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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第十五話

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orisuta

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「くっ……。こいつは、強敵か」
アルジェントの顔を焦燥の念が掠めた。『鉄球を埋め込み、炸裂させる』能力のスタンド『サングェ・パッサーレ』は当に彼の好敵手であった。幾ら鉄球を溶かしても、引き寄せる際の振動で炸裂してしまう。彼の能力からしては極めてやりにくい相手だった。
おまけにデーストゥラと名乗った相手は、足元に鉄球を埋め込むことで、ある時は炸裂の勢いを借りての高速移動を行い、ある時は地雷として運用してくる。これではなかなか思うどおりの間合いで戦う事が出来ない。
今度も、相手は炸裂の勢いを借りて高速で迷宮の中へと消えていく。そのまま追うのでは間に合うはずもない。アルジェントは、流体金属の鞭で壁を切り裂き、回り込みにかかった。
そして、その計算は的中した。現れたデーストゥラは、彼が先回りしている事に驚愕したが、退こうともせずに高速で突っ込んでくる。勝負を決める覚悟を定めたのだ。
「『メタル・ジャスティス』!」
ギュオン! 迷宮全体から引き寄せられた砂鉄が、空中で大量の投げナイフを形作って、デーストゥラへと襲いかかる。それを、サングェ・パッサーレはあるいは拳の連打で、或いは鉄球を炸裂させて防いでいく。
「起死回生を狙ったようだが、我にこの程度の攻撃など効かぬ! 覚悟!」
迫るデーストゥラであったが、アルジェントの口元がその時綻んだ。弾かれたはずの投げナイフは、何時しか溶けて彼の足もとに水たまりとなって広がっていた。
「ふっ。経験が足りんな、若僧」
「何?」
「投げナイフの雨は、お前を攻撃する為でなく、俺の近くに怪しまれずに大量の金属を集める為だった。そうでもしなければ、お前の鉄球で吹き飛ばされてしまうからな。
これだけの金属があれば、ワイヤーの捩じりを利用するタイプの単純な投石機くらいは、俺の能力なら何とか作れる。それだけの速さで突っ込んでこようと、逃れるのは容易い事だ」
言葉と同時に、アルジェントの身体が上昇する。大量の液体金属から作り上げたバリスタが、彼を上空へと跳ね上げる中、加速したデーストゥラの肉体は頭から突っ込んでいく。同時に、バリスタは再び形を変えていく。
「逃れるだけではない、その投石機こそがお前を屠る顎と化す……。次に変化するのは――」
液体金属の触手が、デーストゥラの首に巻きつき、引き倒す。そして、姿を現したのは……
  ギロチン
「断頭台だッ!」
グニャリ、と歪んだ金属が首枷となってデーストゥラを拘束し、その真上から禍々しい刃となって落下する。が、その時彼は死中に活を求めた。
「『サングェ・パッサーレ』ッ!」
彼が鉄球を埋め込ませたのは、なんと自身の右腕であった。それをギロチンへと渾身の力で叩きつければ、当然炸裂の衝撃で刃は吹き飛んでいく。そして、同時に吹き飛んだ彼の右腕は……
 
 
 




「非金属製の義手、とはな……」
プラスティックらしき断面の無残な姿に、空中で体を捻って隣の通路へと降り立とうとしたアルジェントは舌打ちを残して迷宮の奥へと姿を消す。壁に埋め込んだ鉄球を炸裂させた『道』を通ってそれを追ったデーストゥラは、角の先にボンヤリと姿を見え隠れさせるアルジェントを見た。馬鹿め、もう少しうまく隠れればいいモノを!
サングェ・パッサーレが半ば壁に埋め込み、砂の流れに載せて放った鉄球は、だが直撃すると同時に相手の姿を揺らめかせるだけに終わる。彼は、その正体に思わず目を見開いた。
「鏡、だと?!」
「砂の迷宮という舞台が利しているのは、お前ではなく俺だ。薄暗く、視界の聞きにくい迷路でなければ、こうも上手くはいかなかったろうがな。くらえ!」
ヒュッ、と音を立てて反対の方向から飛んできた流体の鞭を危うくデーストゥラがかわした直後、含み笑いが迷宮に響く。
「お前は、流星錘という武器を知っているか……?」
「ガッ……!」
血反吐を吐いて倒れ込んだのはデーストゥラであった。避けたはずの鞭は、跳ね上がりつつも尖端を球状に変え、その重みで軌道を変えて斜め上から彼の背中を打ったのだ。
そのままアルジェントは姿を消した。無理に止めを刺すより、自分もある程度負傷している以上隙を見て仕留めにかかる方が負担を減らせる、と考えての事であった。が、この時ばかりは早計であった。
「……砂の迷宮で戦うことに熟達しているのは、お前ではなく我だ。壁に埋め込んだ鉄球の使い方は、攻撃だけとは限らぬぞ!」
サングェ・パッサーレが指を鳴らすと同時に、壁の中で鉄球が音を立てて回転していく。それは、砂の流れに変化を起こし、辺り一面に波紋を描かせていく。
それは、徐々に広い範囲へと伝わっていき、壁や地面に沿って広がる波紋は、迷宮の中にある『異物』に触れることで歪みを生じていく。そして、その流れは別の壁に仕込まれた鉄球を回転させ、新たな波紋を返していく。
「お前の位置を『波紋』が探知するのだ! 震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート! そこだ!」
敵の位置を完全に察知したデーストゥラが炸裂させた鉄球は、壁にもたれて姿を隠していたアルジェントの体に砂の散弾を撃ち込んでいく。呻き声を上げ、よろよろと姿を現したアルジェントを、デーストゥラは哄笑で出迎えた。
「ふはは! パッショーネの暗殺者とはこの程度の者か!」
「それは、如何かな……」
アルジェントは不敵な笑いを浮かべ、敵を見据える。全身から溢れ出る血にもかかわらず、この男の闘志は消えていなかった。
「俺には、まだ見せていない手がある。昔、パッショーネにはイカれた医者がいてな……。その男は俺の申し出を大いに喜んだものだよ、『全身に鉄片を埋め込んでくれ』という人体実験の申し出をな!」
バリバリバリ! 呟きの直後、アルジェントの肌を、肉を貫いて全身から「刺」が生えていく!
「こうもズラズラズラズラ生やすのは俺の性には合わんのだがな……『メタル・ジャスティス ワイアード・ハグ』を受けてみるか!」
指を突き出すのを合図に、ミサイルのように飛び出した「刺」がデーストゥラを襲う。サングェ・パッサーレの突きの連打がそれを迎え撃つが、その時白銀の閃光がデーストゥラの左腕を両断した。なまじ右腕を失っていたが故に、彼の注意はそちらへと多く向いてしまったのが敗因となったのだ。
「何……だと……」
「俺の『メタル・ジャスティス』が複数の武器を作れる事をお前は真に理解していなかったな。『ワイアード・ハグ』は所詮目くらましだが、これなら外さん」
液体金属の鞭を振るったアルジェントが嘯くのと、血中の鉄分が作り出した鎌がデーストゥラの頸動脈を刈り取るのはほぼ同じタイミングであった。
首筋から音を立てて噴き出す鮮血に、デーストゥラはカッと目をむいて立ち尽くした。だが、その顔にふと苦笑が浮かんだ。
「流石は、『パッショーネ』の暗殺者だ。我如きの及ぶところではなかった。敬意を表し、予言をくれてやる。お前たちは、ボスを見ることすらなく、この世から消えるだろう……」
最後に、低い笑声を立ててデーストゥラはくず折れた。
 
 
 




**

……どうしてこうなったんだろう? ジョルナータは、語りながら背中に冷や汗を感じていた。
そもそものきっかけは、戦闘中にスタンドパワーを酷使し続けた自分とウオーヴォを亀の中で休ませ、その間に次の乗り物を確保しようというステッラの決断であった。
気になっている相手と二人っきりにされたジョルナータが慌てないわけがない。が、変に意識しているのもあまり好まれないようだし、互いのことをよく知っておこうとしたのが間違いだったのである。
おかげで、ウオーヴォがチームに所属した事情を聴いた後で、自分が思い出したくもない過去を、語れば嫌がられそうな事情を話さざるを得なくなってしまったのだ。
「……私には、二人義父がいたんです。最初の義父は―義父だったと知ったのは、二人目の義父が脊髄を損傷して生ける屍になった後でしたが―、尊敬できる人でした。
母親の連れ子であった私にも愛情を注いでくれる度量のある人間でしたけど、事故に巻き込まれてしまいました。ただ、生きているだけになった義父を義理の叔父に押し付けて、母は金持ちの男と再婚しました。
それが、二人目の義父でしたが、あの男は文字通りの『鬼畜』だったんです。
月のモノさえ来ないうちから、毎晩、毎晩、私はあの男に犯されました。後にしてわかったんですが、母はその男と結婚するのと引き換えに私を抱かせていたんです。
義父に縛られる人生から解放される対価、それが私だったんです。
言ってみれば、私は娼婦だったんでしょうね。自分でも、そう思いますよ。数年間も犯され続けていくうちに、私の体は性の快楽を、テクニックを強引に覚えこまされたのですから。
え? そんな目に遭って、男嫌いにならなかったのか、ですか? はい、ならないように努力したんです。だって、それじゃあ『男に負けた』ことになるじゃないですか。それが、嫌だったんです。
話を戻しますと、そこまでやったのに、母の最期は無残なモノでした。母は、その男に毒を盛られていたんです。少しずつ、少しずつ、それに体をむしばまれていったんです。
葬式が終わった夜のことでした、私がスタンドに目覚めたのは。母の死をきっかけに家出をした際に、義父の友人であった神父様から手渡された、義父の形見の『鏃』みたいなものを握っているうちに出てきたんです。」
 
 
 




 鏃の事を聞いた瞬間、ウオーヴォは眉根を上げた。
「待て、ジョルナータ。その『鏃』は、その後どうなった?」
「え? 『鏃』ですか? それは、後でちゃんと話しますから待ってください。
その夜、私は結局二人目の義父の元に戻るしかありませんでした。当時住んでいたところは、曾祖母の家や義理の叔父の家からはあまりにも遠く、頼るわけにもいかなかったんです。
そして、男が折檻をしようとした時、初めて『インハリット・スターズ』が発現したんです。
考えてみれば、私の能力は、母との『血のつながり』が役に立たなかったことと、男との『肉のつながり』に苦しんだこと、それらの象徴なのかもしれませんね。
私は、その男が憎かった。だから、徹底的に復讐をしたんです。
最後に、その男は私に首を絞められ、屋根から転げ落ちて脊髄を損傷しました。一時は、心肺停止にまでなりましたが、残念なことに死んでくれなかったんですよ」
ウオーヴォは適当に相槌を打ってくれるのだが、彼女は話すのがいい加減嫌になってきた。彼に嫌われるのが怖かったのだ。
けれど、なぜかは知らないが相手が『鏃』について聞いてきたからには、その先まで話すしかないらしい。ジョルナータは辛い顔で語り続けた。
「男は、その後あまり長くは生きませんでした。ただ、それは私が手にかけたからではありません。
私は、キレてしまった時は確かにその男に手ひどく復讐をしましたが、正気に返ってからは人を殺そうとした自分が恐ろしかったんです。
その後、男の遺産を受け継いだ私は、最初の義父の弟が住んでいるネアポリスへと引っ越しました。ですが、そこで大変なことが判ったんです。
私は、男の『娘』を孕んでいたんです。『生まれる子供に罪はない』、そう神父様に諭されて、産むことにした私から、義理の叔父は財産をだまし取り、何処かへといなくなりました。
そんな状況で、子供なんて育てられるはずはありません。15歳で一児の母にならざるを得なかった私は、義父の友人だった神父様に、孤児ということで娘を引き取ってもらいました。
その首にお守りとして『鏃』のペンダントをかけてやって。17になった今でも、時々会いに行ってますが、私が母であるということは知られないようにしてもらってます。
その後、曾祖母の家に転がり込んだ私ですが、こんな人生を過ごしておいて、まともに暮らせるはずがありません。
いつの間にか、私は不良の仲間入りを果たしていましたが、どうにも度胸が足りず、つまはじきにされていたんです。
それをかばってくれた友人が一人だけいましたが、彼女は『ヴィルトゥ』の薬の売人に攫われ、殺されました。その復讐がきっかけになって、私は『パッショーネ』の一員になったんです」
言い終えて口を閉ざしたジョルナータに、ウオーヴォはしばし無言を続けたが、やがて彼はこう言った。
「過去の苦しみに耐えかねる、というならばそれを背負う手助けはしよう。この話を、他人に漏らそうとも思わない。
だが、それで同情を引こうとなど思うなよ? 自分をかわいそうだと周囲に見せようとする奴ほど見苦しいものはないからな」
と。ジョルナータは、そこでやっと彼が自身の苦しみを真摯に受け止めてくれたことに気付き、ゆったりとほほ笑んだ。
「ええ、大丈夫です。私は、過去に負けたりなんかしません。今を生きていくんですから」

今回の死亡者
本体名―デーストゥラ
スタンド名―サングェ・パッサーレ(『メタル・ジャスティス』に首を掻き切られ死亡)
 
 
 



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