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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】第13話 最後の晩餐 1/2 - (2011/08/23 (火) 10:43:02) のソース

&sizex(5){第13話 最後の晩餐}





ブルーノ「なぁアッズーロ」

「ん?」


あれからしばらく経って、ブルーノが青年に話しかけた。
ずっと音楽の世界に浸っていた青年───アッズーロは、唐突に話しかけられて素早く瞬きをした。

かかっていたBGMは、既にチャイコフスキーからボブ・ディランに変わっていた。


ブルーノ「お前に一つ問題を出そう」

アッズーロ「・・・いいよ」


本当は年が近いのに、二人の関係はまるで年の離れた兄弟のようだ。
無論、二人は“その方がかえって良い”と思っているに違いない。


ブルーノ「イタリアはなんで死刑を廃止したかわかるか?」

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロは黙りこんだ。

ブルーノがまた意地悪な問題を出してきた。
どうせどんな解答をしても当たりっこないんだよな、と思っていた。


ブルーノ「簡単たぜ。誰でも答えられる超シンプルな答えだ」

アッズーロ「わからないよ、僕には。答えは?」

ブルーノ「“人を殺すとバチが当たるから”だよ」


アッズーロ「・・・・・・」

ブルーノ「みんな難しく考えすぎなんだよなァ。人権云々でもないし、廃止しないとEUに加盟できないからでもない。
    マジで簡単な理由だよ・・・」 

アッズーロ「・・・・・・」

ブルーノ「そう、“バチが当たる”のが怖いんだ、イタリアは。例え相手が罪人だろうが、一人だろうが千人だろうがな」

アッズーロ「・・・・・・」ゴモゴモ


アッズーロが何かを呟き始めた。
そして今度はゆっくりと、右手でオーディオラックを指差し始めた。


ブルーノ「・・・わ~ったよ、怒らせてゴメンな。いや、オレは真面目に・・・」


アッズーロ「僕を馬鹿にするなァァ━━━━━━━━━━ッ!!」


ブイン!

アッズーロが手を動かすと、ラックからレコードが一枚、ブルーノに向かって凄まじいスピードで放出された。


ブルーノ「・・・」

ギュウゥゥン!



&nowiki(){・・・・・・}



ブルーノは何事もなかったかのように、テーブルの冷めた紅茶を飲み干していた。


───そのレコードは、空中にてゆっくりと回転しながら漂っていた。


ブルーノ「いや、オレが言いたかったのはよ、お前に“その気”があるかって質問だったんだよ」

アッズーロ「・・・その気?」

ブルーノ「そうだ。これから『闘い』が始まる・・・そいつは避けられねえ。
    そこでだ、お前は“人を殺してバチが当たる”覚悟があるか? ってことを聞きたかったんだよ」

アッズーロ「バチ・・・」 

アッズーロは上を向いて考えた。

ブルーノ「人を殺した“バチ”は一生つきまとう・・・オレは死後の世界を信じちゃあいないが、下手したら天国や地獄にもついてくるかもな。
    アッズーロ、お前ならどうだ? “覚悟”はあるか?」

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロは視線を元に戻す。
澄んだ蒼い瞳を、真っ直ぐブルーノに向けた。


アッズーロ「・・・・・・」

ブルーノ「・・・・・・」


アッズーロ「ない」

ブルーノ「よし」



それだけのやりとりを済ますと、ブルーノはソファーから立ち上がり大きく背伸びをした。

ブルーノ「う~~~ん、もうすぐ夜が明けるなァ。アッズーロ、酒でも買いに行こうぜ。
    また朝からジジイの説教を聴かされる・・・いや、今日は無ぇかな」


ブルーノがコートを羽織ると、アッズーロも何も言わずにコートを着はじめた。

ブルーノはレコードプレイヤーを止めて、さっさと部屋を出ていった。
アッズーロも彼の後にピッタリとくっついていった。


その瞬間───


スコオオオ━━━━ン!!


空中に漂っていたレコードが急に動き出し、反対側の壁に突き刺さった。
&nowiki(){・・・}途中にあった観葉植物を、真っ二つに切り裂きながら。 

&nowiki(){* *}


ようやっと、太陽道路を降りることができた。

まったく・・・長ぇ道のりだったぜ。


俺はボロい軽トラの助手席で、来たる最後の決戦に向けて神経を研ぎ澄ませていた。

とは言っても、ヴェルデと何も喋らねぇのはなんだか気まずいから、こっちから話題を振ってやった。


ビアンコ「ギャングだったらさぁ・・・もしかして実銃使ってリアルサバゲーとかするの?」

ヴェルデ「ハハハ・・・まさか、そんなことはしないよ」

ビアンコ「でもさ、武器で遊んだりはするだろ? ロシアンルーレットみたいな」

ヴェルデ「そんな映画みたいなことをする奴らはいないよ・・・俺達は武器には敬意を持っている」

ビアンコ「なるほど・・・じゃあ抗争のとき以外は倉庫の中か」

ヴェルデ「・・・そういうことかな」


ビアンコ「でもさ、まぁ人を撃つのはともかくとして、銃を扱うのってコーフンしないか?」

ヴェルデ「あぁ・・・あとで武器の魅力はいくらでも語ってやる。ただ、一つ言っておきたい。

    ・・・今はこれから『闘い』のときだ。緊張をほぐそうとしているのは分かるが、そういう話はやめてくれないか?
    戦争の楽しみを語ることができるのは、平和の中でだけなんだよ」 

ビアンコ「・・・・・・」


ヴェルデの言葉に、俺は黙ってしまった。

こいつの言うことは、怖いくらいの凄みを帯びている。
常に『闘い』と『死』とに接している身であるだけに・・・

俺はそれから、じっと空を眺めていた。


空は紫色を帯びていた。

夜が明けたんだ。



&nowiki(){* *}



ミラノ AM 4:30


まだ誰も歩く者がいない通りを、アッズーロとブルーノが歩行していた。

二人はお揃いの黒いコートを着ている。
夜は明けていたが、風は冷たかった。


アッズーロは全身をブルーノに密着させて歩いていた。
コートに顔をうずめ、ほとんど身体を彼に預けているようだった。

寒いからか、それとも他の理由があるからかは分からない。


「・・・」


外に出てから、二人は何一つ会話を交わさない。

ただ“いま、ここにいること”だけに満足しているかのように、一歩一歩あゆみを進めるのみであった。




「・・・フフッ・・・ククク」


しばらくして、三人の若い男とすれ違った。
男たちはアッズーロの様子を見て、振り返って笑いだした。


「おいおい。朝っぱらからヤなもん見ちまったよ」

「昨晩はお楽しみだったんかなぁ?」

「やめてくれよ! 気持ちわりィ」 

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロが立ち止まった。
ブルーノもそれに一歩遅れて立ち止まる。


アッズーロ「・・・・・・」

アッズーロは首をゆっくりと捻って振り返った。
彼の瞼はいわゆる「ジト目」だった。しかし、その中の瞳はサファイアのように澄んだ蒼色をしていた。


「うわっ、なんか睨んできた」

「俺達の中に『好み』がいるのかも・・・」

「キモッ! 勘弁してくれよォ~!」

アッズーロ「・・・・・・」


アッズーロはじっと男たちを見つめている。
対してブルーノは、ただ相棒が再び歩き出すのを待っているかのように、行く手の道だけを見ていた。


「フフフッ! 行こうぜ、気持ち悪い」

「まじイヤだわ~」


男たちが向き直して歩き出した
そのとき・・・


アッズーロ「誰が言った? 気持ち悪いって」

「!?」

男たちは肝を潰した。
いつの間にか、アッズーロは男たちの真後ろにくっつくように存在していたのだ。


「ひえっ!?」

「ど、どどどうしてッ!? 5mくらい離れてたよなァ!?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



アッズーロ「気持ち悪いって言ったの・・・たぶん、おまえ・・・」


「に、逃げろッ!」

恐怖を感じた男たちは、一目散に駆けていく・・・ 

「おぉ~い待ってくれェ~ッ・・・置いていかないでくれェェェッ!!」

「!?」


“駆け出すことができたのは、二人だけだった”。
残る一人の男は、その場から一歩も動くことができずにいたのだ。


アッズーロ「おまえ、そうおまえだ。気持ち悪いって言ったのは」

その男はアッズーロに指を差されていた。
男は恐怖と驚愕に歪んだ表情をしながら、身を震わせている。

「たっっっ助けてくれェェ~、動けねぇんだよォ俺ェ・・・!」


「・・・!」

残った二人の男たちも、アッズーロの並々ならぬオーラにたじろぎ、ピクリとも動けなかった。


アッズーロ「僕を馬鹿にするやつは許さない・・・ブルーノを馬鹿にするやつも許さない。
    気持ち悪いだと? 言ってくれるじゃあないか。なぐりころしてやるよぼくのスタンドでッ!!」

「イイイイイヤアアアァァ!!」

「うわあああああああああああッ!!」

「!!」


ズギュゥゥ――ン!!



&nowiki(){・・・・・・}




ブルーノ「まぁ、許してやれって」

アッズーロ「・・・」


一瞬にして、アッズーロはブルーノの隣に戻されていた。


動きを止められた男は失禁して倒れていたが、身体に外傷はないようだ。


ブルーノ「早く行こうぜ。ギャングどもが来るぞ」

アッズーロ「・・・・・・」

アッズーロとブルーノは、そのまま去っていた。



&nowiki(){・・・・・・}

ヒュゥゥゥ
ドシャッ!


この世のものとは思えぬ事象を目の当たりにした男たち。
一人は仰向けに卒倒し、一人は泣きながら普段信じもしない神に祈っていた。 

&nowiki(){* *}

ミラノ AM 4:30


ヴェルデ「降りるぞ。静かにな」

人通りの無い裏道に車を停めて、ヴェルデは車から降りるように言った。


───ついに到着、か。
俺は静かにドアを開け、ミラノの地面を踏みしめた。


荷台にいる三人に無言で合図をして、奴らを降ろす。


&nowiki(){・・・}コイツらは本当によくできた奴らだ。
俺がコイツらぐらいの時、何ができる人間だっただろうか。

ロッソやイザベラの頃には、大人に対して無意味に突っ張って、「不作為」を貫いていた。
アラゴスタの頃なんか記憶にもない。たぶん自分で何をしているかも分からない、動物みたいな子供だったのだろう。


今の俺は・・・どうだ?


あの時から、変わっているんだろうか?
人間として、何も成長せずに生きてきたなんてこと・・・ないだろうか?


ビアンコ「・・・・・・」

ヴェルデ「こっちだ」

ヴェルデの一言で、俺は思考の苦しみから解放された。


だいぶ明るさを増してきた空の下、俺達は息をひそめて路地を歩いた。

俺達が一歩を進める度に、決戦の場所も近づいてくる・・・


ここまで来たんだ。ケジメはつけてやるぜ・・・ 

歩き出してから間もなく、見覚えのある人影が前方に立っていた。

───ギャングの親玉、ジョルノ・ジョバァーナだ。
他にも、ソイツの側近、グイード・ミスタや子分たちの姿も見える。


ヴェルデ「おはようございます」


こんな時でも挨拶する必要があるとは、ギャングの世界はケッタイなもんだ。
いや・・・挨拶くらいは当たり前か、礼儀だもんな。


ジョルノ「おはようございます、みなさん。“無事に辿り着けた”ようですね」

ロッソ「やはり・・・そちらも“敵”の襲撃を・・・?」

ミスタ「あぁ、まぁな。ま、百戦錬磨のオレたちにとっちゃ他愛もねぇことだったぜ」


ヴェルデ以外が一般ピープルの俺らにすら何人も襲ってきたっつーのに・・・
大将首のある向こうのチームには、一体どんな野郎どもが襲来したんだろうか?


ヴェルデ「・・・夜行列車で来るはずのチームはまだ来ていないようですね」

ミスタ「・・・・・・」


ジョルノ「彼らとは、連絡が取れません。・・・ないことを願いますが、全滅した可能性はあります」


「・・・!!」


アラゴスタ「・・・」

イザベラ「・・・・・・」


クソッ・・・
俺たちから望んで来たのだからフォローはできねぇが・・・

コイツらにとっては、ちと刺激が強すぎるぜ・・・ 

ヴェルデ「そうですか・・・」

ヴェルデはほんの少し瞼を伏せたが、すぐにそれを開き直し、言葉を続けた。

ヴェルデ「では、一応これで全員揃ったことになりますね。
    参りましょうボス。のんびりしてはいられない」

ジョルノ「そうですね」

ビアンコ「・・・・・・」


わかるぜヴェルデ、おめぇがツラいのはよくわかる。
しかし大丈夫なのか? このまま突き進んじまって・・・予定ってモンがあったんじゃあねぇのか?

俺は少し心配になった。
だがボスが同意しているならそれでいいだろう、と自分を諭してやった。



ビアンコ「・・・ん?」

向こうの道路に、チラッと人影が見えた。


男が二人。
同じ黒いコートを着て、お互いベッタリとくっついて歩いている。


ビアンコ(おえっ・・・)

こんな時に限って・・・調子が狂っちまうぜ。

他の奴らは気づいてないみたいだ。
いつもなら笑いのネタにするところだったが、今はもう冗談は通じなくなっている頃合いだ。

だから俺は何も言わなかった。




全員で少し歩いた先には、赤レンガで造られた古い建物がそびえていた。

イザベラ「『サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会』・・・」 

ジョルノ「その通り。かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』がある建物です。
    情報によれば、敵のアジトはこの付近にある・・・みなさんにはここから、二手に分かれて“配備”についてもらいます」

ロッソ「ここで・・・二手に、ですか?」

ロッソが物憂げに喋りだした。

ジョルノ「何か問題がありますか?」

ロッソ「その“アジト”の中に、一体どれほど敵が居るか不安で・・・戦力を分散させていいんでしょうか?」

ジョルノ「それは我々にも分からない。しかし表と裏の出入口から『挟み撃ち』にするのは、一般的な戦法といえます」

ロッソ「・・・・・・」


??「分け方はどうするんですかい? 既にこっちの駒は減らされているが」

ガタイのいい子分の一人がボスに尋ねた。

ジョルノ「そうですね・・・正面から攻めこむのは、僕とお前たち二人・・・『ビオンド』と『リモーネ』、
    それとロッソとビアンコ。この五人が担当しましょう。
    ミスタとヴェルデ、それにイザベラとアラゴスタは、裏口で待機し、敵の逃げ道を塞いでください」

ヴェルデ「了解しました」

ロッソ「・・・・・・」


もうロッソは喋らなくなっていた。

&nowiki(){・・・}どうした、今更になってビビり始めたのか?

大丈夫だ。俺もだからよ。


ジョルノ「では、参りましょう。お互いトランシーバーで連絡をとって・・・合図と同時に突入です。
    そして教祖と、部隊の人間たちの寝首を掻きます。
    間違いなく、向こうは何らかの対策をとっている・・・くれぐれも気をつけてください」

アラゴスタ「・・・」

イザベラ「・・・」

ロッソ「・・・!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


ヴェルデ「お前たち・・・幸運を祈る」

そして、俺達はその場で分かれたのであった。 

俺達のグループは、表から乗り込んでブッ叩くほうの役割だ。
それだけ重大な任務を任されたら、嫌でも全員の表情は堅くなる。

周りに注意しながら、俺達は素早くアジトの正面へと向かう。


グリージョとの間に“壁”を創りやがったその責任・・・
今こそ取ってもらうぜ・・・


ジョルノ「ここです・・・」

アジトとやらは、庭と門のあるデカイ一軒家のような外観だった。

ビオンド「フゥン、俺が想像してた『秘密基地』みたいなのたぁ違かったか」

子分の一人が言った。
俺も同じ意見だった。

リモーネ「黙ってろビオンド。ここからは戦争なんだ」

もう片方の子分が凄みを効かせて言った。
&nowiki(){・・・}うっかり賛成を口に出さないでよかったぜ。


ジョルノ「向こうの準備が完了したら連絡が来ます。そのあと・・・突撃です。
    あと、ロッソとビアンコ・・・」

ロッソ「はい・・・」

ジョルノ「あなた方はまずは、我々の後についてきてください。建物の構造は把握していますから」

ロッソ「・・・・・・」


ビビるんじゃあねぇよ・・・俺たちの意思でここまで来たんだろう?
迷うことはねぇ・・・

俺たちは・・・


キイィィィィィ~~~~


クソッ、耳鳴りがしやがるぜ・・・
鼻血とかしゃっくりと同じでタイミングが悪いんだよ、まったく・・・ 

「準備OKだ。そっちはどうだ?」

トランシーバーから声が聞こえた。
ボスの側近・ミスタの声だ。

ジョルノ「問題ありません。では10秒のカウントの後に突入します。10・・・」


おいおい、もう突入かよ!
やべぇな・・・心の準備ができてねぇぞ・・・


キイィィィィィ~~~

ジョルノ「8・・・7・・・」

イィィィィィ~~~


チッ! うっせぇなァ耳鳴り! 早く治まりやがれ!

後ろから聞こえる(ように感じる)耳鳴りに煩わしさを覚え、俺は軽く振り返った。

誰もいない。
はいはい、後方異状ナシだ。とっととカタをつけてやるぜ・・・

そう思い、視線を戻した俺は、全身をいっぺんに殴られたような衝撃を受けた。


ビアンコ「な・・・なにィィィッ!!?」


前方に、“誰もいない”・・・

ボスも、ロッソも、子分たちも、誰もいねぇッ!


ビアンコ「う・・・嘘だッ! まだカウントはゼロになってねぇはずだッ! “ほんの少し振り向いただけなのに”ッ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


心臓が激しく脈動した。
冷や汗がダクダク流れた。

ビアンコ「何よりもよォ~・・・“門がまだ開いてねぇ”ッ! 鍵すらかかったままだッ!
    つまり、まだ“突撃してねぇ”! その前に『消された』んだッ!」

もしかして、今の耳鳴りは・・・

ビアンコ「敵の“スタンド攻撃”がもう始まっている、だとォ~~~ッ!?」 


考えるより先に、身体が動いていた。

ダッ!


ビアンコ「冗談じゃあねぇぞ・・・ッ!」

どこかに本体がいるに違いねぇ・・・今すぐに見つけ出して叩き潰してやらねぇと・・・

ビアンコ(全滅しちまう・・・!)

ここまで来たっつーのに、それだけはご免だぜ!


『エイフェックス・ツイン』を出して警戒しつつ、徹底的に周囲を捜し回った。

しかし、街の中には俺のほかに人影一つ存在しない。
嫌になるほど静かなミラノの空気が、俺の不安を煽った。


ビアンコ「どこだァ━━━━ッ! 出てきやがれェェェ━━━━━ッ!!」

声の限りに叫んでやったが、冬の冷たい風に吸収されるように消えただけだった。


ビアンコ「チクショオオオ━━━━ッ!!」


───そのときだった。俺の視界に、ようやく人の姿が映し出されたのは。

ビアンコ「!」


そこにはチンピラくさい男たちが三人いた。

そのうち二人は地面に大の字にブッ倒れていて、残る一人はうずくまって震えていた。
&nowiki(){・・・}明らかに正常じゃあねぇ。


ビアンコ「おいてめぇ・・・」

うずくまっている男に、俺は話しかけた。


「・・・んあぁぁぁぁぁ~~~~~~ッ!!」

ビアンコ「!!」

いきなり、男は俺に向かって走ってきた。


バイン!

「ひでぶッ!」


俺が展開した『壁』にブチ当たり、男は苦しみ悶えた。

ビアンコ「動くんじゃあねぇ! 何があったのか答えろッ!」

「ぐふ・・・た、助けてくれェ~、死ぬほど怖ぇよォ~!」

ビアンコ「?」


この男、何かに“怯えて”やがる・・・

「なんか・・・なんか二人組のゲイみてぇな男が、いきなり瞬間移動して・・・そこの奴が動けなくなって・・・ああああッ!」


二人組・・・?

まさか・・・あの時に見た・・・!


ビアンコ「!」ダッ

「待って! 置いてかないでくれェェェェ~ッ!」


恐らく“あの”二人組・・・
今の言われ方だと、きっとスタンド使いだ。
ひょっとしたら“あいつらが”・・・


俺があの二人組を見つけた場所まで、全速力で駆け出した。 

&nowiki(){* *}


ジョルノ「駄目だッ! まだ討ち入るなッ! “一旦中止だ”ッ!」


リモーネ「馬鹿な・・・ッ!」

ビオンド「こいつァやべぇな・・・」

ロッソ「・・・!」


信じられない・・・
“ビアンコが消えた”。

誰も消えた瞬間を見ていない。
カウントダウンの最中、“ほんの一瞬の間に”いなくなっていた。



あ・・・頭がクラクラする。

“絶望”。

俺の心の中は、その感情だけでいっぱいだった。


縁起でもない。
こんなこと思っちゃ駄目だ。


ロッソ「『ガーネット・クロウ』・・・!」ズギュウゥ!

無理矢理自分の感情を矯正して、乱れる呼吸を整えた。
だがこの効果も、いつまで持つだろうか・・・


ビオンド「クソッ・・・! 俺達の戦力をちょっとずつ削っていくつもりかッ!」

リモーネ「いや、まだだッ! アイツはまだ生きている可能性もあるッ!」

ロッソ「・・・・・・」

そう信じたい・・・
いや、そう信じている・・・ッ!


ジョルノ「このままでは自分たちも危険だ・・・早く行動をとらなくては・・・」

ロッソ「あの・・・!」

俺は思い切ってジョルノに話しかけた。


ジョルノ「なんですか?」

ロッソ「俺、ビアンコさんを捜しに行きます! 俺の『ガーネット・クロウ』なら、“感情”を頼りに捜し出せるッ!」

ビオンド「なんだってェ!?」

部下のビオンドが大きな声を出した。

ビオンド「なに言ってやがんだ! ミイラ取りがミイラになるぞッ!
    俺たちにゃあ“予定”ってもんがあったんだッ! これ以上“予定”をブッ壊したら全員お陀仏だッ!!」

ジョルノ「いや、ビオンド・・・我々には初めから“予定”なんてものは無かった・・・」

ビオンド「な!?」


ジョルノの言葉に、全員が唖然とした。 

ジョルノ「確かに『予定』を立てることは大切だ。そうしなければ“道筋”は見えないから。
    しかし、人間の作る“道筋”など脆弱なものだ。現在のように、他人の邪魔が入れば一瞬で崩壊する。
    ・・・本当に信じるべきなのは神が創る“道筋”――――『運命』だ。『運命』は誰にも見えない、しかし“不変”だ。
    だから・・・『運命』を信じて、『いま、ここで出来ること』をやりましょう」


ビオンド「ボス・・・」

ジョルノ「ロッソに行かせましょう・・・ビオンド、リモーネ、このまま“三人”で突撃します。」

ビオンド「ま、マジですか!?」

リモーネ「構わない。参りましょうボス!」

ロッソ「・・・!」


ジョルノ・ジョバーナは・・・
輝いていた。初めて会ったあの日と同じように。


ジョルノ「ロッソ、これを持っていって・・・」

ジョルノは俺に、大きめのブローチを手渡した。
彼がいつも胸につけている、てんとう虫のブローチだった。

生きているかのように、わずかに動いている。

ジョルノ「身に危険が迫ったときは、これを放して僕を呼んでください。
    さぁ早く行って。時間がありません!」

ロッソ「・・・わかりました!」


俺は全力で駆け出した。

ビアンコはまだ死んでいない。
いつも近くで感じていた彼の感情が、どこかにまだ残っていたからだ。


&nowiki(){* *}


ビアンコ「ハァ、ハァ・・・」

どのくらい走っただろうか。
ミラノの街は今日が初めてだが、まるで故郷ネアポリスの箱庭のように、走って走って走り回った。

ビアンコ「このあたりに来てるはずだ・・・」

立ち止まって360度を見回した。
こんな都会に人っ子ひとりいねぇとは・・・ツイてねぇ。


俺が再び走りだそうとしたときだった。 

ビアンコ「・・・!」

いた。

あの二人だ。


金髪のほうが酒屋の袋を手に下げていること以外、まったく変わらない体勢で歩いていた。

『教団』の奴らだろうか?
いや、そうでなかったとしても、アイツらは何らかの“鍵”を握ってやがる・・・
俺の“直感”はそう告げていた。

ビアンコ(いまの俺に出来ることはこれだけなんだ・・・)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


俺は息をひそめて奴らの行方を見続けた。


二人は路地裏に入っていく。
俺も少し遅れて、路地裏の手前まで移動した。

周囲に気を配りながら、路地の中を覗きこんだ。


ソ~ッ

路地の奥には、教会風の建造物が狭っ苦しそうに建っていた。

ビアンコ(家じゃあねぇな・・・仕事場か?)


男たちは玄関のドアを開けっ放しにしたまま、その中にヅカヅカと入っていった。

ビアンコ「・・・」

俺は迷わず玄関に向かう。

扉の上を見ると、そこには『Speranza d'Iddio』の文字があった。


ビアンコ(やっぱ『教団』だったんじゃねぇか・・・! 
    ・・・だったら、俺たちが押し入ろうとした建物は一体・・・?)

ふとした疑問に不安を抱きつつ、建物へ潜入しようとした・・・
だが入る直前に、俺は驚いて足を止めてしまった。 

??「なぁ~んだお前かよ。こっちとしては『ジョルノ・ジョバァーナ』に来て欲しかったのに・・・」

ビアンコ「な・・・ッ!」


さっきココに入っていった、金髪の男だった。

待ち伏せしてやがるとは・・・気づかれてたのか・・・

??「アイツのスタンドは不安定だからよォ~、誰に当たるか分かんねぇんだよなァ~・・・
  でも、ま、別にいいか。そうだろ? 『教祖』サンよ」



ビアンコ「・・・え?」


ドギャンッ!

ビアンコ「・・・・・・」

「あぁ、構わぬ。“この際誰が来ても結果は同じだ”・・・」

ビアンコ「・・・がはっ」


いつの間にか・・・後ろに人が・・・


『教祖サン』だと?
なぜだ? “なぜここにいるんだ”・・・?


そんなことを深く考える余裕は無かった。
後ろに立つ「教祖」のスタンドの手刀が、俺の腹に槍のように刺さっていたからだ。


教祖「ビアンコといったかな? ともあれ、ようこそ我らが『教団本部』へ・・・」

ビアンコ「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


&nowiki(){* *}


ミスタ「何が起こったっつーんだよ! まったく!」

イザベラ「・・・」

アラゴスタ「・・・」


ここにいる全員が焦燥していた。

ボスから突然の「中止」命令・・・
本当に何が起こったんだ? 

イザベラ「もしかして・・・既に『敵』の攻撃を・・・!」


アラゴスタ「ゼェ・・・ゼェ・・・」

アラゴスタの息が荒くなっていた。
絶対的な「恐怖」からだろうか。

&nowiki(){・・・}お前らしくないぞ。お前は「宇宙」を目指すんだろう?
こんな程度で脅えてどうする・・・?
&nowiki(){・・・}まぁ、12歳の子供に言っていられるような場合ではないが。


ミスタ「大丈夫だ、 俺たちが守ってやる! ・・・だがそのかわりに手伝えよ」

イザベラ「そんなことじゃあない・・・ロッソと・・・ビアンコさんが、心配で・・・」

ミスタ「・・・・・・」

ミスタも黙ってしまった。
俺もずっと黙っていた。


俺たちはこれから先、どうなるんだ?

万一、この作戦が失敗してしまったら?


アラゴスタ「ぜんめ・・・つ・・・」

ミスタ「おい小僧ッ!」

ミスタがすぐにアラゴスタの言葉を遮った。

ミスタ「そんな言葉は使う必要がねぇんだ!
   俺たちギャングの世界じゃあな、そんなことを思った時点で既に“負けている”んだぜ!
   だから常に勝つことだけを考えろ!」

アラゴスタ「・・・」


そのときだった。

『ご心配かけました。“大丈夫”です。今から突撃します』

「!」


トランシーバーから声が聞こえた。

ジョルノ・ジョバァーナの声。
俺たちにとっては神の福音とも呼べる希望の声だった。

アラゴスタは幾分落ち着いたのか、表情が少し穏やかになっていた。
イザベラも、俺が想像もしたことがないほどの凛々しい目だった。


『問答無用。このまま一気に突入します。準備はいいですか?』

ミスタ「おうっ」

ミスタは一言だけで応える。


『それでは・・・5、4、3、2、1、GO!』

急なカウントだったが、全員が乱れることなく駆け出していた。

ダッ!


バァ━━━━ン!!






&nowiki(){・・・・・・} 


ミスタ「おい・・・コイツは“どういうことだ”・・・?」

───建物の中は、明らかに“様子がおかしかった”。


アラゴスタ「なんで・・・」

ジョルノ『なぜだッ!? なぜ“誰もいない”んだッ!』

そう、教団の本部であるはずのこの建物は、「無人」だったのだ。
どの場所も、どの部屋も。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ミスタ「アイツら仲良く旅行にでも出かけてんのか!? そんな訳ないだろ?」

イザベラ「私たちを警戒して、本拠地を移されたのでは!?」

ヴェルデ「いや、それはない・・・情報では、奴らの本部はここ以外にありえないんだ・・・!
    緯度・経度の関係から神聖な位置にあるらしい・・・」


そのとき、俺はなんとなく“分かりかけてきた”。


ヴェルデ(ちょっと待て・・・まさか“アイツ”・・・!)


ミスタ「! クッ、チクショォォォォォ━━━━━━ッ!!」ガンッ!

ミスタが突然、壁を殴った。

ヴェルデ「ッ! どうしたんですか!?」

ミスタ「今、時計を見たら・・・
   4時44分だったぜ・・・」




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