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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】第2話 深紅の目覚め - (2009/12/23 (水) 01:01:17) のソース

&sizex(5){第2話 深紅の目覚め}





イタリア某所


ホールはほぼ満員だった。
聴衆は「彼」の演説が始まるのが待ちきれない様子である。

一枚のパンフレットに書かれた演題は「神の満足なさる世界とは」。

ブザーが鳴り、ホールの照明が落ちる。

一分ほど経った時、ステージが照らされ、「彼」が姿を現した。
万雷の拍手が巻き起こる。

「彼」はステージの上手から中央の演台に向かって、ゆっくりと歩いていく。
やがてマイクの前にたどり着くと、聴衆に向かって一礼し、挨拶をした。

そして「彼」は、実に紳士的な、人を惹きつける口調で、こう話し始めた。

「皆さんは、『善人』と『偽善者』の違いは、何だと思いますか?」 


学校にて  PM 3:30頃


あれ以来、俺はなかなか眠れなかった。

「スタンド」という、科学では到底説明できそうにない存在のことだ。

何故俺には見えて、友人には見えなかったんだ?
ちなみにその友人はあの体験でノイローゼになり、ずっと学校に来ていないのだが・・・

調べても調べても、一向に情報は得られない。

正直、もうそんなことなど忘れて、勉強に集中したかった。
だが“あんなもの”を見てしまっては、忘れることなど不可能だった。

授業がすべて終わり、俺は学校を後にする。

いつものように、俺は少し斜め下を向いた状態で歩きながら校門を出た。

&nowiki(){・・・人影に気付く。}
俺はゆっくりとその方向を見た。

「・・・!! うわっ!」

俺は思わず叫んでしまった。
無理もないと思う。なぜならそこにいたのは・・・

「よっ、元気か?」

あのビアンコだったからだ。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・

あれだけ重傷だったはずなのに、すっかり回復してしまっている。
俺は早足でその場を去ろうとした。

「いや、ビビらなくていいんだ、もう金を取ったりはしねぇ!
 そんな下らないことはもうしないって決めたんだ!」 

ビアンコの言葉は嘘には聞こえなかった。
だがつい数日前、俺を人質に取ろうとした男と、そう易々と会話していいものなのだろうか・・・

「おめぇ・・・ロッソ、だっけか? どうしてもおめぇと友達に謝っておきたかったんだ。
 学校は調べたんだがよ、住所までは分からねえから、友達んとこに案内してくれねぇか?」

「え?・・・あぁ、はい」

俺はなんとなく、返事をしてしまった。




ネアポリス市街  PM 4:00頃

友人の家までは遠い。
俺は寮住まいなので家に帰る心配はしなくていいのだが・・・

「この男」とずっと歩き続けるのは、かなり神経にこたえた。

「俺もよォ~、一介のギター弾きとして、また一から始めようと思ってんのよ」

「そうですか・・・」

しなくてもいい心配であるのは分かっている。
ビアンコはすっかり改心した様子だ。

だが俺は、彼のことをどうしても受け付けることが出来なかった。
恐怖ではなく、何か別の理由があるのだろうか・・・

&nowiki(){・・・そういえば・・・}

俺が気になって仕方がなかったこと、スタンドについて、彼はどれだけ知っているのだろう。
俺にとって(距離的な意味で)一番身近な「スタンド使い」である。 

俺は勇気を出して彼に問いかけてみた。

「ビアンコさん・・・」

「ん?」

「急な質問ですけど、『スタンド』って、一体何なんですか?」

ビアンコは数秒黙っていたが、その後の返事は・・・

「さぁ~な、さっぱり分からん」

「・・・・・・」

「なんだ、気になってたのか?」

「はい」

「俺もよォ~、急に使えるようになったもんだから、どんなのかって言われても分かんねえんだよ。
 『スタンド』って名前と、一人一能力を持つってことは・・・俺のダチから聞いてたんだ」

「えっ、友人さんも『スタンド使い』なんですか?」

「あぁ、まぁそうだ・・・」

ビアンコが少し物憂げな表情になったが、気にしたら負けだと思い、俺は言及しなかった。
しかしその後すぐ、ビアンコの方から話があがった。

「そうだ、スタンドが見えるんならよ、おめぇもスタンドが使えるってことだぜ」

「え、そうなんですか?」

「あぁ、スタンドっつうのはスタンド使いにしか見えない。
 つまりおめぇがスタンドを使えないはずがねえんだよ!」

「・・・・・・」

俺がスタンド使い?
俺の場合、てっきり霊感が強いからスタンドが見えるのかと思っていたが・・・

スタンドの謎は、ますます深くなるばかりだった。 


ネアポリスの街はずれ PM 4:20



俺たちはネアポリスの市街を抜け、人通りの少ない道を歩いている。
友人の家まではもう少し先だ。

「不思議なんだよなぁ~。あの時おめぇを掴んだ瞬間から、急に戦う気が失せたんだよ。
 でも俺その時ヤケクソだったからよ、身代金なんか請求しちまったけどさ」

「へぇ~・・・」

俺は聴いているのかいないのか分からない返事をする。

「もしかしたら、それがおめぇのスタンド能力かもしれねえぜ」

「えっ、何がですか?」

「・・・もういいわ!」

ビアンコとはもうだいぶ打ち解けてきた。
&nowiki(){・・・}のはいいが、彼は喋りっぱなしでうるさい人間であることが判明した。

いちいち聞くのが面倒臭いため、こうやって聞き流してしまうことが多くなってきた。
俺が聞き上手でないだけなのだろうか・・・

今日初めて彼と会った時の、あの拒絶感の原因は、もしかしたらビアンコのこの性格にあったのかもしれない・・・

「いや、すみませんでした」

「ったくよォ、年上の話はキチンと聴かなきゃ駄目だろうが!
 礼儀がなってないぜ!」 

ビアンコがそう言った時だった。

俺たちがいる10m程先の路地裏から、一人の男が飛び出してきた。
彼は・・・血にまみれていた。

「うっ!」

俺は思わず目を背けた。

「おい、なんだありゃあ!」

ビアンコも驚いている様子だ。

「ギャングの抗争か何かでしょう、知らないふりして行きましょうよ!」

「いや違う、よく見ろ!」

正面に目を向けた。もう男はいない。

「今の奴・・・“『スタンド』を出していた”・・・
 反対側の路地裏に逃げた。追うぞロッソ!」

「え、えぇぇぇぇ~~~っ!?」

ビアンコは男が逃げた路地裏に全力疾走した。

俺は迷った。ビアンコに付いていくか、踵を返して逃げるか・・・

頭の中は800%後者を選んでいた。

だが・・・

ビアンコに付いた紐に引っ張られるように、俺の足は路地裏の方向に走っていってしまった。

俺は、弱気な自分を責めた。 

郊外の路地裏といっても、狭くて汚い感じはない。
むしろ一つの小道のように、実に歩きやすい場所であった。

だが今は、そんなことは言えない状況である。

ビアンコは、路地裏に入って5m程の所で停止した。
俺もその手前で止まり、ビアンコの先にあるものを恐る恐る見た。

さっきの男がいる・・・
全身が血にまみれ、歩くのもやっとの状態にすら見える。
ビアンコの言っていたとおり、彼はスタンドを出していた。
見た目はまるで陸軍兵士のような、ほっそりとしたスタンドだった。

そしてその男の、さらに先には・・・
男と女が、ペアのように並んで立っていた。
その男もスタンドを出している。女の方はスタンドを出していないようだ。

「逃げたって無駄よ。
 あなたの首をどっちの手柄にするか決めるまで、おとなしく待ってなさい」

ペアの片方の女が言った。
やはり男は、この男女に襲われていたようだ。

「『ロベルト・ヴェルデ』・・・助っ人でも呼んだか」

もう片方の男が、ビアンコと俺の存在に気付いてしまった。

「! お前達、ここは危険だ! 今すぐ逃げろッ!」

ロベルト・ヴェルデと呼ばれた血だらけの男は、振り返ると俺たちに忠告した。 

だがビアンコは、俺の一番言って欲しくなかった台詞を言ってしまった。

「い~やっ、逃げるわけにはいかねえ。
 同じ『スタンド使い』同士の喧嘩、見過ごすわけにはいかねえッ!
 『エイフェックス・ツイン』ッ!!」

ビアンコが自らのスタンドを解き放つ。

「何ッ! スタンド使いなのかッ!?」

ヴェルデは驚いている。

「2対2よ・・・不本意だけど、これでフェアな戦いになったんじゃない? アランチョ」

「『敵』に味方するものは全て殺れとの命令だ・・・
 誰であろうと全力で潰すんだぞ、チレストロ」

「了解」

(え? え? なんか俺たちが勝手に敵にされちゃってる?
 何これ!? どういうこと!?)

どうしようもなく混乱していた俺の頭は、突然の轟音によって正気に戻った。

ズゴオォォォォォォン!!

轟音と共に地面が瓦礫と化し、砂埃が舞い上がる。

何が起こったのか分からない俺は、元の広い道路へ闇雲に逃れた。

「ロッソ、逃げんな!」

後ろでビアンコの声がしたが、気にしたら負けだ。


あぁ、あのジョルノという少年に注意されたばかりなのに・・・
無闇に路地裏には入るなと・・・
路地裏は、本当に危険がいっぱいだ。 

俺は広い道路から、砂埃が出ている路地裏の方を見た。

&nowiki(){・・・周りに人はいない。}
どんな人でもいいから泣いて助けを乞いたかったが、それができない・・・

ドシャアァッ!

その時、突然何かが路地裏から吹っ飛んできた。
&nowiki(){・・・ビアンコだった。}

「だっ、大丈夫ですか!?」

俺は彼の元に駆け寄る。
かなり強い打撃を食らったらしく、口から血を流している。

「何なんだあの女ッ・・・!
 スタンドでもねえのに、とんでもねえ速さだ・・・
 『壁』を作る前に蹴りを食らっちまった!」

ビアンコはゆっくりと起きあがった。

スタンドでもないのに、とんでもない速さ?
一体どういう事だ?

「そうだ、あの人、『ヴェルデ』さんはどうなんですか?」

「知らねえよ・・・やばい、“来る”ッ!!」

「ハッ!」

シュバッ!!

俺とビアンコは、間一髪の所で飛んで『それ』をかわした。

(今のはッ!?)

謎の物体が飛んでいった方向を見る。何もない。

「ロッソ! 後ろだ!」

「!」

俺は後ろを振り向いた。
道路の向こう側から迫ってきたのは・・・

「うわぁッ!」

再び俺は横に飛んで逃れる。ビアンコもギリギリでかわした。 

ズシュウッ!!

謎の物体が、特急列車のようなスピードで走り抜けていった。

「あれは何なんですか!」

俺は焦りながらビアンコに尋ねる。

「あの『女』だよ! よく見ろ!」

「えっ!?」

道路の向こうで急激なUターンをし、再びこちらに向かおうとしている物体。
よく見るとそれは人間であり、その顔は紛れもなく、先程見たチレストロという女性であることが分かった。

「また来るぞ!」

ビアンコが注意を促す。
しかし・・・

ズガアァァァァッ!!

チレストロは地面から凄まじい火花をあげてブレーキをかけ、俺たちの近くに停止した。

「ごめんね坊や。私の狙いはその男なのよ」

「一体どういう事だ? そのアホみてえなスピードの正体は?」

ビアンコがチレストロに問いかけた。

「ウフフッ、あなたスタンドの事、あんまり知らないのね。
 答えはこの『服』にあるのよ」

「!?」

俺とビアンコは驚愕した。
彼女が着ている、ダイビングスーツのようなピッチリとした服・・・
これに一体何の秘密があるのだろうか?

「これが私のスタンド、『アーケイディア』なのよ」

「何だって!?」

俺は思わず声を上げてしまった。 

「『服のスタンド』だとぉ~っ? んなバカなッ!」

「そういう訳じゃあないの。
 『アーケイディア』は“装着型”。言わば『着るスタンド』。その能力は・・・」

チレストロは一歩足を踏み出したかと思うと・・・

ズドン!!

「ぐふッ!」

一瞬だった。
チレストロは猛スピードで前に滑るように動き、数メートル離れていたはずのビアンコを蹴り飛ばしたのだ。

「ビアンコさん!」

ドゴオォ!!

ビアンコは低く飛んでいき、壁に激突して張り付いた。

「能力は“摩擦”を操ること!
 私は足の裏の摩擦をゼロにして、猛スピードで滑ってたのよ」

「・・・!」

なんて恐ろしいスタンドなんだ・・・
スピードだけでなく、パワーも間違いなく桁外れに向上している。
あのスタンドを装着しただけでッ!

ビアンコは地面に倒れた。
俺が近寄ると、既に頭からも血を出し、起きあがることも出来ない状態だった。
確実に骨も何本か折れている。

「坊や、この男の弟か誰かかしら?
 ごめんね。邪魔する人は全員殺すことが掟なのよ。私たちに喧嘩を売っちゃった以上、もうやられるしかないの。
 諦めて逃げてくれない?」

チレストロは冷酷な言葉を投げかけた。 

「ロッソ・・・」

不意に、ビアンコが俺に話しかけてきた。

「俺があんなバカな真似をしちまったせいでこんな事になった・・・
 俺が悪いに決まってる・・・おめぇは逃げてくれ・・・」

「そんな・・・」

俺は逃げられなかった。

頭の中は逃げたい気持ちでいっぱいだった。しかし身体が、この場から離れることを拒んでいた。

俺は、弱気な自分を責めた。


その時、路地裏の中から人影が現れた。
あのヴェルデという男であった。

「ハァ、ハァ、お前達大丈夫か?」

息は切らしているものの、見た状態ほど苦しそうにしているわけではなかった。

「あなたこそ、大丈夫ですか?」

俺はとりあえず質問してみる。

「俺は大丈夫だ。“この血は俺の血じゃあない”。
 ちと厄介だがな」

「えっ?」

聞き返す暇もなく、新たな人影が現れる。
もう一人の刺客、アランチョという男だった。

「しぶとい奴だ・・・おとなしく斬られろ」

そう言われたヴェルデは、アランチョとチレストロの方を向いていった。

「この二人は関係のない人間だ、手を出すのはやめろ!」 

アランチョは答えた。

「少年は殺さない。だが、その男は我々に宣戦布告した。
 お前の味方であることは明白なのだ」

「そうはさせないッ!」

ヴェルデが力強く反論する。

チレストロが小さな声でアランチョに言った。

「それで・・・私とあなた、どっちが殺るの?」

「死にそうなのが一匹と、大したことのないのが一匹・・・
 俺一人で十分だ」

「分かった、じゃ私は見てるわね」

アランチョがヴェルデにゆっくりと歩み寄る。

「お前の貧弱なスタンドで、先に攻撃することを許すよ」

アランチョが挑発した。

「それはどうも、俺のスタンドには“奥義”があるんだ」

「何?」

「いくぜ・・・『ウェポンズ・ベッド』!!」

ヴェルデが、あの兵士のようなスタンドを解き放った。

「そして“こいつ”をスタンドに持たせるッ!」

ヴェルデが上着の中に手を入れる。
そして背中の方から取り出したのは・・・

シャキン!

「に・・・日本刀だと!?」

「いくぜェ! テヤァッ!」

「ぬっ!」

ガキンッ!!

ヴェルデが取り出してスタンドに持たせた日本刀と、アランチョのスタンドの刃がぶつかりあった。 

「フッ、“奥義”と聞いて何かと思えば、ただの日本刀か・・・
 刀剣としての出来はいいかもしれんが、その使い手の実力は・・・
 俺の『キラー・スマイル』の敵ではないッ!」

ガガガガガガガガガガガガッ!!

二つのスタンドが持つ刃が高速に交差しあう。

「果たして・・・それはどうかな・・・アランチョさん」

ヴェルデが何やら余裕のある台詞を吐いた。

ガガガガガガガガガズビッ!

「ぐッ!」

ヴェルデのスタンドが持つ日本刀が、一瞬アランチョの右肩をかすめた。

アランチョはヴェルデとの距離をとる。

「あなどっていたな・・・これだけのスピードが出せるとは」

「この日本刀は、現代の剣豪と言われた日本人が使っていた奴なんだぜ。
 そんじょそこらの剣とは訳が違うんだ」

「・・・『持った武器が記憶する、最も優れた使い手の動きを体現するスタンド』か・・・
 なめやがって・・・」

ブシュッ!

アランチョのスタンドは、本体の傷口に向かって血煙のようなものを吹き出した。

「だが、俺の『キラー・スマイル』の血によってお前のスタンドの動きが止まれば、
 その場で俺の勝ちが決定するぜ・・・」 

そうか・・・
アランチョのスタンド能力は、あの血のような体液で「固める」能力・・・

今傷口に血を吹きかけたのも傷口を「固める」ため・・・

そしてヴェルデが全身につけた血も、このスタンドの血だということが分かる。
足の先までは付いていないため、まだ歩くことはできるが、上半身の自由は奪われているだろう。
スタンドの方は大丈夫そうだが。

「お前の足に何度も血をぶっかけて動きを封じようとしたが・・・
 お前のその身軽さだけは評価するよ」

「初めて見たときから、その“血”は直感的にヤバそうだったからな」

「ハッ・・・だが今度は・・・
 そうはいかないぜ! 『キラー・スマイル』ッ!」

「うぉっ!」

ガギン!

不気味な笑い顔をたたえたアランチョのスタンドが、突然斬りかかった。

ギリギリ・・・

「こうやって剣圧をかける体勢になれば・・・
 苦労せずお前のスタンドに“血”を浴びせられるッ!」

ブシュゥ!

「! しまったッ!」

まずい!
ヴェルデのスタンドが血を浴びてしまった。

『ウェポンズ・ベッド』は、敵の刃を受け止めた状態のまま動かなくなっている。 

「ハハハッ! いくら最強の日本刀があろうと! 動きが封じられれば全て無力!
 さぁ、“裁きの時”だ、死ね! ヴェルデ!」

終わったッ!

『キラー・スマイル』の刃が横一文字に振られる。
俺は目を閉じた。


ガキィブジャッ!!


「グワァァァァァァァァァァァァ!!!」

突如アランチョの悲鳴が響きわたった。

何が起きたんだ!?
俺がそう思った時、自分のすぐ近くでわずかに動く存在に気が付いた。

「『エイフェックス・・・ツイン・・・』」

「ビ・・・ビアンコさん!」

重傷で気を失いかけていたビアンコがスタンドを出していた。
「衛星」が音もなくヴェルデの両脇に接近して、いつの間にか壁を張っていたのだ。

「ぐ・・・グフゥ・・・」

攻撃を跳ね返され、腹を深く切ったアランチョは、その場に膝をついた。

「お前の・・・存在を・・・すっかり忘れていたよ。
 『攻撃を跳ね返す』能力なのか・・・クソ・・・」

「アランチョ、大丈夫!?」

チレストロが声をかける。

「あぁ大丈夫だ。これで・・・いい」

ブシュウゥゥッ!!

『キラー・スマイル』が再び血を吹き、アランチョの傷を固めた。 

「先に狙うべきは・・・お前だった」

アランチョは立ち上がり、倒れているビアンコの所へゆっくりと歩き出す。

「や・・・やめろォォォォォッ!!」

ヴェルデが叫んだ。
だがアランチョは歩みを止めない。

あっと言う間にビアンコの目の前にたどり着く。
そこは俺の目の前でもある。

『エイフェックス・ツイン』は、既に消えていた。

「お前にも・・・“裁きの時”が来た・・・死ね」

『キラー・スマイル』は、今度は刃を縦にして、ビアンコに突き刺そうとした。

俺はそれを・・・近くで見届けるしかなかった・・・

ザクッ

「あ゛ぐ・・・」

刺されたのは・・・
ヴェルデだった。

「何ィ!?」

スタンドの動きが封じられているヴェルデは、ビアンコを救うため、自ら刃に飛び込んだのだ。

「・・・この野郎・・・
 まぁいいだろう、どちらが先でも」

『キラー・スマイル』はヴェルデから刃を引き抜いた。
ヴェルデは、もう動かない。

「こ・・・こんなこと・・・」

俺は信じられなかった。
今、目の前で起こっている光景が。

ヴェルデがやられた。
残るは、もはや虫の息のビアンコだけ。
他にいる人間は・・・俺だけだ。 

逃げたかった。

しかし、俺は逃げられなかった。

俺は、とことん弱気な自分を責めた。


何故だろう?
一人で逃げるのが孤独に感じるからだろうか?

いや、そうではない。

きっと、「運命」に逆らうのが嫌だからなのだ。

俺が今ここにいるのは、それは実に奇妙ではあるが、紛れもない正しい「運命」。
逃げることは、それに反する行為なのだ。

ならば、俺はこれからどうしたらいい?
何をすればいいんだ?


自問自答した答えがまだ出ないうちに、アランチョはスタンドの刃をビアンコに向ける。

「想像以上に苦労してしまったが・・・
 これで終わりだ!」

ビュン!


やるんだ。
俺がやるしかないんだ。


そう思ったとき、自然に俺は腕を伸ばしていた。
“その腕は、俺の腕ではなかった”。

ガシッ!

その腕は、刃がビアンコに当たるギリギリの所で、刃の背の部分を正確に掴んでいた。

「な・・・何ィ~~~ッ!?
 お前・・・お前もスタンド使いだったのかッ!?」

アランチョが驚愕した。

俺の肩のあたりから、深紅の腕が伸びていたのだ。

「スタンド・・・お、俺の・・・?」 

「へっ・・・ロッソ・・・
 俺の言った通りじゃねえか・・・」

ビアンコが微笑んだ。

「ウラァーーーッ!!」

バキン!

深紅の腕は勢いよく刃をへし折った。

「・・・新たなスタンド・・・だと?
 一人殺ったと思ったらまた一人・・・なめるなよ・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

アランチョは凄まじい剣幕で俺に迫る。

今の俺の心には、逃げたいなどという迷いの心は消えていた。
『今ある運命を受け入れる』。それほど心強いことが、他に存在する訳がない。
こんなに弱気な俺でも、運命は俺を見捨てないのだ・・・


俺は、スタンドの全てを解き放つ。

ズオォッ!

そこに、俺の“守護神”が現れた。

全身は赤と深紅で構成され、激しさと温もりが共存しているかのようだ。
そして胸には、宝石のように輝く心臓がむき出している。

アランチョの『キラー・スマイル』は、自らの血を固めて、新たな刃を作り出していた。

「関係の無い人間だと思っていたが、スタンドを出し、敵を助けたのならば話は違う・・・
 ここで死んで貰うぞ」

「来るなら来い・・・」

俺は、ごく自然にそんな言葉を口に出していた。 

「『キラー・スマイル』ッ!」

「ウラァーーーーーーッ!!」

ガスッバゴォ!!

「グバッ!」

俺が認識できるかできないかの一瞬だった。

俺のスタンドは振り下ろされた敵の刃を拳で弾き返し、さらに顔へ一撃を与えたのだ。

「バカなッ・・・! こいつ・・・速いッ!!」

アランチョは顔を血だらけにして驚愕している。

「アランチョ! 私も手伝うわ!」

チレストロがそう言った。
だが・・・

「“いや、いいッ! お前は見ていろッ!”」

アランチョの返事は、チレストロにとってあまりに意外なものだった。

「・・・え? 何言ってるのアランチョ!?」

「俺はこいつと・・・“今はタイマンでケリをつけたいんだ”ッ!」

「そんな・・・明らかに力の差が見えてるわッ! 無茶しないでッ!」

「クアァァァァァァ!!」

チレストロの言葉を無視し、アランチョは俺に突っ込んでくる。

「ウラァーーーーーーーッ!!」

ドゴォ!

「グゥッ・・・」

俺は敵の刃を冷静にかわし、ボディにストレートを叩き込んだ。

アランチョはよろけるが、まだ立っていられるようだ。

「アランチョ! あなたどうしちゃったの?」

チレストロが尋ねた。 

だが、アランチョはその質問をはねのける。

「うるさい! 俺は必ずこのガキをしとめるッ! この刃で!」

『キラー・スマイル』が再び刃を構えた。

次だ・・・次で終わらせよう・・・
俺はそう考えていた。

「このガキの首は・・・俺のモンだあぁぁぁッ!!」

再びアランチョが突っ込んできた。

今だ。
今こそ放とう。嵐のような連打(ラッシュ)を・・・!


「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
 ウラガーーーーーーーーーーーノ(暴風雨)!!!!」

ズドォーーーーーーーン!!

アランチョとそのスタンドは、道路の反対側に一直線に飛んでいき、建物の壁に穴を開けた。



「・・・・・・」



静寂が辺りを支配した。

「信じられない・・・」

その静寂を破ったのは、チレストロであった。

「アランチョがやられるなんて・・・
 何故? 何故彼はあんなことを言ったの?」

「『独占心』を強めたんですよ」

「・・・え?」

チレストロに聞かれた訳ではないが、全ての理由を知っている俺が説明をした。 

「最初に殴った時に『独占心』を強くしたため、彼は標的である俺を意地でも一人で倒そうとしたんです。
 そのおかげで、俺は安全に戦えた」

「一体・・・どういうことなの・・・?」

俺はチレストロのその問いにも答えた。

「スタンドが現れたときから、その能力がハッキリと自覚できたんです・・・
 俺のスタンド能力は、『人間の全ての感情を操ること』だということに」

「・・・!」

ドォーーーーン

「なんて・・・なんて厄介な能力・・・
 坊や、あなたは私たちの敵と認められたわ。
 “いつ、やられるか分からない”わよ・・・覚悟してなさい」

ズシュッ! バッ! バッ!

チレストロは、目にも止まらぬ速さでその場から消えてしまった。


「ロッソ・・・」

「ビアンコさん・・・」

「おめぇのスタンド・・・随分格好いいじゃあねえか・・・ヘヘッ」

「ヴェルデさんは・・・」

「大丈夫だ。こいつはまだ生きてる」

「えっ、本当ですか!」

「あぁ、早く救急車を呼ぶんだな・・・多分サツも一緒に来るけどよ」

辺りは夕闇に包まれていた。



ロッソ・アマランティーノ → スタンドを習得。名は『ガーネット・クロウ』

ビアンコ/スタンド名『エイフェックス・ツイン』
ロベルト・ヴェルデ/スタンド名『ウェポンズ・ベッド』 → ともに重傷、入院。

アランチョ/スタンド名『キラー・スマイル』 → 再起不能。
チレストロ/スタンド名『アーケイディア』 → 逃走。



第2話 完 


使用したスタンド

No.721『[[ガーネット・クロウ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/154.html#No.721]]』
考案者:ID:8rEguwGhO (俺)
絵:ID:Y0ksuGPEO 
絵:ID:Qt/9IV4aO

No.215『[[エイフェックス・ツイン>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/49.html#No.215]]』
考案者:ID:Licx5cnkO 
絵:ID:iWCqjA8h0 
絵:ID:836DgT2dO

No.285『[[ウェポンズ・ベッド>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/60.html#No.285]]』
考案者:ID:Wm62Va4F0 
絵:ID:tX7yh2aBO

No.556『[[キラー・スマイル>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/121.html#No.556]]』
考案者:ID:fb1/r6580 
絵:ID:ePphLEuTO

No.599『[[アーケイディア>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/131.html#No.599]]』
考案者:ID:3fHZczYAO 
絵:ID:lAd32x7V0





|[[第1話へ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/320.html]]|[[第3話へ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/322.html]]|
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