対訳
あらすじ
- 時は1814年 ナポレオン敗退後のヨーロッパの列強が集まった「会議は踊る されど進まず」が舞台です。幕が上がると、ツェドラウ伯爵の従僕ヨーゼフが伯爵の別荘に息せき切って駆け込んで来ます。外交上の一大事に何が何でも伯爵を見つけ出さねばならないのですが、肝心の伯爵は仕事そっちのけで女遊びにどこかをほっつき歩いているのです。
訳者より
- このオペラ対訳プロジェクトのデビューが2012年、ヨハン・シュトラウスの「こうもり」でした。ドイツ語のオペレッタはその後もいくつか取り上げてその言葉遊びの妙味の翻訳を楽しんで来たのですが、このヨハン・シュトラウス最後のオペレッタ、手をつけてはみたもののどうも勝手が違い、今まで10年近く訳しかけで放置しておりました。といいますのもテンプレに語りの部分の台詞が全くなく、またいくつか耳にしたこの曲の録音が全部が全部構成や、下手をすると歌詞もお互いに違っているという状態、また歌詞はとてもよくできているのですがどうも日本語にするとしっくりこない、このオペラの翻訳を手掛けた先達たちも、直訳は諦めて意訳で歌の雰囲気だけ伝える作戦に出ています。だいたいタイトルからして「ウィーンの血」→「ウィーン気質」と邦訳でしているのは大変な工夫の跡が感じられるのでは。そんな大変な難関をこれまでの対訳の経験で乗り越えてみようかと、ヨハン・シュトラウス生誕200年の2025年を機に改めて訳を試みてみました。できばえはまあご覧の通りです。
- このオペレッタ、シュトラウス最後の作品と書きましたが実はシュトラウス自身の手は入っておらず、1899年カール劇場の支配人のアイデアで、これまでシュトラウスが書き溜めた400曲を超えるワルツやポルカから選び出して歌詞をあとから当てはめ、ひとつのオペレッタとするというものでした。歌詞はヴィクトール・レオンとレオ・シュタインが、そして曲は劇場の指揮者アドルフ・ミュラー(1839-1901)が手がけました。シュトラウス自身はこの1899年6月に亡くなってしまい、この曲の完成を目にすることはありませんでした。
- シュトラウスが手掛けた正統派の作品というわけではないこともあり、録音ごとにカットされる場所がまちまちであり、また観客受けを狙ってこのオペレッタで取り上げられなかったシュトラウスの超有名曲を取り上げて歌詞をつけるなどいろいろいじられてしまっているのでなかなか全体像が見えてこない作品でもありあす。まああんまり難しいことは考えず、シュトラウスの美しい音楽に浸れればいいのでしょう。けっこう耳に覚えがあるようなメロディが続くような気がしていたのですが、調べてみるとマルコポーロのシュトラウス管弦楽曲全集でしか聴けないような曲が目白押しでした。このオペレッタを聴くまでに耳に馴染んでいたのは10曲にも満たないかも知れません。ご参考までに粗筋の方でシュトラウスの原曲を、ドイツ語のWikiや1982年のウィーンフォルクスオパー来日公演プログラムを参照して分かった範囲で記載しておきました。あなたはこれらのシュトラウスの曲 いくつご存知でしたでしょうか?
録音について
- 超人気の「こうもり」に比べると耳にできる録音は圧倒的に少なくなります。1954年のシュワルツコップ/ゲッダ/アッカーマン盤が一番耳にしやすいでしょうか。主役二人はカラヤン旧盤の「こうもり」でも見事なコンビネーションを聴かせてくれましたがここでもその魅力は全開です。同じくカラヤンの「こうもり」で名脇役としていい味を出してくれたエーリッヒ・クンツ(ヨーゼフ)、カール・デンヒ(首相)も素敵な演技。エリカ・ケート(フランツィ)、エミー・ローゼ(ぺピ)と他の女声も万全でカラヤンの「こうもり」がお好きな方はきっと気に入られる演奏でしょう。ただCD1枚に収めるためにかなりのカットがあるのが残念です。
- 1965年のギューデン/ショック/シュトルツ盤は1960年代のドイツオペレッタの名歌手を揃えて圧巻です。正統派のドイツ語オペレッタの雰囲気満載で、聴いていて楽しいことでは圧倒的にこの録音でしょう。こちらでは首相はベンノ・クッシェ、ヨーゼフはフェリー・グルーバーとやはりオペレッタ名脇役、女声残り二人もマルギット・シュラム(フランツィ)、ヴィルマ・リップ(ぺピ)ととても豪華です。少なくともギューデンの至芸が聴けるだけでもこれは耳にする価値はあるでしょう。
- もうひとつ、特筆すべき録音はローテンベルガー/ゲッダ/ボスコフスキー盤(1976)残念ながら動画対訳には使えないですが、ここで対訳に取り上げられたすべてのテキストが音になっていて、この録音のおかげでようやく私はこのオペレッタの全貌を捉えることができました。1970年代のオペレッタ名歌手ローテンベルガーにレナーテ・ホルム(フランツィ)とがブリエーレ・フックス(ぺピ)と女性陣も万全、ここで興味深いのはヨーゼフに名脇役ハインツ・ツェドニックをあてていることです。またゲッダもアッカーマン盤から20年以上の年を経ていろんな人生経験を積んだからでしょうか、ものすごく説得力ある役作りをしていてアッカーマン盤と聴き比べると非常に面白いです。正統派がないと書きましたが、この録音がある意味正当なこのオペレッタのあり方を伝えていると言っても良いのではないかと思います。シュワルツコップと組んだ若いゲッダがどこか別世界のおとぎ話を演じていたとすれば、ローテンベルガーとの丁々発止のやり取りをしているゲッダはお昼のメロドラマの主人公ではないかと。どちらもこのオペレッタの真実の側面を伝えてくれていると思えます。
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最終更新:2025年01月03日 01:15