「…………やってくれたわね、ヴァイスマン」
サリヤ・"キルショット"・レストマンは、中庭の中心から五角形に切り抜かれた空を仰ぎ見た。
その双眸に宿るのは怒りでも、焦燥でもない。冷ややかに澱んだ、諦念の色だった。
ブラックペンタゴンに仕組まれた罠。
さきほどの定時放送が告げたのは、この施設を丸ごと禁止エリアに指定するという封鎖処理だった。
それは、ブラックペンタゴン全体を死の領域へと変える宣告である。
今この場に集う者たちは、まさしくその死の中心に取り残されたのだ。
残された猶予は六時間。
それまでにブラックペンタゴンを脱出できなければ、全員の首輪は爆発し、確実に死が訪れる。
逃げるか死ぬか――もはやその選択肢しか残されていない。
本来ならば、すぐにでも動き出さねばならない状況である。
だが、この場に留まる誰一人として、この中庭から足を踏み出せずにいた。
つい先ほどまで、ここは地獄だった。
システムBと接続され世界の法則が書き換えられる。
銀の魔神が出現し、中庭は阿鼻叫喚の戦場と変わった。
銀鈴と名乗ったその怪物は、集まった全戦力をまるで遊戯のように蹂躙した。
ローマン、エルビス、征十郎、ギャル、ディビット……この場に集った猛者たち全てが届かず、一撃で沈んだ。
その魔神を倒すため、囚人たちは決死の覚悟で死力を尽くした。
エンダ・Y・カクレヤマのシステムBへの干渉と言う切り札を切り。
エネリット・サンス・ハルトナは六つの超力を束ね、命を懸けて戦った。
最後に、ジェイ・ハリックの刃が怪物の脳天を貫いて――ようやく、銀の魔神は倒れた……はずだった。
けれど、魔神の骸から現れたのは、さらなる災厄だった。
『我喰い』を操る真の主人格。
サリヤ・"キルショット"・レストマンが、ついに顕れたのだ。
「悪いけど、全員――そのまま動かないでくれるかしら?」
サリヤは軽く指を伸ばし、両手で指鉄砲の形を作ってみせる。
声音は静かで優雅。けれど、そこに孕むのは致死の威圧だった。
「特に……ジェイ・ハリック。あなたは、常に私の視界にいてもらうわ」
ピリ、と音を立てて空気が張り詰める。
その視線は銀鈴を仕留めた暗殺者へと突き刺さっていた。
彼女は、その危険性を正しく理解していた。
「言われなくても……動けねぇよ」
ジェイは舌打ちしながら、脇腹を抑えたまま低く唸った。
その姿はただの負傷者に見えたが、実際は透明の刃を生み出し、再びの一撃を狙っていた。
油断を誘っての暗殺。その狙いを見透かされた以上、予知するまでもなく避けられる未来が見える。
ジェイを視界の端に収めつつ、サリヤの左右の指先が、それぞれ別の標的へと向けられる。
一方は接近してきた只野仁成に。もう一方は距離を取っていたエンダ・Y・カクレヤマに。
「お二人も、こちらの用が済むまでは大人しくしていて頂戴? そうすれば、私から手を出すことはないわ」
その提案は表面上は穏やかなお願いだったが、本質は紛れもない脅迫だった。
銃口を突きつけられ足を止めた只野が静かに相手を睨む。
「どうだか……あんたの力が死者を取り込むものだってんなら、安心なんて、できる話じゃない」
只野の最大の懸念。
ネオシアン・ボクスのチャンピオン。超級の闘士、エルビス・エルブランデス。
先ほどサリヤは毒花を操った。彼がその中に取り込まれているというのなら、出る可能性もあるという事だ。
幾度も拳を交えた只野はその強さも、恩赦に対する執着も嫌と言う程に理解している。
全員が疲弊しているこの状況で、再び奴が現れれば、本当に皆殺しにされかねない。
「安心なさい。主人格(Chamber1)以外の弾倉は凍結されている。彼が直接出る事はないわ、少なくとも今はね」
嘗て主人格の席についていた銀鈴によって弾倉は凍結されている。
表に出られるのは第一席のみ。その席にサリヤが座っている以上、少なくともこの場でエルビスが出る事はない。
それはこの状況で少ない朗報だった。
「ただ、勘違いしないでちょうだいね?」
突きつける指鉄砲の照準はぶれることなく、彼女の口元だけがわずかに笑む。
「――私ひとりで、ここにいる全員を殺すことくらい造作もない。だから、逆らわないことをお勧めするわ」
まるで銀の悪夢のように中庭を吹き抜けた怪物の爪痕。
その後継者の言葉は誰の心にも、深い楔となって突き刺さった。
「随分と慎重なんだね」
少し離れた位置で立ち尽くしてたエンダが踏み込むように声を発した。
「あの魔神みたいに無差別に攻撃するつもりがないなら、こちらがあなたに敵意を向ける理由はない。今は足止めされる余裕も、わたしにはないんだけどね」
言葉は冷静だったが、声の底にはわずかな苛立ちと焦りが滲んでいた。
放送が告げた六時間の猶予。それまでにここを出なければ『死』が待つ。
こんなところで足止めされている場合ではないのだ。
「ええ、ごもっとも。銀鈴様が退場した今となっては、私には無意味な生贄(サクリファイス)を望む理由がない」
サリヤはあっさりと応じた。
あの怪物を飼いならすために必要な贄を捧げる事に躊躇いはない。
だが、それに従うだけの意味は、すでに失われている。
「なら、この行為に意味はあるとでも?」
「そうね。ヴァイスマンのお陰で随分と状況が変わってしまったから。
あなたたちをどう扱うかは……これからのお話次第、かしらね?」
その言葉に、空気が一層冷え込む。
冗談めいた口調とは裏腹に、彼女の瞳に宿る光は一点の揺らぎもない。
そしてそのサリヤの視線が、傍らに立つ一人の少女へと向けられた。
「ねぇ? メリリン」
その呼びかけは、中庭に張り詰めていた空気を一変させた。
「……サリヤ」
メリリン・“メカーニカ”・ミリアン。
かつての親友だった者が、その名を呼ぶ。
目を逸らすことなく、真っ直ぐに。
応じた声はかすかに震えていた。
けれど、それは怯えによるものではない。
燃えさかる炎を噛み殺すような怒りによるものだった。
「……どうして、死を偽ってまで私の前から消えたの? 本当は、あなた……何をしようとしてるの?」
それは、爆発寸前の感情を、ぎりぎりで押し殺した声だった。
メリリンの問いは痛々しいほどに切実だった。
けれど、サリヤはその問いを正面から受け止めることができなかった。
「それは答えられない。今ここでは、まだ」
声は静かで、中庭によく通る。
そこに迷いなど一切なかった。
だが、迷いがなさは時に、冷たく響く冷酷さに等しい。
「でも、私の目的のために――あなたの力が必要なの。メリリン」
告げられたのは、勧誘だった。
目的を明かさぬまま、協力を求めるという、矛盾に満ちた誘い。
メリリンが握った拳を振るわせる。
「……自分の目的は伏せたまま、私には手を貸せってこと?」
「ええ。だって私たち、いつもそうだったじゃない?」
懐かしさを滲ませた声だった。
『メルシニカ』に誘ったあの夜をなぞるように。
理由を告げず、サリヤは手を引いた。
メリリンもまた、理由を聞かずについていった。
言葉がなくても、心が通じていた。
――そう、信じていた。
「あなたなら、きっと分かるはず。思い出して、私たちの時間を」
サリヤの視線が、ふと遠くを見た。
二人が最後に向かい合った、あの静かな酒場。
グラスの中の赤ワインが揺れて、彼女が呟いた言葉。
『本当の悪って、何か分かる?』
あの時の目、あの時の沈黙。
それら全てが、蘇る。
サリヤにとっても、いまは岐路だった。
あの魔神、銀鈴が敗れるなど、彼女にとっても想定外。
このタイミングで『我喰い』の主人格として姿を暴かれるのは、予定外のアクシデントに他ならない。
看守長の監視の目と耳は常にどこかにある。
その監視を欺くために、綿密に張り巡らせた策だった。
皮肉にもこの場にいる土地神が偶然をもって行った偽装工作を意図をもって実行したのが彼女だ。
だから、口には出せない。
言葉ひとつで、すべてが水泡に帰す。
それでも、過去なら差し出せる。あの日々だけは。
「そうね。私も、あなたが何も言わないのは、言えない理由があるんだろうって……思ってた」
メリリンがわずかにうなだれた。
今はもう、それが正しい事かわからない。
あの信念の危うさも、彼女は最初から理解していた。
『メルシニカ』の活動だって、多くの不幸を生み出したことを今のメリリンは知っている。
それでも、あのときだけは確かに――居場所だと思えた。
だから、縋った。
だから、信じた。
けれど、それは――もう過去の話だ。
「でも、その言葉は……ジェーンを撃つ前に言うべきだったわ」
その一言は、短くて、静かで、決定的だった。
過去に続く一筋の線が、そこで断ち切られた。
「……そうね。後悔しているわ」
サリヤが目を伏せる。
一瞬だけ、瞳の奥に後悔にも似たわずかな揺らぎが浮かんだ。
「こんな展開になるのなら、もう少し慎重に動いたのに……」
だが、その後悔はジェーンを殺してしまった事とは違った。
ヴァイスマンの罠によって陥った状況にたいする後悔。
自らの立ち回りと巡りあわせの悪さを嘆くものだった。
「それでも……私の『目的』にはあなたの力がどうしても必要なの」
サリヤが、静かに片手を上げた。
指鉄砲の構え――その先端は、誰でもない。
ただ一人、メリリンに向けられていた。
親友(メリリン)の答えなど最初から分かっていた。
それでも手を差し伸べたのは、過去の名残か、それとも最後の試みか。
だが、サリヤの手は止まらない。
止まれる段階など、とっくに通り過ぎている。
メリリンもまた、一歩も退かない。
真っ直ぐにその照準を見据え、その視線を真正面から受け止める。
その瞳には、かつての友情と、いまの怒りとが複雑に交差していた。
「まだ、弾倉には一つ空きがあるわ」
「やってみなよ。やれるもんなら………!!」
火花が散るような、視線の衝突。
言葉の応酬ではなく、感情がぶつかる。
かつての親友は、今――敵として対峙していた。
張り詰めた空気が場を凍りつかせる。
その場にいた誰もが理解していた。
この引き金が引かれた瞬間――再び、この中庭は地獄へと変わる。
その場にいる全員が身構え、火花が散る瞬間を待っていた所で。
「――――そこまでにしておけ」
冷たい声が、空気を裂いた。
その静寂を断ち切って、前に出たのは一人の伊達男。
囚人服を着こなし、破壊された植え込みを無造作に跨いでくる。
それは裏社会にその名を轟かせる顔役。
イタリア最大のカモッラ、バレッジファミリーの金庫番。
ディビット・マルティーニだった。
■
数分前。
ディビット・マルティーニは、ゆっくりと意識を取り戻した。
脳裏に残っていたのは、銀鈴の念動によってねじ曲げられた砲弾の残像。
そして、その一撃に意識を刈り取られた、鈍い衝撃の余韻だった。
周囲には、まだ気を失ったままの囚人たちが転がっていた。
その中で彼が最初に目覚めたのは、比較的被害が軽微だったからだろう。
荒い息をつきながら、胸元に手をやる。鈍い痛みが胸骨に残っていた。
だが、骨折はなさそうだ。内出血も致命的ではない。
皮膚にはいくらか火傷はあるが大したモノではなさそうだ。
あの怪物を前にして生き残った。
それだけでも十分な成果だろう。
あの魔神は――倒れたのか。
辺りには、崩れた地面と砕けた壁、焦げた空気の匂いだけが残っていた。
破壊の気配はあっても、怪物の気配は、もうどこにもない。
ディビットは、腕につけたデジタルウォッチに目を落とした。
液晶に表示された時刻は、正午を過ぎている。
「……チッ」
舌打ちが自然と漏れる。
定時放送を聞き逃した。
これは、大きな失点だ。
この監獄では、情報こそが生存の鍵だ。
ましてや、全体の折り返しを迎えるこのタイミング。
ルール変更や突発的な処理があっても、まったく不思議ではない。
取りこぼした情報が、生死を分ける。
そんな焦燥が胸をよぎったその時だった。
「よう、大将。お目覚めかよ」
足元から声が響いた。
ディビットが顔を向けると、そこには四肢を失ったジョニー・ハイドアウトが、無様に地面に転がっていた。
「……いい姿じゃないか、便利屋」
「どうだい? 持ち運びがしやすくなっただろう?」
ディビットが皮肉を投げると、ジョニーは首だけをわずかに傾け、乾いた笑みを返した。
「手足がねぇと、冗談のキレも悪くなるな……悪いが、大将、そこらの鉄屑、ちょいと集めてくれねぇか?」
ジョニーの身体は、金属を吸収することで自己修復が可能だ。
だが、素材に触れられなければ始まらない。
今の彼には、それすらままならない状態だった。
「最低限、近くに投げてくれりゃいい……あとは自分でやれる」
「いいだろう。ただし、条件がある。代わりに定時放送の内容を教えてもらう。いいな?」
「へっ。話が早くて助かるぜ、大将」
取引は即座に成立した。
ディビットは周囲に散乱した金属片を拾い集め、ジョニーの近くに放り投げていく。
砕けた装甲、歪んだ鉄骨、魔神との激戦の名残。
ジョニーがそれらを取り込み始めるのを見届けながら、ディビットは静かに問う。
「……で? ヴァイスマンは、何を言った?」
ジョニーは、組み上げたばかりの顎で不格好に笑った。
「笑える話だったぜ。どうやら――奴さん、本気で俺らを生かすつもりなんて、さらさら無ぇらしい」
■
「――――そこまでにしておけ」
静かでありながら、鋭く張りつめた場を確かに切り裂く芯を持った声だった。
殺気に満ちた空気を、一瞬で正中から断ち割るような、鋼鉄の一声。
殺意を籠めて睨み合うかつての親友。
その緊張の只中に、ひとりの男がゆっくりと歩み出る。
まるで芝居の幕間に登場する名優のように、焦りも威圧もない足取り。
けれど、その存在感には誰もが無言で注目せざるを得なかった。
ディビット・マルティーニ。
イタリア裏社会にその名を刻んだ男。
カモッラの顔役にして、バレッジファミリーの金庫番。
幾つもの交渉の場で相手を屈服させてきた理性と理論の男だ。
「やれやれ。いきなり芝居の山場か。
もう少し静かな目覚めを用意して欲しかったものだな」
緊迫の場に不釣り合いな口調で笑うその姿に、サリヤの指がぴくりと動く。
だが、ディビットは臆することなく、そのまま数歩、前へ出た。
「止まりなさい、ディビット・マルティーニ。
それ以上近づけば――撃つわよ」
緊張が、再び張り詰める。
彼女の指先――空気銃が、明確にディビットを狙った。
それでもディビットは止まらない。
むしろ、歩を緩めることなく、片手で囚人服の襟元を直しながら、まっすぐにサリヤを見据えた。
「『メルシニカ』のサリヤ・K・レストマンだな。俺を撃つ気か? やめておけ、お前には撃てんさ」
「寝起きで状況を理解できていないようね」
サリヤは冷ややかに返す。
先ほどまで意識を失っていた男が、現状を正しく把握しているとは思えなかった。
彼女の正体も、この場所がどれほどの緊張に包まれているかも、知らないはずだ。
だが――
「聞いてるさ。白髪の怪物女の後釜が、お前ってわけだろ? それがどうした?」
ディビットの声は、淡々としていた。
それは、ただのブラフでも、ましてや無知でも虚勢でもない。
撃てないと確信した態度だった。
「なら、一つ教えてあげる」
サリヤの声音が、少し低くなる。
その指がわずかに角度を変えた。
「私はジェーン・マッドハッターの超力を取り込んでいる。知っているでしょう?
生物を殺すことに特化した超力。それを受け継いだこの空気銃は、まさに致命の一撃(キルショット)となる」
空気が震えた気がした。
彼女の背後に、目に見えぬ殺気の波が広がっていく。
彼女がこの場で手にした最大の切り札――それは、殺す力そのものだった。
ジェーン・マッドハッターの致死性を付与する超力。
それを取り込んだ今、サリヤの指鉄砲はまぎれもない死を撃ち込む装置となった。
銀鈴亡き後、この場のイニシアティブを手にするために、この超力を得る事はサリヤにとって必須事項だった。
殺し屋として名の知れたジェーンの超力はディビットもよく知っている。
それを獲得したというのが真実なら、確かにとんでもない脅威だろう。
だが、ディビットはその脅し文句に対しても眉ひとつ動かさなかった。
「……脅し方が素人だな」
肩をすくめ、小さく息を吐く。
「『脅し』ってのはな。まず『痛み』を与えてからじゃなきゃ意味がない。
言葉だけで威圧するのは、三流のチンピラのやり口だ。そんな事はストリートのガキでも知ってる」
また一歩。
ディビットが踏み出すたび、空気銃の照準がそれを追うように微かに揺れた。
「己の力を誇示したいのなら、その辺に転がっている誰か一人を黙って殺して見せればいい。
あの怪物女なら、何も言わずにそうしていただろうさ。理由も理屈もいらない。ただ殺す。それが『怪物』と言うものだ」
それが怪物性の証明。
脅しや駆け引きなど力なき人間の浅知恵でしかない。
ディビットの一語一語が静かに場を刺し貫いていく。
その響きは、誰よりも冷静で、誰よりも現実的だった。
「だがお前は違うな。サリヤ・K・レストマン。
確かにお前はこの場における絶対的な強者だろうよ。この場の全員を相手にしても皆殺しにできるかもしれない。
だが、お前は『怪物』でなければ、『戦士』ですらない。その本質は賢者……いや『研究者』か? まあどちらでもいいが」
その一言に、サリヤのまなざしが微かに揺れ睫毛が伏せられた。
その反応は、図星を突かれた者のものだった。
「損得を秤にかけ、情報と確率を積み上げて行動する。
冷静で、計算高く、無駄を嫌う……その思考は、確かにお前の強さだ。
だがな、それは同時に――お前の限界でもある」
この場において、サリヤは確かに最強だ。
5つの超力を手にし、誰も逆らえない威圧を備えている。
あるいは本当にこの場の全員を皆殺しにできるだけの力があるのかもしれない。
だが、彼女は『銀鈴』ではない。
あの怪物性――理屈も損得もなく、ただ蹂躙する存在とは、根本から違っていた。
冷静で堅実。計算と戦略を元に事を運ぶ。それ故に怪物からは程遠い。
あの銀鈴ですら倒されたのだ、全員を確実に打ち倒せるなどと慢心はできない。
弾倉の中で最も怪物性の高いルクレツィアであればできたかもしれない。
戦闘に適したエルビスの人格であれば、あるいは違う答えも出せただろう。
だが、銀鈴によてシリンダーの人格は凍結している。
ひとつのシリンダーを解凍するのにも時間を要する。
今、この場で確実に全員を殺し切れる保証はない。
「何より決定的だったのは、ヴァイスマンによってこの場に被験体:Oとやらが追加されたことだ」
ディビットの言葉に、サリヤの眉がわずかに動いた。
ヴァイスマンによってもたらされた、彼女にとっての最大の誤算。
「その脅威がどの程度か判断できない以上、お前は無茶は出来ない。
俺たちと殺し合って疲弊した後に被験体に殺される、それがお前にとっての最悪のシナリオだ。
お前としてはそれは避けたい。出来るなら俺たちを門番突破のために利用したいと考えているのだろう?」
ディビットは冷たく言葉を積み上げていく。
まるで計算式を読み上げるかのような淡々とした口調だった。
その式をサリヤは否定できなかった。
「――――だからお前は『撃てない』。
その時点で、お前の暴力は形骸化しているのさ。実行力の伴わない暴力など、ただのハリボテにすぎない」
最後の一言を吐き捨てるように言うと、ディビットは改めてサリヤを見据えた。
損得勘定が出来る理性がある故に、彼女の選択肢は縛られる。
「状況は理解できたか? お嬢さん(シニョリーナ)。
お前がどれだけ強かろうとこのテーブルを仕切る権利は、すでにお前の手を離れている」
それは裏社会の交渉を担う顔役としての論理と洞察。
弁舌だけで相手のイニシアティブをはぎ取り、同じ土俵にまで引きずり下ろした。
サリヤ・"キルショット"・レストマンは、この場における絶対的存在ではなくなった。
サリヤはふっと息を吐く。
「……そうね。認めましょう。それで、私からテーブルの主導権を奪ってアナタはどうしたいの?」
「なぁに。大した話じゃないさ――あんたに仕切りを任せたんじゃいつ終わるのか分からんと思っただけだ。結論はどうせ同じだろう?」
ディビットは口元に皮肉気な笑みを浮かべる。
「ありがたいことに、全員が協力せざるを得ない土台をヴァイスマンの野郎が整えてくれた」
爆発する首輪。刻限は六時間。
謎の新たな脅威『被験体:O』。
いずれにせよ、共闘以外の選択肢は存在しない。
銀鈴という脅威が発生した時と同じだ。
全員で協力して打開すべき事態である。
これがサリヤの主導で行われるか、そうでないかの違いだ。
「俺はお前らの過去にも因縁にも興味はない。
だがな、それを引きずってこの場で潰し合うのは――ただの愚か者のやることだ」
サリヤだけではなく、メリリンにも睨みを利かせてディビットは言う。
「私怨は後でやれ、分かったな」
恐るべき合理性の塊。
その言葉には熱も冷気もない
ただ、理性だけがそこにあった。
「けど、協力といってもどう動くんだ?
刻限まで六時間もない。ここを出られなきゃ全員終わりだ。何か策はあるのか?」
空気が落ち着いた所に、只野が問う。
現実的な問題を誰かが口にする必要があった。
ディビットは、肩をすくめるようにして首を軽く回し答えた。
「さぁな。俺は知らん」
「……ふざけてるの?」
この状況で出された投げやりな返答に、エンダが底冷えするような殺意を伴った声を返す。
だがディビットはわずかに笑みを浮かべて、肩を竦めたまま言った。
「ふざけちゃいないさ。『俺は』知らない――そう言っただけだ」
そして、彼の視線が静かに動いた。
その先にあるのは未だ意識を失い、地に伏したままのひとりの青年。
信頼を束ね、超力を重ね、銀鈴という魔神を討った鍵となった男。
「――まずは、その方法が分かりそうなやつを起こす事だ」
■
「おい、起きろエネリット」
「…………ぅうん」
誰かの声が、意識の底に響いた。
呻くように応じながら、エネリット・サンス・ハルトナはゆっくりと瞼を開いた。
「ディビット、さん…………?」
自分を揺り起こした男の顔を見て自分が気絶していた事を察したのか。
エネリットは首を振って意識を覚醒させると、まず左手首のデジタルウォッチを確認した。
時刻と地図を確認して、次いで周囲へ視線を巡らせる。
中庭には戦いの余韻がまだ空気に漂っていた。
誰が倒れ、誰が立ち、誰が武器を構えているか。
緊張と疲弊に包まれた人々の顔ぶれを、一瞥で見通す。
「……なるほど。おおよその状況は把握しました」
誰の説明を受けるでもなくエネリットは納得を示すように小さく頷いた。
「……マジかよ、本気で言ってんのか?」
訝しむ声を上げたのは、ジェイ・ハリックだった。
だがエネリットは視線すら向けず、淡々と答える。
「ブラックペンタゴンが禁止エリアに指定されているにも関わらず、こうして全員がまだこの場に留まっているという事は、何か離脱を阻む課題が与えられたという事でしょう?
例えば、出口を阻む門番の配置と言ったところでしょうか? その程度の障害でもなければ、この場に全員が揃い続けている理由が見当たりません」
その場にいた全員が、わずかに息を呑む。
放送を聞いていないにもかかわらず、状況をほぼ言い当てた。恐るべき洞察と考察力。
状況を打開する策を持つというのもあながち嘘ではなさそうだと全員が理解した。
「そう言う事だ。正面玄関以外が封鎖され、そこに門番が配置された。何とかする策を出せエネリット」
「いや、起き抜けに策を出せと言われてもですね……さすがに相手の詳細が分からな過ぎて何とも」
ディビットからの無茶振りにエネリットが肩をすくめると、すかさず別の声が割り込む。
「いいわ。ならわたしが偵察を出す」
そう言ってエンダが黒霧を回せた。
霧は小さく形取り黒蠅となる。
数匹の小さな蠅が中庭を飛び出しエントランスホールに向かっていく。
対応策を絞り出さなければならない外堀が埋められていく。
有無を言わさぬ状況にエネリットは観念したように、深く、長い溜息をついた。
「……分かりました。具体的な対策は、偵察の結果を見てからにするとして……。
今、この時点で考え得る選択肢を整理しておきましょう」
その声音は冷静そのものだった。
状況を受け入れ、既に切り替えが完了している。
「他の気絶してる連中はどうする?」
「結論が出るまで寝かせておけ。話がややこしくなる」
只野の問いをディビットが一蹴する。
ローマンと征十郎とギャル。いずれも強力な戦力だが。
ギャングスタ―はともかく、剣鬼と爆弾魔は話し合いには向かない。
下手に起こせば交渉の場が引っかき回されるだけだろう。
「さて、現時点で我々の取り得る方針は、大きく分けて三つ考えられます」
そう前置きし、エネリットは静かに続ける。
「もちろん、内輪で揉めて全滅する、なんて選択肢とも言えない結末もあり得ますが。
まぁ、これは考慮しなくてもいいでしょう?」
その言葉は、一見穏やかに見えて、明確な牽制だった。
あなた達はそこまで愚かではないでしょう? と全員を挑発するように、牽制と嘲笑を投げかけている。
緊急時なのだから全員に協調せよと亡国の王子は暗に告げていた。
「三つ、って……結局は全員で協力して門番を倒すしかないんじゃないのか?」
只野が眉をひそめながら問う。
「ええ。それが第一の選択肢です。全員で協力し、正面突破する――王道にして最も単純な戦略ですね」
正面突破。
ヴァイスマンの思惑を正面から受けて立つという正攻法であり、最も困難な方法である。
「全員で協力、ね。わたしは背中の心配をしながら戦うのはごめんだよ」
エンダが吐き捨てるように言う。
この場にいるのは仲間ではない。
背後を誰かに預けるというのは、裏切りのリスクを常に抱えるということだ。
「ですが、このような呉越同舟の状況では、意外とそれが機能するものです。
先ほどの銀鈴との戦いが、それを証明している」
あの戦いも、誰かの指示で動いたわけではない。
脅威に対して、全員が本能的に、反射的に動いた。
今回は、それを理性でやるだけの話だ。
「……そうは言っても、俺はそこの女はそう簡単に信用できねぇな」
血の滲む腹部を抑えながらジェイ・ハリックがサリヤを睨み付ける。
だが、恨み節を投げつけられたサリヤは、反論どころか反応すら返さない。
凡そ事実である。ヴァイスマンから与えられた脅威がなければ、全員を殺していただろう。
「その点に関しては、全員が同じ立場でしょう」
エネリットが静かに言う。
「そもそも我々は、最初から殺し合うために集められた囚人です。
全員が全員を殺すだけの理由がある。今はただ、己が生き残るために手を組むという状況になったというだけです」
この場にいる全員がこの刑務作業で殺し合う仲である。
斯く言うジェイだって最初は恩赦を獲得するつもりだった。
色々あって心折られてしまっただけで。
「生存に向けた利害の一致がある以上、少なくともそれが為されるまでの裏切りはない。
まさか、共闘の結果として仲間意識が芽生え、戦えなくなるような純粋な人間がこのアビスにいるとは思えませんが?」
この関係は、信頼ではなく利害で成り立っている。
それが切れた瞬間、また誰かが誰かを殺すだろう。
それはサリヤに限った話ではなく全員に該当する当然の前提、それを躊躇う者などこの場には存在しない。
「二つ目は別の脱出口を探すという方法です。しかし、これは期待薄でしょうね。あの看守長がそのよな隙を残すとは思えない」
「なければ作ればいいだろ。外壁を破壊して逃げ出すというのはどうだ?」
エネリットの言葉に、只野が考える様に腕を組みながら提案する。
道がなければ、自ら切り拓けばいい。
ただの高校生はこれまでもそうしてきた。
「それも含めて、看守長なら対処しているだろうという話ですよ。
まあ試してみる分には否定しませんが、恐らく徒労に終わるかと」
エネリットの言葉には妙な説得力があった。
壁の爆破、地下からの掘削、屋上からの強行突破。
その程度の抜け道が想定されていないはずがない。
看守長を知る全員がこの結論には首を縦に振るしかなかった。
「最後の一つはなんだ?」
ディビットが問うと、エネリットは躊躇なく答える。
「門番を無視して脱出する、という選択です」
戦って倒すのではなく、戦わずに突破する、という案。
だが、そんな事が可能なのだろうか?
「……戦わない、ってことか?」
「ええ。必ずしも倒す必要はないと言う事です。
それこそ、出口に向かって全員が一斉に突撃すれば、半数は死ぬでしょうが半数は離脱できるでしょう」
「……無策の特攻、ってことじゃねぇか」
「有体に言えばそうなります。全滅するよりは幾分マシな結末でしょう?」
「……まぁ、確かにな」
只野は短く息を吐いて、頷いた。
個の生存ではなく、群としての生を繋ぐ選択肢。
半数でも生き残るのであれば無謀に挑んで全滅するよりはるかにましな選択であると考えられるかもしれない。
だが、群ではなく利害が一致しているだけの個の集まりであるこの集団では成立しない選択肢である。
「もちろん、確実性を求めるのなら、あらかじめ『足止め役』と『離脱役』を割り振っておく方法もありますが……。
さて、どなたか足止め役を引き受けてくださる方はいらっしゃいますか?」
問いかけるエネリットの声に手は上がらず、沈黙が返る。
当然だろう。ここにいる連中は誰かのために命がけで足止めをするような関係性ではない。
ここに利害はあっても互恵はない。死に役を任されるだなんてそもそもの前提が成立しない。
「……よろしい。全員が自分の生存を望んでいるという事だ。
つまり――全員がブラックペンタゴン脱出のために全力を尽くす。そういう理解で間違いありませんね?」
王子はにこやかに微笑すら浮かべて言った。
共闘に応じるかどうか――その最後の意思確認をするように。
「僕は乗るよ。面倒ごとはさっさと片付けるに限る」
当然のようにこの提案に乗ったのは只野だった。
この期に及んで、さして深刻そうでもないのが彼らしい。
そして、その視線がすっとエンダに向けられる。
「あたしたち二人じゃ厳しそうなのは事実だ。それがこの状況における最適解だろう」
超然としたいつもの調子で、エンダは淡々と答える。
利害に基づいた最適解を選び取るように。
「……俺も乗ってやるよ。銀鈴を倒したってのに、ヴァイスマンのしょーもない仕掛けで死にました、じゃ――兄貴に合わせる顔がねぇ」
ジェイ・ハリックも、苦々しげに唸るように呟き、乱暴に頷いた。
ただし、サリヤに対する警戒は依然として解いていないようである。
そして、そのジェイの視線の先。
場にいる全員の目が、サリヤ・"キルショット"・レストマンに向かう。
この場における、もうひとつの脅威。
短い静寂。張り詰めた空気の中、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……仕方ないわね。私もここで死ぬわけにはいかないもの」
言葉とは裏腹に、口元にはいつもの余裕ある笑みが浮かんでいた。
強者の自負か、虚勢か、それとも演技か。誰にも断定はできない。
一通りの同意が出揃った、そのときだった。
「……私は、納得できない」
周囲にわずかな波紋が走る。
異論を上げたのは――メリリン・“メカーニカ”・ミリアン。
その瞳はまっすぐに、サリヤを射抜くように見据えていた。
「何の決着もつけないまま、背中を預け合うなんて……私には無理よ」
協調を揺るがす一言。
ディビットが静かに睨みを付け、場に再び緊張が走る。
「俺の言葉を聞いていなかったのか? 私怨は置いておけ。確かにそう言ったはずだぜ――――メリリン・“メカーニカ”・ミリアン?」
誰もが一瞬だけ口を閉ざした。
ディビットの声音は、驚くほど静かだった。
だが、その言葉に含まれた底冷えするような冷たさに、場の空気が凍る。
カモッラの金庫番は相互利益に反して秩序を乱すものを許さない。
「……大将、それは違ぇよ」
だが、その凍った空気割る声があった。
声と共に割って入ったのは、ジョニー・ハイドアウトだった。
修復を終えた鋼鉄の四肢を軋ませながら、ゆっくりとディビットへと歩み寄っていく。
「確かにアンタの『理屈』は正しいだろうぜ。だがな、こいつは『感情』の話だ。そう簡単にはいかねぇよ。
納得してねぇもんを無理やり引っ張っても――火種になるだけだぜ」
人から外れた鋼鉄の騎士が感情を語る。
合理を重んじる鉄皮面が眉間に深く皺を寄せ銃顔を睨んだ。
「――では、チームを分けましょう」
その空気をさらりと断ち切ったのはエネリットだった。
あくまで交通整理でもするように整然とした声で。
「メリリンさんとサリヤさんは、ここに残って決着をつければいい。
それ以外の我々はブラックペンタゴンからの脱出を目指す。それでいいでしょう?」
復讐の王子は炎の様な私怨を否定しない。
その上で、氷の理性で己が実利も取る選択をする。
「おいおい……いいのかよ、それで」
その提案に、ジェイ・ハリックが抗議の声を上げる。
サリヤとメリリンの二人をこの場に残す――それは、戦力的にも不安が残る選択だ。
「おや? ハリックさんは、先ほどまでサリヤさんを警戒されていたのでは?」
矛盾を突かれジェイが舌打ちと共に押し黙る。
「協調ができない以上、同じ船には乗れません」
エネリットの声音に揺らぎはなかった。
その判断は冷酷ではあるが、極めて合理的だ。
「私は構わないわよ? ただ、あなた達はそれでいいのかしら?」
サリヤは、余裕を含んだ笑みを浮かべたまま答える。
彼女は自身がこの場の最強(ジョーカー)である事を誰よりも理解している。
自身が戦線を離脱することは、明確な戦力低下を意味する。
戦力を求めるなら彼女を尊重せざるを得ない。
だからこそ場の主導権を奪われようとも彼女には余裕があった。
「確かに、戦力の低下は痛いですが、ハリックさんのおっしゃる通りあなたを戦力に加えるにはリスクもある」
「私が裏切るとでも? 失礼な話ね」
「門番排除のために背中を預ける分にはいいでしょう。だが、その後となると話が違う。だって、看守長の仕掛けがなければとっくにそうしていたでしょう?」
「どうかしらね」
その問いかけに、サリヤは曖昧な笑みで返す。
彼女を戦力に加えるメリットは大きいが、デメリットも大きい。
今は共通の敵である門番が抑止力になっているが、彼女の存在はその抑止力を排除した途端に新たな脅威になりかねない。
彼女に限らず、そう言った掌返しは想定すべきリスクだが、その中にとびぬけた戦力があるというのはリスクが高い。
そのリスクを飲み込みメリットを享受するか、不利を承知でリスクを事前に排しておくか。
これはそのどちらを取るかと言う判断でしかない。
「いずれにせよ、この方針はあなたにとっても都合がいい。
先に挑んだ我々が全滅した所で、疲弊した門番をあなたが倒せばいいのですから。
これは、あなたにとっては利しかない提案のはずだ」
「……それは、確かにその通りね」
サリヤはわずかに眉をひそめた。
エネリットらしからぬ恩着せがましい言い分に、僅かに嫌な予感が滲む。
彼はすかさず次の一手を繰り出す。
「その代わりという訳ではありませんが、サリヤさん、あなたに一つお願いがあります」
含むような口調で、エネリット・サンス・ハルトナが真っ直ぐに視線を向けて告げる。
「あなたの保持している『自己再生』の超力を、我々にお貸しいただけませんか?」
その提案に、サリヤの目が細くなる。
弾倉の一つに籠められたルクレツィア・ファルネーゼの超力。
「何故私がそこまでしてあげなければならないのかしら?
そこまでサービスしてあげる義理は、私にはないはずだけれど?」
超力を貸すということは、自らその力を一時的に手放すということだ。
銀鈴の中からエネリットの超力の発動を確認していたサリヤはそれを知っている。
短時間とは言えこの場での自己再生の欠如は、彼女にとっても無視できないリスクだった。
「義理はなくとも利益はある。言ったはずです。これはアナタの利になる提案だ、と。
僕たちが門番を突破できたほうが、あなたにとっても都合がいいでしょう?
そのためには、こちらが万全の状態で臨めるに越したことはない」
理屈は明確だ。
戦力に不安がある状態では、突破の確率も下がる。
全員が万全で挑んだ方が、サリヤにとっても『利』が大きい。
合理的に考えれば、サリヤが協力しない理由の方が乏しい。
「……随分と、足元を見てくれるじゃない?」
とんだ食わせ物だ。
サリヤが苛立ちと楽しみを交えたように唇を歪める。
「足元だなんてとんでもない。ただ、あなたも我々への協力を表明したのですから、それくらいは協力して頂かないと」
確かに協力に同意した。
ここに残るとしても、その前言は翻せない。
「まったく……搾れるときに搾り取るなんて、とんだ王子様ね」
ため息混じりに、皮肉を一つ。
しかし、結論は決まっていた。
「――いいわ。ルクレツィアの超力を貸してあげる。ただしこの中庭にいる間だけよ」
「感謝します、サリヤさん」
エネリットは礼節を崩さず、静かに頭を下げた。
そしてすぐに身体を向け直し、次の相手――ディビットへと視線を移す。
「ディビットさん。あなたのお力もお借りしたいのですが」
「俺の?」
「ええ。彼女単独では恐らく信頼度が足りません、それを『4倍賭け』による補正を加えて、効果の底上げを図りたいのです」
「そう言う事か……まあ、いいだろう。好きに使え」
ディビットは肩をすくめて承諾する。
損得勘定を理解した提案であれば協力を惜しむ理由もない。
二人から超力を受け取ったエネリットは指先を振るい、煙管を出現させる。
そしてサリヤから貸与されたルクレツィアの『楽園の切符』と、ディビットの『4倍賭け』を掛け合わせ、黒煙をゆっくりと吸い込んだ。
当然ながら、サリヤからの信頼度は限りなく低いため、再現度は不完全だ。
しかし、ルクレツィア本来の再生力の強さと、4倍賭けの倍率補正が合わされば――ある程度の回復は期待できる。
銀鈴との戦闘で破壊された左肩が完全とはいかずとも、可動に支障がない程度まで回復したのを確認する。
制限時間は限られている、行える回復は最低限までだ。
エネリットは静かに周囲へ向き直る。
「これより、他の皆さんにも順次譲渡していきます。
完全回復は難しいでしょうが、ある程度戦えるくらいには回復できるはずです」
そう言って彼が最初に超力を貸し与えたのは、意識のある中で最も重傷を負っていたジェイ・ハリックだった。
再貸与で倍率は更に下がり、得られる回復力は微々たるものだが、腹部の銃創が少しずつながら塞がっていった。
「――メリリンとサリヤを、ここに残す。それで構わないな?」
その傍らで、ディビットが確認の声を上げる。
これは全員ではなく、当事者たちに向けられた問いだった。
「ええ」
「構わないわ」
メリリンとサリヤが、それぞれの覚悟を持って静かに頷く。
これで方針は決まった――そう思われた、その時だった。
「待った」
待ったの声がかかる。
異を唱えたのは便利屋、ジョニー・ハイドアウト。
「何故だ?」
「アンタだって分かってるはずだぜ? 大将。
この二人じゃ話し合いなんて成り立たねぇだろ。戦力差がありすぎる」
交渉の場において必要なのは、言葉だけじゃない。
対等であるためには、力が釣り合っていなければならない。
互いに拮抗できるだけの暴力を持たなければ、一方的な要求を押し通されるだけだ。
提案したディビットも、エネリットも――その理屈を知らぬはずはない。
「そうだろうな。だが、それこそ俺の知った事ではない。当事者がいいと言ってるんだ、何の問題がある?」
第三者が口を挟むことではない。
そうドライな言い回しで、ディビットは切り捨てた。
「……だったら、俺も残る」
そこに新たな声があった。
その声に、全員の視線が注目する。
「…………ローマン」
思わず名を呼んだのは、メリリンだった。
現れた声の主は――ネイ・ローマン。
血に濡れた布を止血のために腕に縛り付け、満身創痍の身体を引きずって立ち上がっていた。
「ネイ、だ……メリリン」
小さく訂正して、彼は不器用に笑った。
「……目を覚ましてたのか?」
「ついさっきな……正直、話の流れはほとんど分かっちゃいねぇ。
けど、こいつとサリヤをここに残すってんなら、俺もここに残るさ」
ローマンは全貌を把握してはいない。
だが、銀鈴が消えてサリヤがここにいるという事はそう言う事なのだろう。
ひとまずは、それだけ分かればローマンとしては十分だった。
「……仕方がないな。説明してやる」
ディビットがローマンに近づきジョニーから聞いた放送の内容を伝えた。
そして、周囲に聞こえぬよう耳打ちするように伝える。
「俺はこの場でキングを抹殺する。そのためにもできれば、お前には同行して欲しかったんだがな」
ディビットが惜しむように言葉を漏らす。
サリヤという例外を除けば、この場における最大戦力。
対被験体:Oだけではなく、後のキング戦を考えれば是が非でも同行願いたい相手だった。
「……そいつぁいい話だ。だが、悪ぃな。その話はお互い無事にここを出てからだな」
ローマンの意志は固い。
一度決めたことを変えるような男ではないだろう。
ディビットは何も言わずため息を零し、彼の肩に軽く手を置くとその場を離れる。
「ま。口は出さねぇさ。俺ぁここで睨みを利かせてるだけだ。ケツは持ってやる、好きなようにやれ」
ローマンはメリリンに向かってそう言って、中央の黒いオブジェに背中を預けた。
そのまま、静かに地蔵のように座り込む。
その姿を、サリヤが忌々しげに睨みつける。
システムBの使用前とはいえ、単独で銀鈴と渡り合った男。
負傷していようがその超力は、今も変わらず健在だ。
警戒してしかるべき相手。
同じ数の超力を操れたところでサリヤがどれほど相手取れるか。
彼がメリリンの後ろ盾として存在しているだけで牽制としては十分な圧力があった。
「では、この場には、サリヤとメリリン、そしてローマンが残る。それで異論はないな?」
ディビットが改めて結論を告げた。
サリヤがため息交じりにこの提案を受け入れる。
「いいわ。ただし、彼に回復を貸し与えるのはダメよ。彼は討伐に向かう訳じゃないもの」
自らの利になるからこそ、超力を貸し与えているのだ。
そうでない相手にくれてやる慈悲などあるはずもない。
全員の方針は固まり、最低限の回復が完了した。
エネリットも借り受けた超力を返還し、ひとまずの準備は整った。
そんな中、ジョニー・ハイドアウトが、顔面に備えた銃口で中庭の片隅を指す。
「……で、あいつらはどうするんだ?」
示された先には、まだ意識を取り戻していない征十郎とギャルの姿があった。
どちらもぐったりと地面に伏しているが、呼吸は浅くとも規則的であり命に別状はない。
「起こしてもロクなことにならない二人だと思うがね。運んでいくのも荷物だ。置いていっても、問題ないんじゃないかな?」
エンダ・Y・カクレヤマが、くすくすと笑いながら言い放つ。
先ほどの小競り合いで、彼らの扱いにくさは身をもって実感していている。
そもそも彼女は最初からサリヤ以上にギャルという爆弾魔に対して警戒していた。
「そうですね……それもいいかもしれません。
目を覚ました時、エントランスホールに強敵がいると分かれば、彼らならおそらく自分から突っ込んでいくでしょう」
意外にも、エネリット・サンス・ハルトナがその意見を肯定する。
その口調に皮肉はなく、この二人ならそうするだろうという妙な信頼すら感じられた。
「あー……想像つくな。先頭切ってダッシュしそうだ」
只野仁成が苦笑混じりに呟く。
「二人が目を覚ましたら、状況を説明してやってくれ……頼めるか、ローマン」
ディビット・マルティーニが振り返り、この場に残るローマンに声をかける。
ネイ・ローマンはオブジェに背を壁に預けたまま、振り返るでもなく左腕をひらひらと振って無言の返事を返した。
こうして、「進む者」と「残る者」――それぞれの役割が、明確に分かたれた。
サリヤ、メリリン、ローマン。そして未だ気を失っているギャルと征十郎は中庭に残り。
ディビット、エネリット、ジョニー、エンダ、只野、ジェイの6人は、脱出と被験体撃破を目指して動き出す。
彼らが向かったのは、かつて銀鈴との激闘でローマンが打ち破った北西の内壁。
その先は、ブラックペンタゴン構内の物置へと通じており、ここから施設の内へと再突入を果たす。
もっとも、そのまま無策に本丸へ突撃するつもりはない。
物置内部で円を描くように集まり、彼らは改めて作戦会議を始めた。
「結局、唯一の出口であるエントランスホールにいる被検体とかいうのを倒してく、って方針でいいんだよな?」
只野が議論の口火を切る。
「そうですね。それを軸に考えていく方向でよいかと。
ですが、念のため、確率は低いでしょうが脱出の方も可能性を探ってはおきたいですね」
それは事前に想定していた選択肢その2の可能性を提案する。
自分で確率が低いと否定しておきながら、捨てる事はないのは慎重さの表れか。
「それなら、一つ心当たりがある」
答えたのは美しき白い祈り巫女、エンダ。
静かに語られたその一言に、空気が凛と張りつめる。
「このブラックペンタゴンには――脱獄王がいる」
脱獄王――トビ・トンプソン。
彼ならば、ヴァイスマンの想定を上回り、通常の脱出ルートとは異なる裏口を見つけ出せるかもしれない。
「そいつは今どこにいるんだよ?」
「わたしの依頼で、上階の探索に向かっている最中だよ」
「それは接触したいですね。できる限り早く」
だが、ここで問題が浮上する。
エンダは現在、被験体:Oの偵察を担当している。
脱獄王を迎えに彼女が離脱すれば、門番攻略の作戦立案に支障が出る。
「だったら、俺が行こう。あいつとは一度、顔を合わせてる」
名乗り出たのはジョニーだった。
この刑務作業の過程で、彼はトビと接触した経験がある。
「それじゃあ、時間もねぇ事だし。一足早くいかせてもらうぜ」
そう言うが早いかジョニーは物置部屋を後にする。
かつて階段の門番だったエルビスはもういない。
単独でも探索も、大きな支障はないだろう。
「………………あっ」
その背を見送ったところで、エンダが間の抜けた声を上げた。
「どうした?」
「……いいや。一つ伝え忘れたことがあったんだが、大したことじゃないさ」
「あぁ…………」
それで只野も思い至ったのか、何とも言えない声を上げる。
すっかり忘れていたが、上階にはもう一人いる。
完全にそれを伝え忘れていたが、大したことではないだろう。
残された5人は、引き続き正面突破のシナリオを練る。
「エンダ。そう言えば偵察結果はどうだ?」
只野が尋ねると、エンダはこめかみに指を添え、目を閉じる。
「少し待ちたまえ。今、確認している所だ……」
静かに息を吐きながら、彼女は神経を集中させる。
「……けどよ、偵察って言っても、遠くから眺めてるだけじゃ限界があるんじゃねぇか?」
ジェイがぼやくと、エネリットも小さく頷いた。
「そうですね。威力偵察ができれば理想ですが、それは難しいでしょうね」
撤退を前提とした威力偵察を仕掛けるという手もあるが、補給のないこの状況で行うにはあまりにもリスクが高い。
誰かが偶然戦ってくれるのを観測できれば理想だが、そんな都合のいい展開など、滅多に起きるものではないだろう。
「しばらく隠れて待っていれば、目を覚ましたあの二人が勝手に仕掛けてくれるんじゃないか?」
「それはいい案ですが、あの二人の戦力は使い捨てるには惜しい。生かす方向で考えたいですね」
そんな冗談めかしたやり取りをしていると、目を閉じていたエンダが、ゆっくりと瞳を開いた。
「エントランスホールの様子がわかった…………偵察結果を、報告するよ」
彼女の言葉に、一同の視線が集中する。
全員が耳を傾ける中、エンダが静かにエントランスホールの報告を始めた。
【D-4/ブラックペンタゴン北西エリア・物置/一日目・日中】
【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:ダメージ(小)
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ドンの首輪(使用済み)、ドンのデジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『エンダの願い』を果たす。
0.ブラックペンタゴン脱出までは協力する
1.仁成と共に首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
2.囚人共は勝手に殺し合っていればいい。
3.ルーサー・キングには警戒する。
4.ヤミナ・ハイドを使うか、誰かに押し付けるか考える。
5.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。
※エンダの超力は対象への〝恨み〟によって強化されます。
※エンダの肉体は既に死亡しており、カクレヤマの土地神の魂が宿っています。この状態でもう一度死亡した場合、カクレヤマの魂も消滅します。
※黒靄による超力干渉でエルビスの腐敗毒をある程度遮断できます。
ただし〝恨み〟による強化が発揮しない限り、完全な無効化は出来ないようです。
【只野 仁成】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、右手薬指亀裂骨折、左頬骨亀裂骨折、左奥歯損傷、服の全面が溶けている、精神汚染:侮り状態、強い覚悟
[道具]:デジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残る。
0.協力してブラックペンタゴンの脱出を目指す
1.エンダに協力して脱出手段を探す。
2.今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
3.エンダが述べた3人の囚人達には警戒する。
4.家族の安否を確かめたい。
5.少女(四葉)にも対処したい。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。
【ジェイ・ハリック】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)、腹部に銃痕(回復済み)
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。チャンスがあれば恩赦Pを稼ぎたい。
0.ブラックペンタゴン脱出に協力する
1.バルタザール・デリージュに対する警戒。
【ディビット・マルティーニ】
[状態]:全身にダメージ(小)
[道具]:デジタルウォッチ、ドミニカ・マリノフスキの首輪(未使用)、メアリー・エバンスの首輪(未使用)、携帯食料
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.ルーサー・キングを殺す、その為の準備を進める。
0.ブラックペンタゴンからの脱出を果たす
1.ネイ・ローマンと提携を結ぶ
2.エネリットの取引は受けるが、警戒は忘れない。とはいえ少しは信頼が増した。
3.タバコは……どうするか。
【エネリット・サンス・ハルトナ】
[状態]:全身にダメージ(小)、左肩に傷(回復済み)
[道具]:デジタルウォッチ、宮本麻衣の首輪(未使用)、携帯食料
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.復讐を成し遂げる
1.門番を超える策を練る
2.ディビットの信頼を強める
3.…命を懸ける理由、か。
※現在の超力対象は以下の通りです。
【徴収】などが対象に発覚した場合、信頼度の変動がある可能性があります。
①マーガレット・ステイン(刑務官)
信頼度:80%(超力再現率40%)
効果:徴収(相手の同意なしの超力借り受け。再現度は信頼度の半分)
超力:『鉄の女』
②ディビット・マルティーニ
信頼度:60%(超力再現率同値)
効果:献上(双方の同意による超力の一時譲渡。再現度は信頼や忠誠心に比例)
超力:『4倍賭け』
③~⑤ジョニー・ハイドアウト、メリリン・"メカーニカ"・ミリアン、只野仁成。
信頼度:全て10%前後
効果:献上(双方の同意による超力の一時譲渡。再現度は信頼や忠誠心に比例)
超力:『鉄の騎士(アイアン・デューク)』、『補え、私の愛する人工物質(モルデオ・アルティフィシアル)』、『人類の到達点(ヒトナル)』
⑥サリヤ・"キルショット"・レストマン
信頼度:5%未満
効果:献上(双方の同意による超力の一時譲渡。再現度は信頼や忠誠心に比例)
超力:『楽園の切符』(我喰いによって倍率低下)
【E-4/ブラックペンタゴン南西エリア・階段前/一日目・日中】
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:健康、破損(小)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.脱獄王と合流してブラックペンタゴンからの脱出が出来るか検討
2.怪盗(チェシャキャット)の依頼を果たす。
3.夜上神一郎への強い不信感と敵意。
※ネイ・ローマンと情報交換しました。
※ルメス・ヘインヴェラートが掴んだ情報を全て伝えられています。
【D-5/ブラックペンタゴン中央・中庭エリア/一日目・日中】
【サリヤ・"キルショット"・レストマン】
[状態]:健康、我喰い
[道具]:グロック19(装弾数22/22)、デイパック(手榴弾×2、催涙弾×2、食料一食分)、黒いドレス、銀鈴の首輪
[恩赦P]:18pt
[方針]
基本.アビスに保管されているシステムを破壊する。
1.メリリンに対応。
2.ブラックペンタゴンを脱出する。
※現在のシリンダー状況
Chamber1:サリヤ・K・レストマン(女性、元人格、空気銃能力、以下弾丸を統制)
Chamber2:ジェーン・マッドハッター(女性、殺傷能力、人格凍結)
Chamber3:ソフィア・チェリー・ブロッサム(女性、無効化能力、人格凍結)
Chamber4:ルクレツィア・ファルネーゼ(女性、再生及び幻惑能力、人格凍結)
Chamber5:欠番
Chamber6:エルビス・エルブランデス(男性、毒花能力、人格凍結)
【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:全身にダメージ(中)、上半身下着姿
[道具]:デジタルウォッチ、生成ドローン1機、ラジコン1機、フルプレートアーマー。
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.―――
1.サリヤと決着をつける。
2.ローマンに従いブラックペンタゴンを調査する?
※ドミニカと知っている刑務者について情報を交換しました。
【ネイ・ローマン】
[状態]:全身にダメージ(大) 、疲労(大)、右腕肘から先欠損
[道具]:デイパック(幾つかの食糧と酒)
[恩赦P]:99pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。
1.メリリンとサリヤの話し合いを見守る。
2.ルーサー・キングを殺す。ディビットの申し出を受けるのも悪くない。
3.ハヤト=ミナセと出会ったら……。
※ルメス=ヘインヴェラート、ジョニー・ハイドアウトと情報交換しました。
【ギャル・ギュネス・ギョローレン】
[状態]:疲労(大)、“タチアナ”、気絶中
[道具]:学生服(ブレザー)、注射器
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.――――
0.気絶中
1.周囲の喧噪を鎮める。
2.改めて征十郎を燃やす。
※刑務開始前にジョーカーになることを打診されましたが、蹴っています。
※ジョーカー打診の際にこの刑務の目的を聞いていますが、それを他の受刑者に話した際には相応のペナルティを被るようです。
※永遠は斬られたので、今後は年を取ります。
【征十郎・H・クラーク】
[状態]:ダメージ(大)、気絶中
[道具]:日本刀(折)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.――――
0.気絶中
1.周囲の喧噪を鎮める。
2.復活したら改めてギャルを斬る。
最終更新:2025年09月23日 09:49