ちゃん、やめてくれ! そいつ、地上から来た愚かな妖怪だから、ここの事情がわかってないんだよ」
老女「ペケペケがそう言うんなら……」
鬼太郎「ねずみ男のお母さん?」

母だという老女の膝枕に、ねずみ男が頭を乗せて横になる。

ねずみ男「へへへ、よっこしょっと。いやぁ、俺だって最初は、何かの罠かなと信じられなかったよ。こんな幸せ。なんせ、不幸が身に染みてっからさぁ。でもなぁ、鬼太郎…… あぁ母ちゃん、一発頼むわ」
老女「あぁ。♪ねーんねーん、ねーんこーろ、ねーずみはどこにいる……」
ねずみ男「この歌を聴いたとき、間違いないって思ったんだ。俺の耳の奥に残っていたこの子守唄……」

幼い自分を背負う母を思い浮かべ、ねずみ男の目が次第に涙にまみれる。

ねずみ男「うぅっ、母ちゃあん! うぅっ……」

夢子も、もらい泣きの涙を拭う。

鬼太郎「……良かったな、ねずみ男」


家の外。夕焼け色の地平線を見つめる鬼太郎。

鬼太郎「母さん…… 母さんは今、どこにいるの?」

そっと隣りに並ぶ夢子。慌てて鬼太郎が涙を拭う。

夢子「鬼太郎さん……」
鬼太郎「……地獄に夕陽って、珍しいなって」
夢子「あれは、地獄の炎が、空に映ってるんですって」
鬼太郎「ごめんね、夢子ちゃん。ここまで追いかけてきたものの、どうやったら地上に帰れるのか、手がかりがなくて……」
夢子「うぅん。鬼太郎さんと一緒なら、いつかきっと地上に帰れる。そんな気がするの……」
鬼太郎「む、殺気!?」

後ろを振り向く鬼太郎。

鬼太郎「なんだ、ねずみ男のお母さん」
老女「鬼太郎さんとやら。うぬはお母さんを捜しておられるのかな?」
鬼太郎「え? なぜそれを?」
老女「ここからあの空に向かい、半日ばかり歩いたところに、もう一つ村がある。そこに、妖怪と結婚した罪で地獄に送り込まれた、可哀想な母親がいるという……」
鬼太郎「え?」
老女「その子供の名前は…… 鬼の太郎と書いて、鬼太郎というとか」
鬼太郎「……!」
夢子「鬼太郎さぁん! ねぇ、行ってみましょう!」
鬼太郎「でも、まず夢子ちゃんを地獄から出してあげないと……」
夢子「何言ってるの? こんなチャンス、もう二度とないかもよ? それに…… 鬼太郎さんは、今まで色んな人の幸せのために働いてきたわ。だから、一度くらい自分の幸せを考えてもいいと思うの」

いつしか夢子の目には、涙が滲んでいる。

夢子「鬼太郎さんは、いつもどこか寂しそうだった…… 鬼太郎さんの、心から笑う姿を見てみたいの」
鬼太郎「……ありがとう、夢子ちゃん」
夢子「うん!」
老女「さぁ、行って来なされ。ペケペケには、わしから言っときますで」
鬼太郎「はい!」


鬼太郎と夢子が、険しい岩場の道を行く。どこからか女性の悲鳴が響く。

夢子「き、鬼太郎さん! あれは?」

ローブを被った妙な男が歩いて来る。

鬼太郎「すいません、あの叫び声は何なんでしょうか?」
謎の男「遠くで女が永遠の罰を受けておるのじゃ」
夢子「その人が鬼太郎さんの!?」
鬼太郎「行ってみよう!」
夢子「うん!」


一方、ねずみ男は酒で酔って、眠りこけている。

ねずみ男「ん? 母ちゃん……」

隣りの部屋から母の声がする。

老女「我らが崇めまする地獄界の王様……」

ねずみ男が部屋を覗くと、母は部屋の隅で、鏡に向かって何者かに話しかけている。

老女「鬼太郎は計画通り、我ら首狩り3人衆の手に落ちましてござりまする」
謎の声「鬼太郎の弱点は母を想う気持ち。首尾良くやれよ、さそり女」
老女「はい、仰せのままに」
謎の声「まず、そこのねずみを1匹始末しろ!」

老女がねずみ男の方を振り向く。

老女「見たなぁ!」
ねずみ男「じょ、冗談だろ? 母ちゃん……」

老女がみるみる、妖怪・さそり女へと姿へと変え、毒液を放つ。

ねずみ男「ひぇ~! み、皆の者、出会え、出会えぃ!」
さそり女「まだわからんのか、ねずみ男? ヘッヘッヘッヘ…… みな、ねずみ男一族に化けた地獄の亡者たちよ!」

正体を現した亡者たちが、次々に現れる。

ねずみ男「そ、それじゃあ母ちゃんを……」
さそり女「♪ねーんねーん、ねーんころ、ねーずみーはどこにいるー♪ あーの山こーの山」
ねずみ男「ぜ、全部ウソだったってわけかぁ!」
さそり女「やっとわかったの? バカなヤツ。すべては鬼太郎をおびき出すための作り事よ。役目が終わった今、母親の夢でも見て眠るのね。永遠に!」
ねずみ男「ちっ、畜生ぉっっ!!」

さそり女が再び毒液を撃ち出すが、地面を突き破ってぬりかべが現れ、盾となる。

ぬりかべ「ぬりかべぇ──っ!」
さそり女「お、お前は!?」

仲間の妖怪たちが次々に駆けつける。

砂かけばばあ「砂かけマシンガンを受けてみぃ!」
子泣きじじい「とどめは漬物石殺法じゃ!」

さそり女目がけ、砂かけばばあと子泣きじじいの連続攻撃。さらにシーサーと猫娘が加勢し、亡者たちを蹴散らす。

目玉親父「おい、鬼太郎と夢子ちゃんはどこじゃ!?」
さそり女「ヘッヘヘ。今頃は2人とも、首と胴体がバラバラになっている頃さ」
目玉親父「何ぃ!? そ、それはどういうことじゃ!?」
さそり女「ヘヘ…… 鬼太郎は母を捜しに行った」
目玉親父「な、何じゃとぉ!?」
さそり女「頭の中は、母への想いで一杯さ。そこが我らの狙い目……」
目玉親父「うぅっ、わしの手前、表には出さなかったのだろうが、やはり心のどこかに母を慕う気持ちが…… とほほ、不憫な鬼太郎、可哀想な息子よ」


一方、鬼太郎の目指す先。岩山に女性が縛り付けられ、怪物たちに襲われている。

夢子「鬼太郎さん、あそこに!」
鬼太郎「うん、夢子ちゃんはここにいて」
夢子「はい!」

鬼太郎が岩山に駆け上り、怪物たちを蹴散らし、女性の縛めを解く。

女性「どうも、ありがとうございました。……はっ!?」
鬼太郎「僕の顔に、見覚えがあるのでは?」
女性「いえ、そんなことは……」
鬼太郎「僕は、鬼の太郎と書いて鬼太郎といいます!」
女性「はっ……!」
鬼太郎「あなたは、ひょっとして、僕の……」
夢子「鬼太郎さぁん!」

夢子があのローブの男に捕らえられている。

鬼太郎「あぁっ!? お前は!」
謎の男「首狩り三人衆の1人、クモ男!」

男がローブを脱ぐと、その名の通りクモのような不気味な顔が現れる。

鬼太郎「何ぃ!」
クモ男「フフフ、感動の親子の対面の間に、この子は頂いたよ」
夢子「きゃあっ!」

突然、あの女性が鬼太郎の足を押さえる。

鬼太郎「あぁっ!? ど、どうして!?」
女性「ごめんなさい……」

クモ男が口から糸を吐き、鬼太郎ががんじがらめになる。

鬼太郎「どうしてなんですか? あなたは僕の母さんじゃないんですか!?」


縛られた鬼太郎と夢子が、処刑場へ運ばれる。

クモ男「頭領、鬼太郎と夢子は捕らえましたでございます」

巨大な刀を携え、三人衆の頭領、ミミズ男が現れる。

ミミズ男「でかしたぞ。よし、2人を早速処刑してやる」
女性「頭領、それじゃ約束が違います! 2人は、捕まえるだけだって……」
ミミズ男「うるさい!」
女性「でも……」
ミミズ男「お前は我々の言う通りにしておれば地上界に、お前の赤ん坊の待つ世界に戻れるのだぞ」
鬼太郎「えっ!?」
女性「鬼太郎さん、夢子さん、ごめんなさい…… 私は赤ん坊を残して死に掛けている母親なんです。言いなりになれば、もう一度地上に戻れると聞いて…… 本当に、ごめんなさい……」
鬼太郎「そうだったんですか…… 我が子を想う純粋な母親の愛を利用するなんて、許せない!」
ミミズ男「どう、許せぬと言うのだ? すぐに首と胴体の離れるお前に」
鬼太郎「うっ、くッ!」

鬼太郎が糸を解こうと力を込めるが、どうしても糸は切れない。

ミミズ男「フフフ……」
目玉親父「待て──ぃ! 鬼太郎に手を出すなぁ!」

仲間の妖怪たちが駆けつける。

ねずみ男「おい、その女の子を自由にしろぉ!」
ミミズ男「お、お前は!? さそり女が殺したはずのねずみ男!?」
ねずみ男「へっ、さそり女なんて片手でチョイ!」
猫娘「……」
ねずみ男「夢子ちゃん、今助けてあげるからね!」
ミミズ男「くそぉ! 首狩り三人衆を怒らせるとどうなるか、見せてやる! 首どもぉ!」

次々に生首が宙を舞って来る。真っ青になるねずみ男。

猫娘「片手で倒せよ、ねずみ男!」
ねずみ男「あぁ~痛い! 頭が、腹が! 痛痛痛!」
猫娘「バーカ!」

どこかからか、ぬらりひょんが様子を監視している。

ぬらりひょん「ミミズ男、今の内に鬼太郎を始末するのだ!」
ミミズ男「ははぁ!」

生首たちが襲いかかる。

目玉親父「みんな、頼むぞ!」
一同「おぅ!」

ミミズ男「さらばだ、鬼太郎!」
鬼太郎「あぁっ……!」
夢子「鬼太郎さぁん!」
目玉親父「鬼太郎!」

ミミズ男の刀が振り下ろされる──!



無情にも振り下ろされた首狩り刀。
果たして、鬼太郎の運命は?
ぬらりひょんは本当に、
三界を支配する王となるのか?



(続く)

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最終更新:2015年05月24日 06:48