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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】第5話 宇宙の真理 - (2009/12/23 (水) 01:02:07) のソース

&sizex(5){第5話 宇宙の真理}





ネアポリス市街 AM 11:40


ネアポリス中心部は、いつも人混みに溢れている。

ストリートミュージシャン、アジア系の観光客、たむろする不良、
昼間から酔っぱらっている男、大声で笑う女性達・・・

世界には、本当に様々な人間がいる・・・
そんな当たり前のことを、ここではハッキリと自覚できた。

そしてその中に、俺達はいた。


ヴェルデ「いや~悪いなロッソ。助かるよ」

ロッソ「・・・・・・」

俺は疲れていた。

決してヴェルデと一緒にいるのが嫌だった訳ではない。
何軒もの店を歩き回り、足が棒になったからだ。


今日、俺は買い物をしなくてはならなかったため、ヴェルデに言われたように、彼に同行を頼んだのだ。

だが、どうやらヴェルデも買い物の予定だったらしく、
むしろ俺が彼の買い物に“付き合わされる”形になってしまった。


それにしても・・・

ヴェルデは本当にギャングなのだろうか?

彼の言動を取っても何一つ怪しい所はないし、
今日買っていた物も、料理の具材や日用品など一般人と何ら変わりのないものだった。 

しかし、彼には一つだけ“疑うべき所”がある。


それは俺が初めてヴェルデと遭遇したとき・・・
彼は“取り出した日本刀”を自分のスタンドに持たせていた。

あんな長い物をどうやって収納しているのかは知らないが・・・
普通の男性は日本刀を携帯してなどいないだろう。

もしかしたら、彼はもっと多くの武器を隠し持っているのかもしれない・・・

「武器を用いて戦う」彼のスタンドといい、実に怪しい。


ヴェルデのおかしい所はそこだ。

もっとも、彼は俺達の仲間(?)であるから、警戒する必要は皆無であるが。



その時、ある看板が俺の目に留まった。
その瞬間から、俺の欲望がどんどん沸き上がってきた。

ロッソ「・・・少し、休みたいですね」

ヴェルデ「ん? 疲れたか? 俺はまだ全然大丈夫だが。
    なんだったら、お前一人で何か飲んできてもいいぜ」

来た。
この言葉を待っていた。

ロッソ「いいんですか?」

ヴェルデ「あぁ、店ん中は混んでるだろうし、俺は店の前で待ってるからよ。
    別にそんなに長くはならねぇだろ?」

ロッソ「はい、大丈夫です。
   じゃあちょっと失礼します・・・」

ヴェルデ「どこ行くんだ?」 

ロッソ「アイスですよアイス。俺の甘いもの分が不足してたんです」

ヴェルデ「アイス~? こんな時期に?」

ロッソ「構いません。俺はコーンの上にバニラ、チョコ、キャラメルの三段が定番なんです。
   あ、ナッツもいいかも」

ヴェルデ「オェッ・・・甘すぎだろ・・・」

ロッソ「じゃあ行ってきます!」

俺は近くにあったアイスクリーム屋へ猛然と駆け出した。

甘味こそ俺の救世主だッ!!

ヴェルデ「・・・フッ・・・やれやれ」




ロッソ・アマランティーノ・・・

スタンドは触れた人間の感情を操る『ガーネット・クロウ』。


俺は色々なスタンド使いに会ってきたが、こんな謎めいた能力は初めてだった。


戦いに巻き込んでしまった俺がこんな事を思うのも無責任だが、彼は非常に頼りになる仲間だ。

一時的とはいえ、人間を一瞬で心変わりさせてしまうほどの力・・・

彼のスタンドをもってすれば、『教団』を潰すことも困難ではなくなるかもしれない。

我らが“ボス”と並ぶ力で・・・



ヴェルデ「ん?」

俺はふと誰かの声に気付いた。

何やら二人で言い争いをしているようであった。 

二人の声の主は、道路の反対側の歩道にいた。

一人は若い男、そしてもう一人はまだ幼さの残る少年である。


男「あのなァ~、物事には原因と結果があるんだぞ?
  タイムマシンっつ~のは、その根本原理を破壊しちまうんだ!」

少年「全然分かってないなー。タイムマシンは『過去』に“戻る”んじゃあないんだよ!
   時間っていうのは直線的なものじゃあなくて、円を描くように循環するんだ。
   タイムマシンはずっと未来に行って、一巡した後の『過去』に行くんだ。
   この理論なら因果律の問題は解決するんだよ!」


少年は目を輝かせてタイムマシンについて語っている。

&nowiki(){・・・随分と難しい話題だな・・・}

俺は何となく彼らの論争に耳を傾ける。


男「だがよォ~、科学者のホーキングはこう言ってんだぜ。
  『タイムマシンが未来にあるのなら、未来人達が大勢現代に観光に来ているはずだ』ってよォ。
  お前はそんな奴見たことね~だろ? どう説明すんだ?」

少年「だからそれは・・・その人達は別の世界から来てるんだから・・・
   いやそれだと理由にならないな・・・正体を隠してるとか・・・ええと・・・」 

男「ほら説明できないだろ? だから未来にタイムマシンはね~んだ!
  分かったか! 行くぞ!」


この二人、一体どういう関係なんだろう?

見たところ親子でもないし、兄弟でもなさそうだ。
先生と生徒か? それとも・・・


少年「ちょっと待って!
   多分こうだ。“前までの世界”ではタイムマシンができる前に人間が絶滅しちゃったんだよ!
   でも大丈夫、“この世界”で無事にタイムマシンができる可能性は十分あるんだ!
   そうすれば“次の世界”以降もタイムマシンが作り続けられる・・・」

男「あ゛ァ~~ッ! もうその話はいいっつ~の! 頭が痛くなんだよッ!
  これ以上そんな下らねぇ妄想話してる暇はね~んだ!」


少年「お前・・・今なんつった?」

男「あ?」


何だッ!?

少年の態度が豹変した・・・
俺の目は少年に釘付けになる。

喋り方も表情も、今までとは別人のようだ。


少年「なんつったって言ってんだよ!」

男「おいおい、こんな時にキレんじゃあね~よ。
  一緒に仕事しなきゃなんね~のに・・・」 

少年「下らない妄想話だと? ・・・お前は馬鹿にしている!
   巡る輪廻の中で人間が見つけるべき“宇宙の真理”をッ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


男「ちょ・・・何言ってんだよ? 落ち着けって・・・」

少年「『スターフライヤーーーー!!
    59(チンクヮンタ・ノーヴェ)』!!」

ズアァァッ!


ヴェルデ「なッ・・・!」

スタンドだ!
少年はスタンドを出したのだ!


男「ゲェッ!」

少年「コノオォォォーーーーーーーー!!」

メギャン!

男「ぶぎゃあッ!」

少年の人間型スタンドに殴られた男は、5mほど後ろに吹っ飛ばされた。


少年「許さないッ! お前に思い知らせてやる!
   “宇宙”をッ!」

ゴオォォ!

少年は男に更なる攻撃を仕掛けようとする。
&nowiki(){・・・が。}


バァーーーーーン!!

少年「!」


少年は、突然鳴り響いた銃声に怯んだ。

俺のスタンド『ウェポンズ・ベッド』が撃ったものである。

弾は少年の目の前をスレスレを通って、そのまま建物の壁に穴を開けた。

少年は動きを止めた。 

男は慌てて立ち上がる。

男「てめェ~ッ! コイツは反逆と見なされたぞ!
  もうクビだぜ! 後で誰かが消しに来るから待ってるんだなァ!」

ダッ!

男は顔面を血だらけにして、そのまま逃げていってしまった。


反逆・・・? 消しに来る・・・?

まさか・・・そんな馬鹿な・・・


ヴェルデ「おい君ッ!」

俺は道路を渡り、少年の元へ駆けつける。
スタンドを出して、できるだけ警戒しながら・・・


少年「ハァ・・・ハァ・・・」

少年は息を荒げている。

ヴェルデ「君は・・・」

俺はゆっくりと少年に近づいていく。

少年「・・・・・・・・・・・・

   ・・・ハッ! またやっちゃった!
   しかも仲間に向かって・・・」

少年は正気を取り戻したようである。

やがて少年は俺に目を向けた。


まさか彼は・・・「教団」の人間なのか?

信じたくないが、あの男の言ったことは紛れもなく教団に関係する台詞だ。


少年「あなたが・・・銃を撃ったの・・・?」

ヴェルデ「・・・そうだが・・・」

俺は全身に力を入れた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ 

少年「・・・どうもありがとう!
   僕ってすぐ怒りで我を忘れちゃって・・・」

ヴェルデ「・・・え?」

あの時の殺気が嘘のように、少年は疑いのない目で俺を見ている。
ギャングである俺にとっては、怖いくらいに純粋な目だった。

少年「僕って『宇宙』が大好きでさ、宇宙を馬鹿にされるとキレちゃうんだよね」

少年は笑顔でそう言った。

だがそんなことよりも、俺には聞きたいことがある。

ヴェルデ「・・・さっきの男は・・・」

少年「あぁ~、気にしなくていいよ。僕は“仕事”なんてしたくなかったし。
   やっぱり自由に暮らすのが一番かなぁ~って」

ヴェルデ「仕事・・・?」

少年「うん、よく分からないんだけど、『ギャング狩り』っていう仕事だって」

ヴェルデ「!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


なんということだ・・・

教団は、こんな小さな子供にまで殺しをさせているというのか?


ロッソ「ヴェルデさーーーん!」

ロッソが店から現れた。
そして俺達の元へ駆け寄ってくる。

ロッソ「何が起こったんですか!
   もしかして教d・・・」

ヴェルデ「待て! 今その事は言わないでくれ!」 

ロッソ「・・・?」

ロッソは怪訝な表情をする。

ヴェルデ「・・・ところで君、名前は?」

俺は少年にもう一度尋ねた。

少年「僕? 僕は・・・

   『ポルポラ・アラゴスタ』。12歳、将来の夢は宇宙飛行士だよ!」

ロッソ「???」



ネアポリス市内某所 PM 13:00


その後、俺とロッソ、そしてアラゴスタという少年の三人は、俺のアジトに来ていた。

街のど真ん中で発砲して騒ぎが起こらないはずもなく、人々はパニックに陥った。
そんな中で、俺達が警察から逃れるために一番安全な場所は、やはりここしかなかったのだ。

アジトの中には、今は俺達しかいない。

ヴェルデ「じゃあ、君は生まれつきスタンドが使えたってことかい?」

アラゴスタ「うん、昔からだよ。
    いつも近くにいて、何だろうって思ってたんだけど」

ヴェルデ「教団に入ったのはいつ頃?」

アラゴスタ「ついこの間だよ。一週間くらい前かな。
    変な人達から誘いがあって、宇宙について色々教えてあげるって言われたんだ。
    それで、面白そうだから付いていっちゃって・・・」

ヴェルデ「それで今日、初めての『仕事』を任されたという訳か・・・」 

始め、俺はこのアラゴスタという少年を疑っていた。

これは教団の仕組んだ罠で、彼は俺達を騙し討ちにしようとしているのではないか、と。

しかし、アラゴスタの夢に満ち満ちた目を見る度、
そんな疑いをかける俺の方が罪な人間に思えてきたのだ。

この目は「真実」なんだ・・・


アラゴスタからは、教団に関する情報を沢山入手することができた。

そして、彼自身についても。

話によると、彼は幼いときに両親を亡くし、今は孤児院に入っているらしい。

詳しいことは本人もよく分からないと言っているが、なんだか複雑な事情が絡んでいそうな気がする。

あくまで俺の勘だが。


ヴェルデ「なるほど、よく分かった、ありがとう。
    それで、君はこれからどうするんだい? 施設に戻るの?」

俺はアラゴスタに尋ねた。

アラゴスタ「えぇ~っ、それはイヤだな。
    あそこには僕と話の合う人がいないし、つまんないよ」

アラゴスタの言葉は単なるわがままには聞こえなかった。
きっと孤児院暮らしというものは、想像を絶するほど寂しくて辛いのだろう・・・

しかもよくよく考えてみれば、彼は俺たちと同じく教団から命を狙われているのだ。
無防備にしておく訳にはいかない。 

ヴェルデ「う~ん、だが、ここに住まわす訳にもいかないしな・・・」

ロッソ「俺の所でよければ」

ヴェルデ「え?」

ロッソ「俺の学生寮になら住まわせてあげられますよ。
   名簿を確認する人なんかほとんどいませんし、気付かれませんよ」

ヴェルデ「おいおい、そんなんで大丈夫かよ?」

ロッソ「学生のフリをしていれば絶対に大丈夫です。
   アラゴスタ、それでいいでしょ?」

アラゴスタ「うん! ありがとう!!」

ヴェルデ「他にはどこも無いしな・・・
    ・・・まぁいいか・・・気をつけろよな!」


俺は内心、大いに安堵していた。

ロッソとなら仲良くやっていけるだろう。
理由は無いが、そう確信できる。


この少年が、その壮大な夢に向かって進む希望があるならば・・・
どんな手段であろうと、その道を確保してやらなければならない。

俺は結婚など夢に見たこともなかったが、
この時、俺は息子を見守る父親の気持ちが理解できた気がした。


それよりも・・・
憎むべきは、かの「教団」である。

スタンドが使えるという理由だけで、こんな純粋な子供に殺しを命令するとは・・・
こんなこと、宗教団体以前に、人間の行う所業だろうか? 

世間から忌み嫌われるギャングの俺でも、吐き気のする「悪」は分かる。

許してはならない・・・絶対に・・・

俺は沸々と沸き上がる教団への怒りを、一人で堪えていた。


ロッソ「じゃあ行こうか。ここに長居はできないし・・・」

ロッソは荷物を持って席を立つ。

やはりこんな所は居心地が悪かったか。


ヴェルデ「そうだな。そろそろ帰った方がいい。
    警察には気をつけろよ」

ロッソ「そんな心配、必要なのはヴェルデさんだけですよ!」

ヴェルデ「ハハハッ! そうかもな!
    アラゴスタ、いい子にしてろよ!」

ロッソ「ヴェルデさん、父親みたいなこと言わないでください・・・」

アラゴスタ「大丈夫だよ! 僕はいっつもいい子だから!
    ところでさぁ、ねぇ、名前なんだっけ?」

ロッソ「俺? 俺はロッソ。呼び捨てでいいよ呼び捨てで」

アラゴスタ「じゃあロッソ、君の部屋にさ、宇宙関係の本ってある?」

ロッソ「宇宙? 何で?」


俺は微笑んだ。

夢を見る子供は、何故ここまで勇気を与えてくれるのだろう。

俺は二人の会話を後ろに聞きながら、先に玄関へと向かった。 

しかし・・・

俺はこの後、深く後悔することになる。
俺には二つ、“やり残していたこと”があったのを・・・


アラゴスタ「だって僕さ、宇宙が凄い好きなんだもん。
    色々な本を読みたいんだ」

ロッソ「う~ん、学校で使う地学の教科書ならあるけど・・・君にはちょっと難しいと思うよ」

アラゴスタ「それでもいいからさ~!」

ロッソ「いや、難しいって。惑星運動の法則とか、理解するだけでも大変なんだから。
   俺も君みたいな純粋に宇宙を愛せた頃に戻りたいよ・・・
   天文学者とかがさ、まともに宇宙を解明しようとか、どうにも理解できない」


アラゴスタは返事をしなかった。

俺は歩みを止める。

そして次の瞬間、俺は一つ目の“やり残したこと”に気付き、全身に衝撃が走った。

俺はすぐに振り返る。

ヴェルデ「・・・!! おい!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

アラゴスタ「お前・・・今なんつった・・・?」

プ ッ ツ ー ン


ロッソ「!?」

遅かった・・・

俺が“やり残したこと”・・・
その一つは、アラゴスタは宇宙に関してけなされるとキレる・・・

このことをロッソに伝えておくことだった・・・ 

そしてもう一つは・・・


アラゴスタ「お前・・・天文学をバカにしたな・・・宇宙をけなしたな・・・
    ロッソ! 今からお前に教えてやるッ!
    人間には宇宙の真理を理解する義務があることを!
    『スターフライヤー』ーーーッ!!」

ズオアァァ!

ロッソ「え? な・・・何が起こったんだ!?」

ヴェルデ「ロッソ! 危なァーいッ!」

ロッソ「うわっ!」

ドバアアァァァ!!

ロッソはアラゴスタのスタンドの拳をギリギリでかわした。
拳は壁に叩きつけられ、壁を破壊する。


もう一つの“やり残したこと”とは・・・
アラゴスタのスタンドについて、その正体を尋ねておくことだった。


ヴェルデ「アラゴスタは宇宙をナメられるとキレるんだ!」

ロッソ「えぇ~ッ! 何ですかそれ!?」

アラゴスタ「コノォーーーッ!!」

ロッソ「うっ!」

ドガアァン!!
ガシャアァン!!

スタンドはロッソに向かって拳を振り回す。
拳は滅茶苦茶な場所に当たり、破壊した。

ロッソ「くっ、仕方ない!
   『ガーネット・クロウ』! アラゴスタの“怒り”を鎮めるッ!」

ズアァァッ!

ロッソがスタンドを解き放つ。

するとアラゴスタのスタンドは一旦暴走を止めた。 

アラゴスタ「・・・それが君の『スタンド』・・・
    まだよく分からないけど・・・他人のスタンドを見るのは初めてだよ」


アラゴスタは獣のように凶暴だった。

何としてでも、ロッソに鉄拳制裁を下したいという意志に満ちているようであった。


ロッソ「『ガーネット・クロウ』は人間の感情を操作できるんだ。
   君が本気ならば、俺はこの能力で君を鎮めるしかない」

アラゴスタ「そうさせる訳にはいかない・・・君は“宇宙”を侮辱した・・・
    この罪は何よりも重いんだ・・・
    ・・・赦しては・・・ならないんだよォーーーーー!!
    『スターフライヤー』ーーーッ!!」

ロッソ「! 『ガーネット・クロウ』ーーッ!!」

アラゴスタ「コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ
    コノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノコノ!!」

ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
  ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ!!」 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


俺の目の前で、二人のスタンドが凄まじいラッシュの応酬を繰り広げる。

拳の風圧で、部屋の中は強風が吹き荒れた。

圧倒された俺は、その戦いを傍らで見ていることしかできなかった。


バチン!

どちらかのスタンドが、相手の拳を弾いた音が響いた。
それと同時に、二人はラッシュを止める。

ヴェルデ「ロッソ、どうだ!」

ロッソ「・・・駄目です! スタンドの拳が衝突した程度では“感情”を変えられない!
   直接本体に触れなければ・・・!」

ヴェルデ「そうか・・・
    おいアラゴスタ! ロッソは悪気があって言ったわけじゃあないんだ!
    そう深く考えるな!」

俺はアラゴスタに忠告した。

すると、アラゴスタがこちらを振り向いた。
&nowiki(){・・・信じられないほど猟奇的な目だった。}

あの目は、ギャングが大事にしていた部下や仲間を殺されて、復讐に燃えている時の目と同じだ・・・

アラゴスタ「あなたにはもう邪魔させない・・・
    これ以上邪魔するなら・・・あなたも半殺しにしかねないよ・・・」

ヴェルデ「・・・ッ!」 

恐ろしい・・・

ギャングともあろうものが、子供の気迫に圧倒されるとは。
俺が弱虫だという訳ではない。彼の気迫が桁違いなのだ。

一体、彼は何故そこまで“宇宙”を愛せるのだろう・・・


その時だった。
ロッソのスタンドは一瞬の隙をついて、アラゴスタに触れようと手を伸ばしたのだ!

ヴェルデ「!」

アラゴスタ「!」


ブシャッ!

ロッソ「うわあああああああぁぁぁぁッ!」

ヴェルデ「何だッ!?」

アラゴスタ「・・・・・・」


そこに至るまで、ほんの一瞬だった。

ロッソの叫び声が響いた時、彼の手は内側から破裂したように損傷していた。

不思議なことに血は出ていない。

ロッソ「バカな・・・手が・・・“手が破裂して凍った”ッ!」

ヴェルデ「なんだって・・・」

一体何が起こったのか・・・
それを知っていたのは、先程とは打って変わって氷のように冷たい態度をとっている、アラゴスタだけであった。

アラゴスタ「残念だけど、君は僕に触れることはできないよ・・・
    僕の能力が発動しているからね」

ヴェルデ「どういうことだ・・・一体どんな能力なんだ、君のスタンドはッ!」

アラゴスタ「“宇宙”だよ」

ロッソ「!?」

ヴェルデ「なんだって?」 

アラゴスタ「『スターフライヤー59(チンクヮンタ・ノーヴェ)』・・・
    コイツの拳の軌道は、全て“宇宙”に変わるんだ」

ロッソ「な・・・」

ヴェルデ「何・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


俺はよく目を凝らして空間を見た。

すると、アラゴスタがラッシュを放った部分が、僅かに薄暗くなっているのが分かった。

しかも、その薄暗い空間の中には、点々と光が見える。
まさか、あれは星だとでもいうのか?


アラゴスタ「“宇宙”・・・それは生物にとって脅威の存在だ・・・
    真空、超低温、宇宙放射線・・・生物が入り込める余地なんて一つもない。
    一切の生物を拒絶する、深遠で偉大な領域なんだ。
    だからこそ・・・僕は宇宙を信じる。そして何としてでも、その真理を確かめたいんだッ!」

ヴェルデ「・・・!」


何なんだ、この「凄み」は・・・

未だかつて俺が体験したことのない程の気迫が、アラゴスタからほとばしっている。


何と表現しようか・・・

もはや彼は、“宇宙”そのものになりきっているとしか思えない。 

普段はこの上なく純粋でありながら、時に激しく、時に冷酷な性格に豹変する彼の姿は“宇宙”そのものであった。

彼に生まれつきこのようなスタンドが身に付いたのも、もはや必然としか言いようがない。


ヴェルデ(末恐ろしいぞ、こいつは・・・)

アラゴスタ「僕がこの“宇宙”に守られている限り、君は僕に触れない!
    そしてッ!」

ビュン!
ドゴォ!!

ロッソ「ぐあぁッ!」

ヴェルデ「!」

ロッソはアラゴスタの突然の攻撃を防ぎきれず、彼のスタンドのパンチをもろに食らった。

隙をつくはずが、逆に隙をつかれてしまったのだ。

アラゴスタ「この“宇宙”の中を自由に動き回れるのは、僕の『スターフライヤー』だけだ!」

ロッソ「が・・・がふっ・・・」

パンチの衝撃で後方に飛んだロッソは、倒れた状態で苦しんでいる。

これはまずい・・・!

ヴェルデ「『ウェポンズ・ベッド』!」

アラゴスタ「!」

『ウェポンズ・ベッド』が最も得意とする日本刀で、アラゴスタに峰打ちを仕掛けようとした。

しかし・・・

ガキン!

ヴェルデ「なっ・・・!」

刀は『スターフライヤー』の素早い拳に弾かれ、何回転もしながら飛んでいき、壁に突き刺さった。 

アラゴスタ「邪魔しないでって言ったよね・・・
    あなたもやられたいの・・・?」

ヴェルデ「・・・!」


やばい・・・

アラゴスタのスタンドは、想像以上に強すぎる。
俺の『ウェポンズ・ベッド』では、文字通り太刀打ちできない!

『スターフライヤー』は、既に目の前に迫っていた。


アラゴスタ「誰であろうと、宇宙を冒涜する者は赦さない・・・
    そいつに味方する者も同罪だ・・・
    ヴェルデさん、あなたもだッ!」

ヴェルデ「!」

アラゴスタ「コノォーーーーーッ!!」


俺は思わず目を閉じた。

そして鉄球のような拳を食らい、吹っ飛ぶ・・・

ことはなかった。


ヴェルデ「・・・?」

俺は目を開ける。
そこにはアラゴスタと、彼のスタンドの姿がある。

だが、そのスタンドが俺に向かって攻撃する気配はなかった。

それどころか・・・


ヴェルデ「アラゴスタ・・・?」

彼の表情は、先程までの鬼気迫る怒りのものではない。
それは、かつての純粋そのものである子供の表情であった。

一体何が起こったのか?


ロッソ「ハァ・・・ハァ・・・君の負けだよ・・・アラゴスタ」

ヴェルデ「ロッソ!」 

ロッソが、アラゴスタの足下にいたのだ。

『ガーネット・クロウ』は怪我をしていない方の手で、しっかりと彼の足を掴んでいた。


ロッソ「“宇宙”の盾・・・恐ろしい存在だけど、地面に倒れたら大したものでもないことに気付いたよ。
   パンチは高いところで放つから、“宇宙”ができるのは空中だけだ。
   這いずって下から行けば、君に近づくのは容易だった・・・足下がお留守ってやつさ」

アラゴスタはスタンドを引っ込める。それと同時に、“宇宙”空間も消え去った。

ロッソ「そして今、『ガーネット・クロウ』が君の“怒り”を取り去った。
   赦す気に・・・なっただろ?」

ロッソはゆっくりと立ち上がる。
口からは血を流し、“宇宙”に突っ込んだ手は裂傷だらけだった。

アラゴスタ「・・・またやってしまった・・・しかも人に怪我までさせて・・・
    ロッソ、本当にごめん!」

アラゴスタは必死になって謝る。その目は僅かに涙ぐんでいた。

ロッソ「大丈夫・・・元はといえば俺のせいだから・・・ごめんね、アラゴスタ。
   ・・・お~痛て・・・イザベラに頼んで治してもらわないと・・・」

ロッソは荷物を取って玄関へと歩きだした。

ヴェルデ「ロッソ・・・大丈夫か?」

ロッソ「平気ですよこれくらい。さぁアラゴスタ、行こう」

アラゴスタ「・・・うん!」


アラゴスタはロッソの後を追う。

彼の顔には、希望に満ちた、あの純粋な笑顔が戻っている。

その目は、晴れた夜空の星のように輝いていた。



ポルポラ・アラゴスタ/スタンド名『スターフライヤー59』 → ロッソの寮に住むことに。
ロッソ → アラゴスタと住むことになってから、彼の機嫌を気にする日々。
      「やっぱりやめておけばよかった」と後悔した。


第五話 完 



初登場のスタンド

No.431 「[[スターフライヤー59>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/95.html#No.431]]」
考案者:ID:1+rLsBJL0 
絵:ID:kYSfgElW0





|[[第4話へ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/323.html]]|[[第6話へ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/408.html]]|
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