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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】第9話 太陽なき道 - (2010/03/17 (水) 10:32:31) のソース

&sizex(5){第9話 太陽なき道} 





話の前に、ここでは一行の案内役、ロベルト・ヴェルデの生い立ちについて説明しよう────



ロベルト・ヴェルデは三人兄弟の末っ子として誕生した。
そのためか幼い時から引っ込み思案で、人と話すのが苦手だった。


学校では友達ができず、教師からも無い物扱い。
いじめを受けた時期もあった。

一方家庭では、成績優秀な長男やサッカーの才能に恵まれた次男の影に隠れ、両親の期待など微塵も受けることもなく育った。



───だから彼は孤独だった。

彼は、自分が孤独な理由はすべて「自分のせい」だと思い込み、自分を呪い続けたのだった。



そんな時、彼はあるものと出会う。

それはたまたま見ていたテレビドラマの中で、刑事が格好よくブッ放していた「銃」であった。


彼は憧れた。
刑事ではなく「銃」に。


たちまち欲しくなって、ある時ついに実弾と実銃をどこからか盗んだ。

&nowiki(){・・・}その時の彼はとてつもない満足感を味わっていた。

それは「いつでも人を殺せる」という虚栄心からか。
それとも「いつでも死ねる」という安心感からか・・・


それは分からないが、それ以来彼はその「銃」を唯一の心の拠り所としていたのだった。 

時が経つにつれ、ヴェルデは一丁の銃だけでは満足出来なくなっていた。

彼は無我夢中で、数多くの銃を買い集めた。

銃だけではない。「武器」なら何でもよいと、ナイフや刀剣、さらには骨董品の槍や大砲まで、ありとあらゆる武器を収集した。


しかし、そんな彼を家族達が快く思うはずもない。
筋金入りの武器コレクターになった三男を不気味がり、ますます忌避するようになった。



そしてある日のことだった。
ついに父親が痺れを切らし、ヴェルデのコレクションの一部を粗大ゴミに出そうとしたのだ。

その様子を見たヴェルデは理性を失った。


(俺の武器を・・・

 俺の“仲間達”をッ!)


そう思ったヴェルデはもう何も考えず、父親の背後から引き金を一発引いた。

&nowiki(){・・・}ヴェルデが初めて“武器を使った”瞬間であった。



血を吹き出し、無言で倒れた父を見て、彼は青ざめた。

そして、大量のコレクションを持てる限り持って、家を飛び出していった。



&nowiki(){・・・}そこから先は、彼の記憶にはほとんど残っていない。

取り返しのつかないことをしてしまったのを自覚した彼は、もはや廃人同様であった。

誰にも見つからないような廃墟を、ただただ一人で歩き回っていた。 

その場に巣食うゴロツキ達ですら、大量の武器を抱えて彷徨う彼を不気味がって、近づくことも出来なかった。

&nowiki(){・・・}誰も彼に救いの手を差し伸べる者などいなかったのだ。



しかしある日のこと。
ヴェルデが21歳の誕生日を迎えた翌日のことだった。

ヴェルデは突然、何者かに話しかけられた。

“我々の所に来ないか?”と。


その人物は、他ならぬギャングの人間であった。

声をかけた理由は、彼に対する憐れみからだろうか。
単にヴェルデのことを気に入っただけかもしれない。

だがその男が少なくとも、ヴェルデを救おうとしたことは間違いない。


一方ヴェルデの方は、男を疑っていた。
もはや自分が持っている「武器」以外、何も信じられなくなっていたのだ。


すると、急に男は怒鳴った。


“人様を傷つける道具だけが武器じゃあねぇッ!
 他人を信じる心も、生きていく上での大切な『武器』なんだよッ!!”


その言葉を聞いて、ヴェルデは我に返った。


俺は間違っていたんだ・・・
目に見えるものだけが武器だと思っていたが違った。

自分の心の内にある「武器」の存在を、すっかり忘れていたんだ・・・ 

ヴェルデは迷わず男に付いていった。
そして彼の元に宿を借り、食べさせてもらった。


その後、ヴェルデは男への恩を返すため、ギャングに入団することを決意する。

男は、彼の決断に対して何も言わなかった。
自分の歩く道は自分で決めるべきだと思っていたからであろう。



こうしてヴェルデは入団試験に“合格”し、「パッショーネ」に入団したのである。

仲間内からは「ギャングでも指折りの武器マニア」として有名になり、人間不信も克服出来た。


彼が「矢」の選別を受け『ウェポンズ・ベッド』を習得するのは、もう少し後のことになる・・・



* *



ネアポリス某所 PM 7:30


みんなをこんな時間に集めたのは当然理由がある。

敵地ミラノには早朝に集合することになっているのだ。

ミラノへは車で少なくとも八時間はかかる。
一晩中車を飛ばしていけば、丁度早朝にミラノに到着出来るという寸法だ。



ビアンコ「おいヴェルデ、車の点検はしたか?
    敵のスタンドが取り付いてっかもしれねぇからよ」

ヴェルデ「言われなくとも。バッチリ異常なしだぜ」

ロッソ「まずは、ミラノに無事に到着できるかどうかですからね・・・」 

アラゴスタ「ヴェルデさん、居眠り運転なんてしないでよ!」

ヴェルデ「おいおい、そんな心配かよ!」

ロッソ「こいつ小学生だから寝るのが早いんですよ。うちの寮でも九時には寝てましたし」

イザベラ「やっぱり規則正しいのね、ポルポラ君の生活って」

アラゴスタ「そ~お?」


ヴェルデ「さぁさぁ、無駄な話は必要ないぞ。
    忘れ物無いな? じゃあ車に乗れ」



本当に不思議なくらい、みんな余裕だな・・・
これから一種の戦争に行くというのに・・・


アラゴスタ「僕助手席がいい~~!」

ビアンコ「ゲッ、取られた!」

ロッソ「別にどこだっていいでしょう、席くらい・・・」

ビアンコ「だって後ろ三人だぜェ~、キツキツじゃねぇか、俺寝れねぇよォ~・・・
    あ、でもイザベラちゃんの隣だったらいいかもな・・・フヒヒッ!」

ロッソ「ちょっと・・・何考えてんすかビアンコさん! その笑い方・・・」

イザベラ「フフフッ! ロッソとビアンコさんって、凄く面白いコンビですよね!」

ビアンコ「だってよ! どうするよロッソ!」

ロッソ「どうするって・・・
   どうしましょうね・・・」



こいつらに関しては、そう深く考える必要はないのか・・・


“彼らには『覚悟』が出来ていますから・・・間違いなくね”

ボスが言っていた言葉を頭の中で反復しつつ、俺は車を発進させた。 

その後、俺が運転する車は高速道路を走っていた。



「太陽道路(アウトストラーダ・デル・ソーレ)」と呼ばれる、イタリア最長の国道。
ネアポリスからミラノまでを結ぶ、全長約750kmの道だ。


といっても、今は夜。
太陽道路なんて呼び名に合わない、暗闇とライトの光だけが支配する道になっている。

だがそんな雰囲気も、こっちには関係ないがな・・・



ビアンコ「『ワープ』ってあるだろ? 宇宙戦艦ヤマトとかがやってたやつ。
    あれって本当の所出来んのか?」

アラゴスタ「あのね、凄いミクロの世界には“ワームホール”っていう穴があるらしいんだ。
    それをくぐれば、一瞬でどんな所にもいけるらしいよ。
    勿論今の技術では無理だけどね」

ビアンコ「穴? 何の穴だよ」

アラゴスタ「空間の」

ビアンコ「そんなの見たことある奴いんのか?」

アラゴスタ「いや、これは数学的な可能性の一つに過ぎないんだよ。
    計算していったら、有るかもしれないってことが分かったの」

ビアンコ「何それ、どんな計算だよ? 足し算や引き算でそんなの分かんの?」


ヴェルデ「・・・・・・」


&nowiki(){・・・}うるさい。
どういう訳か、みんなやけにテンションが高い。

&nowiki(){・・・}いつものことか。 

イザベラ「ねぇロッソ、私が作ったシフォンケーキ持ってきたんだけど、食べる?」

ロッソ「ほんと!? どうもありがとう!」


ビアンコ「んん? おいお~い、なんだか暑くねェ~かァ?」

イザベラ「あ・・・」

ロッソ「やめて下さいよ。ビアンコさんも食べたいんですか?」

ビアンコ「いや、俺は別に欲しくはね~し。
    イザベラちゃんもロッソの“ためだけに”作ってきたっぽいしな!」

イザベラ「フフ・・・」(苦笑い)

ビアンコ「あ~あ、全く幸せモンだよなァ~ロッソは。
    初めはからかってやろうと思ったが、段々露骨にラブラブになってきちまってよォ~」


ロッソ「イザベラ・・・気にしなくていいから」

イザベラ「うん、分かってる・・・」



ヴェルデ「・・・・・・」



ビアンコ「アラゴスタ、おめぇは好きな娘とかいるか?」

アラゴスタ「いな~い」

ビアンコ「そうかァ~まだいねぇか・・・
    けどまぁ、その内おめぇも好きな女の子をオカズにして抜・・・」


ドギャアァァァァァン!!



ロッソ「!」 アラゴスタ「!」


イザベラ「ポルポラ君に変なこと教えるのはやめて下さいね、ビアンコさん」 ニコッ

ビアンコ「ぐ・・・ふ・・・」 

ロッソ「な、殴った・・・『シルキー・スムース』が・・・!」

アラゴスタ「攻撃に向かないスタンド・・・じゃあなかったっけ・・・?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


イザベラ「ハッ! ・・・ごめんなさいビアンコさん!
    すぐに怪我を治しますね!」

ビアンコ「いや・・・大丈夫だ。すまん、悪かった・・・」



ヴェルデ「・・・・・・」



アラゴスタ「ねぇ! 今攻撃したよね、『シルキー・スムース』が!」

ロッソ「ついに成長したか・・・破壊力が」

ビアンコ「なかなか・・・ヘビーなやつ貰ったぜ・・・」

イザベラ「ちっ違うの違うの! この子ったら私の意志と関係なしに動いたのよ!」

ロッソ「スタンドが意志に関係なく動くって有り得ないから!
   自動操縦型じゃあないんだし!」

アラゴスタ「絶対嘘! あの笑顔の殺気が凄かったって!」

イザベラ「本当よ~信じてよ~!」

ビアンコ「今まで俺、マジでイザベラちゃんのこと甘く見・・・」



ヴェルデ「うるせぇッ!!!!」

バ ン ッ


ロッソ「!」
ビアンコ「!」
アラゴスタ「!」
イザベラ「!」


ヴェルデ「テメェらこれからどこに行くか分かってんのか!!
    殺し合いなんだぞ! テメェら死にてぇのかッ!」 

シーン・・・


思わず出てしまった。俺の一喝。

途端に車内が静まり返り、タイヤがアスファルトの上を滑る音とエンジン音だけが響いた。


ヴェルデ「・・・明日は早ぇんだよ・・・早く寝ろ」

俺は高ぶった気持ちを落ち着かせるつもりで言ったが、かえってキツい感じになってしまった。



ビアンコ(やっぱ怖えぇぇッ、さすがギャングは違うぜ・・・
    おいロッソ、『ガーネット・クロウ』で何とかしろ!)

ロッソ(無理ですよ、こんな状況で・・・)


スタンドで会話したって無駄だ。丸聞こえだぞ。
まぁそれくらいは少なからず気付いているだろうが。


しかし・・・冗談抜きに不安だ。


こんな奴らで本当に大丈夫だったんだろうか?

敵は本気なんだぞ?

本当に“覚悟”なんてあんのかよ?

誰の責任だと思ってやがる?



心のモヤモヤが晴れない。
ならばいっそのことロッソに不安を消し去って貰いたかったが、そんなことを頼める立場じゃあない。



俺の心に・・・「太陽」は戻ってくるのか・・・


そのうちに、俺は過去を回想していた。


幼いときはずっと独りぼっちだった。

勢いで親父を撃ち殺して、正気を失った俺は彷徨い歩いた。

毎日どうやって食い繋いでいたのか覚えていない。
今思えば、あの状況でよく数年も生きられたものだ。 

そんな俺の心を生まれて初めて「太陽」が照らしたのは、あの男に出会った時だった。


あの男の一喝を受け、俺は変わったんだ・・・
今でもあの衝撃は忘れられない。

そして俺はギャングの世界に入った。
だからあの時の俺にとって、あの男こそが「太陽」だったんだ。


&nowiki(){・・・}いつからだろう? 俺の心から「太陽」がいなくなったのは・・・



俺は憂鬱な気分でハンドルを握り直した。

いつの間にか、みんな眠りについている。
まだ目を瞑っているだけかもしれないが。


さっきまで騒がしかったのが急に静かになり、何だか寂しくなった。

&nowiki(){・・・}寝ろと言ったのは俺の方なのに。
まったく情けない。



俺がギャングになったのは、果たして正解だっのか? と今更ながら思う。

進むべき道は他にもあったはずだ。
もっと良い人生を送れる道もあったのでは?


もしあの男に出会えなかったら、俺はどうなっていたんだろう?
一生あのままだったんだろうか?


俺はそんなことを思い巡らせたが、すぐに考えるのをやめた。


仕方ないことなんだ・・・

この道を選んだのは俺の責任。
どうなったとしても、それは俺が悪かっただけだ。 

それに、人の運命は出会いで決まるものだ。

ギャングにならなかったら、俺はこいつらとは出会えなかっただろう。
俺はこいつらと居るのが楽しいんだ。


こいつらは・・・




!!!




ヴェルデ「何ィッ!?」

余りに突然のことに、俺は大声を出した。


隣の助手席にいたアラゴスタが・・・


ヴェルデ「い・・・“いない”ッ!!」



どういうことだ!?


全身から汗が噴き出す。

まさかと思い、俺は恐る恐る後ろを見た。


ヴェルデ「・・・バカなッ!!」


そこには・・・
他の三人の姿も無かったのだ・・・


ヴェルデ「どういうことだッ!? さっきまで確かにいたのに!」


俺はすぐに車を止めようとしたが、思い留まった。

ヴェルデ「まさか・・・スタンド・・・?
    “敵のスタンド”が近くにいるッ!?」


一体どうすれば・・・
どうすればいいんだッ!


鼓動がはち切れんばかりに脈打つ中、俺はなんとか車を運転していた。


ヴェルデ(どこにいる・・・)


俺が必死に車内をキョロキョロしていると、不意に車のライトが目に飛び込んできた。

それはバックミラーに反射した、後続の車のものだった。
一台の小洒落たフェラーリである。 

ヴェルデ「いつの間に・・・!」


車は隣の車線に移り、スピードを上げる。
そして、俺の車の横に並ぶ形になった。


ヴェルデ「・・・!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・



??「“ロベルト・ヴェルデ”と言ったな・・・?」

向こうの車の助手席に乗った眼鏡の男が、窓越しに話しかけてきた。


ヴェルデ「・・・お前は・・・ッ!」


??「私の名は“チャーノ”・・・応報部隊の一員だ」


やはり、こいつの仕業か・・・!


ヴェルデ「テメェ、車内にいた奴らをどこにやったんだッ!」

チャーノ「フッ・・・そう焦るなよ。
   せっかくこれから“面白い死に方”が出来るんだぜ・・・」

ヴェルデ「なんだと・・・」


言い返そうとしたが、その時俺はあることに気付き、言葉を失った。


ヴェルデ(向こうの運転席に・・・“誰も座っていない”・・・!?)

間違いない。
男の肩越しに見える運転席は空だった。


チャーノ「フフフ・・・驚いたか?」

ヴェルデ「何なんだ! テメェのスタンドはッ!
    みんなに何をしたんだッ!」


俺は声を荒げる。

一方チャーノという男は、こちらをナメきったように澄まし顔をしていた。 

チャーノ「教えてやろう・・・
   簡単に言えば、お前の仲間達は“この世界から一時的に消えている”。
   何故ならば今この場所は、私とお前『二人』だけの世界だからだ・・・」

ヴェルデ「何故・・・どういうことだ・・・」


訳が分からん・・・

奴の説明を聞きたい所だが、今はハイウェイを走行している真っ最中でもある。
運転にも気が抜けない。



チャーノ「単純な答えだ・・・“それが私のスタンド能力だからだよ”!」

ズオォォッ!


ヴェルデ「!」


チャーノがスタンドビジョンを解き放った。


&nowiki(){・・・}今までに見たことがない、奇妙な姿だ。

頭部が巨大な球状の人間型。
その姿は近未来的なロボットにも見える。
そして頭部の球の部分には、何やら難解な数式がいくつも浮かんでいる。


チャーノ「こいつは範囲内のあらゆる“数”の概念を操作できる・・・
   名付けて『ストレングス・イン・ナンバーズ』・・・!」


“数”が何だって?

こいつは何だか厄介だ。
早くケリをつけなければ・・・



ヴェルデ「早い話が・・・お前を倒せばみんなは戻って来るんだな!
    『ウェポンズ・ベッド』ォ!」


ズオォォッ!

俺も負けじとスタンドを解き放った。 

そしてすぐさま拳銃を持たせ、チャーノに向かって発砲する。


ダァ───ン!!


&nowiki(){・・・・・・}



チャーノ「フゥ~・・・どうやら、ギャングというド低脳な生き物に私の偉大な能力は理解できないらしい・・・」

ヴェルデ「・・・何だと・・・!?」


俺はまたもや驚愕させられた。

銃弾が“当たらない”!?
『ウェポンズ・ベッド』が車の速度を確実に計算した上で放った弾丸なのに!


チャーノ「分からないか・・・? 『ストレングス・イン・ナンバーズ』の射程内においては、すべての行動が“数値化”されている。
   今お前の撃った弾丸は私の『計算』によって、軌道をずらされたのだ!」

ヴェルデ「・・・!」


クソ・・・何が何だか・・・

ヴェルデ「ふざけるなよ・・・テメェ!」


ダァ────ン!!
ダァ────ン!!



俺は半ばヤケになり、弾を二発発射する。

チャーノ「ハハハハハ! 馬鹿は死なきゃ治らないとは本当だな!」

ヴェルデ「どういうことだ・・・ッ!」


今度は・・・弾が“止まった”!

俺の車と向こうの車の丁度中間あたりで弾が固定され、車と同じ速度で動いている。


チャーノ「この世界は私の『計算』によって成り立っている!
   “武器”による攻撃など・・・無駄無駄無駄ァッ!」 

クルッ


ヴェルデ「・・・ハッ!」

俺の撃った銃弾が突然、180度向きを変えた。

ヴェルデ(まさか・・・!)


ズギュン! ドシュッ!


ヴェルデ「ぐあぁぁぁぁッ!!」

予想通り・・・
回転した銃弾は空中で発射され、俺の肩を襲ったのだ。


チャーノ「ハハハハハッ! どうだ、自分の弾に撃たれる気分はッ!」


どうすればいいんだ・・・
俺は片手でハンドルを握りながら必死に考えた。


チャーノ「だがなァ、私としてはお前に簡単に死んで欲しくはない・・・
   やろうと思えば・・・私は“何だって”出来るんだ・・・」

ヴェルデ「くっ・・・」


チャーノ「別にこんなことをしなくとも、遠くでお前の車の動きを狂わせて、クラッシュさせることだって出来るんだ。
   だがそれでは“味気ない”のだよ。お前の仲間達が機転を利かせて、脱出する可能性だってある。
   そこでまず、運転手のお前一人から殺ることにした! お前が死んで車が潰れたら能力を解除!
   これでお前の仲間達も“死ぬこと”になるッ!」


ヴェルデ「・・・」

こいつの冗長な説明を聞いていると、頭が痛くなってくる(今はそれより肩が痛いが)。


俺はひたすら、奴の弱点を探すのに頭を使った。 

チャーノ「私にとって“面白い死に方”をして欲しいのだよヴェルデ。
   それでだ。私は今さっき、素晴らしい死に方を一つ思いついたんだ。
   ・・・お前は“重力加速度”を知っているか?」

ヴェルデ「・・・・・・」


チャーノ「あぁすまない。人として出来損ないのギャングなどが、そんな言葉を知るはずがなかったな!」


さっきから腹の立つ奴だ。徹底的にギャングを見下している。


チャーノ「では結論から言おう。これからお前にかかる“重力の加速度”を上昇させる!
   するとどうなるか? 簡単に言えばお前は“潰されて死ぬ”。自らの重さでなァッ!」


ヴェルデ「何・・・ッ!?」

チャーノ「どうだ、面白いだろう?」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


なんてことを考えるんだこいつは・・・
イカれてるぜ・・・


ヴェルデ「させるかッ!」


ギュイン!

俺は急にハンドルを切り、チャーノの車に横からぶつかっていった。


チャーノ「おやおや・・・怖じ気付いたのかい?」


グググ・・・

ヴェルデ「くぅ・・・」


ハンドルが回らない。奴に阻止されてしまったんだ。

やはり、奴には何をやっても駄目なのか・・・

倒す方法は・・・


チャーノ「ジタバタするなよヴェルデ。さぁ、“裁き”の時間だ・・・
   『ストレングス・イン・ナンバーズ』!」 

ピピピピ・・・


チャーノのスタンドの頭部に、数式がネオンのように浮かんで光った。

すると・・・


グン!

ヴェルデ「・・・!」
ヴェルデ(か・・・体が!)


俺の体が、急に重くなっていくのが分かった。
全身がシートに押しつけられる。


チャーノ「どうだヴェルデ。今は“2G”だぜ。
   まぁ詳しいことは、天国でアラゴスタとかいう少年に聞くんだな」

ヴェルデ(こいつ・・・マジでやばい!)


本当に潰される・・・?

俺の心臓がますます高鳴った。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


チャーノ「少しづつ数値を上げていくぞ・・・その方が面白いからな。
   次は宇宙船の打ち上げ時の衝撃を越える・・・二倍の“4G”だッ!」

グン!

ヴェルデ「ぐぅッ!」


一気に体が圧迫され、呼吸が苦しくなってくる。

俺はそれでも、何とかハンドルを握り続けている。
否、“握らされている”のだ。
奴の前では、車を止めるどころか減速させることすら出来ない。


チャーノ「ハハハハハ! いいぞヴェルデ、もっと苦しんでくれたまえ!」

ヴェルデ「ハァ・・・ハァ・・・」


意識が朦朧とし、まともに考えることも出来なくなってきた。 

チャーノ「『ストレングス・イン・ナンバーズ』・・・次は“6G”だ」


グン!

ヴェルデ「ぐあぁぁ・・・」


ミシ・・・ミシ・・・


容赦ない攻撃がさらに続く。
もう限界が近い・・・


チャーノ「いい表情だ・・・
   出来の悪い人間が苦しむのを見るのは何と気持ちのいいことか!
   どんどんいかせてもらうぜ・・・次は“8G”!」


グン!

メギッ! グギャ!

ヴェルデ「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」


ついに体が耐えきれなくなり、崩壊が始まった。
肋骨が折れ、内蔵が破裂し、俺は吐血した。


チャーノ「フハハハハ! いいぞいいぞ! 次で最期かな?」


一人興奮するチャーノを尻目に、俺は諦めずに考え続けていた。


こいつは・・・
自分で計算を行うことで、数値に変化をもたらしている。

“自分で計算”・・・


ヴェルデ(試してみる価値はある・・・)


チャーノ「さぁて、いよいよ“裁き”の時か。短い間だったが、楽しかったぞ。
   『ストレングス・イン・ナンバーズ』! “10G”だぁ──ッ!」


ヴェルデ「うおぉぉ! 『ウェポンズ・ベッド』ォ───!!」


カチャッ

もう一度『ウェポンズ・ベッド』に銃を持たせ、チャーノに向けた。 

チャーノ「どうした・・・今になって命が惜しくなったのかね?
   何をしても無駄だと言っただろうがァ──ッ!」

ヴェルデ「ならば・・・これならどうする?」


ギュン!

チャーノ「ぬッ!?」


俺がとった行動・・・
それはチャーノに銃口を向けながら、車を横滑りさせたのだ。


チャーノ「お前ッ・・・!」


予想通り、奴は焦っている。


人間である以上、一度に二つの計算をすることは出来ない。
それならば、“一度に二つの攻撃を仕掛ければいいんだ”。

銃に気を取られていると車が迫ってくる。
逆に車を止めようとすれば撃たれてしまうのだ。


ヴェルデ「さぁ、どうする・・・?」

チャーノ「この野郎ォォ────!!」

奴は車を止めない。
当然だろう。直接撃たれるよりはマシだからな。


ドギャン!

俺の車が、奴の車に勢いよく激突した。


ズガガガガガガガガガガ!

反対側のガードレールに奴の車が押し付けられ、火花が立つ。

チャーノ「ふざけた真似をッ! 『ストレングス・イン・ナンバーズ』! 車を押し返せェ───!」


グイッ

なんだ・・・文字通りの力押しか?

だが奴のスタンドはなかなかのパワーを持っており、俺の車を押し返した。 

チャーノ「この私をバカにしやがってェ!
   もう許さん! 一気に“20G”の重力加速度をぶちこんで、貴様をミンチにしてくれるわ!」

ヴェルデ「やれやれ・・・相当キレてんな。周りはよく見なきゃダメだぜ」

チャーノ「どういう意味だッ!」


ヴェルデ「“俺が車をぶつけたのは、テメェの車を落とすためじゃあないってことさ”」

チャーノ「何・・・」


ヴェルデ「テメェが焦ってたお陰もあって、“バレずに投げ入れることが出来た”・・・」

チャーノ「・・・! まさかッ!」


チャーノの顔がこわばり、急に足元を捜し始めた。

今更遅いぜ・・・


ヴェルデ「『手榴弾(グレネード)』だ・・・あばよ」


チャーノ「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ズドオォォォォォォォォォォン!!



轟音と共に、奴の車は大きく吹き飛ばされた。

それと同時に、チャーノの返り血(というか肉片)が窓から飛び込んできたような気がしたが、俺は構わずにアクセルを強く踏んだ。


ドギャン! ガッシャアァァァン!!


チャーノの車はそのままガードレールを突き抜け、道路の下へと落ちていった。



ヴェルデ「ハァ・・・ハァ・・・」


終わった・・・
面倒くせぇ敵だったぜ・・・ 

アラゴスタ「・・・あれ? 何が起こったんだ?」

ロッソ「何だか時間が飛んだような・・・」

ビアンコ「・・・おいヴェルデ! どうしたんだその怪我はッ!」

アラゴスタ「うわッ! 何? どうしたの!?」

イザベラ「大丈夫ですか!? 早く治療しないと!」

ロッソ「スタンド・・・敵のスタンドが襲ってきたんですね、ヴェルデさん!」


ヴェルデ「あぁそうだ・・・俺が撃退したがな・・・」


イザベラ「いつの間に・・・?」

ビアンコ「何だか知らねぇがヤベェぜ!
    敵に居場所が知られてるってことだ!」

ロッソ「みんな、今はヴェルデさんの回復が先だ。一旦近くのパーキングエリアに止まろう」



みんな真剣な目をしている。

なんだ、俺が心配する必要なんて、初めから無かったんだ。



&nowiki(){・・・}その時、俺はあの男に言われたことをはっきり思い出した。


“他人を信じる心も、生きていく上での大切な武器なんだよッ!!”


そうか、俺はみんなを疑っていたんだ。

長年の間、俺は自分の中の“武器”の存在をすっかり忘れていたんだ。


そう思うと、俺の心が少しだけ晴れたような気がした。


この道路は暗闇だが・・・
俺の“太陽”はもう戻ってきたんだ。




応報部隊)チャーノ /スタンド名『ストレングス・イン・ナンバーズ』 → 死亡。



第9話 完 

使用させていただいたスタンド

No.966 『[[ストレングス・イン・ナンバーズ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/191.html#No.966]]』
考案者:ID:fpz3L5+m0 
絵:ID:MssudVmiO 
絵:ID:04pbrWEb0 
絵:ID:xdT1EKiDO 
絵:ID:/JMe8C/p0





|[[第8話へ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/480.html]]|[[第10話へ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/519.html]]|
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