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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第十話

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orisuta

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「しっかし、マジで『パッショーネ』を抜けてまで、『ヴィルトゥ』のボスに牙をむくことはないでしょーよ。
いや、オレは構いませんよ? 『暗殺チームの恥を雪がぬ間は他の仕事はやれない』ってあんたの心意気は見過ごせませんしね。
……そんなオレがまた格好いいぜ」
いかにも女たらしといった風貌の優男の軽口に、連れの男はしばし無言でいたが、
「ボスは、必ず俺の気持ちをわかってくれるはずだ。それに、暗殺チームは俺がいなくとも再建は進む」
「そりゃそうっすけどね……。でも、いいんですかね。オレらだけで向かっていって?
今回『ヴィルトゥ』のボスを仕留める任務を与えられたのは、あんたの友人のチームじゃないですか。アルジェントの旦那」
「だからこそ、だ。スオーノ。俺がステッラと接触することは、あいつらの任務を侵すことになる」
そう言って、男は口をつぐんだ。互いに、知らぬふりをする方がいい。無言の背中は言葉よりも雄弁にそう伝えていた。

**

「馬鹿な! 僕の『ゴールド・シーカーズ』をエウロスタル全体に差し向けても、あいつらが見つからないなんてことがあるものか!」
青年が苛立たしげに壁を叩く。その様子に、それまで煙草を吸いつつ時間を潰していた女と、スーツ姿の男が口を開いた。
「ヴィアッジョ、落ち着け。やつらも馬鹿じゃない、いかなる手段を使ったかは知らないが、『ヴィルトゥ』の刺客を巻くくらいの手は打っていて当然だ」
「ま、それに見つかろうが見つかるまいが、やることは変わらないしね。先端から尻尾に至るまで、列車全体をとことん荒らせば嫌でもやつらは出てくるわ」
二人の言葉に、青年は顔をしかめた。この両者の能力でも、ピンポイントで敵のいる場所だけを攻撃すれば被害は少ないが、列車全体を行うとなると大惨事は免れない。
「やつらが、僕たちの裏をかいて、乗っていなかったとしてもか?!」
「その時はその時だ。それに、気に病むような話か、ああ? 今、イラクじゃよォ……、何百って人間が毎日戦争で死んでるんだぜ?
それに比べりゃ、この列車の連中を皆殺しにすることなぞ、大した話じゃないッ! やれ、フマーレ!」
「ええ、どうせスペースシャトルの爆発ほど騒ぎにはなんないわよ。
あんたは運転席を確保してりゃいいのよ。ここは、時速300キロでかっとんでる鉄の棺桶よ。列車を止められない限り、やつらは必ず姿を現すわ。
で、準備は出来てるね? 『セクシャリー・ノウイング』ッ!」

**

「ホモが嫌いな女の子なんていないんですよ」
「なんなのさ、その根拠のない自信は。それじゃ、あたしはどうなるんだい!」
「えっと、その、ベルベットさんは女の『子』って年齢じゃありませんし……」
「……新入りとはとても思えない言葉だねぇ。あんたってやつは……」
女同士の会話を聞き流し、ウオーヴォは席を立った。天井の見張りはストゥラーダに任せてある。ここは、コーヒーでも沸かすとするか。
「少し、寒いな。コーヒーを沸かすが、飲みたい奴はいるか?」
彼の問いに、真っ先にジョルナータとステッラが頷いた。
「あ、いただきます♪」
「そうだな、もらおうか」
「わかった。で、ベルベット、ストゥラーダ、お前らは?」
首を向けたウオーヴォに、二人は首を横に振った。
「俺はパス。今は特にのども渇いてねーし、腹もすいてねぇ。また後でな」
「あたしは、どっちかというと冷たいものがいいね。寒い時こそ冷たいのが美味いのさ。確か、冷蔵庫にコーラがあったろ? あれをとってくんないかい?」
それに手を挙げて答えたウオーヴォだったが、ややあってコンロの前で彼は舌打ちした。
「どうも、火がつくのも遅いし、火力も弱いな……。おまけにヤカンも小さすぎる。3人分作るだけでも一苦労だな」
 
 
 




数分後、手渡された湯気の立つコップを手に、ステッラは椅子へと背を預けた。
亀の中だからか、列車が走っているからか、音は聞こえないが、外では小雨がパラパラと降っているはずだ。
そう言えば、ボスと出合ったのはこんな雨の後だったな。ふと、彼の思考は過去へと飛んだ。

**

ステッラ・テンぺスタは1976年、シシリーに生まれた。家族は両親と妹が一人、絵に描いたような幸せな家族であった。
が、彼が高校に入った辺りの頃に事件が起きた。両親が、麻薬中毒者の乗ったトラックに目の前で轢かれたのである。
両親は即死、巻き込まれた妹は足を失い、彼の世界は一変した。また、ちょうどこのころ年長の親友が殺人を犯し、行方不明となっていた。
心を許せる存在まで失いながら、彼は学校を辞め、妹を養い、守り抜くために懸命に働いた。
本当は泣きたかった、自暴自棄になってもおかしくなかった。だが、それでも彼は弱音を吐こうとしなかった。
俺よりも妹はもっと苦しんでいる、親友は復讐というやむにやまれぬ事情があって姿を消した、それを俺が責めるわけにはいかない。
『人の悲しみ、苦しみを理解する優しさ』、それが彼を支えたのだ。
そして、「いつか、この苦しみをバネにのし上がってやる」、その思いだけを胸に彼はひたすら働き続けた。

だが、運命は限りなく彼に残酷であった。夜勤で家を空けた翌日のことであった。
帰宅した彼は、妹の無残な姿を発見した。もう、完全に彼女の精神は崩壊していた。
犯人はすぐに捕まった。この男も麻薬中毒者で、クスリを買う金欲しさに空き巣に入り、たまたま出会った彼の妹を凌辱したのである。
彼の世界、努力は、『麻薬』一つで音を立てて崩れ落ちていった。もはや自分に残されたのは復讐の道のみ。
そう思いつめた彼の元に、一人の男が訪れた。それは、かつて姿を消した親友であった。
ステッラの身に起きた悲運を知った彼は、復讐に手を貸すために舞い戻ってきたのだ。
憎むべきは、妹を壊した犯罪者だけではない。麻薬を売った組織全体だ。
そして、その組織を敵に回すのならば、それ以上の力を持つ、親友の所属する組織へと身を寄せることが最善の手だ。
こうして、ステッラ・テンぺスタは『パッショーネ』へと身を投じた。
麻薬売買組織を崩壊させた時、彼は『パッショーネ』こそがこの世の正義なのだと信じた。
だが、真実はどこまでも皮肉だった。
事の内容は自分の復讐を後援したのではなく、当時麻薬売買に手を染めていた『パッショーネ』が、彼を利用して商売敵を叩いただけであり、親友はそのボスをもともと暗殺する任務を帯びていたということを、彼はすぐに知る。
しかし、ボスに裏切られたとは感じつつも、彼は親友へと怒りを向ける事は出来なかった。少なくとも、親友が訪れなければ復讐など出来なかった。それは紛れもない事実であった。
その頃、ローマを仕切る幹部の元で働いていた彼を、その親友が、彼にとっても顔見知りであるチームの仲間を一人だけ連れて訪れたのだ。


「ステッラ。俺はボスを『暗殺』する。一緒に来てくれないか?」
既に組織から姿を晦ましていた親友は、開口一番彼をこう誘った。ステッラは感激していたが、一つだけしこりが残っていた。
麻薬組織の壊滅以降、組織の手に入る利潤は莫大なものである。組織の中で冷遇されていた親友のチームは、もしやそれを狙っているのではないだろうか?
「組織を乗っ取った暁には『麻薬』販売を止めさせる。それだけ約束してくれるのならば、喜んで行こう」
「……それは、無理だな。何百億もの利益を生むビジネスだ、それを切り捨てるなどということは出来ない」
その言葉に、ステッラは絶望した。彼も、やはりボスと同じ穴のむじなだったのだ。
「ならば、俺はあんたについていくことは出来ない。センチメンタルと言われようと、俺は、家族全てが麻薬に奪われたことだけは忘れられないんだ」
彼の回答に、親友とその仲間の顔にふと殺気がよぎった。
「……殺すなら殺せばいい。俺は、せめてもの友情の証として、この場で、無抵抗であんたの手にかかろう」
彼は、淡々と述べた。この言葉に、毒気を抜かれたのか、二人は能力を使おうともせずに、無言で彼に背を向けた。
だが、親友の連れは何気なく立ち止り、振り返った。
「なあ、ステッラ。お前は、俺たちとの邂逅をボスに伝えるか?」
「そう思えば、殺せばいいだろう。あんたも俺の友人だ、手向かいなどしようとは思わない」
「……なるほど、信用しよう。一つ頼みがある、俺たちの身に何かあった場合、俺の弟を守ってくれないか?」
ステッラは何も言わなかった。が、この沈黙は悪い意味を持たなかった。ややあって、彼は頷いた。
「ああ、安心して行けばいい。さらばだ、リゾット、プロシュート……」
 
 
 




その夜は、事故が多かった。
夜道を歩いていたステッラであったが、坂道をすれ違った自転車を何の気も無しに見た瞬間彼は愕然とした。
乗っていた若者が、カビのようなものを生やし、グズグズになって崩れ落ちていく?!
反射的に坂を駆け下りようとした彼は、急にガクン、とバランスを崩しかけ、危ういところでガードレールを掴んだ。
何故バランスを崩したかも判らずに足元に目を向けた彼の顔色が変わった。踏み下ろした側の自分の足までも、グズグズになっていくだと!?
スタンドによる無差別攻撃だ! ステッラは咄嗟に、まだグズグズになっていない方の脚と両腕をバネに換え、付近のビルの屋上へと跳躍した。
高所から俯瞰すれば、ローマ全体がこのカビに襲われている事が判る。食い止めなくてはならない! ステッラは行動を開始した。
その時の彼は知る由もない。この事件が原因でローマにおけるパッショーネの勢力は大幅に減退し、北方のギャング『ヴィルトゥ』の勢力によって駆逐されるということを。


敵を探し求め、肉体をグズグズにされながらもむなしく高所を彷徨っていたステッラは、何時しか自分が眠っていた事に気付いた。夜が明けたのか、小雨がシトシト降っている。
が、どうも様子がおかしい。ふと横に目を向けた彼は、水たまりに移った自分の『顔』と、横たわって眠っている『自分』を目にした。
猫と、身体が入れ替わっている、だと?! 愕然とした彼であったが、その時突如銃声の音が鳴り響く。細かい事を考えているべきではない! 彼は咄嗟にそちらへと向かった。

**

(そして、その先で俺はボスが、先代を斃す姿を目にしたんだったな……。
あの出会いこそが、鬱々と日々を過ごしていた俺を生き返らせてくれた。ボス、麻薬を再び禁じ手としてくださったあなたの為ならば、俺は何度でも命を捨てましょう)
何時しか、口元には安らかな微笑が浮かんでいた。が、彼のその表情は、突如引き締められた。
「あ、頭が、ガンガンするよっ……」
「な、なんだ? 身体が、上手く動かねぇ!!」
「あ、あれ? なんか、目眩がします……」
突如、チームの中から不調を訴える声が上がったのだ。驚いて立ち上がったステッラだが、その時彼も身体がやや平衡を失っている事を感じた。この、酔っぱらったような状況は何だ?!
「これは、スタンド攻撃かっ!? 敵が、この列車の中に居るぞ!」
「ステッラ! ボスからメールが届いている! 『お前達の乗った電車で、敵組織のスパイが3名ほど逃走中の様だ。おそらく、やつらはお前達を斃すことで言い開きを立てようとするはず。見つけ出し、粛清せよ』とのことだ!」
愕然としたステッラに、コンピューターを預かっていたウオーヴォが声をかける。ふと気付くと、空気に何処となくタバコ臭い感じがした。
「なるほど、そういうことか。ならば、敵は俺達を見つけた訳ではない! 亀の存在を知っていれば、直接俺達を仕留めにかかっている。それをしていないという事は、進退きわまって無差別攻撃に走ったということだッ!」
「そんな! 乗客全員を巻き込んでですか?!」
「おそらくな。やつらは、僕達を殺さなければ、自分が処罰される。それを恐れるなら何だってやるに決まっている」
そうなると、ボスからの指令を受けている以上こちらには脱出するという手段はない。そもそも、時速300キロの電車から脱出するのは危険すぎる。
「……ここは、俺が行こう。今症状が軽いのは俺とウオーヴォの二人、そのうち暗殺に向いているのは俺の『SORROW』の方だ。が、それでも症状が進行するまでの時間が持つか……」
深刻な表情のまま飛び出そうとしたステッラであったが、それをジョルナータが呼びとめた。
 
 
 




「ま、待ってください……! まだ、調べる事があります! 症状のスピードが、私たちの間で違っている事情を知らないといけません!」
その言葉に、ステッラとウオーヴォが彼女へと顔を向けた。
「そうだ。言われてみれば、ベルベットの症状がこの中では一番ひどい。ジョルナータとストゥラーダは中間くらいで、僕らはさほどひどくない。……何故だ?」
「考えてみれば、敵は単独ではないはず。仲間まで危険にさらすことは考えられん。だが、無差別攻撃でどうやって見分けをつけるというのだ!」
「これは、推測ですけど、敵は体温を上げる事で症状を抑え込んでいるのかと思います。
私たち3人は直前まで温かいコーヒーを飲んでいましたが、ストゥラーダさんは何も飲まず、ベルベットさんは逆に冷たいコーラを飲んでいました。そして、さっきから妙に寒いと思いませんか?」
「そうか! 女は脂肪分が多いから男よりも体温が変化しにくい、と聞いたことがある。だから、ジョルナータは僕らよりも症状が重いのか!」
そう言いつつ、ウオーヴォは先程まで飲みかけていたコーヒーを、既に昏睡しかかっているベルベットの口へと強引に流し込んだ。すると、
「う、うう……、頭が……」
彼女の意識が僅かにはっきりしていく。これで、ジョルナータの推測は実証されたことになる。
「お湯を沸かすんだ! 全員の体を温めろ!」
キッチンへと走ろうとしたウオーヴォだったが、
「待て! 今から全員分のお湯を作るだけの余裕などない! この部屋のシステムだと、キッチンと風呂場の一方からしかお湯は出せない上、どちらも小さすぎる!
一人分のお湯でいい。俺の足を針金にして、此処に残した範囲を温める分にはさほど手間はかからない! そうすれば、俺のスタンドパワーと体力が切れる前にやつらを仕留めるだけの望みが出るッ!」
 
 
 




(ここは、最後尾か……。空気に煙臭さがある、これが無差別攻撃の正体か?)
椅子の下から這い出したステッラは、軽く鼻をうごめかせた。今のところ、足の先だけを針金に変えて、熱伝導で如何にか敵の攻撃をしのいではいるが、それは言い換えると常時スタンドパワーの使用を強いられているという事。
尽きるまでのタイムリミットはそう長くはないだろう。そう思った時、彼はふと何者かの視線を感じた。
「!」
目を向けた先、その床には長方形の体に手足と顔を生やした親指サイズの小人が数体、こちらと自分らの長方形の身体を見比べていた。亀をも発見出来るはずの位置、なのになぜ自分だけを見る?!
そして、
「「「ミツケタゾォーー!」」」
咄嗟に伸ばしたSORROWの拳で叩き潰される瞬間、そのスタンドたちは紛れもなくそのような声を挙げた。

**

「最後尾、探シテイタヤツラノ一人発見!」
手元に残していたスタンド群の内の一体の言葉に、青年は救われたような声を挙げた。
「やはり、ステッラたちはこの列車に乗っていたぞ! どうやって今まで僕達から姿を隠していたか知らないが、出てきたからにはもうお終いだ!」
ようやく見つけた! 喜びのあまり舞い上がっていた青年にちらりと目を向け、男と女はにやりと笑った。
女のスタンド、『セクシャリー・ノウイング』は列車全体に広めてあるからこれ以上行う事はないが、男の方はこれからが本番である。既に一応の作業は終えてあるから、すぐにやる事はないが、手駒を適度に増やしていけばいいだろう。
男は、最初に用意した『手駒』に用意させた、乗客の死骸へとゆっくりと歩み寄った。
「くくく、この列車の中で生きているのは、既に俺達とお前達だけだ。誰が来たかは知らないが、この『動く死都』を攻略できるかな?」

**

(探知系スタンドだと?! 俺達の亀が見つかっていないから安心していたが、如何して俺だけを発見することが出来たんだ?!)
ステッラは予想外の事態に驚愕していた。敵は三名いるとはいえ、亀へと直接攻撃が行われていないことから探知系は存在しない。その予想はあっさりと打ち崩されていた。
あのスタンドは長方形の体と自分を見比べていた。つまり、『長方形のスケールにあてはめて物事を探知する能力』なのだろうが、ならば何故見つけられないものがあったのか?
ともあれ、こうなれば敵の攻撃が自分めがけて押し寄せてくることは確実だ。亀の中の部下たちは今は戦える者はいない。巻き込む訳にはいかない!
前列の車両へと走り出したステッラが見たモノ、それは……
「「「イタゾ!」」」
叩き潰したはずの小人のスタンドがあちこちに散らばった車内、そして彼の下へと猛烈な勢いで押し寄せてくる『生ける死骸』の大群であった!
「「「ガァァァァ!」」」
これはゲームではない、現実だ。老いも若きも、全てが身体の何処かに六つの穴をあけて死んでいる。そして、それらが恐るべき獰猛さで押し寄せる、穴の大きさが広がっていけばいくほど凶暴になって。
「ぺル ファヴォーレ セ ネ ヴァーダ(出て行ってくれ)ァァァァァッ!」
ステッラはSORROWに、拳や蹴り、頭突き、掌底、肘打ち、膝蹴り、とありとあらゆる動きを駆使させてゾンビ達を迎え撃つが、彼らは倒しても倒しても後から後から押し寄せてくる。
椅子や荷物などの、スタンド群が知らせる障害物を手当たり次第に壊しながら。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!」
(不味い! このままではいずれスタンドパワーと体力が切れる! このままではッ!)
束になって襲いかかる生ける死者の群れ、そして、探知能力を持つスタンドの諜報網。この絶体絶命の死地に於いて、彼はある決意を固めた。
「余力を溜めるべき時ではないッ! 貴様らが勝利への完璧な方程式を編んだ、というならばッ! 俺はッ! 覚悟を以てこの危機を乗り越えてみせるッ!」
ステッラは大振りの一蹴りでゾンビ達を薙ぎ払い、そして
「見せつけるしかねぇ、俺の覚悟をなッ! テンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンガ イル レストォッ!!」
もし、この状況をパッショーネのメンバーが見たらきっと驚愕した事であろう。彼は、自分自身を、己がスタンドの拳で打ち続けたのである。
当然、その体は針金と化し、床の隅へと沿って長々と伸びていった。そう、長方形である床の『一辺』に沿って。
 
 
 




**

「おや? 僕の『ゴールド・シーカーズ』でも敵の存在が感じ取れなくなったな……。なるほど、敵はステッラ・テンぺスタか。やつであれば、針金となって長方形の辺に紛れ込む事が出来る」
ヴィアッジョの落ち着いた言葉に、ぺルデルスィは眉をひそめた。直方体である車両には、『辺』をたどってのルートなど幾つもある。
そして、彼の『シックス・フィート・アンダー』の精密動作性ではゾンビにそれら全てを攻撃させるような事はできない。
「心配そうだね。だが、大丈夫さ。身体を針金にしたところで、何時までもそれをやれるもんじゃない。必ず、何処かでやつは姿を現すさ」

**

(全身をバネに換えて伸ばす、なんて経験は初めてだが……どうにか『生きている』な。内臓も脳味噌もどうなってるかは知りたくもないが……)
『辺』に沿って進んでいくステッラであったが、これはかなりの危険な賭けであった。確かに、スタンド群からもゾンビからも一時的には姿をくらます事が出来た。
だが、これはスタンドパワーと体力を非常に消耗する上、何処かで身体を元に戻さない限り、血液も呼吸も出来ないのだからすぐに死んでしまう。
そして、進んでいく最中に見た限りでは、どの車両もゾンビとスタンド群に埋め尽くされている。おそらく、生存者がいる可能性は絶望的だろう。
敵そのものを見つける分には、今生きている者を見つければいいのだから難しくはないが、ゾンビとスタンド群の全てをくぐりぬけて、敵本体のいる車両へとたどりつけられるかははなはだ疑問であった。
そして、ついにその時が訪れた。
(駄目だ! これ以上は限界だッ!)
彼が上半身だけを元に戻したのは、かなり前方の連結部であった。たちまち、「「「ミツケタゾ!」」」の掛け声と共に前後からゾンビどもが押し寄せてくる。
だが、彼もこうなることは覚悟していた。ここからが、彼の覚悟の見せどころであった。
「SOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOORRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOW!!!!」
ステッラのスタンドが連結部の床を連打する。床につけられたバネは見る見るうちに広がって弾け飛び、巨大な穴が開いていく。そこにステッラは身体を滑り込ませ、車両の底部に全力でしがみつく。
押し寄せてくるゾンビやスタンド群は止まる事は出来ず、どんどん穴から線路へと落下し、ぐちゃぐちゃに潰れて彼の視界から飛び去っていく。列車は時速300キロの猛スピードで突き進んでいるのだ。
轟々という風の音と車輪の音の中に、グチャリという音が絶妙の合いの手を入れていく。が、何処まで耐え忍べばいいのか? そう思いながら必死に車両にしがみつくステッラの耳を突如パンパンという音が撃った。
視界を上げると、拡大していく穴によってばらばらに身体が引き裂かれていくゾンビ達の姿。ゾンビらには活動時間の制限があった!
これでひとまずの危機は脱した、がおそらく相手はまたゾンビを用意できるだろう。そんな思いで、身体を持ち上げ、死体一つなくなった車両に身を投げ出して荒い息をついていたステッラであったが、その目にあるものが飛び込んできた。
(盲導犬の、死骸と、花束だと?!)
それらは、踏みにじられていたものの、元の形をとどめていたまま床に転がっていた。これまでのゾンビとスタンド群の連携を考えれば決してあり得ない話。
これと、亀が見つからなかったことが、突如彼の脳裏で結びついた。
(自然界のモノは『黄金長方形』とかいうスケールで出来ている事がある、と聞いた事がある。まさか、あのスタンドは『黄金長方形』のスケールが組み合わさって出来たモノを感知できないのではないか?!)
ハッとなったステッラだが、見ればもうスタンド群がまた押し寄せてきている。疑っている暇はない、ここは試すしかねぇ!
再び彼はスタンドで己を殴りつける、だが、今度は形そのものまでは崩さない。バネを伸ばして作り上げた針金は、彼を血管の一本一本まで黄金長方形の組み合わせで構成させ直す。
その瞬間、先程まで「「「ミツケタゾ」」」と叫んでいたスタンド群は「イナイゾ!」「消エタ!」などと立ち騒ぐ。推測は当たっていた。ステッラはほくそ笑みながら走り出した。
 
 
 




**

「ま、また消えただって?! バカな! そんな事が出来るはずはない!」
煙の色が濃くなった車内で、ヴィアッジョが驚愕の声を上げた。『セクシャリー・ノウイング』の発生源である最前列の車両は、既に視界があまり効かなくなっていた。
スタンド能力によるものだから身体を温めていさえすれば問題はないのだが、敵がロストした今の状況では危ない。先程からペルデルスィはありったけの死体をゾンビ化させて送り出しているが、相手が見つからないのではどうしようもない。
「『セクシャリー・ノウイング』を薄める必要がありそうね……がはっ!」
警戒を強めていたフマーレがスタンドの一部を手元に凝縮した直後の事であった。煙の中から姿を現した男が、彼女を蹴り飛ばしたのは。
同時に、男がスタンドを発現させ、拳を放つ。それを、危ういところでぺルデルスィの『シックス・フィート・アンダー』が阻んだ。現れた男の顔に、彼は愕然とした。
「お前は、ステッラ!」
「思っていた以上に素早い。先程蹴り飛ばした女が無差別攻撃の犯人で、そこでわめいていた小僧がスタンド群の本体、とすると、お前がゾンビ使いだな?」
彼は一昔前のドット絵のような姿をしていた、これこそが『ゴールド・シーカーズ』から行方をくらました手段だったのか! ペルデルスィが理解するのと、SORROWが襲いかかるのは同時であった。
蹴る、腕で払う、殴る、殴る、殴る。ただそれだけのひたむきな攻めであったが、相手はスピードもパワーも『シックス・フィート・アンダー』の上を行く。
左拳を首を傾げてかわしたと思った瞬間、足払いで体勢を崩され、強烈な膝蹴りを叩き込まれる。
懐から銃を取り出そうとしたヴィアッジョも、バネを取り付けて伸ばしたSORROWの拳で弾き飛ばされ、更に拳は壁のあちこちを跳ねまわってから『シックス・フィート・アンダー』へと叩き込まれる。
「グボッ!」
反吐をまき散らして天井へと叩きつけられたぺルデルスィにステッラは指を突き付けた。
「貴様らの策の上を行き、その上で戦闘で圧倒する。正体がバレて尻尾を巻いた負け犬どもにやる分には俺一人で十分だな」
倒れこんで、荒い息をつく彼を、その上でステッラは蹴り飛ばして壁へと叩きつける。苦痛に顔を歪ませながら、彼は荒い息で、
「流石に……、速い。ゾンビの作成にエネルギーを使う、俺の『シックス・フィート・アンダー』よりもな」
「御託はあの世で並べていろ。終わりだ!」
彼の言葉を聞き流してステッラは頭へと締めの一撃を叩き込もうとしたのだが、その顔が突如苦痛にゆがみ、拳は横へとそれた。
「こ、この痛みは……」
「転がる石に苔生えずってなァ……。速い方があったまるのは早いんだぞ? 『セクシャリー・ノウイング』の警戒ばかりしてよ、お前は熱中症への警戒を忘れたな?」
 
 
 




ステッラを襲ったのは痛みをともなった痙攣と強烈な疲労感。皮膚は青白くなり、全身から多量の汗が流れている。
何時の間にか、フマーレも立ち上がっていた。
「3対1よ? 私を殺さないで放っていたのが間違いだったわね。『セクシャリー・ノウイング』の煙はッ! 既にこの場へと収斂している!」
その横には煙で出来た人型が現れ、ステッラの鼻から体内へと侵入していく。吐き出そうと必死に彼は抵抗するが、煙は着実にその体内へと入り込んでいく。
「直接吸いこませれば、もうあっためたって無駄よ!」
「そして、もはや貴様には『シックス・フィート・アンダー』を防ぐ事は出来ない!」
接近してきた両者であったが、その時ステッラはにやりと笑った。
「体温が上がるのは覚悟の上だ、そして貴様らが近づいてくるのも計算の上だ。周りを見てみたらどうだ?」
二人はその言葉にハッと周囲を見渡した。先程ぺルデルスィへとはなたれた拳は壁に大きなバネを取り付けておりそこから外へとつながる大きな穴が開いており、そして……
「「う、運転室の彼方此方にバネが?!」」
「そうだ。言っただろう? 貴様らの策の上を行き、その上で戦闘で圧倒する。正体がバレて尻尾を巻いた負け犬どもにやる分には俺一人で十分だな、と。覚悟はあるか? 俺にはある」
その瞬間、針金となったステッラの腕がフマーレとペルデルスィの腕に絡みつき、もう一方の腕は有らん限りの力を込めてバネを押す。
咄嗟に縛られていた方の腕を『シックス・フィート・アンダー』の手刀で斬り落としたぺルデルスィは辛くも戒めを脱したが、煙のスタンドである『セクシャリー・ノウイング』は、唯でさえどうしようもない上に、今はステッラの体内にある。
「あ、あんた死ぬ気なの?! やっ、やめてぇ!」
悲鳴を残し、フマーレとステッラは穴から列車の外へと飛び出していく。腕を斬り落とした苦痛でしゃがみ込んだぺルデルスィにはそれを止める手段などなく、更にシュルシュルと音を立てて後部車両から飛んできたステッラの片足が容赦なく彼を襲った。

**

ゴオオオオオオオオオオオオォ……
「うっ、うああああああっ!」
「体感温度は風速一メートルごとに一度下がり、そして今は小雨が降っている。俺は、ここまで計算していたよ」
シュルシュルと伸びていくバネに掴まりながら、ステッラは朦朧とした意識を奮い立たせて呟いた。そして、彼は自分の胸部へとスタンドの拳を叩きつける。
バネとなった胴体、その隙間から排出された『セクシャリー・ノウイング』は、彼の体に入っていなかった分諸共風になびいて、フマーレの顔面を覆う。それを全て吸いこんでしまった彼女は瞬く間に昏睡状態に陥り、ドシャァッ!
頭から地面へと落下していく。ぐしゃぐしゃに潰れた少女の体は、あっという間に視界から遠ざかって行った。
「さてと、そろそろ中に入らなくてはな。……ガッ!」
適当な窓ガラスを蹴り砕いて車内へと踊りこんだステッラであったが、突如何かが空を裂いて彼へと突き刺さった。

**

「うっ……」
「気がついたか?!」
意識を取り戻したペルデルスィが目にしたのは、ヴィアッジョの顔であった。
「フマーレは……」
「おそらく、死んだ。やつは戻ってくるぞ、速くゾンビを差し向けないと!」
焦るヴィアッジョに、ペルデルスィは力なく首を横に振った。
「駄目だ、俺が気絶している間に、手駒のゾンビは全てタイムリミットが来てしまったようだ。もう、死体はない」
「……ここに、これから出来るじゃないか」
ヴィアッジョは不思議な静けさで呟き、ゆっくりと銃を自分の頭へと向けた。
ガァン!
 
 
 




**

ステッラを襲ったのは、千切れ飛ばさせたヴィアッジョのゾンビ化した肉体であった。肺に突き刺さり、骨まで何本か折れたようだった。
しゃがみ込んだステッラの前に、隻腕となったペルデルスィが現れる。
「負傷したお前、隻腕となった俺、どちらが先に一撃を当てられるかで勝負は決まる……。西部劇で言えば、『抜きな、どちらが早いか』って所だな」
「…………」
ステッラは無言で立ち上がる。対峙する両者の前に、それぞれのスタンドが現れた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」
拳と拳が奔る、先に敵を貫いたのは……SORROWだった。
「グフッ……。……やはりな、お前が速いと思ったよ。だが、これでいい。これで、『死体』が出来た。ゾンビとなる『死体』がなぁっ!」
そう言うが早いか、彼は最後の力を振り絞って『シックス・フィート・アンダー』に自身を貫かせた。
「この距離なら、ゾンビの方がはぇぇ! せめて、貴様だけでも道連れだアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ゾンビは跳躍し、彼の頸動脈へとその首を伸ばし……、天井へと頭が突き刺さった。
「な、何……」
「俺の拳が当たっていて、胴体がバネにならないとでも思っていたか?」
そう、SORROWの拳はペルデルスィの胴をバネに換えていたのだ。故に、自重で伸縮していたバネは急速に跳ね返り、彼の上半身を天井にまで突き刺したというわけだ。
「何をやったって報われないもんなんだぜ? 負け犬ってやつらはよ……。ンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンガ・イル・レスト(つりはとっときな)ォ!」
SORROWの全力でのラッシュがペルデルスィを打ち抜いていった。



本体名―フマーレ
スタンド名―セクシャリー・ノウイング(時速300キロで走っている電車の外へと投げ出され、バネの針金を必死でつかんでいるところで、自分の『セクシャリー・ノウイング』を吸い込んでしまい、酩酊。手を離してしまい地面にたたきつけられ、全身打撲で自滅)
本体名―ヴィアッジョ
スタンド名―ゴールド・シーカーズ(『シックス・フィート・アンダー』で操る死体を作る為に拳銃自殺)
本体名―ペルデルスィ
スタンド名―シックス・フィート・アンダー(ステッラとの一騎打ちで腹を貫かれ、死の間際に自分をゾンビ化させるも、胴体がバネになっていたために攻撃が当たらず、テンテンラッシュで死亡)
 
 
 

使用させていただいたスタンド


No.679
【スタンド名】 セクシャリー・ノウイング
【本体】 フマーレ
【能力】 煙を吸った相手が酩酊し、徐々に体調を崩していく

No.1258
【スタンド名】 ゴールド・シーカーズ
【本体】 ヴィアッジョ
【能力】 対象を『長方形のスケール』に当て嵌めてその「情報」を探知する

No.81
【スタンド名】 シックス・フィート・アンダー
【本体】 ペルデルスィ
【能力】 死体に6つ穴をあけるとその死体をゾンビにすることができる




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