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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第十六話

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orisuta

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ドグォォン! 爆音とともに研究所前に止めてあった車が吹き飛ばされる。はるか上空から発射されたレーザーの直撃を受けたのだ。
(グレイト! マジにヤバいスタンドだぜ、コイツはよぉ~!)
東方仗助の背中を冷や汗が流れる。スタンドも、本体も見えはしないというのに、この精密かつ強力な攻撃は何なんだ!

その様子を、遠方から監視する一人の男がいた。彼は、遠く離れた敵に語りかけるかのように呟いた。
「『サテライト・O』が見ているぞ、逃げなくていいのか? 東方仗助……」
 ・・・・ ・・・・・・
「もっとも、逃がさんがね」
しかし、口ではそういうものの、男は自分が勝利するとはあまり思っていなかった。『ヴィルトゥ』構成員の彼は、ボスの命令に従い、『エイジャの赤石』をSPW財団から奪取するチームの一員であった。
彼が与えられた任務は、『赤石』を保管する研究所を守り抜く為に財団が配置したメンバーの内、東方仗助、虹村億泰、広瀬康一の三名の足止めであったが、厄介な事に取材旅行中の岸部露伴までがこの場に居合わせている。
その名だたる4名のスタンド使い相手に、自分一人で殲滅する事など、おそらく無理であろう。だが、それでいい。出来るだけ長く、彼らを此処に足止めすれば、別方向から向かった他のメンバーが『赤石』を奪取してくれるはずだ。
『赤石』の奪取こそが勝利、その為に敗北しようと、それは戦略的勝利だ。彼は、そう割り切っていた。そうでもなければ、自身が自害できるように『ボンバー・キング』に爆弾化などされるはずがない。
だが、そんな彼でさえこの後の展開は予想できなかった。『矢』の材質の研究の為、たまたま研究所内にあった『月の石の欠片』を、宇宙服と断熱材にくるまった億泰に持たせた上で、元通りに直すことで、月へと吹っ飛んでいく億泰のスタンドが『自分のスタンドと地面の間の空間を削り取る』という未来は。

**

「空条承太郎……」
「一足遅かったな。『赤石』はとっくの昔に研究所から運び出されたぜ」
研究所の奥、二人の壮漢が対峙していた。
「何、そのような事などどうでもいい。私は、いずれはお前と決着をつけようと思っていた」
「……ヤレヤレだぜ」
ため息をつく学者風の男に、侵入者はジワジワと歩み寄っていく。
「財団の行いは間違っている。私は常々そう思っていた。だからこそ、私は財団を抜け、『ヴィルトゥ』に身を投じたのだ……。
世界が真に望む事象とはッ! 『幸福』でも『平和』でもましてや『戦争』や『暴力』ですらないッ!
『混乱』だッ、『混乱』こそが『生を感じる』唯一の方法ッ! 混沌とした世界でならばッ! 存分に『生を実感』出来るッ!
誰もが『刺激が欲しい』『私の日常は物足りない』と感じた事があるだろう。それだッ! それこそが『混乱を望む潜在意識』ッ!
『世界』は混沌を、『混乱』こそを、真に望んでいるのだッ! そして私はそれを実現する『能力』があるッ! 『使命』があるッ! それがこれだ――『セラフィム』ッ!!」
「『スター・プラチナ』!」
両者の背後から、雄々しい姿がその全貌を現した!

**

「ふぅ……、空条先生の予想通りだった。『赤石』を運び出さなければ、どうなっていた事か……」
運転席の中で、青年が安堵のため息を漏らす。だが、同乗していた女性は、
「あら、それはどうかしら?」
と、優雅に微笑んだ。
「え?」
「実はね、私は『ヴィルトゥ』のスパイなのよ。急な出来事だってのに、私が出発直前に強引に車に乗り込んだの、おかしいと思わなかった?」
男は、女の言葉に総毛だった。急いで車を止めて、逃げなくては! だが、ハンドルが、手足が、まるで幽霊に抑え込まれたかのように動かない!
「あなた、私の『プライベート・ライアン』が見えないのね。まあ、いいわ。事故死に見せかけるだけだもの、見えても見えなくても同じよね。フフフ……」
女の余裕に満ちた言葉に、青年はただ絶叫した。
 
 
 




**

「しかしまあ、よくまあ咄嗟にあんなことが思いついたもんだぜ。ステッラのチームに『ヴィルトゥ』の連中が気を取られている間に、別方向からアルジェント達を潜入させる。
で、今度はアルジェント達の探索にやつらが血道をあげる間に、その分警戒が薄くなる隙をついてステッラのチームをローマへと潜入させるとはよぉ」
参謀役の感心したような言葉に、『パッショーネ』のボスは緩やかに首を横に振った。
「いいえ、ミスタ。彼らの内どちらか一方が『ヴィルトゥ』のボスの暗殺に成功すればそれに越したことはありませんが、僕自身は彼らを捨て石にする覚悟を決めています」
「は? お、おい! どういうことだよ!」
「ミスタ、落ち着いて聞いてください。ここ最近『ヴィルトゥ』は特に有能なスタンド使いの大半をヨーロッパ各地やアメリカへと派遣しているようです。
どうやら、何かしらを探しているらしく、既にかなりの犠牲者を出しているらしいのです。そして、ちょうどやつらと対立中であった僕らは、暗殺チームを返り討ちにされました。
そこで、僕が思いついたのは、敵の本拠地であるローマへと暗殺の為に選りすぐりのメンバーを送り込むことでした。
そうすれば、派遣の際のやり取りから敵のスパイを割り出すことが出来ますし、それを逆用して、ローマに敵の残る人材を集中させることが出来ます」
「ちょ、ちょっと待てよ。じゃあ、あの3人がステッラと同じ列車に乗ったのも、おめーが仕組んだってのか?」
「いいえ、あれは偶然でした。逃がしたのはあくまでも僕の計算違いです。
ともあれ、本拠地のローマに有能なスタンド使いを結集させれば、それ以外の敵の縄張りは当然手薄になります。それらを奪取するのは容易いことでしょう。
ローマにいる面々はステッラとの戦闘で、外部に送り込まれた面々はその任務で、それぞれ疲弊しきって、奪われた縄張りを取り返すだけの力は望めないはずです。
そうなれば、『ヴィルトゥ』は組織としての威信と、縄張りから得てきた財力を大幅に削がれることになりますので、動揺したメンバーに調略をかければ、内部崩壊へと導けます。
その為に、内々にフーゴに準備をさせておきました。現在、彼の指揮の元、構成員の一部が何チームかに分かれて北部イタリアを蹂躙しているはずです」
ボスの深謀遠慮に、参謀は頭では理解出来るものの、心ではどことなく割り切れないものを覚えた。
「だからってよぉ、ステッラとそのチームを失ってまでやることなのか? あいつは俺達が『パッショーネ』を乗っ取る途中からの大切な仲間だぜ。それに、あいつの部下は俺もよく知ってるやつらだ。
手を取って銃の使い方を仕込んだベルベット、死んだ兄の分まで組織を盛りたててみせようとしているウオーヴォ、そして生き別れの妹を探す為に高い地位に就こうと必死になってるストゥラーダ、みんな気のいい奴らだ。
それに、最近入ったあのジョルナータって嬢ちゃんだが、ステッラからの報告じゃあ相当な拾いもんみてぇだぜ?」
「はい。だからこそ、任務に成功して帰ってこれる可能性のあるメンバーを送り込んだんです。『パッショーネ』のメンバーは全て僕の部下です。失っていい人間はいません。しかし、いかなる時も犠牲が出ることだけは覚悟せざるを得ません。
それに、ステッラであれば、不可能な任務であれば可能な限り犠牲を出さずに戻るくらいの事はするでしょうし、全滅したとしても組織の利益になるような事だけはしてくれます。今は彼らを信じるべきです」
ボスの断固とした言葉に、参謀はそれ以上の反論を控えた。しかし、これだけは確認せずにいられなかった。
「なあ、ジョルノ。おめー、知ってるか? ロッソがあの嬢ちゃんの財布におめーのと同じ写真が入れられていたのを見たっていうから、こっそり皮膚を採取させて調べてみたんだがよォ。どうも、ジョルナータはおめーの腹違いの妹の可能性がでてきたらしいんだわ」
「!」
その時、ボスの顔に一瞬だけ驚愕の色が浮かんだ。だが、彼はすぐにそれを打ち消した。
「それが事実だったとしても、組織の中ではボスと構成員という立場である事を忘れる訳にはいかないんですよ。私情をこの際入れるわけにはいきません」
「……つめてぇんだな、ジョルノ」
「僕達が押さえているイタリア南部は、北部に比べれば経済的に未発達です。北部を再び勢力下に置くことこそが僕にとって、いや、パッショーネにとって一番の大事なんです。判ってください」
 
 
 




**

『ヴィルトゥ』のボスには、その『両腕』とも言うべきキレ者の部下がいた。が、その両方ともボスに言わせれば「甲乙つけがたい外道」とのことである。
仮に『左腕』として、ちょうどこの頃ジョルナータに敗北し、自滅したゲルニカの本体、「偉人となる事」を目的に大量殺人を重ねてきた男、フルトを呼ぶのであれば、『右腕』というべき男もある種似たようなスタンドの持ち主であった。
かつて都市伝説ともなったほどの猟奇殺人鬼、ズマッリート。その男のスタンドは……

「「やっちゃえー、ラグタイム!」」
双子のようにそっくりな、二人の幼女の号令に合わせ、地面に浮き上がる双眸から岩の槍が数え切れないほどに、更にかわす事など思いもよらないほど複雑に隆起する。その地面がスタンドと同化している為に、本来なら影響を与えることのできないはずのスタンドでさえ、貫く事の出来る鋭さであった。
だが、その対象となっていた軍人を模したスタンドは、双剣を手にその中を瀟洒ささえ感じるほど自在に動き回っている。その様子を見て、何がおかしいのか幼女らはケラケラ笑いながら抱き合っている。
いや、幼女ではない。それぞれがミニチュアサイズであるからそのように見えるだけで、よく見れば、体型は既に大人のそれである。
「要するに、噂に聞く『ヴィルトゥボスの右腕』のスタンド『ラプンツェル』で作られたクローン、っていうことみたいね」
レシーバーから聞こえる呑気な言葉に、女たちと対峙する『ウェポンズ・ベッド』の本体は舌打ちを隠せなかった。いくら、スタンドほど機敏ではない自分が、通信相手がジャックした防犯カメラの映像から受ける連絡で攻撃を先読みしているとはいえ、こうも呑気な言い草をされては面白くない。
「イズベルガさんよぉ、呑気な事を言ってる場合じゃないんだけど。アンタのその高いIQを活かして、なんか考えてくれませんかね?」
皮肉交じりの言葉に、レシーバーから帰ってきたのはあっさりとした言葉だった。
「あ、無理。あなたのスタンドは武器を持たせれば本体でもコントロール出来ないでしょ? 自動操縦のスタンドは如何する事も出来ないわ。要するに……」
「……自分で適当に武器を交換させて如何にかしろ、ってことかよ」
「要するにそういう事。だって、あなたの為にパッショーネは様々な手段を使って有名な使い手所縁の品を得てきたのだから、それで如何にかしなさい」
通信が、切れる。舌打ちしつつも、彼は相手の言う事の正しさを認識せざるを得なかった。
今、自分のスタンドに持たせている武器は、右手がかの日本の剣豪宮本武蔵の高弟、寺尾孫之允の佩刀で、左手の錆びて朽ちかけている長剣は、中国は隋末の武将沈光の佩剣と言われる品だ。
右手の刀で二刀流の真髄を体現させると共に、左手の剣からは、その時代随一の身ごなしを誇った洒脱な好男子の動きを再現させている。
そうでもしなければ、クローンとしての息のあった思考で、一方が攻撃を、もう一方が防御に専念する隙のない相手に対抗するのは至難の技であった。
ケラケラ笑うクローンたちに、林立する岩槍をくぐりぬけてスタンドが迫る。その勢いに、思わず怯えたのか、二人がかがみこんだ頭上を二つの刃が風切り音と共に通り過ぎていく。首を刎ねるつもりだったが、そう上手くはいかなかったようだ。
内心怯えているのか、泣き顔をキッと上げたクローンたちは、
「「オーッ!」」
と叫んで、再び岩の槍を林立させていく。それらに、『ウェポンズ・ベッド』は後退を余儀なくされ、更にその本体は、
 
 
 




「三歩後ろ!」
レシーバーからの声に反射的に横へと転がったが、かわしきれずに背後から伸びた石筍に脇腹の肉を浅く持っていかれる。
舌打ちして立ち上がった男の前で、クローンたちは頬を膨らませた。
「「もー、怒ったよー!!」」
ズガガガガ! 地面から生えていくのは鋼鉄で出来た茨の蔓と石筍、そして土壁。二人がかりのスタンドパワーで精巧かつ堅牢に作られた防壁を、さしもの『ウェポンズ・ベッド』でも飛び越す事は出来ない。
そして、互い違いに生えた石筍がある以上、武器を取り換えても狙撃することは不可能なはず。
「『ウェポンズ・ベッド』、これを使え!」
その時、本体はコートの内側から長大な狙撃銃と投げ縄を取り出し、己がスタンドへと放り投げた。躊躇いもなく、それまでの双剣を投げ捨てたスタンドは逆手でそれらを受け取り、
シュッ! 高名なカウボーイの技量を再現して、投げ縄は石筍の先端へと引っかかる。それをグイ、と引っ張る勢いを借りて宙を舞った『ウェポンズ・ベッド』の手で狙撃銃が鳴り響いた。
史上最多の射殺数を誇るフィンランドのスナイパー、シモ・ヘイヘ所縁の品として大枚の金を払って手に入れた旧式のモシン・ナガンは高い買い物ではなかった。弾丸は、標的のサイズの小ささすらものともせずに二人の額を貫通していた。
クローンたちの死をきっかけに、鉄条網と石筍、そして土壁がボロボロと崩れ去っていく。
「イズベルガさんよぉ、終わったみたいだぜ。そっちの旦那さんの方は如何なんだ? 俺が警備の連中を足止めしてる間に、任務を済ませてくれたんだろうな?」
「こっちも、ちょうど施設の中にウイルスをばらまき終えたみたい。『エレクトリック・レディランド』で監視カメラの映像を見たところ、深夜の襲撃だったおかげで、『ヴィルトゥ』の連中は全滅よ。
そして、第二陣が今施設内部の占拠を開始し始めたわ。要するに、ヴェネツィアは今から『パッショーネ』の支配下にもどったってことよ」
連絡内容に、『ウェポンズ・ベッド』の本体は軽く頷いてライターを取り出し、タバコに火をつけた。ヴェネツィアでの戦闘は終わった。だが、次は別の都市を襲わなければならない。それも、可能な限り素早く。
連中に、警戒させる時間すら与えさせはしない。俺の戦いはまだこれからだ。ふっ、と男は煙を空中に吐き出した。浅く抉られた脇腹の傷が、やけにズキンと痛んだ。

本体名―不明
スタンド名―サテライト・0(仗助らに敗北。自害)

本体名―不明
スタンド名―セラフィム(承太郎に敗北。自害)

本体名―不明(クローンA・B)
スタンド名―ラグタイム(『ウェポンズ・ベッド』に頭を狙撃され死亡)




使用させていただいたスタンド


No.383
【スタンド名】 サテライト・0
【本体】 不明
【能力】 衛星軌道まで上昇しビームを発射する

No.1026
【スタンド名】 セラフィム
【本体】 不明
【能力】 「時差」を操る

No.467
【スタンド名】 プライベートライアン
【本体】 フェリータ
【能力】 検索を掛け人物を特定する

No.1297
【スタンド名】 ラグタイム
【本体】 不明
【能力】 「地面」と同化する

No.1488
【スタンド名】 ラプンツェル
【本体】 ズマッリート
【能力】 本体が殺した死体に取り憑き、体液を吸収してクローンを作り出す

No.1751
【スタンド名】 エレクトリック・レディランド
【本体】 イズベルガ・フーゴ
【能力】 生物、無生物問わずスタンドで触れたものの視界をジャックする

No.285
【スタンド名】 ウェポンズ・ベッド
【本体】 ヴェルデ
【能力】 武器を持たせるとその武器が記憶する"最も優れた使い手"の動きを体現する




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