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第一章「撒き餌」 - (2010/02/16 (火) 14:24:45) のソース

<p><strong>第一章「撒き餌」</strong><br /><br />
2010年1月9日土曜 午前9時 Y県S市内<br />
寒空の下、白い息を吐きながら俺と兄貴と妹は歩く。<br />
俺たちが向かっているのは老舗の旅館である。<br />
去年テレビ番組で紹介されてから半年間は予約客が絶えなかったほどだ。<br />
今は当時ほどではないが、親切丁寧な接客に、窓から見える眺めのいい景色、効能たっぷり温泉、そして美味しい料理で固定客をゲットしたと言えるだろう。<br />
妹がずっと前から行こう行こうとせがんでいたが、結局兄貴の都合で正月明けまで先送り。<br />
三連休がある9日~11日の間に行くことになった。車で1時間半とそれなりの遠出。<br /><br />
兄貴と妹が並んで歩き、俺はその後ろを行く。<br />
妹は兄貴によく懐いており、いつもべったりである。<br />
背が高く、外国人のように目鼻立ちのいい青年がうちの兄貴、有嶋秀彦。<br />
俺と違って頭が良くて大学に行ってないにも関わらず大手企業に就職した自慢の兄貴だ。<br />
頭も顔も良くて、スポーツをさせれば大活躍…天はニ物を与えないなんて嘘だなと俺は悟っている。<br /><br />
そして、この黒髪で髪留めをしておでこを出しているのが妹、有嶋智恵。<br />
元気がウリのJCである。それなりにモテるようで悔しいがかわいいと思う。<br />
部活動に勤しんでいるので色恋沙汰にはあまり興味がないようで、好きな人は?と聞かれると「ヒデ兄」と答えるわが妹。<br />
変な勘違いをされそうだから出来ればやめて欲しいものだが。<br /><br />
「う~寒いよ~!」<br /><br />
妹はそう言って兄貴の服の中に手を突っ込む。<br /><br />
「コラ!冷たいじゃねーか!」<br /><br />
本気で冷たかったのかキレる兄貴。<br /><br />
「ヒデ兄の中あったかいなり~」<br /><br />
怒られても何のその。妹は服の中をまさぐりだす。<br /><br />
「んっ…ああっ…」<br /><br />
ちょっ兄貴!急に喘ぎだすのはやめてくれ。そして誰得だよ…。<br /><br />
「それそれ~!!」<br /><br />
妹は手をズボンの中に突っ込もうとする。<br /><br />
「ってやめんか!」<br /><br />
兄貴はたまらず妹の頭をコツンとげんこつするのだった。<br />
いつもこんなやりとりを見せられるこちらの立場を考えてもらいたいものだ。<br /><br />
そうこうしてる間に旅館へ到着。<br /><br />
「ここが織星荘ね…なかなか雰囲気あるじゃない」<br /><br />
この旅行を提案した妹はこの由緒ありそうな旅館を目の当たりにしてご満悦な様子。<br /><br />
「織星と書いてオリスタだっけか…」<br /><br />
DQNネームを彷彿させる名前に俺はちょっとげんなりする。<br /><br />
「織姫と彦星みたいで素敵じゃん」<br /><br />
妹のセンスと俺のセンスは全く噛みあわないなとつくづく思う。</p>
<p>オリスタは無いだろオリスタは。<br /><br />
「おい、二人とも早く中へ入ろうぜ…誰かさんのせいで体が冷えちまったよ」<br /><br />
「む~~」<br /><br />
頬を膨らませながらタタタと兄貴の元へ駆けつける妹。<br /><br />
ガラガラガラと戸を開けて中へ入る。<br />
年数は経っているが手入れが行き届いていて、居心地の良さそうな旅館だった。<br /><br />
旅館の女将がいらっしゃいませ、と言い頭を下げた。<br />
兄貴は入り口のすぐ側にあった受付へ行って名前と住所を記入して、仲居さんに客室まで案内された。<br />
「松の間」だってさ…捻りがないね。<br />
かといって「このざ間」とか「宝のや間」とかダジャレでつけられても寒いが。<br /><br />
軟らかい畳の匂いがする和室。窓からは綺麗な景色が一望出来る。<br />
ごく普通の旅館といった感じだが、人生で数えるほどしか行ったことがない俺たちにとっては物珍しいとも言える。<br />
妹は嬉々としてはしゃいでいた。<br /><br />
とりあえず畳に腰を落とし、座卓の上にあった電気ポットで茶葉を入れた急須に湯を注ぐ。<br />
三人分の湯のみにお茶をついで渡す。誰かが決めたわけではないがこういう役割は自然と自分がするようになった。<br /><br />
「ぷはぁ~美味いですなぁ」<br /><br />
妹は一気飲みして、おかわり!と湯のみを俺に差し出した。お茶の美味さに破顔する。<br />
確かにうちで飲む安い茶葉とは比べ物にならないほどいい茶葉ってのは俺でも感じられた。<br />
お茶をついで渡すと今度はじっくりと味わうように飲んでいた。<br /><br />
旅館に来たからと言って何をするわけでもないのでテレビをつけてみる。<br /><br />
ブラウン管に映し出されたのはニュース報道。七三分けの男性アナウンサーが読み上げる。<br /><br />
『きょう午前、Y県U市の路上で10代の女性が死亡しているのが見つかりました。<br />
現場の 状況などから警視庁は殺人事件とみて特別捜査本部を設置して捜査しています。<br />
きょう午前4時50分ごろ、U市楠町の路地裏で女性が死亡しているのを新聞配達員の男性が見つけました。<br />
警視庁捜査一課によりますと女性はS市の丹波中学校に通う神宮慧子(14)で、路地裏にポリ袋に入れられた状態で置かれていたということです。<br />
神宮さんは死後1日程度とみられ、顔から下の損壊が酷く、内臓が破裂しており、全身の骨が複雑骨折していたということです。<br />
3日前から行方不明になっており、家族から捜索願が出されていました。<br />
警視庁は神宮さんが何者かに殺害されたとみて特別捜査本部を設置して捜査しています。』<br /><br />
朝から胸糞が悪い。これが同じ人間の所業なのだろうか?<br />
しかし、最近は凶悪な事件が相次いでるな…。世も末だ。<br />
犯罪が異常性を増しているせいで並の事件ではマスコミもまともに扱わなくなってきたのだ。<br />
最近人気の事件は「全身剥ぎ剥ぎ殺人事件」や「クラスメイト30人大虐殺事件」などである。<br />
前者は全身の皮膚や爪を剥ぐという聞いただけでも痛みが生じそうな事件である。マジで怖い。<br />
後者はT県の田舎の学校で起きたもので、2年3組の男子によってクラスメイト全員が皆殺しにされた事件。<br />
たったの10分間で武器も使わず行われた犯行なので、一体どうやって短時間で全員を殺したのかという謎が議論を盛り上げている。<br />
そんな議論は不謹慎極まりないのでやめてくれ。<br /><br /><br />
ふと兄貴の方へ目を向けると神妙な面持ちでテレビを見つめていた。<br /><br />
「兄貴どうかした?」<br /><br />
「……」<br /><br />
返事が無い。<br /><br />
「兄貴?」<br /><br />
「えっ…あ、何だ?」<br /><br />
「真剣に見てたから…何か思うことでもあるの?」<br /><br />
「あ、いや…別に…何でも…ないよ」<br /><br />
妙に歯切れの悪い返事。こういう時は決まって何か隠し事をしている。<br />
だが、詮索するのも無粋なので話を切り上げることにした。<br /><br />
お茶を飲みつくした妹はバタバタと脚を畳に叩きつけて騒ぎ始める。<br /><br />
「お腹空いたよーご飯食べに行こーよー」<br /><br />
子供かお前は。<br />
しかし、俺も腹が減ってきた頃なので賛同しておく。<br /><br />
「俺も腹減ったわ。飯食いに行こうぜ兄貴」<br /><br />
「そういえば何も食わずに来たっけ。じゃあ一階の食堂行くか」<br /><br />
食堂へ到着。それなりに広い場所だ。<br />
まばらだが5,6人の客が座って料理を食べている。<br /><br />
「よっこらせがーる」<br /><br />
どすんと音を立てて深々と椅子に腰をおろす。<br /><br />
「さて…何食うよお前ら」<br /><br />
メニューが書かれた紙を差し出して兄貴が問いかける。<br /><br />
そりゃもちろん…<br /><br />
「ラーメン!」<br /><br />
俺は声を大にしてその料理の名称を発する。<br /><br />
「あたしはカニがいいな!」<br /><br />
妹はカニをご所望。昔からカニには目が無かったっけな。<br /><br />
「お前らは郷土料理とかを食べる気は無いのか…じゃあ俺は天丼っと」<br /><br />
それぞれがどこでも食べれそうな物を頼んで料理が来るのを待つ。<br /><br />
ふと隣の席に座っていた男が話しかけてきた。小太りの中年男だ。<br /><br />
「ねぇ~!お嬢ちゃんかわいいねェ~~~どっから来たのォ?」<br /><br />
「えっ?あたし?」<br /><br />
「他に誰がいるっての~?君タチは一体どーゆう関係なの?」<br /><br />
「えっと…家族…ですけど…」<br /><br />
「え~そうなんだァ!?お父さんとお母さんはどうしたのか?」<br /><br />
「……」<br /><br />
「あっめんごめんご!おっちゃん気ィ利かなくてごめんねごめんねー!」<br /><br />
「……」<br /><br />
俺は男の口調に怒りが立ち込めてくる。横に目をやると兄貴の表情が人外を想像させるものに変化していく。<br /><br />
「ちょっとおっちゃんと2人で話したいなーなんてッ!ダメかな?ダメかな?」<br /><br />
「いや…その…ちょっと…」<br /><br />
「君みたいな中学生くらいの女の子が一番好みなんだわ~」<br /><br />
男は執拗に妹に話しかけ続ける。やれやれ、今日は血を見るかな。<br /><br />
「何でも奢ってあげるからッ!ねッ?ねッ?」<br /><br />
「……」<br /><br />
「こんなに頼んでるのに無視するなんて酷いよね!?」<br /><br />
小汚い手はすっと伸びて妹の腕を掴み自分の方へと引き寄せようとする。<br /><br />
「いやッ!やめてくださいッ!」<br /><br />
「後でお金あげるからッ!ちょっと!ちょっとでいいから触ら…」<br /><br />
ドゴォォオッ<br /><br />
男の体は派手に吹っ飛んで向かいの椅子にぶつかる。<br />
俺らは誰も席を立ってないし、指一つ動かしていない。<br /><br />
「あばばばばば……一体何が起きやがったんでェ……」<br /><br />
「こっちへ『移動』しろ」<br /><br />
「うおああああああああああ」<br /><br />
兄貴がそう言うと男の体は兄貴のほうへ引っ張られて手前で急停止する。<br /><br />
「はぁ…はぁ…何なんだよこりゃァ!!ちくしょォ!!」<br /><br />
「そりゃこっちのセリフな。警察に突き出されるか今から俺に殴られるか…どっちか選びなッ!」<br /><br />
「うひ…!?な…なひ…を…」<br /><br />
「まあ…お前の返事なんかはなっから聞いちゃいねーけどな。どっちにせよ…殴るッ!!」<br /><br />
兄貴の体から人の形をした塊が飛び出し、男の前に立ちはだかる。<br />
そいつのことを俺たちは『スタンド』と呼んでいる。<br />
何故、そう呼ばれているのかは分からないが父親があの事件の日にこの超能力のことをそう呼んでたから俺らもそう呼ぶことにしている。<br />
「傍に立つ (Stand by me)」から由来してるんじゃないかなって兄貴は推測しているが本当のところは分からない。<br />
この人知を超えた超能力は人の形をなしているが人ではなく、普通の人間では見ることは出来無い。<br />
だからこのおっさんも見えてはいないだろう。このスタンドを見ることが出来るのは同じくスタンドを扱うものだけ。<br />
俺と妹はあの事件の日以来このスタンドが発現してしまったので兄貴のスタンドを見ることが出来る。<br /><br />
このスタンドの名前は『ステイアウェイ』<br /><br />
「触れたものに平面状の『矢印』を張り付ける」能力だ。<br /><br /><br />
「ひィィィ…逃げろォォォーーーー!!!」<br /><br />
兄貴ばっかり活躍してもらうと主人公の俺が涙目になってしまうので俺も出しちゃいますよ。ええ。<br /><br />
「どうぞご自由に逃げてくれよ」<br /><br />
逃げれるもんならな。俺のスタンド『U2』が男の動きを止める。<br /><br />
「ぬぁ…ぬぁんだァァァこるェェェーーー!!?体が…重いィィィーーーー!!!」<br /><br />
そう、『U2』の能力は「触れた物質の重さを変えられる」というもの。<br />
限りなく0にすることからロードローター並の重さ(約15t相当)にすることが出来るのだ。<br />
ま、相手が生物なら生命維持に支障をきたさないけどね。<br /><br />
「さすが俺の弟だ」<br /><br />
褒められると照れるやい。<br /><br />
『ステイアウェイ』は自身の腕に矢印を貼り付ける。<br />
矢印を貼り付けるとどうなるかって?それは見てからのお楽しみ。<br /><br />
「覚悟はいいか?」<br /><br />
ゴゴゴゴゴゴゴゴ<br /><br />
「ヒィィィィィ!!」<br /><br />
「彼方まで吹っ飛びなッ!アロークロスッ!!」<br /><br />
『ステイアウェイ』のパンチが男の腹を捉える。<br /><br />
するとォー…<br /><br />
「ぶるぁああああああああああああああ」<br /><br />
派手に吹っ飛ぶ。<br />
男は食堂を飛び出し、窓を突き破って外へと飛んで行った。<br />
兄貴の『ステイアウェイ』の能力とは「運動エネルギーを生み出す『矢印』」である。<br />
腕に貼りつければパンチの速度を上げることが出来るのだ。その結果がアレ。<br /><br />
「ゲス野郎には…終点なんて必要ないね…」<br /><br />
兄貴一仕事ご苦労様です。<br /><br />
「たーまやーっ!やっぱヒデ兄はあたしのことが大事だから守ってくれるんだねー」<br /><br />
妹は嬉々としながら兄貴の腕に抱きつく。<br />
ええい、俺の兄貴を独り占めするんじゃない。いや、俺は抱きつかないけども。<br /><br />
「あーあ…やっちまった…加減が出来無いからな…窓割っちまった…修理代払ってくるわ」<br /><br />
全く律儀な。あの変態オヤジに払わせとけばいいんですよ。<br /><br />
変態オヤジと言えば…窓の外へ目を向ける。<br /><br />
「…あれ?あのおっさんいなくね?」<br /><br />
見間違いか?飛んで行ったと言ってもこの飛距離なら庭らへんにいるはずだが…。<br />
窓の外をうかがっても男の姿は見当たらなかった。<br />
あれだけ飛ばされてただで住むはずが無い…一体どこへ…。<br /><br />
ふと、『スタンド』の存在が脳裏によぎる。まさか…。<br /><br />
「まあいいじゃん?あんな奴の顔なんか二度と見たくないし」<br /><br />
まあそれもそうだな。妹の意見がもっともだった。<br />
兄貴が戻って来たと同時にナイスタイミングで料理がやってきた。<br />
さあ食おう。それ食おう。ラーメンから立ち昇る湯気が俺の食欲をそそる。<br /><br />
スルスルと麺を吸い上げて口の中に含む。ふむ、中々に美味だ。<br />
麺は食堂を通り過ぎ、胃へ落とし込まれる。喉越しもいいね。<br />
ラーメン屋でもないのにこれほど上等のラーメンを作れるとはやりおるのう。<br />
気づいた頃には目の前の器に入っていた物は消失し、代わりに俺のスカスカだった胃袋が満たされた。<br />
だが、こんなもんじゃ足りないね。兄貴殿、おかわりを要求します!<br /><br /><br />
「お前一体何杯食えば気が済むんだ…?」<br /><br />
兄貴が心配そうな顔でこちらを伺う。心配なのは俺の胃袋か、財布か。どっちもか。<br /><br />
「ああ、ごめん…つい12杯も食べてしまったよ…」<br /><br />
米はそんなに食べれないけど麺類だといくらでも入っちゃうんだな、これが。<br /><br />
「お前の食いっぷりを見せられたせいでこっちは食欲失せちまったよ」<br /><br />
両手を広げてわざとらしく、肩を落とす兄貴。<br /><br />
「マジでごめんなさい。今から戻しますんでそれで勘弁して下さい!」<br /><br />
俺は器を持って吐き出す演技をする。<br /><br />
「バカたれ!」<br /><br />
ごつんとゲンコツを食らわされる。<br />
ちょっと寒い気がするやり取りだがこれを10数年間やってきた俺たちにとってはこれが日常。<br /><br />
「……」<br />
むしゃむしゃと黙々と我関せずにカニを貪る妹。<br />
カニってのは人から言葉を奪う呪いをかけやがるのですね。<br /><br />
「美味そうだな…どれ、ちょっとそのカニを俺に…」<br /><br />
差し伸ばした俺の手はバシン!と弾かれる。地味に痛い。<br /><br />
ゴゴゴゴゴゴゴゴ<br /><br />
無言の圧力。カニに取り憑かれた妹は邪魔をするなと呼び掛ける。空気とかで。<br />
わかりましたよ、食いませんよ。それはアナタの物です。<br /><br /><br />
「食った食ったー!さ、部屋に戻りましょ!」<br /><br />
「オイシソウデシタネ…カニ」<br /><br />
「なによ!?そんなに食べたかったら頼めばよかったじゃない」<br /><br />
「……」<br /><br />
正論なので何も言い返すことが無かった。<br /><br />
呆然としたままの他の宿泊客を置き去りにして俺たちは二階の部屋へ戻ることにした。<br /><br />
「よっこらしょたろー」<br /><br />
別に腰が痛いワケでも無いが口癖になっているので座るときはついつい口に出してしまう。<br />
「よっこら○○」の○○はその場の気分で決めている。適当。<br /><br />
「しょたろーって何?」<br /><br />
妹がすかさずツッコんできた。いつもは無視する癖に。<br /><br />
「え?…えーと、前世か何かで出会った尊敬する画家か何かじゃね?」<br /><br />
「ふーん」<br /><br />
口から出任せに言ってしまったが、あながち嘘と言い切れないような気もしてきた。<br /><br />
「あ、そうだ。ちょっとジャンプ買ってくるね」<br /><br />
妹はこの近場に早売りの穴場があることを知っているらしい。<br />
腐女子などではなく生粋のジャンプ読者。ちなみに俺も兄貴も子供の頃から読み続けている。<br />
元々はオヤジがジャンプ買っててそれに影響されて兄貴が読むようになったのだ。<br />
ドラゴンボールやスラムダンクやピンクダークの話題で一日中話し続けることも可能さ。<br /><br />
「いってら。車には気をつけろよ」<br /><br />
「子供扱いしないでよ…ってか車に三回もはねられた祐介に言われたくないんだからね?」<br /><br />
「ごもっともでございます…」<br /><br />
ダンプカーにはねられても骨折した程度で生還してる悪運の強い俺。<br />
兄貴が言うには俺は無意識のうちにスタンドを出して防いでいるそうだ。<br /><br />
「車には気を付けるんだぞ」<br /><br />
今度は兄貴。ってかそれさっき俺が言ったから。<br /><br />
「はーい」<br /><br />
笑顔で返事を返す。何か悔しい。そしてそれを狙って言う兄貴は底意地が悪い。<br />
さっきラーメンを12杯も平らげた俺への仕打ちなのか。<br /><br />
兄貴の方へ向けるとまたあの顔をしていた。ここではない、どこかを見つめるかのような目。<br />
何か気になることでもあるのだろうか…嫌な予感しかしないので聞かないけど。<br /><br />
すくっと立ち上がり、「トイレ行ってくるわ」と言って部屋から出て行った。<br />
時計へ目をやる。針は11時59分を指していた。<br />
テレビをつけると品の悪い顔をした島田某とダンディーな石坂某が司会を務める「開運!なんたら鑑定組」をやっていた。<br />
他にめぼしい番組をやっていないので仕方なく見ることにする。<br />
島田某のことは顔を見るのも嫌だがこの番組自体は別に嫌いでない。好きでもないが。<br /><br />
二十分足らずテレビをぼーっと眺めてると「ふぅ…」と声を漏らしながら兄貴が帰ってきた。<br /><br />
「えらい長かったじゃん」<br /><br />
「ん…ああ、ちょっと今回の敵は手強かったんだ」<br /><br />
「それはそれは…さぞかし大きい敵だったんでしょうね」<br /><br />
「大きいだけじゃない、めちゃくちゃ硬かったんだぜ…って何言わせてんの!」<br /><br />
えらいノリノリじゃないか。さっき心配したけど杞憂だったかな?<br /><br />
それから1時間の間将棋やオセロで対戦をした。<br />
結果は4戦4敗のぼろ負けである。それなりにボードゲームは強い自負があるが兄貴には全く歯が立たない。<br />
素養は羽生氏並かそれ以上かもしれない。俺とたまにやる程度の経験しかなくてこれだけ強いのだから。<br /><br />
「そーいやあいつ帰ってくんの遅くない?」<br /><br />
この旅館の近くにジャンプを早売りしてる店があるのかは知らないが1時半近く経って帰ってこないのはおかしいだろう。<br />
遠い場所なら車で連れてって貰うよう頼むはずなのだから。<br /><br />
「そうだな…ちょっと電話かけてみるか」<br /><br />
とぅおるるるるるるるるるるるるるるるるるるる…<br /><br />
「出ないな…」<br /><br />
「兄貴!俺ちょっと探してくるよ」<br /><br />
俺と兄貴は二階の窓から地面へ飛び降りる。スタンドを出して着地したので何とも無い。<br /><br />
「祐介、お前は南側を捜索してくれ。俺は北側を捜索してみる。<br />
何かあれば俺の携帯にかけろ!じゃあ1時間後に旅館の玄関口で落ち合おう」<br /><br />
クソッ!嫌な胸騒ぎがしやがる。寝付けなかった9年前のあの日の夜を思い出してしまう。<br />
頼むから無事でいてくれよ妹!<br /><br /><br />
To Be Continued...</p>
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