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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第十一話

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orisuta

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「ハァ、ハァ……、限界ギリギリのところだったが、なんとか勝てた。あ、危ないところだった……」
傷口を抑え込んで、荒い息をついていたステッラだが、背後から聞こえてくる足音にふと振り返った。
「ステッラさん! 負傷したんですか?! 敵は、どうなりました!?」
駆けよってきたのはジョルナータだった。チームのリーダーの負傷に驚愕した様子の彼女が、急いで治療にかかろうとするのをステッラは押しとどめた。
「ああ、敵は皆始末した。俺のことは後でいい、それよりチームに犠牲者は? 車内に生存者は残っているか?」
「チームは全員無事です。酩酊の症状がなくなったので、とりあえず怪我の治療が出来、戦闘も可能な私だけ亀から出てきたんです。
そして、見た限り生存者なんていないようです……。何があったのか、私には判りませんが、車内はバラバラになった死体で溢れています……」
自身の体や、バラバラになったばかりでまだ新鮮な遺体の一部を使ってステッラの傷を塞いでいたジョルナータが、その時だけうつむいた。
おそらく、戦闘の巻き添えとなった人々に心を痛めているのであろう。

「そうか……。俺の判断ミスだった、敵はどんな手段を使ってでも俺たちを殺しにかかるということを……。
列車の中でなければ、これほど多くの民間人を巻き添えにすることは無かっただろう!」
「いえ、そんなことはありません。今回襲ってきた相手は遅かれ早かれ、自分らの失敗を償うために私たちを襲いに来たはずです。それも、場所を選ばずに。
そうなっていれば、相手を見つけるなんて出来なかったと思います」
ジョルナータの慰めに、ステッラはしばし無言でいたが、やがて口を開いた。
「そうかもしれんな。俺の傷はもういい、今すぐウオーヴォを呼びに行ってくれ。
スタンド使いが戦った痕跡は可能な限り糊塗しなければならない。これは、珍しくもない普通の大惨事でなければならないんだッ……!」
頷いたジョルナータが足早に駆け戻っていく中、ステッラは拳銃自殺した男の死体に目を向けていた。
その懐から携帯がこぼれ落ちている。やはり、連絡くらいはとっていたようだ。
「どうせ、これ以上電車には乗れないとはいえ、まずいな……。今日中にローマに入る予定だったが、明日か、明後日までかかるかもしれん……」

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その列車は、ありえてはいけない速度でカーブへと差し掛かっていった。
たまたまそれを見ていた観光客が、「速すぎはしないか?」と危惧するその目の前で、ガシャアアアアアアアアアアアアアアンッ!
列車は盛大に横転し、Vの字を描くように折り曲がって大破した。まずい事に、脱線していった先には何台かのタンクローリーが止まっており、それらが巻きこまれ、爆発、炎上していく。
どう考えても、生存者など絶望的だろう。この光景を目撃した者たちの間に絶望の念が共有された。

その風景を、やや離れた丘の上から俯瞰する者たちがいた。周囲の人垣はこの事故に悲鳴や嘆声を洩らしているが、彼らだけは静かに事故の様子を見つめていた。
「どうやら、うまくいったようだな」
「うまくいかないわけがないだろう? ベルベットに用意させたリボルバー拳銃を、ストゥラーダの『スーサイド・ダイビング』で、地中に点々と配置した。
それを縫って『ダフト・パンク』のコードを伸ばせば、エウロスタルやタンクローリーを狙い通りに動かすなどということが出来ないわけがないんだ」
ステッラとウオーヴォが小声で話し合う内容に、ジョルナータは、本当にこれでよかったのだろうかと思ったが、実際のところこれ以上の手があるわけでもない。
相手をこの事故に引き寄せさせる危険はあるが、それでもスタンドを使用しての抗争はなるべく隠蔽しなくては何があったものかわかったものではない。
「とにかくよォー、俺たちもとっととこの場を離れる必要があるんじゃねぇか? 人の目が事故に向けられてるうちに、とっとと乗り物を確保しようぜ?」
「あたしも賛成だね。ここは出来る限り早く離れた方がいいよ」
ストゥラーダとベルベットの言葉に、三人は頷き、そっと野次馬の中から姿を消していった。
 
 
 




**

「ローマの連中から連絡が来てますぜ、旦那」
スオーノが携帯を振ってみせるのに、アルジェントは微かな驚きを見せた。
ローマの連中とは、『パッショーネ』から『ヴィルトゥ』へと送り込まれているスパイたちの事だ。奪い取られたとはいえ、元々ローマはこちらの縄張り。スパイなど相手がローマに勢力を伸ばし始めた時期には入れている。
スパイは情報管理チームの管轄内にある為、元関係者であるスオーノから接触を試みていたのだが、ここまで早く連絡が来るとは思わなかった。
「向こうは、なんと言っている?」
「ボスが、俺達の行動を許す代わりに、ある程度人目を集めるように動け、と言っていたようっすよ。その為には、あいつらはオレらへの協力は惜しまないそうでさあ。
おそらく、俺達が動く事で、ステッラさんのチームへの敵の意識を弱め、その間にあちらが突っ込むことで、両方の身に注意が向くようにして、その隙にやつらの縄張りをかすめようって手じゃないっすかね」
あり得ることだ、アルジェントは首肯した。『ヴィルトゥ』の連中はこちらと同じくスタンド使いが多い。真っ当に抗争するのでは犠牲が大きくなる。それを防ぐためにこそ、頭の使いようがあるのだ。
「結局、俺達はやつらの視線を向ける餌になれ、ということか……」
よかろう、ならば餌となって組織に尽くそう。だが、最後に目標を仕留めるのは俺達だ。それだけは譲らない!
ローマの郊外で、彼がそう決意を新た時のことだった。深い闇夜からクツクツと笑い声がしたのは。
「ほう……、ならば視線を向けさせてもらおうか」
「餌ならば、喰らって肥え太るまでの事よ」
二つの声に、アルジェントとスオーノは、早速おいでなすったか、とニヤリと笑う。次の瞬間、
「笑うのは、この砂の迷宮を突破してみせてからにしてもらおうか! 『オービタル』ッ!」
轟、と風が舞った。そして、急速に伸びてくる砂の壁が二人を呑みこんだ。

「へぇ……、砂で出来た迷路っすか。相手もなかなかやるもんっすね。
……ま、このオレにかかりゃ、こんなもんを抜け出すのは、スパゲッティをフォークで掬うより楽なもんですがね! 『ディーズ・オブ・フレッシュ』ッ!」
面白そうな顔で砂塵の迷宮を眺めていたスオーノの背後に、突如メタリックなトンボが姿を現し、高速で羽を震わせた。
同時に、アルジェントの隣には金属を思わせる色の、上半身だけの人型が浮かび上がった。
「砂、か……。ならば、砂鉄も多い事だろうよ。『メタル・ジャスティス』ッ!」
その言葉に応じ、周囲の砂壁から、ドロリ、とした黒い液体が引き寄せられ、幾つもの小さな球体となってアルジェントの周りに浮かんだ。
「ちと妙っすね。この壁、ゆっくりながらも動いていってるようですぜ。まるで、真横に『落下』してるみたいに」
「無駄口を叩くな。敵の居場所さえ分かればいい」
「へいへい、敵は二人っす。一人は、剣みたいなもんを持ってます。それが、そいつのスタンドですかね。場所は、だいたい4時の方向っすよ」
余裕ありげに返答を返すスオーノに、アルジェントは軽く頷いてみせ、
「やれ、『メタル・ジャスティス』」
浮かんでいた黒い球体が急速に寄り集まり、長い帯と化す。それが音を鳴らして高速で振り回され、砂の壁には大きな穴が開いた。
「行くぞ」
アルジェントの言葉に、スオーノは頷いた。二人の背が、ポッカリと空いた穴に消えていった。

**

「気流に変化が生じた。やつらは、こちらへと近づいてくるぞ」
男がポツリとつぶやいた。彼が持つ物は、剣、というにはあまりにも奇妙なモノであった。文字らしきもので埋め尽くされた石板に柄が取り付けられただけのそれは、されどそこらの刃物よりも強烈な存在感を感じさせた。
「だから如何したのだ、アシッド・ハウス。お前の『オービタル』は、軌道を操る能力。砂の落下する軌道を横にすることで作り上げたこの迷宮は、刻一刻と変化する。
そして、お前が持つのは、砂を生み出すスタンド『STORM BRINGER』ではないか。ローマ時代の遺跡から発掘された、『剣そのものがスタンド』という珍品を持っていて、何を恐れる事がある」
相棒の言葉に、アシッド・ハウスは、怖気づいている訳ではない、と言い返した。
「それより、そろそろ君の出番であろう。噂に聞く『メタル・ジャスティス』と、君の『サングェ・パッサーレ』は相性が悪い。デーストゥラ、君こそ気をつけることだ」
 
 
 




**

「盗む、それ自体は難しい事ではない。誰もが事故に意識が向けられている間は、すぐに通報はいかないだろう。だが、それでも危険だな」
「何を言いたいってんだい! あたしらにはっきり説明しとくれよ!」
ウオーヴォの慎重な意見に、ベルベットが目に見えてイライラし出していた。が、彼はあくまでも冷静さを保っている。
「考えてもみろ、バレた時点でヤバいんだ。ここはローマからやや離れた街道沿い、敵の本拠地まで遠くは無い。
連絡が来ればすぐに連中は大挙して押し寄せてくるだろう」
「かといって、ヒッチハイクの方がもっと危険なんじゃねぇか? あいつらも必死なんだ、他人任せでもたもたやってたらまずいぜ」
「でも、早いとこどっちかに決めるしかないのさ! ステッラ、あんたはどう思うんだい?」
その言葉に応じ、ステッラが意見を述べようとした矢先のことだった。
「あ、あの……」
ジョルナータがおずおずと割って入ったのは。
「なんだい? なんか、いい案があるってのかい?!」
「はい。『一台』盗む分には見つかりますけど、『百台』盗めばどうでしょうか?
まずは『スーサイド・ダイビング』で、出来るだけ多くの車やバイクを沈めます。
後は一台のバイクにステッラさんの『SORROW』のバネで人形を作って、服やヘルメットを着けて偽装させて、その中に亀を安置すればいいんじゃないでしょうか?
亀のことはまだバレていませんから、一人しか乗ることのできないバイクの探索は後回しになると思うんです。
そして、動かすのはウオーヴォさんのスタンドですし、亀越しでも『インハリット・スターズ』なら、目を植えつけられますから支障はありません」
彼女の言葉に、一行は瞠目した。なるほど、それならばかなりの時間が稼げるだろう。
「いいだろう、それでいこう。ストゥラーダ、ウオーヴォ、今すぐ作業にかかれ。ジョルナータ、ベルベット、お前たちは警戒にかかれ」
ステッラが命令を下す中、彼女らはそれぞれの作業へとはいって行く。その途中、ウオーヴォはジョルナータにちらっと目を向けた。
(ジョルナータ・ジョイエッロ。気弱でこの世界には向いていない小娘だと思っていたが、案外スケールの大きく、かつ的確な案を考え付くやつだ。
前にもこんなことがあった。意外と、これから伸びていくかもしれないな)

やや時間が経ってから、警備中であるはずのジョルナータが不意にそわそわし始めた。
「ジョルナータ、あんたどうしたってんだい?」
「あ、あの、ちょっと用を足したくなりまして……」
「しょうがないねぇ、亀の中に入んなよ。あたしが番をしとくからさ」
その言葉に、ジョルナータは恥ずかしげにうつむいた。

**

やや後のことである、トイレを済ませたジョルナータが戸を開けようとしたその瞬間、
「?!!」
ガシィ! 便座の陰から飛び出した鉤爪が彼女の足を掴む。そして、その腕は彼女を掴んだまま何処かへと姿を消していった……

**

「おい、ジョルナータは?」
「トイレだとさ。ちと遅いから、大の方かも知んないねぇ。便秘なら、後何分かかるかわかったもんじゃないよ」
ベルベットの身も蓋もない答えに、男達は苦い顔をした。あまりにもあからさまに過ぎる言い草はやめてほしい。
「ちったぁ慎みってもんはねぇのか、おめぇはよぉー!」
 
 
 

使用させていただいたスタンド


No.251
【スタンド名】 STORM BRINGER
【本体】
【能力】 触れたものを砂に変える、元に戻す

No.185
【スタンド名】 オービタル
【本体】 アシッド・ハウス
【能力】 物体の「軌道」を操作する

No.1534
【スタンド名】 サングェ・パッサーレ
【本体】 デーストゥラ
【能力】 触れたものの『内部』に『鉄球』を仕掛け『内部』から破壊する

No.381
【スタンド名】 メタル・ジャスティス
【本体】 アルジェント・ポサーテ
【能力】 範囲内にある金属を引き寄せて溶かす

No.1404
【スタンド名】 ディーズ・オブ・フレッシュ
【本体】 スォーノ・フィウーメ
【能力】 羽から超音波を発して周囲のものの座標や情報を正確に把握する




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